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23話

日が昇ると同時くらいにオレたちは王都であるルエーリヴを離れる。

オレは1ヶ月、ジュリアさんは30年ぶりとのこと。

昨晩はぐっすりだったのだが、何故か当事者のオレとジュリアさん以外は全員眠そうに送り出してくれた。

皆さんが緊張して眠れないのは何故なんですかね…


「ジュリア、ここからは呼び捨てで行くぞ。

仲間なんだからお互い気楽にやろう。」

「わ、わかった…ヒガン。」


相変わらず声が出ず、風が吹けば掻き消されそうだが、それでも目は意欲で満ちている。


「二日の予定だが、三日で行く。連携ができるか含め、お互いを知る時間も設けたいからな。」

「でも、昨日は…」

「旅に予定外はつきものだろ?」

「そう…だね。」


恐らくそれは苦々しい体験のはず。それも払拭してやりたいところだが…


「互いを知る時間も大事だ。二日あれば十分かもしれんが、動きを確認した方が良いだろう?」

「はい…!」


歩きながら互いを知る事から始めよう。まず聞くべきは…


「今の体重はどの程度だ?」


本気でひっぱたかれて首がねじ切れるかと思いました。




先日、カトリーナさんにステータスを開示した際にガチギレされた反省を踏まえ、早めに能力を明かしておく事にした。

あの時は長い時間かけて醸成した関係が崩壊するかと思い、本当に肝を冷やした。

土下座までしてなんとか事なきを得たが、それもリンゴが居てくれたおかげだろう。オレだけではもうダメだった。


ジュリアの反応はなんともピンと来ない。

信用していない気もするが、戦う機会があれば片鱗を見せられるだろう。というか、戦う時くらいしか見せられないのだが。


ジュリアからはパーティーブレイクの話について聞いた。

同じ学校の同じ派閥のエルフたちだったようだが、パーティー内恋愛が発覚。しかも、自分以外全員がそういう関係だったらしく、中には二股の掛け合いみたいな事もあったらしい。

その事実にショックを受け、どうして自分だけハブられていたのか問うと、次女とはいえ育ちが違い、価値観が合わないからと言われたそうだ。能力だけは買われていたが、他は全く評価されていなかった事が一番のショックだったらしい。


その後、風の噂ではどのカップルも上手くいかず、散り散りになってしまったとのこと。

ジュリアはその結果、引きこもりに過食という生活を30年近く続け、去年辺りからフィオナにしごかれてゆっくりダイエットを続けていたようである。急に激しくなったのは、娘たちが入学した頃のようで、リンゴが切っ掛けだったようだ。

続けていたとは言え、よく短期間で動けるまで改善されたものである。


「ジュリアからは聞きたいことはあるか?」

「カトリーナさんとのご関係…」

「お手伝いさんだ。」

「答え慣れてるね…」


何度目だろう。

皆、そういう風に見えているのだろうか。こちらとしては光栄だが、カトリーナさんに失礼ではないか?


「次どうぞ。」

「そうだなぁ…

ヒガンはどうしてそんなに強さを求めるの?

仮にさっきのが本当だとして、それで何を得たいの…?」


予想外の質問が飛んできた。

強さを求める理由か…


「強くなれるからじゃダメか?」

「じゃあ、得たいものは…?」

「…考えたこともないな。」


ただ強くなることだけが理由で、それで何を得たいかなんて考えたこともなかった。


「じゃあ考えておいてよ…じゃないと、たぶん多くの人が離れると思うよ…

私は無目的の旅でも良いと思ってるけどね…」

「どういうことだ?」

「もうヒガンの強さは、皆が認めるところだと思うし、広く知られていると思う…

だけどね、理由がない強さは、理由が明かせない強さにも受け取れる…偽名なら尚更…」

「確かに…」


理由をでっち上げる必要がありそうだ。

娘たちに話せば、それもすぐ広まるはず。


「ドラゴン殺しでも目指すか。」

「その時は何卒私抜きで…」

「嫌でもついてきてもらうからな。」

「うぇー…」


引きこもってたわりによく喋る。それがジュリアの印象だ。声は小さいが。

元々冒険者をやっていたという下地があるからか、まだまだ元気もありそうだ。


「ジュリアは目指すものはあるのか?」


次はオレから尋ねる。

生まれも育ちも良く、何か不足してる訳でも無さそうなエルフが冒険者をやる理由に興味があった。


「あるよ…笑わないでね。」


立ち止まり、意を決した様子でこちらを見る。


「虹の向こうを見たい。」


虹の向こう…

ビフレストを越えたいというのは、エルフらしいかもしれないな。

シェラリアの世界において、虹の向こうにエルフの新天地があるとされていた。

ビフレストは確かにあったが、その先はついにちゃんと実装される事はなく、サービス終了を迎える。

この世界なら、と思うとやはり興味は抑えられない。


「それも目標に加えよう。」

「でも…」

「おとぎ話だって言いたいんだろう?

それがおとぎ話かどうかを証明するのも、冒険者の仕事じゃないか?」

「うん。そうだね…!」


ビフレストとなると、エルフの国に拠点を移す必要があるな。すぐには無理だが、いつか必ず目指す事にしよう。

その後は好きな食べ物や今までで食べた美味しかったものなど、大した事のない会話が続き、昼になる前に休憩地点で一休みすることになった。




休憩地点と言っても、特に何かある訳でなく、広く切り開かれているだけという感じだ。

それでも隊商が何組かおり、それだけでけっこうな人数なので賑やかになっている。

この間にも臨時店舗を開設し、商売をしている姿は逞しい。

事前に食糧は、亜空間収納に納めてあるので、改めて買う必要はない。ないのだが…


「えへへ…美味しそうだったので…」

「安い依頼なんだから、あまり買い食いすると損するぞ。」

「はーい…」


大盛りの肉野菜炒めを持つジュリアはとても幸せそうな顔をしていた。本人が良いなら良いよ。

オレは事前に用意していた食材で、簡単にスープと炒め物を作り、最後にパンを取り出す。

二人分、半々に分けておしまいだ。


「うん。実にシンプル…やってることはとんでもないけど…」

「目立つ必要もないからな。」

「商人から引く手数多だろうに…」


亜空間収納の簡単さが知れ渡ると、物流に革命が起きるだろうなぁ。

そんな事を思いつつ、千切ったパンで雑に炒め物を掴みつつ、スープで流し込むように飲み下す。まあ、可も不可もないといった所か。カトリーナさんの飯が恋しくなる。


「そんな顔をして。ビックリするくらい美味しいのに…」


どうも思ったことが顔に出すぎているようだ。なんとかならんものか。


「この辺を通る隊商はどこに向かうんだ?」


特に話題もないので、賑やかな隊商連中について尋ねる。こういうのはオレより詳しいはずだ。


「規模にもよるけど、大きいのは北か西の国境越えるんじゃないかな…王都を中継点にしてる可能性もありそう…」

「王都が終点という訳でもないのか。」

「良い感じに中間にあるし、道路が整備されてるから…

ドワーフの国から最短距離でビースト諸国に向かうのは、旅慣れてても厳しいよ。海路も絶望的だし。」

「ああ、流氷で覆われるか大荒れの海だもんな。」

「そう…最短は海も陸も私たちの領分…」


冒険者しか使わないって事か。王都が潤って発展するわけだ。


「でも、誰も住んでない訳じゃない…そこにも暮らしがあって、産業がある…

行く商人が少ないだけだよ…」


たくましい人々は何処にでもいる。


「良質な木材や石材、鉱石はそういう場所のもの…

大事な産業はあるんだよ…」

「そうだな。バカにはできない。」

「よろしい…」


満足そうに頷き、最後の一口を平らげる。

まだ物欲しそうに隊商屋台を見るが、これ以上はストップを掛けた。旅の間に太られたらフィオナに怒られそうだ。

更に半刻ほど休憩し、軽く体を動かしてから旅の再開となった。

この調子なら、最寄りの宿場までは行けそうだ。





行けませんでした。

雲行きが怪しくなってきたと思ったら、一気に大荒れである。

休憩地点で木材を使って簡易家屋を作成。余り大きすぎると目立つので、二人が座って十分な距離を取れるくらいのサイズで抑えてある。石の上に寝袋を敷いただけでは座り心地はよろしくないので、しっかり均してから土台を組んで板を敷き詰めた。

刻印までは施さず、エンチャントで補強だけしておく。

揃ってずぶ濡れも良いとこだが、バニラ作の洗浄魔法はキレイに乾燥までしてくれた。感謝せずにいられない。


「着替えが必要だったらどうしたの…?」

「区切って、そっち側からだけ開けれる窓枠用意していたかなぁ。」

「そんなことも出来るんだ…」

「事前に準備してあるから、用途に合わせて必要な部品を選んで組み立てるだけだよ。必要なら寝る時に区切るが。

あ、トイレは穴掘ってあるから上から埋めてくれ。浄化掛けるから。」

「はーい。」


茅葺き屋根までは流石に用意できないので、火は使えない。状況が状況なので窓も開けられないしな。


「波乱の幕開けだね…」

「穏便に済んで欲しいよ。」

「これが冒険だよ…こんな快適な旅は想像してなかったけど…」

「まあ、他と比べたらな。」


何もない休憩地点での野宿にも関わらず、屋根も壁も床もある。これが出来るだけで、旅の快適さは大きく変わるだろう。色々と準備はしておくものである。

食事も電子レンジの原理で温めて出す。昼と大差はないが、この状況では贅沢も言えないだろう。

季節は既に冬なので、温かさが身に染みる。


「温かい食事に感謝します…」


胸に手を当て、拝むように呟いたジュリアはペロリと平らげる。


「オレが出す量は一定だからな肝に命じておけ。」


遅れてオレも食べ終える。量は少なくないはずなのだが。


「はーい…」


それからはお互い適当に時間を潰す。

オレは朝飯を仕込んだり、細かい道具の手入れをしていたが、ジュリアは日課と思われるトレーニングを始めたかと思えば、すぐに寝袋に入って眠っていた。

まあ、初日だしどうこう言わないでおこう。

出したものを片付け、オレも寝袋に潜り込み、トイレの光の球以外は消して眠ることにした。




だが、事件が起こる。

なんだが背中に柔らかいものが…と思ったら、身体へ強烈に締め付けられる痛みが襲い掛かる。


「ガッ…アアッ…グッ…!?」


よくわからず、原因の物を解こうとするが、寝袋から出られず、どうしようもできない。


〈警告。状態異常【束縛】に陥っています。〉


はっ!?どうしてだなんでこんなことに!?


〈告知。重大なダメージを負う可能性を考慮し、自動的に防御系スキルを有効化しました。〉


なんとか耐えられそうだ…


〈警告。【防御貫通】効果により、ダメージを受けています。〉


ハぁっ!?なんでこれにこんな!


〈告知。HPが危険域まで低下したのでHP強化と自動回復スキルを有効化します。〉


マジで命の危険じゃないかどうしてこうなった!?

バタバタともがくが、更に足まで挟むように押さえ付けられ万事休す。

あぁ…ジュリアの寝惚けがヤバいの完全に失念してた…

HPが減って回復しての繰り返し。良い訓練になると思えば…

結局、そのまま朝までぐっすり眠ったのであった。


朝になり目が覚めると、ジュリアは元の位置に戻っている。どうして最初からそこに行けなかったのか。

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