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31話

パーティーメンバーが全員一緒に住んでいるという所まで知られているので、家へ連れていくことにした。

あまりギルドで騒ぐと目立ち過ぎるというのもある。常に誰か騒いでいる場所なのが。


到着すると年少組がちょうど帰るところだったらしく、玄関に勢揃いしている。


「あれ、お姉様?」

「ええっ!?なんでいるの!?」


アリスの妹だったらしく、驚いた声で慌て出す。


「…またそのような姿で。形から入るのは良いですが、程度は弁えてください。」


アリスも背が低いのだが、更に背の低い妹に、詰め寄られてたじたじになっている。

流石に特別な日でもないのにスカートは、妹からも白い目で見られてしまったようだ。


「お母様にはご内密に…」

「お伝えします。」

「殺生なー」


そんなやり取りをしたのち、アリスの妹と年少組は去っていった。

カトリーナさんの影響がめちゃくちゃ強いグループで、マウント取られたら反撃は難しい。


「末の妹でソニアです…いつも妹がお世話になっております…」


急にしおらしくなり、しっかり挨拶をする。


「ソニアちゃんとは仲良くさせてもらっています。お姉さんも今後ともよろしくお願いします。」


アリスの挨拶にしっかり対応するリンゴ。すっかり慣れた様である。


「ああ…とんでもない人に声を掛けた気がしているわ…」

「それはまちがいねぇですよ。」


奥で片付けをしていたユキが出てくる。


「北方エルフ…?」


見慣れていないのか、驚いた様子でユキを見る。そう言えば、北方エルフはあまり見掛けないな。


「ヒガンの旦那のパーティーで、スカウトを務めさせていただいておりやすユキと申しやす。

どうぞお見知りおきを。

平時はこうしてメイドを務めておりやすので、用の時は鈴を鳴らしてくだせい。」


綺麗なカーテンシーと自己紹介を決められ、アリスは面食らっている。

まあ、ただの冒険者と思ってついてきてコレは戸惑うよな。


「メイドがスカウト…?スカウトをメイド…?」


困惑の極致でついに壊れ始めてきた。


「スカウトでメイドでございやす。」

「スカウトデメイド…スカウトデメイド…」


何か吹き込まれている現場にいるような気がするが、まちがってないので何も言えない。


「ご実家はマナー講座をやっていらしたのですね!?だからソニアも最近」

「違うからな。落ち着け。深く呼吸をしろ。」

「はーはーひーひー」


なんだか深呼吸と違う気もするが、本人がそれで落ち着けるなら良い。


「ソニアが、お姉さんの事を話さなかった理由が分かった気がする…」

「ハッ…!?」


リンゴの言葉が落ち着いた精神を再び揺さぶる。うん、面白いけどほどほどにな。


「薄々気が付いていたけど、ソニアに疎まれていたのね…」


マインドにクリティカルヒットだったようで、涙声になっている。


「最近、身体の洗いっこもしてくれないし、添い寝もしてくれないのはそういう事だったのね…」


それはそうかもしれないな。

リンゴの方を見ると、ダメだこれはというジェスチャーをする。オレもそう思ってきた。


「なあ、ジュリア、段々不安になってきたんだが…」

「私もそう思ってた…」

「そんなぁ…」


加入の提案をしたジュリアにまで不安がる。こうなっては、アリスも立つ瀬がない。


「お嬢様から強い魔力を感じやす。戦力としては申し分ないのでは?」

「ほう?」


最近は情報量が多くなり過ぎて処理しきれないので、街中では感知の使用を控えている。ユキはスキル無しでも魔力が感知出来ているようで、これはこれで稀有な体質だ。もしかしたら、刻印の微量な魔力のおかげで感じ取れるようになっているのかもしれない。


アリスを見て、集中し、魔力感知を使う。

確かに魔力量は多い、多いが…


「うーん。錬成が甘いな。」

「れ、錬成?」

「旦那。それを無意識に出来てるの、旦那とバニラ様とリンゴ様だけですんで。」


もっと早く言ってくれ。でも、やって見せた方が早いか。


「魔力の使い方は説明できるか?」

「と、当然でしょう。これでも魔導師を名乗っているんだから…」


そう言って、掌に風の球を生み出す。


「魔力は周囲のマナと自分のマナとの融合。融合したマナに、意識に刷り込んだ術式を転写することで魔法になるのよ。」


言い終えると風の球が小さく爆ぜ、柔らかい風が頬を撫でる。

間違ってはいないが…


「ちょっと古い説明だよね。」

「えっ!?」


リンゴが説明を聞いて感想を述べる。


「魔力は周囲のマナと自分のマナを融合したもの。周囲のマナを自分のマナに練り込み、魔力に変えていく。」


身体の仲に吸収されたマナが自分のマナと合わさり魔力となる。だが、それだけではきれいな魔力にはならない。きれいに磨いていく必要があるのだ。

息をするように、流れるように魔力が整えられていく。


「え、えぇ…」


幼子とは思えない魔力の強さに困惑のするアリス。

整えられた魔力は時間を掛ける事で圧縮され、密度を増していく。


「術式に従い、意味を理解して、魔力を解放する。」


アリスのはかつてオレが使っていたような、細かい制御の利かない魔法。発動だけは容易だが無駄が多い。

リンゴのはバニラが組んだ実用性重視の魔法。指定できる変数が多く、状況に合わせて調整ができる。制御を甘くすれば手に負えてない事を偽装することもできるし、精密に操作できれば一切周囲に影響を与えない事もできる。


「ヒィッ!?」


アリスは感知で見たのだろう。変な悲鳴を上げる。

触れれば肉が飛び散るほど密度の高い暴風が、幼子の掌で渦巻いている。

それでいて、周囲に影響はない。


「なんでどうしてここまでできるの…」


へなへなと座り込む。しっかり魔法から目を離さないのは、根っからの魔導師気質を持ち合わせていると証明している。

リンゴがこちらを見るので、頷いてやると魔法を解除する。全く風も衝撃波も発生することなく、掌の上の暴風は消え去った。


「うう…出直して来ます…」

「汝、力を欲するか?」


座り込んだまま項垂れるアリスに、ジュリアがギルドで言った言葉を真似する。


「欲しい…!欲しいけど…!」

「では、これをよく読んで、親御さんのサインをもらってきてくれ。」

「私、成人だから!背も低いし、この子に勝てる気がしないけど、成人だからね!?」


そう言って、慌てて家を飛び出していく。

あの性格で、バニラやユキと変わらないくらいの背だから未成年だと思ってた。


「大丈夫なの?」

「わからん。でも、切っ掛けがあれば化ける要素は持ってる。」


不安そうに尋ねてくるリンゴに、オレはそう答える。

自前の魔力量は十分。後は技術的な問題だしな。


「いや、性格の方を聞いたんだけど…」

「ノーコメントでお願いします。」

「旦那、うちにはカトリーナ様という心強い味方がおりやすんで。」

「また、カトリーナさんの仕事が増えてしまう…」

「ユキちゃん来てから、遊べる時間が増えたって喜んでたのにのに…」


容易に思い浮かんでしまうアリスに八つ当たり気味で指導するカトリーナさんの姿。本当に申し訳ない。





二時間程して、べそをかきながらずぶ濡れのアリスが荷物をまとめて戻って来た。途中で転んだのか、服も顔も泥で汚れていた。背の割に大きい胸の辺りをずっと押さえているが、ぶつけたのだろうか?

アリスを紹介すると、バニラとバンブーが強張った表情を見せる。NPCだったりするのだろうか?


「これからお世話になります…」


しわしわになった紙をオレに手渡すが、なかなか離そうとしない。


「?」


よく分からず、引っ張り合いになる。


「本当にさっきのが私にも出来るんですか…?

もう家族にも見捨てられる寸前で、後が無いんです…お願いします…力を…力を…」


それ以上は涙声でよく聞き取れない。

ソロでやれているのでそこそこ実力があるのかと思っていたが、どうやら違うようだ。


「ごめん…こんな事になるなんて思っていなかった…」


ただならぬ様子に、ジュリアがオレに頭を下げる。乗ったオレも同罪だ。

様子を察したカトリーナさんもやって来る。


「私たちの訓練は厳しいですよ?

身形ばかり気にして、浮わついていてはすぐに音を上げるでしょう。その覚悟があるか、まずはこの三日で見極めさせていただきます。」


厳しい声色で頭を下げたままのアリスに告げる。


「あります…他は無くても覚悟だけはあります!ご指導よろしくお願いします!」


服を押さえたまま胸を張り、決意に満ちた顔でしわしわの紙を手放した。


「よろしい。では、まずは部屋の割り振りを改めましょう。

ユキ、アリスは同じ部屋で良いですね?」


遅れて現れたユキの方を見ながら問い掛ける。


「へぇ。あたしは構いやせん。」

「はい…」


二人の意志を確認し頷くカトリーナさん。


「私は…」


パワー型やわらかエルフも声を上げるが、


「あなたは顔に刻印をされたいと言うのですか?」

「いえ…」


睨まれて、震えながらしょんぼり引き下がった。

ジュリアのみ階すら違うという徹底ぶり。なかなか信頼を勝ち取れていないようだ。

睡眠事故で殺され欠けたので仕方ないが…


「あたしは荷物もないので、布団と枕だけ移しておきやすね。」

「それなら私がやっておくので、二人でお風呂に入ってきなさい。」

「分かりやした。」


ユキが荷物を持たせたままのアリスの手を引き、風呂場へと向かっていった。

しわしわの紙に書かれた名前はアリス・ドートレス。それが女の名前で、父はハロルドという名のようだが、母親は空欄になっている。

成人のようだし、父の名があるならそれで良いかなとは思うが、妹から母親に言い付けると言われたのにその名前が無いのはどういう事だろうな?


「旦那様、恐らく今までで一番手強い生徒となりますので、我々も覚悟しましょう。」

「そんな気がしてたよ…」


とんでもない人材を拾ってしまった気がするが、上手く才能を開花させてやりたいものである。


「ヒィィぁッ!!」


凄まじい悲鳴と騒ぐ音が聞こえたのでそちらを振り向こうとすると、


「旦那様はダメです。」


カトリーナさんに目を塞がれ、様子を確認する事はできなかった。

まあ、なんとなく事情は察したけどな…




「大変傷付きやした。」


全くそんな様子のない笑顔でユキが言う。

完全にしてやったり、という表情だ。全く気にする素振りを見せずに風呂場へと案内してたもんな…


「ごめんなさい…本当にごめんなさい…」


アリスは大変大人しい服装になってショボくれている。寝る時は地味なようだ。

ユキの冗談を真に受けるほど余裕がないようで、なんだか気の毒に思えてくる。

まあ、首から下を隙間なく刻印された人間と風呂に入る機会はまずないからな。


「知るなら早い内が良いですからね。」


カトリーナさんも旅先で知って微妙な感じになるのは困るだろうと思っての事のようだ。

しかし、今日はもう何も出来そうにない。

出会ってから色々とありすぎ、憔悴しているように見える。


「アリス、すぐに慣れるから…」

「そ、そうですか…?」


ジュリアが優しく声を掛けるが、困惑を隠せない様子。

全く先が見通せないのだから仕方がない。


「今日はもう休みなさい。明日の事は明日伝えます。」

「ハイ…」


ユキに誘導されながら、とぼとぼと歩いていく姿はあまりにも不憫。そんな姿を見ると、どうしたものかと悩んでしまう。


「カトリーナさんはアリスの事は?」

「ソニア様から聞いております。学生時代は誇れる姉だったと聞いておりますが…

何処かで勘違いなされたまま、成長が止まってしまったようで。」

「それでめちゃくちゃなアクセサリーだったのか…」

「本人は真面目に考えての事だったようです。

旅先で命を落としたり、大怪我をする事なく帰って来れているだけ、見込みはあると思うのですが…」


死なずに帰ってこれるだけの判断は出来ているという事か。


「明日はお嬢様方にお任せしましょう。

とりあえず、我々は様子を見るという事で。」

「そうだなぁ。いきなり厳しくして折れられても困るからなぁ。」


こうしてこれからの方針を決めた所で就寝となった。

なかなか良い拾い物をしたという思いはあるが、磨き上げる苦労に見合えば良いが…

オレの胸中は不安と期待が渦巻いていた。

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