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4話

去り際に基本的な野宿セットを渡されたが、どれも使い込まれ倉庫の奥に眠っていたような物ばかりだった。

それでも、無いよりはマシというもの。武器は貰えなかったがそんなものは無くても問題ない。スキルが生えるのがわかっていればどうとでもなる。

正直、バニラと行動するのは、手に負えない化け物が二人になる可能性があれば認めないと思っていたのだが…




日は沈み、周囲はすっかり真っ暗。

周辺の地形も多少の違いはあるものの、ほぼシェラリアと同じである以上、ここはオレたちにとって庭と同じと言える。

魔法のお陰で水を確保する必要がなくなり、とにかく警戒しやすい所というのを選んだ。

木が繁って射線が通りにくく、背後を気にしなくて良い崖の上が今日のキャンプ地となる。


「なんだかワクワクするな。キャンプなんて初めてだ。」


バニラはそう言いながら夕飯の準備をする。

いきなりではまともな物が作れず、採った肉や山菜の成れの果てがいくつか出来上がり、それは地面に埋めておいた。合掌。

獲物を仕留めるのは簡単だったが、血抜きをしたり、捌いたりするのもなかなかホネが折れる。魔法のおかげで水などは使い放題だったが。


「こっちはくたくただよ。まあ、慣れないことばかりで精神的になんだが。」

「ようやくまともな食べ物になりそうだからな。もう少し待っててくれ。」


夕飯までまだ時間が掛かりそうなので今日の成果を確認する。


Lv4

HP45/80

MP130/130

STR26

VIT21

AGI36

MAG61

MND11

DEX61


【STR強化Lv3】【VIT強化Lv2】【AGI強化Lv5】【MAG強化Lv10】【DEX強化Lv10】【回復量UPLv2】【遠視Lv5】▲【魔力変換(永続)Lv1】【MP量UPLv10】【隠密Lv10】【鑑定Lv10】【魔力感知Lv5】【生命感知Lv2】【魔力制御Lv10】【水属性強化Lv10】【風属性強化Lv5】【火属性強化Lv1】【解体Lv1】


頭に▲が付いているのは無効化してるパッシブスキルだ。

【MAG強化】、【DEX強化】がやたら伸びてるのは制御がMAGとDEX両方に依存しているからのようで、暇があれば水や空気を玩具にしていたからか良い感じに伸びている。

ステータスに関してはLvの割に上々というところか。だが、それはLvの割にという話であって、強さとしては初心者同然。まだ入口の段階だ。

バニラの方も鑑定すれば一発なのだが、流石にそれは気が引けた。


夕飯までもう数分というところのようなので、食後の為の準備をする。

地面に魔法文字を描き、そこに僅かな魔力を流し込む。

文字が光ると、その上に小さな光の玉が浮かび上がる。


「おー、魔法文字も使えるんだな。」


バニラも知っていたようで、肉を焼きながらこちらを見る。


「みたいだな。構文もしっかり機能している。これなら色々と魔法も使えそうだ。」

「今までの制御訓練はもうしないのか?」

「いや、それは続けるからな。どんどん難度は上げていくぞ?」


その言葉で渋い顔になる。表情がころころ変わって楽しいヤツだ。

キャンプにしてる地点を中心に守護の魔法文字をいくつか描き、それぞれが連動するようにする。

ドーム状の結界が展開され、オレたちの居る場所を包み込む。


(出力は秒間1%とする。)

<告知。MP総量の1%をコストに設定しました。>


これでバニラにスキルをいくつか教える余裕が生まれた。朝にはお互い成長しているだろう。

しかし、この声の主は何なんだろうな?


<告知。その答えにアクセスする権限がありません。>


だと思ったよ。まあ、使えるものはなんでも使わせてもらおう。


「出来たぞ。と言っても、串焼きと炒めた山菜しかないが。」

「おう。助かった。」

「おまえなら飯も自力でなんとかできたんだろ?こんなもんじゃ返しきれないよ。」


自嘲しながら肉にかぶりつく。それを見てからオレも肉を食べる。

塩と香草くらいしか用意できなかったが、ビックリするほど美味い。

お互いに目を合わせ、あった串焼きを争うように食べきった。

山菜炒め物も同様で、米やパンがないのが惜しい。


「もっと焼くぞ。」

「おう。オレは香草のストックを出しておく。」


娯楽も何もないキャンプだったが、予想外の出来事で話が膨らみ、オレたちは気付いたら寝入ってしまっていた。




<警告。結界に対し攻撃あり。>


オレは飛び起き、拾っておいた木の枝を得物として握る。野宿セットは貰ったが、丸腰で追い出されたのでしかたない。

断続的に繰り出される攻撃。空はほんのり明るい。高台の街道からは見つけにくい場所を選んだのだが、どうやら襲撃者はわざわざ探し出したようだ。

バニラは仰向けになって眠っている。


(残り耐久は?)

<100%。修復を越えるダメージなし。>


牽制だからか、寝てる間に育成が進んだからなのか、魔力供給を越えるダメージは出せていないようだ。

だが、油断はしない。

結界の設定は維持。必要ならば迎撃してやろう。

木の枝の感触を確かめながら襲撃者の前に躍り出る。


「いたぞ!」

「くたばれバケモノめ!」


5人程度の襲撃者が開幕スキル全ぶっぱで出迎えてくれる。結界が全てを受け止めるが、


<95%。損耗軽微。>


だそうです。

初期スキルとして手に入る可能性がある【闘気】はともかく、【鬼神化】を使っているのはそこそこ鍛えているヤツだな。


【闘気】は単純にSTR、AGI、VITに乗算が掛かるスキルで、【鬼神化】は【威圧】とダメージUP効果が付加されるスキル。両方とも近接なら取っておきたい基本スキルだが、レベルやステータスが低い内はただ疲れやすくなるだけの無駄スキルとなってしまう。

同時使用も出来るが、尋常じゃないスタミナが要求されるので、尋常じゃないスタミナを持つか、迅速に回復出来ないと短期決戦以外では足を引っ張るだけである。


「王女殿下の差し金か?それとも、教官殿の方か?」


問い掛けるが答えはない。

話し合いができるとは思ってないが、問答無用とはいくまい。


「退くぞ!」


ダメージが通らないと判断すると、復讐部隊はあっさりと撤退する。

準備していたのか、ワイヤーフックを引っ掻けて、崖下へと降りていった。

ただで返すのもアレなので、少しくらい反撃させてもらおう。


【ショック】


ワイヤーを通って電撃が伝わり、襲撃者にダメージを与える。

気絶したのか、崖に身体を擦り付けながら下へと落ちていった。すげぇ痛そう。


「しかし、鋼材で作ったワイヤーか。意外なところに技術力の高さを見たな。」


ゲーム中に存在はしていたが、入手時期はかなり後になってから。詳しいユーザーによる発明だったと記憶している。

召喚された中で他にプレイヤーがいるにしても、昨日の今日で作れるものではないはずだ。


<警告。大規模魔法を感知。>


魔力感知に引っ掛かるのとほぼ同時に、ここが範囲魔法のターゲットにされている警告。

魔法陣が展開されているのでそれを読む。

派手な花火といったところで、今のレベルでも破られることはないだろう。

被弾後、急速リチャージの設定に変え、魔力を発している集団の方を見ながら撃ち込まれるのを待つ。

だいたい5分くらいだろうか。その場で腕を組んで待っていると、炎が周囲を囲み、竜巻へと変化する。

結界に対し全方位から継続ダメージを与えることで解除しようとしているのだろう。それは正しいし、実際に耐久が ガリガリ削れている。


<残り50%。>


半分ほど耐久度が落ちたところで威力が急激に落ちる。MPが切れたのだろう。こうなると後は自然に消えるだけである。


<残り30%。>

「リチャージ。設定は維持。」


MPを大量に使い、急速に結界を修復させる。

【遠視】があるからよく見えてるのだが、観測役が唖然とし、オレの健在を聞いた指揮官が呆然としていた。


「では、反撃といこう。」


地面に魔法の術式を描き、魔力を流す。これで習得完了である。

魔法書なんてなくても魔法を覚えるだけなら出来てしまうのだ。精確さはお察しだが。


【アイスブラスト】


名称はよく使った物の流用。形状は氷柱。対象を長時間凍てつかせるデバフ持ち攻撃。

なるべく高い位置から撃ちたいので、手をかざし、頭上に冷気の塊のような魔力を生み出す。

冷気の塊からは無数の氷柱が飛び出し、魔術師たちに襲い掛かる。

あちらも結界を展開していたようだが、制御が雑すぎて秒で綻びから一気に破れる。

動かなければ良いものを、逃げようとして逆に直撃を喰らったのが何人か居たが、多くはその場で足だけ凍りつく結果となった。

警告だし、裸足はいないだろうからダメージにもならんだろう。


(離れても結界は維持できるな?)

<肯定。>


上出来だ。では、話し合いといこうか。

全パッシブスキルを有効化した状態で、襲撃者たちとの会談を開始する。


「答えろ。誰の差し金だ?」


返ってくるのは悲鳴ばかりで話にならない。

近くの一人の膝を木の枝で横からぶん殴ると、脚が捻れながら地面に転がる。

想定以上の威力は我ながらドン引きだ。


<スキル発動状態のままです。>


あぁ…【手加減】がまだ無いからか…南無。


「…誰の差し金だ?」

「じょ、女王様に命じられて派遣されて来ました!」


女王…?ああ、王女殿下は女王になってるのか。

放っておけば良いものを、藪蛇を突く様な真似をするのはゲームと変わらんな。

プレイヤーとしてはさっさと退場してもらいたかったが、開発としては便利なトラブルメーカーだったのだろう。それは現実ではひたすら厄介なだけで関わりたくはない。


「戻って伝えろ。二度目はおまえの首が城の前で吊るされる事になると。」

「は、はい!」


フリーズを解除すると、無事じゃなかった者は抱えられて全員きれいにいなくなる。

そこら中に剣、槍、杖、弓が放り出されており、野営セットも今より上等な物もあった。食糧は放っておくか。


『テステス。ただいまWISの試験中。』


急に耳元で囁かれるようにバニラの声が聴こえてくる。


<告知。バニラにより、スキルによる通話パスが接続されました。>


ウィスパーとはよく言ったものだ。謎の声は脳裏で響く感じだが、これは文字通り囁き。右耳からだけ聴こえる。

スキルによる、という事は【念話】持ちか。なんとか魔導具化してもらいたいものだ。


<告知。スキルによる念話はサポートによりアシストされています。通話に応じますか?>


応じる。

なんだかよくわからない説明になっているな。


『どうした?何かあったか?』


目を閉じ、集中しながら念じる。


『お、通じたな。

布は多めに回収しておいてくれ。多少の汚れはなんとかするから。』

『わかった。』


朝一の騒動はこれで片付いた。

戦利品も多く、なかなか実りの多い早起きだったが、この後の行動はしっかり考えないとまずい。こんな所で身動きとれなくなるのは御免被りたいからな。

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