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67話

三日攻略一日休みを繰り返し、一月が過ぎた辺りで攻略組はようやく高層と呼ばれる領域へと挑めるようになる。

その間にも大量の戦利品を得ており、居残りメンバーはその処理に追われる事となっていた。


「カトリーナさん、今日の仕事終えたのでオレたちは帰りますね。」

「はい、お疲れさまでした。またよろしくお願いします。」


あまりにも多すぎるので懇意にしている冒険者パーティーを整理に雇ったのだ。

報酬に素材を分けているのでとてもよく働いてくれている。


「ひ、ヒガンさん、失礼します!」

「ああ、お疲れ様。また頼むよ。」

「は、はい!」


冒険者がカチカチになりながらすれ違う。


「やっべぇ…ヒガンさんと話ちまった…」


などと他のメンバーと話ながら去っていった。


「旦那様、冒険者にもモテモテじゃないですか。」


手を引いてくれたアクアが茶化すように言う。

普段なら訓練に行ってる時間だが、今日は休みらしくオレの側でうろうろしていた。

メイド服は気後れしていた高級メイド服に切り替わっており、すっかり慣れたように見える。

戦闘用にもなっており、奴隷で制限のあるアクアの場合は、言葉に反応して大剣が取り出せるようになっている。

時節柄、皆は半袖なのだがアクアだけは刻印を隠すために腕をすっぽり手袋で隠していた。


「オレの評価でモテてないからなぁ…」

「まあ、そうですよね…」


お互い、微妙な表情で冒険者達を見送った。

攻略班もいるが、帰って来て無言で食事を終えてから部屋から出てくる様子がない。どうしたのだろうか?


「…気になりますよね。」

「そりゃなぁ。」


作業のチェックを終えたカトリーナが戻ってくる。


「カトリーナさんもお疲れ様です。」


アクアがお茶を用意しながら言う。


「ありがとう。」


ため息を吐きながら隣に座る。


「閉め切って出てこないのですよ…」

「返事は?」

「あるのですが、どうにも生気を感じられなくて…ああ、アリス。戻ってきましたか。」

「ただいま。…どうしたのよ?」


慌てるカトリーナにアリスが驚く。


「戻ってきた皆様の様子がおかしくて…」

「部屋から出てこないんだ。返事も妙みたいでな。」

「ユキは?」

「ここに居やす。」


アリスの影から首だけ出す。


「何処から出てくるのよ。」

「鍵が開けられないので、影移動で様子を見て来やした。」

「あ、そう…」

「どうでした?」

「あたしじゃなんとも…フィオナ様から聞いてみやしょう。」


カトリーナとアリスがフィオナの部屋に行き、ノックをするが返事はなく、その間にユキは影に落ちて移動を開始した。

外からは開けられないようなので、ユキが中からドアを開けて二人が部屋に入る。

少しして部屋が光ったかと思うと、アリスが慌ただしく動き出す。部屋から部屋へと魔法を掛けて回り、念のためとオレたちにも浄化を掛けた。


「申し訳ございません…まさか呪いに掛かっていたとは…」

「いや、無事に帰って来れたからこそだ。改めてお疲れ様。」

「ありがとうございます。」


労いにフィオナが少し恥ずかしそうな顔をする。少し寝癖がついているな。


「あのレベルの耐性越えてくる呪いは厄介ね。」


アリスが話を聞き、腕を組んで首を傾げる。


「そうですわね。まさかハルカの耐性まで越えてくるとは…」

「ハルカは掛かってなかったわよ。」

「え?」

「寝てたからそのままにしておきましょう。」

「そうですか…」


納得いかない様子だが、渋々受け入れる。


「状況は覚えているか?」

「断片的でちょっと説明できません…」

「そうか。じゃあ、仕方ない。後で遥香に説明させるから今日はもう休もうか。」

「はい。お休みなさいませ…」


頭を下げるとフィオナが自室に戻っていった。


「しばらくまた耐性上げかしらね。」

「オレのレベルもそろそろなぁ…」

「そうよね。上がるかどうかの確認もしたいわ。並行してやりましょう。」


考え込むカトリーナ。何か案があるのだろうか?

オレたちはその様子に気付いて黙っていると、


「ハルカ様はレイドボス戦の影響で耐性が高いのですよね?」


遥香と他の違いに言及する。


「そのようね。他の娘はちゃんと対策してたから、あまり上がってなかったし。」

「誘導は出来ていたようなので、耐性を上げる為に敢えてそのまま連れてきた可能性もありますよね。」

「…あー。あの子の事だからやりそうね。

呪いはホントに色々なタイプがあるから困るわ…」


腕を組んで眉間に指を当てるアリス。

リーダーを降りたとはいえ、実質的なコントロールを行ってる事に変わりはない。

やはり、アリス抜きでは何処か締まらないパーティーになってしまっている。


「今日はもう休みましょうか。ハルカ様が起きて来ないとどうにもならない様ですから。」

「そうだな。みんなお疲れ様。明日から忙しくなるかもしれないがよろしく頼む。」

『はい。』


メイドたちが返事をし、今日は解散となる。

就寝前の入浴に既に済ませたアリス以外の皆が向かっていった。カトリーナは最後まで様子を見ていたが、アリスが立ち上がらないのを確認してから向かう。


「…部屋まで送るわ。」

「助かる。」


部屋まで手を引いてもらい、ドアの前でアリスが立ち止まる。


「着替えは手伝わないわよ?」

「分かってる。そこまで手は掛けさせないよ。」

「…もうちょっと、と思ったけど楽はさせてくれないわね。」


眉間にシワを寄せながら苦笑いをする。

だいぶ苦労しているようだ。ここらで一度休養させるべきなのだろう。


「お前も休め。眉間の皺が消えなくなるぞ。」

「ぐっ…それは困るわね…」


額をほぐしているが、やはり表情が苦々しい。


「もう少し役割を分散したいんだがな…」

「良いのよ。好きでやってるから。それに、どれも私にしかできない役割だもの。」

「…そうか。」

「そうなの。じゃ、おやすみ。」


そう言って、アリスは自分の部屋に戻っていく。

すぐにカトリーナが来て着替えを手伝って貰ったが、アリスの事は言及出来なかった。





朝食、朝練を終えたところで反省会が始まる。

遥香は何とも思っていない様だが、アリスとフィオナはどこかぎこちなかった。

呪いが放置されていたのは、階層そのものが呪いを付与してきてるという事。解除しても解除してもキリがないから放置したそうだ。意思が弱くなるだけなので、問題がないどころか、耐性上げに有用なのでは?と思っての事らしい。


「先に説明を頂戴…」


腕を組み、眉間をほぐしながら唸るような声で抗議するアリス。


「それについてはごめんね…

疲れちゃって寝ちゃってた。」


遥香も遥香で攻略が大変なのだろう。かなり疲労している様子だった。


「…みんな疲れてるのね。ここで一度休養期間にしましょう。私も休みたい。」


アリスの提案に皆が賛同する。体力は回復できても、精神的なものはなかなか回復しない。この一月の皆の様子が、それを証明していた。


「でも、あの階層、耐性上げに最適かもしれないね。私もいよいよカンストしちゃったし。」

「そうね。呪いは薬剤作るの大変だから、それで済ませましょう。それと…」


今度はオレの方を見る。


「ヒガンのレベルが上がるか確認しておきたいの。どう運ぶか含めて話して置きましょう。」


おおーという声が皆から出てくる。


「背負うなら私以外が良いのかな?」


と、遥香。メインアタッカーであろうからそれが無難だろう。


「むしろ、ハルちゃんに背負わせて道中駆け抜ける方法もあるよねー。」

「正にキャリーだ。」

「それで経験値が入るなら、それが良いわね。」

「入らなかったら…?」

「自動装填式のボウガンを考えてたよー。これなら使う人の能力に左右されないしー」

「なるほど。」


梓の提案に腕組みしながら頷くバニラ。

オレも座りながら撃つ練習をせねばなるまい。


「ヒガン、意外とレベルが高いからな。いまは57だし。」

「グレーターデーモンを倒したり、カミシタを倒したり、単独防衛したりであの短い期間でも稼ぐ機会があったもんね。」

「中層まで行けば上げられそうだね。」


バニラの疑問に答えるジュリア。

遥香も勝手がだいぶ分かってきたようだ。


「ハルカ様、私たちも連れていって下さい。」

「あたしも。」


声を上げたのはカトリーナとユキだ。


「スピードなら引けを取りませんから。」

「うん。大丈夫だと思う。二人ならついて来れるよ。それに、お父さんの事を見ててもらえるのは心強い。」

「おおう…あたしらが後ろなのは確定のなのですね…」

「しかたありませんよ。」


梓は何やらバニラと話をしていた。ここでは他の声が大きくて聞き取れない。


「母さん、ユキ、服のエンチャントをし直すから後で貸してくれ。最適な状態にしておきたい。」

「分かりました。」


躊躇う様子もなく、頷くカトリーナ。


「アクア。私が居ない間、あなたに家の事は任せますからね。」

「えっ。えぇ!?」


全く想像していなかったのか、立ち上がるくらい驚いている。


「ノラはその…ボンヤリしてて不安ですので。それに、旦那様に付いている時間が長かったのですから、家での仕事はよく見ていたでしょう?」

「でも、私は奴隷ですし…」

「そんなの気にする家ではないのは分かっているでしょう?任せましたよ。」


そう言って、カトリーナとユキは着替える為にこの場を離れた。

困惑し、自信なさげなアクア。


「いつも通りで良いのよ。むしろ、いつもより人も多いから必要なら使いなさい。訓練場に居るようなのは、特に暇を持て余してるだけだしね。」


アリスの言った事が図星だったのか、柊とジュリアの目が泳ぐ。

二人が手伝いをしているのは見たことないが大丈夫だろうか…?


「だ、大丈夫。ある程度ならこなせる。」

「こ、壊さないように気を付けるから…」


とても留守が不安になった。

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