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7話

「互いの自己紹介の前に、認識を合わせておこう。」


恐らくプレイヤーではない、だったとしても経験の浅い二人が不思議そうな顔をする。


「オレたち三人はこの世界をよく知っている。全く同じではないが、ほぼ同じ世界のゲームをやりこんだプレイヤーだ。」


バニラと裏切り者Aが頷く。

窒息娘とイケメンは困惑した顔でこちらを見ているが、それも仕方ない。知らなければオレもそういう顔をしているだろう。


「自己紹介をしていくが、ある攻撃対策で本名を明かさずにキャラ名を名乗らせてもらう。可能性は潰しておきたいからな。」


イケメンは頷くが、窒息娘は不満そうな顔。

本名を名乗れない関係が良好ではないのは皆が分かっている事だ。


「オレはヒガン、何でもやってきた。レイド、対人、チーム戦、RTAとな。」

「RTAまでやってたからそんな育成が捗ってたんだー」


と、驚いた顔の裏切り者A。

RTAは序盤の動きが大事。更に足並みを揃える為にリセットを避けたいRTAは、不測の事態も考慮しなくてはいけない。

そして、あらゆる手段を利用する。場合によっては死ぬこともだ。現実となってしまっては、それはなんとしても避けねばならないが…


「名前の由来は?」

「ボス全撃破RTAの世界記録の時のキャラだ。メインキャラではないけどな。」

「知ってる!8人同時配信で成し遂げたヤツだよねー!記事読んだことあるよー!」


取材は受けてないが、色々なニュースサイトで取り上げられたのは事実なのでなんだか照れくさい。


「次はわたしだ。わたしはバニラ。アンティマジックの魔法術式士集団の一員だったと言えばお前さんにはわかるかな?」

「マジでー!めちゃくちゃ大物じゃーん!あそこの魔法式めちゃくちゃ愛用してたよー!」

「魔法術式が何かは後で教えるよ。戦闘は可も不可もないかな。」


そして、裏切り者Aの出番。この呼び方もそろそろ終わりか。


「私は…うん。バンブー。ゲームでは鍛治中心の生産やってたんだー」


バンブー…鍛治…!


「まさか、たけのこ印か?」

「やだー。もう身バレしちゃったー?」


おい、身バレとは人聞きの悪い。

困ってると言うより嬉しそうにしか見えないが。

たけのこ印と言えば良品で有名な装備製造者だ。

品質に差が出にくいのがシェラリアの装備製造なのだが、たけのこ印は何故か他の同武器よりも2割ほど性能が高い。2割も高いと、ドロップ品では太刀打ち出来ず、『最終装備はたけのこ』と言われるくらいになったほどだ。

その性能はチートだなんだと突き上げを喰らい、公式が自ら「仕様の範疇」とメッセージを出すほどの事態にまでなった。そんなたけのこ印はオレたちにとって、最終装備候補の産みの親と言っても過言ではない。


「狩り専だけど戦闘もやれるかんねー!」


腕まくりをして、ガッツポーズをしてみせる。

残念ながら筋肉はそれほどなかった。


「そこまでなのか?」


事情を知らないイケメンがオレたちに尋ねる。わからないのは当然だろう。


「伝説の武器防具が最終装備の候補から外れるくらいにな。」


最高の魔法術式士、最高の装備鍛治…とんでもない縁を築けてしまった事にオレは思わず震える。


「それはおおげさー。ユーザーメイドじゃ耐性補強必須だし、狩り向きじゃないからねー」


ユーザーメイドでは耐性補強が必須。それはどうしようもない事柄だった。狩りではたけのこ印は伝説の武器に及ばない。

だが、それはスキルがない、アンティマジックがない前提の話だ。

育成が容易な今の状況だと、たけのこ印は文句無しの最強装備のはずである。


「私、実は自分の装備使ったことないんだよー。ドロップ品は無条件で強いし安いでしょー?

比類なき名品を作るって目標はあったけど、趣味の一環だったからー」


くだものナイフですらとんでもない値段の付く鍛治師だから言える事だろう。たけのこ装備に比べたら安いが、一般的にはなかなか手が出せない価格だ。


「おおぅ…一流の鍛治師は懐具合も一流だったか…」


震え声で一流の魔法術式士が言う。お前さんもそっち側だろうに。


「現実もそうだと良かったんだけどなー」


どこか遠い目になるバンブー。それは皆が一度は思ったことがあるだろう。だが、ゲーム内通貨はただの交換券にすぎない。ゲームのアイテムと交換するためだけの物だ。


「そろそろ二人は偽名決まったか?」


話が脱線気味だったので軌道修正を図る。


「あぁ。ストレイドと呼んでくれ。」


(迷い人か。実にらしい名前だ。)

中二感はあるが、それを指摘するのは野暮だろう。実際、カッコイイ。オレもそういう名前に…


「…男の人ってそういう名前好きですよね。」


予想外の方向から鋭い一撃が飛んでくる。窒息娘だ。


「お、おう…そ、そうだな…」

「べ、べつにカッコイイだなんておもってないんだからね…」


明らかに目が泳ぐ女子たち。両者揃って全く隠しきれてない。

当のストレイドは、特に困惑している様子もなかった。うん、無事ならそれで良い。


「私はリンゴで良いです。理由が必要なら付けますが?」


とんでもない心の距離を感じる。有無を言わさずに連れてきたから仕方ないが。

この中では一番小さいのに、背の高いストレイドと同等のプレッシャーを感じる。


「かわいいが、禁断の果実味を感じる…」

「食べたら永遠の闇に囚われるかもしれないよー?」


恐ろしい娘を拾ってしまった。間違っても間違いは起こさぬと心に決める。


「ストレイドがただ者ではないのは二人も判るよな。たぶん、同じ条件だとオレは手も足も出ないレベルだが。」

「謙遜するな。左腕を潰されてからのあの踏み込みは真似できない。普通は痛みで動けなくなるからな。」


あぁ…あれは思い出したくない。覚悟はしていたが、めちゃくちゃ痛かったからな。


「それはスキルとやらのサポートがあったからじゃ?」


トゲのある言い方をするリンゴ。まあ、そういう話をしてたからしかたない。


「いや、軽減系のスキルはなかった。魔力制御ですぐに治したがな。」


よく意味のわかってないリンゴとは逆に、唖然とするバンブー。


「待って待ってー。魔力制御だけであの怪我治したのー?腕が元に戻らなくなる恐怖とかなかったわけー?ちょっと意味わかんないみたいな顔しないでよー」


そんなことを言われてもやれるからやっただけで、サポートもあるし、受け方も考えた。何より、スキルを得る為に必要なダメージだったからな。


「こいつ制御力オバケなんだよ。兵士追い返した魔法の術式なんて、悪評だらけの第二世代だからな。おい、わからないで使ってたのか。」


そんなに分かりやすく表情に出ているのだろうか。二人から問い詰められる。

狩りに関しては装備とスキル重視。魔法は確実な補助、手っ取り早く済ませたい時は雑に攻撃魔法というスタンスだったので、あまり更新はしてこなかった。


「二人はよく解ってないから説明すると、魔力だけでもスキルや魔法と同等の真似事は出来る。でも、普通は出来るだけで実用的じゃないんだ。」


その道の専門家であるバニラが説明する。


「魔力を練って高めたり、小出しにするくらいが普通の限度。魔力だけで身体能力を高めたり、傷を治すのは実用的じゃないのが通説だから。」

「編み物しながら戦うのを想像するといいよー。

手元に集中しつつ、相手の動きに対応するのがどれほど難しいか…

怪我、特に切れた筋肉や骨折を治すのはおかしな事になる可能性もあるからねー」


スキルを得る為に必要な事だったが、オレが人に教えるのはやめた方が良さそうだ。適任は他にいるしな。


「制御訓練は日課だからなぁ。それで得意になったんだと思うが。」


火、水、氷、雷、風の玉を掌に出し、それをぶつからないように縦に横に斜めにと回す。

ぐるぐる回して最後は全部同時にぶつけて光の玉に変化。更に魔力を込め続けると闇へと変化し、最後は力尽きるように消え去った。


「婆さんや、朝御飯はまだかいのう…」

「目を覚ませ。これは現実だ。暇さえあればこれを見せられる事になる。」

「ゲームを超越した現実なんて存在しないはずでは…?」


バンブーとバニラのおふざけを眺めつつ、何を大袈裟なという感想を抱く。毎日欠かさず練習していれば、このくらいは誰でも出来るようになるはずだ。


「たぶん、繰り返しやってれば同じことは出来ると思うけど、心得のあるわたしたちでも年単位必要だ。初心者のお前さん方が目指すには遠すぎる。」

「単純に危ないというのもあるからねー。火と水、雷と氷がぶつかり合うと普通は大爆発起きるからー。

ゲームでも欠損はめちゃくちゃ痛いんだよー。感覚補正はあったけど、鈍くすると酔っちゃったり、まともに動けなくなるからー」


大爆発という言葉に、知らなかった二人は距離を取り、信じられないものを見るような顔でオレを見る。

やり始めた頃はよくやらかしたものである。手や頭が何度吹っ飛んだことか。


「全く魔法のコントロールが出来ず、必要に駆られて身に付けた技術だからなぁ。コントロールできるならただの曲芸だ。」


そう言って、オレは掌の上で花火大会を繰り広げる。ゲーム中は月1くらいで駆り出されていたものだ。


「見事だ…魔法も極めればここまでやれるのか。」


ストレイドが感嘆の声を上げる。花火は最も解りやすく難しい。炎色反応まで考慮し、錬金術にまで知識を伸ばす必要がある。魔法の極致と言われる芸当だ。


「もしかして、月一で花火上げてたのって…」

「オレだけじゃないが、最初はオレらしいな。いつの間にか人が増えて大会になってたが。」

「まさか、伝説の秒間70連発大花火は…」

「伝説は大袈裟だがオレだな。」


二人が顔を見合せ


『神が居た…!』


声も言葉も合わせて天を仰ぐ。そんな大袈裟な。


「一人で不死鳥花火の再現とか言う頭のネジ置き忘れた神業を神と呼ばずに何を神と言うのか!」

「そんなこと言っても、式書いたのお前の所のヤツだろ?」


誉めてるのか貶しているのかよくわからないバニラに指摘する。

切っ掛けは、面白そうな式があったからやってみただけという理由だ。値段も安かったし、訓練にも使えたからな。


「あー、書いた!確かに書いたよ!だけど秒間70起動の式なんて扱えるなんて思わない!」


犯人が自白した。


「実際、検証のしようが無いから処理の甘い部分もあったし、遅延もあった!我ながら駄作も良いところだ!」


机に突っ伏し、叫ぶ。

当時、変だなーと思っていたが、式の方がおかしかったのか。

限界に挑戦して式の二重起動をしたこともあるのだが、システムに処理が重すぎるって止められたっけな。

プレイヤーに対する負荷とならない辺り、人の健康はいつも二の次のゲームだった。


「よく自白したねー。きっと故郷のお母さんも安堵してるよー」

「大丈夫。人を殺しても『いつかやると思ってました。』と言いそうだから。」

「えぇ…!?」


バニラ、そのボケは難度が高い。


「茶番は終わりましたか?」

『ハイ。』


冷凍ブレスより冷たい声がその場のテンションを整えてくれた。リンゴには後で何か奢ってやらねばな…

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