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召喚者は一家を支える。  作者: RayRim
第1部

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32話

翌日の朝は穏やかなものであった。

いつも通りに起きて、訓練して、汗を流して、朝食である。

目を泣き腫らすだけでなく、隈まで作ったアリスも加わっているが、ふらついていて危ないので見学だけにさせておいた。

終わり際にミスリルソードを持たせてみると、顔を真っ赤にして耐えてみせたが、2秒でギブアップしたので落とす前に回収する。

ミスリルってなんだっけ、と混乱を深める事になったのでちゃんと説明はしておいた。

ドン引きしており、信じられないものを見るようにオレを見る。


「これが英雄の資質なのね…」

「いや、そんなもんになるつもりないからな?」

「きっと君は英雄になる。私も英雄を目指したけど…目指したけど…」


顔を背け、鼻を啜る音がする。

完全に自信を喪失しているな…

バンブーがようやく立ち直った所で次はアリス、となかなか心が休まらない。


「英雄なんてなろうとしてなるもんじゃないだろ?色々とやって、結果的に英雄になってるもんだ。ディモスのおまえは、オレより長く生きるんだからその機会も多い。挫けるにはまだ早いよ。」


模擬戦を終え、二人で動きの良し悪しを話し合うストレイドとリンゴを眺めながら言う。


「でも、私にあの子たちのような才能は…」

「今はまだないな。」


肩を落とし、項垂れるアリス。


「やっぱり私にこの場は…」

「今は、と言っただろう。

お前の磨いてきた魔力は見事だし、誇って良い。後はやり方と心持ち次第だ。」

「はい…」


なかなか手強い。もう一押し必要なようだ。


「手を出してみろ。」

「?」


出された手を下から包むように手を添える。


「昨日やったヤツをやってみろ。魔力を感じながらな。」

「うん…」


お互いに目を閉じ、目の前の魔力だけに注視する。

周囲のマナを取り込み、自分の体内の魔力と融合させていく。そこまではまあ良い。

だが、すぐに魔法へと変換させようとするのでオレの魔力で阻止し、更なる錬成を促す。

意図を理解したようで、どんどん手の平で魔力を蓄え、磨き上げる。予想を超える速さと許容量に心が震える。

これは想像以上の逸材だ。今、この段階で拾えたのは僥倖と言える。

ちゃんとした知識、技術を身に付け、修練を重ねて自信を付ければバニラに匹敵するのではないだろうか?


維持が厳しくなり、魔力に破綻が見え始めた所で抑止していた魔力を払う。制御ができないと大惨事だが、アリスを信じたい。

一瞬、戸惑いが見えたが、覚悟だけはあるという言葉に偽りはなく、すぐに錬成された魔力は魔法へと変換されていく。

既にオレのガイドは無く、元々オレの制御補助もない。

アリスは自分の力で昨日のリンゴと同じ事をしてみせていた。

無言で手を離すとアリスは目を開け、その光景を焼き付けようとしていた。

念のために再びアリスに手を添え、魔法の解除を促す。

極限まで錬成された魔力の塊は糸がほどける様に崩れ、消失した。


「ヒガン…」

「やり方と心持ち次第だって言っただろ?

制御補助無しにやってみせたじゃないか。」


震える手でオレの手を掴み、泣き出し始める。


「ありがとう…本当にありがとう…もう無理だと思ってた…これ以上は望めないと思ってたから…」


それ以上は言葉にならず、涙と鼻水とヨダレで大変なことになってしまっている。

その様子を見ていたリンゴは、オレにタオルを手渡し、何故か菩薩のような笑みを浮かべていた。




「また女を泣かせて…」


バニラさん、語弊のある言い方はしないでくださいね。

こちらは逆に険しい表情である。


「わたしにも教えてくれなかったのに…」

「おまえ、オレより魔法詳しいじゃないか。」

「それはそれだ。作り手と使い手じゃ培ったものが別だ。」


そう言われて手を差し出すが、


「…なんか違う。このシチュエーションは違うなぁ。」


お嬢様のご機嫌取りに失敗したようだ。

首を傾げ、腕を組みながらバニラは学校に向かっていった。


「旦那様、以前に探しておられた薬剤の材料が商会から届きました。」


薬剤?なんのだろうか?


「来たばかりの頃に探してらしたじゃないですか。」


抱える程の大きさの木箱を渡され、中身を確認する。


「おおおぉ…!」


色々あってすっかり忘れていたが、これでようやく耐性を鍛えることが出来る!

木箱の中身は大量の猛毒素材セットだった。

冬に入れば、遠征も不可能なのでどうするか悩んでいたのだ。


「いったい、どういうルートで…?」

「国家機密となっております。」


これはエディさんに感謝するしかない。

物が物なので、亜空間収納に即片付ける。

もう、アリスはカトリーナさんに任せて大丈夫だろう。一度出来れば後は自主性に任せた方が良い。根っからの魔導師の力と探求心を信じよう。


「危険な薬剤を作りますので、錬金・調合室は鍵を忘れないで下さい。あと、皆に周知するのも忘れずに。」

「かしこまりました。」


そう言い残し、地下の錬金・調合室へと向かう。

旅の前にポーションを準備した時以来の本格作業。軽く掃除をしてから椅子に座り、厳重に保護された木箱から劇物素材を出す。

気力と体力のみで戦う、耐性獲得修練の開始だ!




やり過ぎました。

昼になっても現れず、見に来たカトリーナさんを激怒させる事態を招いてしまった。

ポーション瓶片手に青い顔で倒れていたらしく、事情を話したらめちゃくちゃ怒られる。

仕方がなかったのだ…こうしないと耐性を得られないのだから…


ただ、昏倒状態を引き出すほどバッドステータスまみれになっていたとは思わず、怒られた甲斐もあり、毒、睡眠、混乱、狂化、麻痺、呪い、即死の耐性が生える。

呪い、即死が重要で、呪いは重度だと魔法やスキル封印などを併発、即死耐性は文字通り即死を防ぐ。

即死は耐性が生えてさえいれば軽度なら完全レジスト出来るが、重度になってくるとカンストでなければ完全レジストは出来ない。ただし、カウントダウン状態にまで緩和されて回復が出来るようになるので、耐性レベルの有無は大違いだ。

封印は耐性レベルが高ければ放っておいても即回復となるが、即死カウントは今のところ浄化で解除するしかなく、それは後でなんらかの方法で確認しておきたい。


「旦那はどんどん人をやめていきやすね。」

「一応、弱めたみんなの分も用意しているが…」

「いただきやす。あたしはスキルしか頼れやせんからね。」


説明とユキとのやりとりを聞き、困惑するカトリーナさんとジュリア。耐性スキルはいくらあっても困らないだろうに。

元々の物は封じられて使えないが、スキルを生やしたり、作業を通じて育成する事は出来ていた。【影潜り】も後から生えたスキルのようで、これの有無が生死を大きく左右したとユキと意見が一致している。


どうやら〈無影孤狼〉という二つ名持ちらしく、どこにも所属していないことから冒険者ギルドにおいて警戒対象としてそれなりに知られる存在だった。

浮浪者が不審がられるのはしかたない。


「ん、ぐうう…こいつは効きやすね…」


瓶を握り締め、苦痛に耐える。

弱めてあるとはいえ、毒も含まれているのだ。キツい事に変わりはなく、変に甘くすると余計気持ち悪くなりそうで味もどうしようもなかった。

恐らく、眠気に身を任せてしまった方が楽かもしれないが、キツい過去があると悪夢を誘発する可能性があるので何とも言えない。


一応、ヒールを保険として掛け続けておく。

【鑑定】の上位である【看破】で状態を確認すると、スキルも丸分かりなのは黙っておくべきか。

先日の一件以来、魔法耐性がやけに伸びていることから、あれは魔法ダメージ扱いになっている可能性が高い。

レベルは低いが、毒、睡眠、混乱、狂化、麻痺、呪い、即死の耐性が生えており成功のようだ。

呪い耐性が高くなれば、刻印に打ち勝てるのでは?とも思ったが、特に変化はない。


「旦那、もう大丈夫です。ありがとうございやした。」

「どういたしまして。」


ふう、と一息吐き、空になった瓶を手渡してくる。


「旦那はあたしの事、何処まで見えてやすか?」


何処かからかう様に、目は真剣なまま尋ねてくる。


「…経歴以外は全部だな。」

「旦那はスケベな人だ。」

「必要だからな。なんと思われても良い。」


驚いた様子のカトリーナさんと、何処か恥ずかしそうなジュリア。


「ちなみに、ジュリアの体はどのくらいの重さで?」

「そうだなぁ…」

「わー!わー!やめて!バラさないで!」


今までで一番大きいな声に、オレたちは笑い合う。


ナイスバディなカトリーナさんより背の低いジュリアの方が重いとだけ伝えておくと、パワー型二人から同時に(片方からは笑顔で)激しいビンタが飛んで来たのは言うまでもない。

カトリーナさんも気にしてらしてたんですね…





ポーション瓶の買い足しと、素材の購入に出掛けている間に大事件が起きていた。


どうやら地下が年少組の遊び場になっていたらしく錬金・調合室にも入り込んでおり、使用済みの瓶に水を入れてポーションだー!と遊んで飲んだそうだ。

オレが飲んだものを洗浄せずに置いてあったようで、当然のようにバッドステータス地獄に見舞われ、リンゴとカトリーナさんが大慌てで対処する事態になっていた。

鍵は掛けてあったらしいが、簡単に開けられてしまったみたいである。


カトリーナさんに言われて他の年少組が親に連絡、来ていたネコ娘とフィオナ、騒ぎで起きてきたアリスも加わって看病や後始末をしてくれていた。

カトリーナさんと、親御さんの双方が頭を下げ合うという状態だったらしい。やらかした子供は最近調子に乗り、度々諌められていたそうだ。

帰って来ると全て終わっており、親御さんが子供を背負って帰っていったところだった。


「本当に肝を冷やしました…厳しく伝えたつもりだったのですが…」


椅子に座り、燃え尽きたという様子のカトリーナさん。


「いつか何かやると思ってたけど、よりによってこんな事になっちゃうなんて…」


リンゴは溶けるように突っ伏しており、気遣うアリスの妹のソニアも横に居た。

前会った時はよく見てなかったが、独特な角以外はアリスに似ている。魔力の状態もお互いにリンゴと研鑽しているだけあってかなり近い。


加入のやり取りから、家に居場所を失くし欠けてたんだな、と思うとアリスと出会えたのは奇跡に近い気がする。あれを逃すと二度と冒険者として会えなかったのでは?とすら思えてきた。


「なんか、すまなかったな。」


グロッキーなのは戦闘科組も同じだが、元々今日は泊まっていく予定だったらしい。賑やかになりそうだ。


「お嬢様方、お風呂の準備はできておりやす。今日の疲れを落としてきてくだせい。」


ユキに誘導され、客人たちは風呂場へと向かっていく。オレとアリスはそれを見送っていたが、


「お姉様も参りましょう。対応にご尽力なされていたではありませんか。」

「ソニア…」


こちらを気にするので頷いておく。


「うん!」


姉妹は手を繋ぎ、賑やかな風呂場へと向かっていく。

お姉ちゃんが角の先まで洗って上げるからね!と興奮した様子で言っていたが、それは遠慮しますと冷たくあしらわれていた。強く生きろ。


「あの姉妹、大丈夫そうだな。」

「うん。ソニアも目を輝かせて見てたよ。お姉ちゃんが戻って来たって漏らしてたくらいだった。」

「お姉ちゃん、か。」


言葉遣いに気を使うソニアが『お姉様』ではなく、『お姉ちゃん』と言ってしまった辺りに喜びが伺える。


「本当に嬉しかったみたい。結果が出せなくて、おかしくなってたのを心配してたから。

カトリーナさんがいない間の指示はアリスさんがやってたしね。」

「アリスのおかげで謝罪に対応できました。ユキに任せても良かったのですが、家事の方を任せたかったので…」


いざという時の人手不足は予想していたが、アリスが来てくれたのは助かった。


「回復薬もセットで用意するか…

魔法を使えるヤツがいるとは限らないしな。」

「そうですね。それに、エディアーナ様を恨む者は多いですから、薬剤は多く準備しておくに越したことはないかと。」

「そっちからもあり得るか。」


しばらく、調合三昧になりそうだ。育成が捗るのは望むところだが。

まだ、表立ってケンカを売ってないから見過ごされているが、これからは直接的な敵が生まれる可能性もあるだろう。準備は必要だがそれだけではダメだ。


「貴族に顔を売るのも考えるか。」

「そうですね。闘技大会がありますので、その時に挨拶をして回りましょう。

冒険者が売り込みをする機会でもありますので。」


そう言えば、それでネコ娘とフィオナも来てたんだな。


「こっちのお姉ちゃんは妹と風呂に入らないのか?」


ギクッという文字が似合いそうな表情で、ジュリアは顔を逸らす。


「治療の心得が無さすぎて何も出来なかった…」

「あたしの代わりに荷物を運んでくれたり、お嬢様方を運んだり活躍してたじゃねぇですか。」

「それくらいしか…」

「それも大事なんです。あたしじゃ、まだちょっと無理やしたからね。」


ハァ、と溜め息を吐くジュリア。


「絶対に人前で脱ぐなって厳命されてて…

ほら、妹って痩せてるでしょ?私が姉だって思われるの嫌らしくて…」

「気持ちは分かりやす。」


やせっぽっちのユキが同意する。

顔色は良くなったし、肌艶も改善された気はするが、痩せすぎてるのはなかなかな。


「その両胸のを姉妹で比べられるのはキツいもんがありそうで。」

「あ、そっちなんだ…」

『いったいどっちだと?』


二人から同時に ツッコミが飛んで来る。藪の蛇だった。


「全体的なものだと思っておりました!」

「それはそれで許せない…」


拳に力が入るジュリア。

平手は良いがお前の拳はやめてくれ。普通に大怪我する。


「それはそれで恥ずかしいですぜ。」

「…痩せたいのに食欲は抑えられない…」


パワーの一端を担っていると思うと、なかなかダイエットも薦めにくい。ままならぬものである。


そうこう話をしていると、風呂場から続々と戻ってきた。早いのはエルフ、ディモスたちで、獣人は乾かしたり涼むのに時間が掛かるらしい。


「今日はお世話になります。」


代表してフィオナが挨拶をすると、合わせて全員が一礼する。皆、礼儀がしっかりしていて、オレなんかには過分な対応である。


「おう。よろしくな。

それより、済まなかったな。管理が甘くて大事になって…」

「いえ、よろしいのです。あの子、最近調子に乗り過ぎていたので良い薬ですわ。」

「私たち、頭一つ飛び抜けて良い成績出してるから、調子に乗っちゃってる子が出ちゃってね…」


そういう事か。優秀で礼儀正しいと思って見ていたが、全員がという訳じゃないようだ。

やはり、作業室や倉庫には何か対策が必要そうなので、魔法的な物を仕込むべきだろう。

それぞれ席に着き、休んでいたカトリーナさんは夕食の準備に掛かる。ユキとアリスも手伝うようだ。


「まさか空のポーション瓶に、水を入れて飲むとは思いませんでしたわ…」

「冒険者に一番憧れてて、ポーション瓶はその象徴と思ってる節があったからね。」

「そうだったか…」

「粗忽な方々でしたから良い薬になるでしょう。これに懲りて、落ち着きを学んでいただきたいものです。」


なかなか辛辣だが、その通りだ。

冒険者を目指すなら迂闊さは最大の敵となる。それを学ぶ良い機会になっただろう。

…洗浄しなかった、というかする間も無くぶっ倒れてたオレも迂闊だったけどな。


「ただいま!おとーちゃんたち来て!」


バンブーがただならぬ様子でオレたちを呼ぶので、座っていた全員で玄関へいくと、ボロボロのバニラとバンブーがいた。


今日はまだ、落ち着けそうにないようだ…

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