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召喚者は一家を支える。  作者: RayRim
第1部

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70話

ユキがわぁわぁと泣く。

アリスとの事を話してからずっとこの調子で、どうしたら良いかわからない。みんなも戸惑っているようだ。


「ゆ、ユキ、先にごめんね。」

「旦那の二番目はあたしのはずだったのにー!」


そういう理由で泣いていたのか…


「ユキ。ユキが尽くしてくれているのは助かっているし、感謝もしている。」


視線の高さを合わせるため、しゃがめないので立ち膝になろうとすると、ユキが飛び付きそのままオレを押し倒して唇を重ねた。

目が血走っていて怖い。必死な感じもしてなお怖い。


「もう離しませんぜ旦那。今日はこのままゆっくり」


ポコンと二人の拳がユキの頭を叩いた。


「もう少し節度を持ちなさいよ。」

「皆様が見てますよ。」


顔を赤くしながら二人が言う。


「アリス様、服が少しずれて…」

「おかーちゃんもちょっとリボンの位置が…」

『えっ』


アクアと梓に言われ、慌てて直そうとする二人。

そんな事はないのだが、言った二人は意味深な表情を浮かべる。


「んぐぐぬぬ…」


凄い形相で見てくるバニラ。


「大丈夫。大丈夫だ。アリスはいつも私たちを支えてくれてたからな…」


深く呼吸をしながら自分を宥めるバニラ。もうこのまま解決、とはいかない気がしてきた…


「攻略が遅かったのも、ちゃんと把握するためだって知ってるよ。」

「指示が的確でとても動きやすかった。」

「服に薬品にお世話になりっぱなしだからねー」

「みんな…」


娘たち四人がオレたちを囲む。


「やっぱりユキちゃんは三番目かなぁ。」

「アリスの方が先で良かったよ。」

「アズサお嬢様、シュウお嬢様…」


そんな事を言われ、オレに抱き付きながらむくれ顔になるユキ。


「でも、認めてくれるんですね?」


そのユキの言葉に顔を見合せる梓と柊。


「やっぱりお母さんはカトリーナお母さんだけだと思うんだよ。

でも、二人は…特にユキはお母さんという感じじゃないかな。」

「アリスもわたしの姉という感じだな。」

「そうだねー。ユキちゃんは同じくらいの姉妹かなー?」


頑張っている姿の見えていない娘達からは散々な評価のユキである。アリスはホッとしているが…


「まあ、私はそれくらいが有難いわね。カトリーナと同じことは多分できないし。」

「そうですね。でも、アリスだから出来る話もあると思います。」


カトリーナとアリスからも触れられないユキ。

どうも言葉遣いや見た目の幼さで、かなり損をしてしまっている気がする。


「ユキちゃんはなんだろう。ハスキーがじゃれついてるみたいだよね。」

「ハスキー?」

「少し小さいアッシュ。」

「獣じゃねぇですか!」

「さっき、お父さんに飛び付いてキスする姿はハスキーみたいだったよ?」

「うぐぐ…」


その通りの行動をしてしまった自覚はあるのか、言い返せずに唸るだけ。


「お嬢様方より年長なんですぜ!もっとお手柔らかにお願いしやす!」

「ユキちゃんという姉妹が増えるのは大歓迎だよ。」


遥香が手を差し出すとユキの表情がコロコロと変わり、諦めた様子でその手を握った。


「…三番目でいいです。旦那の事が大好きなのは変わりやせんので。」


ずっとオレの上にいるユキの体に両腕を回す。

それに甘えるかのようにオレの上に覆い被さる。


「ああ。嬉しいよ。今のオレの最初の記憶はユキだからな。

色々あって忘れていることもあるが、それだけはちゃんと覚えている。

目が覚めて、最初に目に入ったのが雪景色を背にうとうとするユキの姿、とても綺麗だったよ。」

「旦那…ズルい…ズルいですぜ…

あたしが一番忘れたかった瞬間を…一番綺麗だったなんて言うのはズルいですぜ…」


オレの胸で泣きながら言う。わぁわぁ泣くのではなく、どう心の動きと向き合ったら良いのか分からず、本当に不安そうな顔で、歯を食い縛り泣く。


「アリスにもズルいって言われたよ。どうやらオレはそういう性格らしいからな。」


もさもさしたユキの白い髪に手を突っ込み、頭を撫でる。


「それに、カトリーナと同じくらい家の事を大事に思い、色々と仕事をしているのを見ている。いつもありがとう。」

「旦那…だんなぁ…」


感謝を伝えると、再び感極まった様子になるユキ。

抱き付いてきたかと思うと、両手で完全に頭を押さえられる。


「娘たちが見…んぐっ」


パワーに任せ自分の唇でオレの唇を塞ぎ、舌まで捩じ込んでくる。娘の前なのに押しが強すぎる!

完全に頭まで掴まれ逃げられない。

右手で引き離すようジェスチャーを送るが、なかなか剥がされない。


「旦那、大好き…大好きです。

あたしは失敗ばかりですが、それでも捨てずに側にいさせてくれる旦那に一生ついていきやす…」

「お、おう。ありが…ぶおっ」


最後まで言わせずに再び口を塞がれた。


「もう良いでしょう?」

「へぇ。満足しやした。」


アリスに言われ、起き上がった拍子にユキから涙が溢れ落ちる。


「…凄かった。」

「こ、これが大人の…」

「アクアの意識がない!」


蒼白の一人覗き、全員が顔を赤くして見ていた。


「きっと、アリスさんもあんな感じの事言われてるんだよね…」

「わたしならおちる…もうだめだ…」

「わかります…わたしも今生で満足しそう…」

「落ちたらダメな人が落ち欠けてるー!刺激が強すぎたー!」


またもや大騒ぎになり、静けさを取り戻したのは皆が寝静まった頃だった。





「大変な…本当に大変な一日だった…」


イグドラシルから帰って来て、のんびり休養かと思ったが、アリスにユキにと精神的に大変な一日となった。


「でも、旦那様も楽しそうでしたよ?」


それはそうだ。なんだかんだで笑いが絶えない半日でもあった。

みんな笑顔で、ドタバタとはしゃいで…


「なんだかごめんね。私が切っ掛けだろうから…」

「私の疲れの半分はアクアが原因です…」

「あはは…まあ、あの子にとっても良い経験だったはずよ。次はちゃんとしてると思うから。」

「そうだと良いですが。」


右にいるカトリーナがため息を吐き、こちらを見る。

左のアリスはずっと体と顔をこちらに向けていた。

三人一緒だと不公平感が出る上に話が止まらなくなりそうという事で、一緒に眠る時は二人ずつにするらしい。


「やっぱり、カトリーナと比べられると厳しいなぁ…人生経験の差かな。」

「否定はしませんよ。育ちが違いますからね。あまり良い意味ではありませんが…」


オレの胸の上に二人は手を乗せる。


「でも、今は同じ人を好きになって、同じ時間に同じベッドの上で、その人に触れている…

こんな人生、想像したことなかったわよ。」

「…そうですね。少なくとも私とは無縁だと思っていました。」


カトリーナの手がオレの頬に触れる。


「私も無縁だと思ってた。

でも、この人はそれも受け入れてくれる、とも最近は思ってた。」


アリスは左手を弄んでいるようだが、何をしているのかよく分からない。


「…そうですね。

特殊すぎる私たち一家の関係。だからこその縁だと思います。」

「血の繋がっていない親子、姉妹、家族…

だから繋げた縁よね…」

「…ショコラが生んだ縁なのですよね。」


原因を辿ると全てそこに帰結する。

本当のオレはどうだったのか気になるが、ココアが言うには知った所で今と何もかもが変わってしまい参考にならないとの事。

忘れて今の生を謳歌した方がわたしも嬉しい、と言われていた。


「そうね…

考えても仕方ないけど、ココア達が死んだらこの世界はどうなるのかしらね…」

「何も起こりませんよ。きっと、そのまま続いていきます。子供が、孫が繋いでくれます。」

「子供に孫か…まだ先かと思ったけど、現実味を帯びてきて不思議な気分だわ…」

「作れない可能性も考えておいて欲しい。オレがどういうものか解らないからな。」

「…うん、大丈夫。私たちはそんなの気にしないから。」

「旦那様と一緒ならそれで満たされますので…」

「ありがとう…」


眠気に勝てず、オレは眠ってしまう。

二人の手の温もりはとても心地良く、安心して眠れる気がした。





目が覚めるとカトリーナの姿はなく、アリスがこちらを見ていた。


「おはよう。よく眠れた?」

「おはよう…ああ、おかげで気持ちよく起きれたよ。」

「そう?良かった。」


オレに洗浄と浄化を掛けると起きてベッドから降りる。


「そんな格好だったのか…」

「ふふ。似合う?」

「…とても綺麗だよ。」

「ありがとう。」


微かに入り込む日の光で着ているものが透けて、体の線がハッキリ分かる。

カトリーナ程ではないが、アリスも凄いというのを見せつけられてしまった…


「カトリーナに敵わないのは分かってるけどね。それでも対抗はしてみせないと。」

「そうか…」

「じゃあ、また後でね。」


アリスが出ていってボーッとしてると入れ替わりで遥香が入ってきた。


「お母さんに言われて、新しい着替え持ってきたよ。

分かっていたけど、アリスさんも凄かったね…」

「そうだな。」


娘にそんなこと言われると妙に照れ臭い。


「私も5年…いや、3年経てば…!」

「その頃には彼氏を紹介されそうだな。お前は何もかも早いから。」

「子供は10年は要らないよ。でも、弟か妹は欲しいかな。」

「善処するよ。」

「…お父さん。」


側に着替えを置き、改まった様子でこちらを見つめる。


「お父さんに感謝してもしきれないのは、ユキちゃんとアリスさんだけじゃない。私もだよ。

何もなかった私を拾って、ここまで育ててくれたのはお父さんとお母さんだから。」

「そうか。」

「そうなんだよ。だから、応援する。手伝う。なんだってする。みんなのために頑張るから…」

「いいや。」


首を振り、ベッドに腰掛けるように移動し、遥香を手招きする。


「座ってくれ。」

「…うん。」


前に座らせ、右手で頭を撫でる。

背筋を良くしているからか、また背が伸びた印象がある。


「頑張りすぎだ。少し気を抜け。休んでる時まで、頑張るなんて言わなくて良いから。」

「…なんだか気を抜くと全部崩れちゃいそうで。」

「レイドボスの時、それでやらかしたのは誰だ?」

「…えへへ。そうだったね。

でも、お父さんもだよ。お父さんもなんだか気が休まらないように見える。」

「状況が状況だ。許して欲しい。」


あまり人の事を言えず、説教するのが心苦しい。


「…一度に三人だもんね。でも、今日の寝起きは良い表情だね。酷いことがよくあるから。」

「バレてたか。」

「うん。私にはバレてる。もうバラしても良いの?」

「毎朝チェックしてもらえるとありがたい。どうも隠してしまいそうな気がしてな。」

「…じゃあ、そうする。休みの間だけどね。

自分で着替えられるの?」

「大丈夫だ。呼ぶから待っててくれ。」


遥香が出ていき、なんとか一人で着替えようとしていると、戻ってきたカトリーナに無茶はするなと叱られてしまった。左が不自由だとどうしても、時間が掛かってしまうな…

着替えた後は連れられて軽い運動をし、みんなのトレーニングを眺めたら朝食だ。

今日も何事もなく、平穏無事に終えて欲しいものである。

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