表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/308

6話

戦利品の回収など、襲撃の後処理を終えたオレたちは北へと向かう。目指すのは魔人、ディモスの国だ。

すぐに追撃があるかとも思ったが、そんなこともなく順調に旅は進む。

途中で村や町に寄るか悩んだが、食料や道具に不足は無いのでその必要はないと判断した。

途中で事情を知らないヒュマスの行商人に遭遇したが露骨に嫌がられたのが理由で、種族として亜人を嫌うのは分かっていたが、状況が不自然過ぎたのである。

雨の中、戦利品の外套を着て、フードを被って対応してたので何者かは判別しようがないどころか、むしろ身なりは良い方なのにだ。

恐らく、町や村に立ち寄れば余計な問題を生むだけなので、ヒュマスの好感度上げは諦めるしかなさそうである。

心の中でぼやいていると、ぬかるんで悪くなってる足場も憎たらしくなってきた。


「なあヒガン。どうやらお客さんが来たみたいだぞ。」


唐突にバニラがそう告げる。


「客?」


オレが先に気付いてしまい、バニラの訓練にならないということで切っていた感知系を有効化する。確かにただのヒュマスではない反応ばかり。

ヒュマスはネームドであっても魔力が低いので反応が拾いにくいのだが、比較的強くはないが大きめの魔力が王城側からこちらに早い速度で向かってくる。召喚者だろうか?


「意外と鍛えてるな。下駄を履かせてる可能性はあるけど、まあ敵じゃない。」

「お前さんが強いと思う連中はBOTかチート使いのような気がしてきたよ…」


オレもそれなら良かった。だが、現実に公式な試合で負けてるし、上は勝ち筋が見えない相手しか居なかった。天才はいると心の底から思わされたのも良い思い出だ。


それは置いといて、新たな追撃者はアンバランスな育成度合いからプレイヤーであることに違いない。ステータスが何らかの理由で不相応に高いがスキルは非常に限定的。促成されたスキルの伸び方だが、中には目を見張る者もいる。

サポートのおかげで数値化できている能力は恐らくバニラの方が上。技術抜きの話だが。


「備えがないし、危ない橋は渡りたくないな。わたしはお荷物だろうし…」

「けっこうな速さで来てるから騎乗だろう。逃げるのも無理そうだ。」


わざわざスキルまで獲得してご苦労様。

その辺の獣をテイムしても良かったが、道具がなければ乗り物にはできない。潤沢な支援を受けれて羨ましい限りである。

ないものは仕方ないのでここは迎え撃つとする。変に逃げて誘い込まれるのも面倒なので、場は整わせてもらうが。


オレは地面に手を当てると、何百と思い描いた迎撃用の簡易陣地を魔法で構築する。

地面を均して一番外に空堀を作り、周囲の木と蔓を素材に外壁にする。櫓を3つ組み上げて、上部に魔法矢を放つオートバリスタを配置。オレたちの居るところは少し高めにして、石積みの外壁と板で組んだ屋根の簡易基地とした。こちらには3基の着弾点で石が爆発する魔法投石器が配備されている。


「野宿セットいらなかったのでは…?」

「壊すの大変なんだよ。」

「なるほど?」


わかったのかわかってないのか、微妙な返事をされる。

木と石なのでそのままでは大した防御力はないが、素材一つ一つに防御エンチャントを掛けている。

アンティマジックされたら防御力はがた落ちだが、あの魔法の性質上、周辺一帯が魔法不可地帯になるので物理で壊そうとしても、上から岩や炮烙玉でも投げ込まれたらたら防ぎようがなくなってしまう。


「蔓はともかく、岩は何に使うのかと思ってたけどなるほど…って、こんなの真似できるか!」


何故か怒られる。


「出来ることしかやってないんだがなぁ…」

「あぁ…そうだった。そういうヤツだった…」


スタンピードなどの唐突な討伐ラッシュの仮拠点として散々作った簡易砦だ。実家のような安心感さえある。

ある程度のプレイヤーなら誰もができる事の集合体のような技術なので、特別面倒なことをしているわけではない。


「一応、見やすいように高くしておいた。対応は任せておけ。」

「話し合いで済むなら立ち会うぞ。」

「その時は頼む。」


雨の中、門の上で待ち構えていると、一般兵とは違う装いの集団が馬に乗って現れた。顔の感じからするとほぼ全て日本人のようで、オレと同じ召喚者だろうか?

全員に鑑定をすると、レジストされることなく全てお見通しとなる。


<告知。脅威は検出されませんでした。>


ウイルスじゃないんだからもう少し表現をですね…

腕前はどうかはわからないが、アンティマジックを使えば身動きがとれなくなるのは間違いないだろう。装備があまりにも対人の実戦向きではないのだ。アンティマジック登場後は、と付け足す必要があるが。

流石に一分城で迎え撃たれるのは想定してなかったのか、全員が驚いた表情でこちらを見ていた。


「おぁー!すごーい!本物の一分城!ひゃー!召喚されて良かったー!」


そうでもないのも居たが。

知ってるって事はプレイヤーがまだ居るようだな。できるならこちらに引き込みたいが…


「話がわかりそうなヤツが居るな?良かったらこっちに来ないか?」


先手を打って勧誘をしておく。


「お、行く行くー!そっちの方が話がわかりそう!」

「アズサちゃん…!」

「おまえ!裏切るのか!」


引き止める声に目もくれず、その娘はすたすたと門を潜り抜けていった。

知ってるヤツは話が早くて助かる。


「オートバリスタまである!これ作れるとかタダモンじゃないねー!」


門の外まで聞こえそうな大声ではしゃぎまくる裏切り者。

まあ、説明の手間が省けて良いが。


「見逃してくれるなら何もしないがどうする?」


オレの言葉にさっき呼び止めた小さな娘がリーダー格に何やら訴える。あれも解ってる側のようだな。


「戯れ言を!追放者の言うことなど聞く耳は持たぬ!」

(警告射撃。当てるなよ。)

<了解。>


オートバリスタから1発だけ魔法矢が放たれる。

明後日の方へ飛んで行き木に炸裂。木は根元が粉々になって大きな音を立てて倒れ、地面も大きく抉れていた。

【遠視】で全員が顔を青くするのがよく見える。上出来だがオレもビックリだよ。


「見逃してくれるなら、これ以上は何もしないがどうする?」


平静を装って再度問う。

難しい所だろう。怖くて何もせずに帰ってきちゃいましたテヘッとは報告できまい。


「へ、兵器を使うとか卑怯者め!」


リーダー格が泣き出しそうな顔で叫ぶ。

まあ、気持ちは分かる。大見得切って出陣したのに、泣きべそかきながら怖くて帰ってきましたなんて言えないもんな。


「下りてきて正々堂々勝負しろ!」

「良いぜ。」

「…は?」


間を置かない返事に全員が驚いた顔になる。

誰も鑑定持ってないのか?スキル差を見れば万に一つも負けはないんだが。

門から飛び降り、こちらはなまくら同然の剣を抜いて構える。


「女王様から賜ったこの剣で、貴様を狩る栄誉を!」


いちいち暑苦しいヤツである。過剰なロールプレイは嫌われるぞ。


「いざ尋常に!参る!」

【アンティマジック】


ヤツが踏み込むと同時にアンティマジックを発動。そのまま鎧の重さに耐えきれず転び、二度と立ち上がることはなかった。

それは後ろに控えていた連中も同様で、全員が身動きを取れなくなっていた。

だが、一人ヤバいのがいる。さっき裏切り者を呼び止めた娘だ。

前のめりに泥の中に倒れただけでなく、背負っていた荷物が頭を押さえ込んでいる。

オレは歩いて近付き、荷物を掴み上げ、鎧を観察する。


「なにをしている…やめろ…!」


そんな声に耳を傾けず、剣で数度切る。

剣は鎧の接続部分のみを破壊。荷物ごと体を引き上げると、繋ぎ目の壊れた鎧だけ脱げ、むせて荒く息を整える。


「大丈夫か?」

「はぁ…はぁ…はい…」


洗浄の魔法で顔をきれいにしてやり、地面に降ろすがまともに立っていられないようだ。仕方ないので、抱え直して簡易砦へと引き返す。


「迎撃機能は止めておく。後は自分でなんとかしろ。ヒュマスの勇者様。」


これが最大限の譲歩だ。これ以上は面倒見れそうにないからな。





「で、お持ち帰りしちゃったと?」


戻るなりバニラに(なじ)られる。


「仕方ないだろ。半分はオレのせいなんだし…」

「それもそうだけど、そこまですると後が大変だぞ?」


二人は新たに建てた建物で休んでいる。

着替えは用意していたらしく、鎧は脱いで城での普段着になっているようだ。


「今後は気を付けます。」


謝罪会見のように頭を下げる。


「よろしい。あまり面倒を増やさないように。」


腰に手を当て偉そうに言われる。

オレとしても仲間は増やしたいが、人は選びたい。先のことを考えると、理解がなかったり、協調性に欠ける仲間は面倒が多くなるだけだからな。

それはオレもバニラも、よく分かっていた。


「ほぼ帰ったみたいだけど残ったのも居るな。」

「解ってるヤツなら受け入れよう。」


それは会って話をしてからになるが。

バニラには上から監視されながら門の方へ戻ると、鎧は脱ぎ捨て、ずぶ濡れで待ち続けてるヤツが一人居た。

上半身はガッチリしているように見えるが、かなり細身でずぶ濡れで放っておいたのはなんだか申し訳なくなってくる。


「入れよ。こんな所で風邪引くのもつまらんだろ?」

「すまない。」


細身だが隙が見当たらない。同じ条件で戦ったら勝てる気がしない。戦えるヤツのオーラ、余裕とでも言うのだろうか。それを強く感じる。

鑑定でスキルはほぼ取ってなかったのを覚えているが、オレのような我流のニワカには、こういう本当に戦えるヤツが一番怖い。

バニラに洗浄を使ってもらい、男をキレイにしてもらう。


「わたしたちと違って、あんたは本当に戦える人だよな?」

「お見通しか。」

「よく言う。全く隠す気もないだろうが。」


連中と一緒の時はそうでもなかったようだが。

でなければ、戦っていたのは勇者モドキではなくこの男だったはずだ。


「あのくだらない魔法鎧を見抜いたお前たちとならまともに戦えそうだからな。」


考えが物騒すぎる。こっちは好きで戦力整えてるわけではないのだが。


「悪いが、オレたちはお前が思ってるほど戦いは好んでないぞ?」


男は鼻で笑って否定する。


「娘はそうかもしれんが、お前は違う。気に入らないものは力でねじ伏せられる。戦える側だ。」

「…否定はしない。」


迷ったがそう答えた。

力で解決するのが一番早い。こんな世界なら尚更だ。そうでなければこんな状況になっていない。

教官をぶっ飛ばして以来、力で解決する状況が多かったのを思い出す。


「あの一撃はちゃんと学んだ人間の動きではないが、しっかり場数をこなした人間の踏み込み方だった。その歳で矯正は難しそうだがな。」

「お見通しなお前とは敵対したくないよ。」

「それはお互い様だ。こちらも手の内が読み切れないのは怖いよ。」


怪我をするのは困るので、このまま良好な関係を築いていきたいものだ。

その為には聞いておきたい事がある。あの二人も同様だ。

オレたちは二人が休んでいる方の建物へと向かい、これからのことについて話をすることにする。最低限の広さしか確保してなかったので先に拡張工事を行い、詰めれば10人くらい横になれそうな広さにした。

簡単な長方形のテーブル。人数分の椅子を用意して座るように促す。窒息娘にはベッドの上で良いと皆で言うが、本人が『大丈夫。』と譲らなかった。

ちゃんと魔法を見るのは初めてだったのか、男は目を見開いて呆然としている。


「なに、すぐに慣れるよ。」

「あ、あぁ…」


バニラに背を叩かれて男は一度深呼吸した。

初見はそうなるから。みんなそうだったから。

プレイヤーだった二人はそういう目で男を見ていた。


「オッサンすごいねー。こんな短期間でここまでスキル磨けるんだ。私もこっちについてくれば良かったー」


裏切り者A、茶髪の元気娘が目を輝かせてオレに詰め寄る。オッサン…うん…オッサンか。

【遠視】で姿はちゃんと見ていたが、近くだと意外と背が高い。オレとそれほど変わらないくらいか。


「アズサちゃん…」


裏切り者Aに非難の眼差しを向ける窒息娘。

こちらは逆に背がかなり低い。スキルのおかげもあるが、荷物鞄込みで簡単に抱えられる程度なので小学生くらいに思える。

警戒するような眼差しは自己紹介を経ても変わらない。

何もかも極端に対称的な二人を見ていると、歳がよくわからなくなるな。


「とりあえず、これからの事について話をしよう。」


もう二人だけのお気楽旅ではない。

しっかりと意思の確認と方針の話し合いをすることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ