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32話

グロリアス号の速さのおかげで、そう時間を掛けずに北の果てへと至る道が見えてくる。

まだ夏と呼んでも差し支えない時季だが、甲板上は寒すぎて根比べ瞑想している柊、フィオナ、遥香、梓と、観戦している寒さに強いテイムモンスターしか居ない。操舵室ではアリスとバニラが真冬の姿でオレにくっ付き、膝の上ではダルマかと思うくらい着込んだ悠里がジッとしていた。

三方から着込んだのに囲まれ、オレはむしろ暑いくらいである。


「そこまで寒くないだろう?」

「いや、蒸し暑い所に長く居たから、反動で気温以上に寒く感じるんだ…」

「そうね…ルエーリヴ暮らしが長いからって、ちょっと油断してたわ…」


魔導師寄りの者は皆こんな感じで、近接を任せられる者はそうでもないようだ。子供たちではアレックスとジェリーもダメらしい。

オレも日頃の訓練のおかげだろうか?


意外にも、アクアとメイプルは大丈夫のようで、アクアは絵画召喚があるので支援を頼めるし、メイプルも箱とピラーがアリス並に使えるので戦力として十分にカウントできる。歌のバフも強力だからな。

という事で、寒くても動ける者を中心に、今回はパーティーを組むことになりそうである。


「座礁しそうでこれ以上近付けるのは無理だな。ピラーで強引に乗り込むしかないか。」

「もうちょっと進んでみてくれ。 違和感がある。」


バニラに言われ、注意して航行を続ける。

ブリザードの影響を受けているのか、オレの感知はあまり役に立たないな。海面より下はよく分かるが…


「入った。ここはもうダンジョンみたいだな。」

『ねえ、ここダンジョンじゃない?』


バニラが言ったすぐ後に、サクラも誰かの通話器で伝えてくる。

時々、バニラの方が鋭い時があるが理由がよく分からないな…


「北の果てへ続く道だ。動けるようにしておけ。」

『了解。』


返事は遥香からだった。


「海路からは経験がないが、どうなっているやら。」

「塞がってなければ良いな。」

「氷を溶かしながら進むさ。」


まだ、ブリザードの激しい所に突っ込んでいないので安心して進めるが、それでも海面より上が把握できないのは怖い。


「いつになく緊張してるわね。こっちにも伝わってくるわよ?」

「そりゃな。一家全員背負ってる上に、海面より上が分からないんだ。」

「そうだったの…」


ゆっくりと航行を続けると、船体が入口へと引き戻されていく。 加速をかけるが進めないようだ。


「あー、ダメかー」

「なに?なんなの?」

「レギュレーション違反という事だろう。誰かの支配下で、少なくとも今は足で踏破しないとダメってことだ。」


驚くアリスに現状を説明し、膝の上の悠里を持ち上げる。


「仕方がない。ここからは分けるぞ。

アリス、バニラ、グロリアスと子供たちを任せる。」

『任された。』


元気に返事をする二人に困惑する悠里を預け、皆が寛いでいる区画へと向かう。


「みんな、すまんな。これから春までお別れだ。」

「ヒガン様、今回は私も残りますわ。」


居残りを申し出たのはフィオナだ。少し意外である。


「北部だけでなく、マーマンとも取引が開始されるようでしたら、一家の者が居た方がスムーズだと思いますので。」

「そうだな。フィオナの提案に乗ろう。

細かい所はアリスたちと詰めてくれ。」

「ありがとうございます。」


深く頭を下げるフィオナ。

むしろ、こちらが礼を言いたいくらいなのだが。


「ヒガン、私も」

「お姉様はついていってくださいませ。良い引き締めになるでしょうから。最近、食べ過ぎですわよ!」

「ひー…」


即Noを突き付けられた姉。娘を盾にするんじゃあない。


「ノエミ、春までお父さんとお母さんとお別れだからね。おばちゃんとアリスお母さん、メイドさん達の言うことを聞くんだよ?」

「はーい。」


しっかり娘に言い聞かせるジュリア。

サンドラ、アンナを見ると、お任せくださいと頷いてくれた。

気が付くと居なくなってるノエミは、この二人以外に任せられないからな。


「アレックス、レオン、ビクターも元気でな。

風邪を引いたり、訓練や勉強をサボらないようにしろよ。」

『はい!』

「進捗によっては春から本格的に魔法を教えよう。それまで、各自の課題をしっかりこなせ。」

『はい!』


普段クールなレオンも、ビクターと一緒にはしゃぎ気味に喜んでいる。

アレックスは…意外と嬉しそうだな。

最後にジェリーを見ると、ぐっすり眠っている。暖房が心地良かったようだ。

起こさないように抱き上げ、感触をしっかり心に刻んでからココアに渡す。


「ジェリーを頼むぞ。」

「お任せくださいませ。」


ジェリーの歳だと、再会する頃には大きくなっていそうだな。


「おとーちゃんもすっかりおとーちゃんの顔だね。」

「もう10年だぞ。」

「それもそっかー」


梓とのやり取りで笑いが起き、和やかな雰囲気に包まれる。

今回もサンドラとアンナは居残り。あまり冒険に興味を示さないのは良いのか悪いのか。

ショコラとヒルデは既にブリザードの影響を受けているようで、身体が重く感じるという報告を受けており連れていけそうにない。


オレ、遥香、梓、柊、カトリーナ、ユキ、ジュリア、ソニア、ジゼル、リリ、アクア、メイプルというパーティーと言うには大所帯での出発だ。

甲板上はかなり冷え、真冬と変わらないように感じる。

流石にこの寒さは厳し過ぎるので、暖気の魔導具を使う。カイロ代わり以上のこれは手放せそうにない。


「これ、私とバニラから。向こうで食べてね。」

「おう。」


預かった鞄を亜空間収納に…入れられないな?

しまおうとするが、弾かれてしまう。


「あ、それはそのまま持っていくしかないそうよ。二重は無理だからって言ってたわ。」

「なるほどな。アクア。」

「はい、責任をもってお預かりします。」

「大袈裟よ。じゃあ、また春に、西の方で会いましょう。」


アリスからオレに抱き付き、少し寂しそうに言った。


「ああ、また春にな。」


別れを告げ、担当する人数分のピラーを出す。

オレはカトリーナとジュリアだ。二人とも箱に足を固定してオレにしがみつくが、パワーがアリスと本当に段違いである…


「みんな、無事に戻ってくるのだぞ!私たちも土産話を用意しておくからな!」


最後にエディさんの言葉に背を押され、気合いも十分入る。


「よし、出発だ!」

『おー!』

「みんな、行ってらっしゃい!」


アリスとエディさんとメイドたちに見送られ、オレたちは夏にも関わらず白く染まる大地に降り立つのであった。





道中は組を作り体をロープで繋ぎ合って進むことになる。

カトリーナ、ユキ、柊が力を発揮しにくいが、遭難回避には致し方ない。アンカーで繋ぎ合っているだけなので、戦闘時はすぐ外せる。

ここで一番怖いのは、魔法や魔導具に疎い者が孤立する事だ。たとえ死を回避できても、体力の回復には時間を要すだろう。出来るだけ早く突破したいので、はぐれるのだけは避けたい。


組み合わせはオレとカトリーナ、遥香と柊、リリとジュリア、と魔法が得意なメンバーと不安なメンバーを優先的に組んでから付き合いの長いソニアとジゼルが組む。

残った梓は性格的な重石として遥香たちと、ユキは近接が不安なリリたちと、アクアはオレたちと、メイプルはソニアたちと組む。


「なんだかいつも通りの組み合わせだねー」

「あ、あたし完全に足手まといでは…?」


苦笑いする梓、震え声のアクア。


「いざという時はしっかり守ってもらうぞ。」

「ええ!?あたしが守る側なのですか!?」

「フェルナンドさん仕込みの技術に期待する。」

「もう10年も前じゃないですかー…」

「ふふ。旦那様は冗談で言っているのですよ。」

「えぇー…」


今は魔導師の方が近いからな。アクアに近接として期待するのは酷だろう。


その後は互いに軽い打ち合わせをしてからグロリアスの方を見る。

まだ、その場に留まっており、最後に皆で手を振ると方向転換をして去っていった。


「ここから歩いて帰るのは骨が折れるな。なんとしても、本格的な冬が来る前に突破するぞ。

クエストスタートだ!」

『おー!』


こうして、エルフの森の北部から、獣人領の北の果てまで踏破する、恐らくこの世界では前人未到となる旅が始まるのであった。






「おー、なかなか肌触りの良い毛皮ですぜ。きれいにして毛布にしやしょう。」

「肉も食べれそうなところが多いね。これでしばらくは食料に困らないよ。」

「木の実が落ちていましたわ。煎れば休憩時のお菓子に出来そうですわね。」


皆、実にたくましい。

巨大な猫型の獣を狩り、その成果にほくほく顔である。


「立派な牙ですね。頭蓋骨も好事家(こうずか)は欲しがるかもしれませんよ?」


口に収まらない巨大な牙に感心するアクア。


「これは錬金術の素材になるんだよ。

魔法の術式を固定化する薬剤にできるんだ。」


強力なアンティマジック対策である。

バニラが聞いたら度肝を抜かしそうだが、言葉の意味を理解した連中が既に度肝を抜かしていた。


「えっ!?そんな薬剤あったの!?」


一番驚いているのは梓である。それはそうだろう。封入エンチャント潰しは、鍛冶師にとって頭痛の種だったはずだ。


「わりと誰も幸せにならない薬剤だからな。知ってるヤツは広めなかったんだよ。」

『たしかに…』


魔導具への知識の深い者たちが同意した。

再封入が不要という事は、術式士の仕事を奪うことにもなるし、修練の機会も減る。

劣化の少ない魔導具は、物理的に破損しない限り買い替える必要すらなくなるのだ。それはきっと、停滞を招くだけで良いことは無い。

だが、魔導具の修理が厳しい今は別だ。夜になったら早速製薬し、暖房関連の魔導具を優先して使う事にする。


「この猫は大量に出てくるからな。無駄無く取る必要は無いぞ。」

「おおう…伝説の生き物がありふれているのですね…」


そういう猫だったのかこれ。

その後も度々現れる様々な獣を狩っては似たようなやりとりを繰り返し、1日目はすぐに終わってしまった。

猫、象、猿、白熊と、なかなかお目に掛かれない生き物が多くて楽しい。


今日はいつも通りのログハウスを作り、中で全員が眠れるようにする。ちなみにトイレは3ヶ所用意した。


「アリスがいないのが残念ですが、今日の毛皮は毛布にしておきやすぜ。何枚あっても良さそうなんで。」


と、作業を始めるユキ。


「肉は半分、突破してから薫製するのに保管しておくよ。」


手に入れた肉を手際良く切り分け、下処理を始めるジュリア。


「じゃあ、オレは薬剤を作ってしまおう。食事は任せるぞ。」

『かしこまりました。』


オレがそう言うと、メイド達が料理に取り掛かった。

製薬は別に作業小屋を用意しよう。


「私はリリちゃんと、今日拾った木を乾燥させて薪にしておくねー」


居心地の悪そうな戦闘特化組。というか、遥香と柊とソニア。


「お前たちの出番はちゃんとあるから、今は温存しておけ。」

『はい…』


こうして、慌ただしい内に初日が終わった。

まだ始まったばかりの冒険に皆が心を踊らせているのは、食事の賑やかさが証明してくれている。バニラの試作カレーパンと、アリスのプレストーストも大変美味しくいただきました。

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