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17話

舐められていると聞いたが、なかなかの対応だった。


「とても優秀な娘さん方だ。ヒュマスとは思えない程に。どんなズルを仕込まれたのですか?」


と真っ先に言われるとは思いもしなかった。

流石にこれは効く。ハラワタが煮え繰り返り、ヤツのハラワタを撒き散らしてやろうかとさえ思ったが、察したカトリーナさんに手を握られ、気持ちを落ち着かせる。


「ヒュマスではないと記入してあるはずですが?」

「ああ、書類内容はどうとでもなりますし、参考にしておりませんので。」


そう言って、全員の必要書類を目を通さずに片付ける。

なるほど?こういう手合いか。


「ふむ。ヒュマスが魔人に触れられても嫌悪感を見せないどころか、冷静さを取り戻すとは…

変態が親では娘さんも苦労なさっていることでしょう。ハハ。」


ホントにこいつは…


「我々は必要な手続きをしに来ただけです。それとも、王都の名を冠する学園の職員は、嫌味の才だけが採用の基準なのですか?」


オレの言葉にカチンと来たのか、エルフ職員の顔に皺が寄って赤くなる。梅干しのようだ。


「無名の冒険者が調子に乗るなよ!」

「ヒガン『さん』。」


サインが出たので【威圧】有効化。


「ひ、ひいいぃぃぃっ!?」


出力三割で職員は、悲鳴を上げて部屋から這うように逃げていった。


「職員さーん。手続きはいいんですかー?」


オレのすっとぼけた声が廊下に響き、部屋ではカトリーナさんが口を押さえながら腹を抱え、時々吹き出すように笑っていた。




やり過ぎて二人揃って怒られました。

他の耳の長いエルフ男性職員がやって来て、カンカンである。


「ですが、良い気味です。勢力争いに傾倒し過ぎるあまり、当学園の方針を忘れているようですし。」


あの職員には思うところがあったらしく、改めてまともに手続きをしてくれる事になった。

必要書類を読み、いくつか質問をされる。

その課程で、召喚されてからの事をほぼ話した。

事前にカトリーナさんと打ち合わせしており、こういう方針でいくと決めていたのだ。


「ああ、噂の南門事件は…」

「南門事件?」

「いえ、なんでもありません。」


気になるが、この件はここで打ち切られる。

学費の入金手続き等はカトリーナさんが請け負ってくれており、今後も任せるしかないだろう。適切なタイミングで家にいるか分からないしな。


「ところで、この名前のままでよろしいのですか?」


名前は本名ではなく、偽名のままだ。

即死、呪い対策をまだ得られていない。必要なヤバい物の流通が制限されているらしく、想像に反して必要なものが手に入らなかったのだ。

カトリーナさんからは、すぐ入手しようと思うなら自力で手に入れるしかないと思われますと言われている。


「はい。後日、訂正する可能性はありますが。」


これだけは娘たちにも徹底させている。

変な恨みを買って呪われる、というのは日常茶飯事の世界だからな。言及はしないが、カトリーナさんもしっかり対策はしているようだし。


「わかりました。」


事情はこれ以上深く詮索されず、話はこれからの事になる。

保護者会、行事、校外活動の補助等、保護者の役割について言及されるが、職業柄、出来る機会は限られると断っておく。

職員も承知の上らしく、出来る限りで良いと言ってくれた。ありがたや。


「あと、バニラさんについてですが、卒業できずに留年が確定しておりますがご存知でしたか?」

「んん?」


卒業できない?初中高一貫のはずでは?


「18歳で最高学年との事ですが、出席日数が根本的に足りていませんので。」

「えっ。」

「ヒガン様、まさか…」


カトリーナさんが何を言っているんだ?とでも言うような顔でオレを見る。


「あいつ、中等部では…?」


思わず震え声になりながら言うと、カトリーナさんの平手と罵倒が同時に飛んで来る。罵倒はピー音が付くレベルの一撃だ。


「根本的な所を勘違いしてたなんて信じられません!四人の中で一番しっかりと受け答えしていたではないですか!」

「申し訳ありません!」


首がねじ切れるかと思う程の一撃を受け、涙目になりながら土下座をするしかなかった。


「…取り乱しました。その点については、しっかりと本人から確認を取っておりますので大丈夫です。」


咳払いを一つし、カトリーナさんが答えてくれる。本当に申し訳ない。


「は、はい。それなら結構です。」


ドン引きしながら職員がそう締め括った。


「学校側として、生徒に最大限のサポートは致します。ですが、一から十までとはいきません。必ずトラブルは起こります。その際は、どうかお子様方を温かく迎えて上げてください。特に、四人は特別な事情を抱えていますから。」


最初は少し冷たいという印象を受けたが、この人はちゃんと子供を思ってくれている人だ。これなら学校に安心して娘たちを預ける事ができる。


「恐らく、しばらくは見た目に反して優秀すぎるという事でトラブルになるかと思います。

我々は事情を把握しておりますが、生徒はそうではありませんし、教師にも疑念を抱いている者はおりますので。」

「はい。説明してあります。」

「有事の際に、全力で生徒を守るのが我々の役目と心得ております。ですが、心の方までは万全にとはいきません。何卒、ご理解の方よろしくお願いします。」


何百、ひょっとしたら千もの生徒が居そうな学校だ。全員の心までは流石に高望みだろう。


『心得ております。』


オレとカトリーナさんの声がハモり、思わず顔を見合わせ互いに笑い合った。





それからはそれぞれの教室を見て回れる事になった。

初等部であるリンゴは共通科。まだ知識や経験を広く養う必要がある。

転校生初日特有の状況で、他の生徒に囲まれてあれこれ聞かれていた。

休み時間なので先生がこちらに気付きこちらにやってくる。


「リンゴさんの親御さんですね。担任のホリーです。」


オレたちに自己紹介をし、ペコリと頭を下げる。


「ヒガンです。親という訳ではないのですが…」

「カトリーナです。私は御世話を申し付けられております。」


隠しても仕方ないので正直に話す。


「そうなのですか?どことなく、雰囲気がお二人に似ておりますので…」


オレたちを見て、振る舞いを学んでいるという事だろうか? あまり迂闊なことはできないな。


「これからよろしくお願いします。」


カトリーナさんが頭を下げたので、オレも倣って頭を下げた。


「そういえば、素晴らしい成績でしたが飛び級は考えられておりますか?」


そんなに良い点数だったのか。基準が分からないので判断がつかない。


「リンゴ様がお望みならば。ですが、今はまだそれを判断する時ではないかと。」

「そうですね。ですが、こちらとしては何を教えれば良いのか…」

「学ぶものがあれば勝手に学ぶと思います。今は他の子と変わらぬ対応をしていただくだけで十分なので。」


そうか、そうですね。と自分の胸に手を当て言い聞かせるようにする。まだ新任なのだろうか。


「わかりました。その様にさせていただきます。優秀な子なのでちょっと身構え過ぎていましたね。」


そうこうしてるとチャイムが鳴る。

ん?チャイムなのか…


「ああっと!次の授業ですね。それではまた!」


先生は元気に教室へと駆け込む。まだやる気と元気に溢れてらっしゃるのは良い事だ。

リンゴの方を見ると、恥ずかしいのか目を逸らされる。かわいいところがあるじゃないか。


「次に行きましょうか。」


職員に促されて、中等部の後者に向かう事にする。去り際に二人揃って手を振ってしまっていた。




中等部から専門技能を磨く学科が出てくる。

4人で一番背の高いが歳は3番目のバンブーは、ここに通うことになっていた。

設備はしっかりしていて、高等部の実習で使うこともあるそうだ。

今は魔法でインゴットを作る所を先生に評価してもらっている。


「ちょうど良かった。」


職員に促され、オレたちは実習室に入っていく。

冒険者とバトルメイド?だの、メイドさん美人過ぎ短剣献上したいだの、歳相応の反応が聞こえてきた。その短剣はオレの許可を得てからにしてもらおうか。


「あー、保護者の方ですな。」


先生はずんぐりして背の低い如何にもなドワーフ。酒臭くなく、それだけで好感が持てる。オレの知ってるドワーフは、NPCもプレイヤーもみんな身体が酒で出来てるような連中だったからな…


「いやはや。この歳でこの出来は素晴らしい。もう中等部で教える事はありませぬぞ。」

「いやいや、何を仰います。師匠のインゴットに比べたら泥団子も良いところではないですかー」

「中等部では、と言っておる。高等部でガンガンしごいてやるから覚悟しておれ。」

「アチャー」


バンブーは何も心配なさそうだ。先生も良い腕してるようだしな。


「その出で立ち、冒険者と思われるが得物の方は?」

「まだちゃんとしたのは持ってなくて。」

「そうでしたか。では、今期の試験は父上の武器を課題としよう。」


先生の言葉に一番驚いたのは職員だ。


「良いのですか?高等部の作品にも学外持ち出し禁止を厳命しているのに。」

「あんな趣味の工芸レベルのものと比べるでない。父上の装備にバンブーの魔力を感じる。それに、旅の間の事は聞いているからな。」


職員も事情は知っているのでそれ以上は何も言わない。


「して、師匠。材料は何を?」

「ミスリルと蒼魔狼の骨だ。」

『マジで』


思わず声がハモるオレとバンブー。

そんなものがいきなり手に入るとは…

蒼魔狼は名前の通り青い巨大な狼で、その毛皮も骨も丈夫で良質な素材として装備全般にによく使われていた。特に魔法剣士の代名詞とも言える付与系魔法をロス無く伝えられる数少ない素材で、需要は登場から最後まであり続けていた程である。


「問題は刻印と封入だが。」

「うちのおねーちゃんに任せるから大丈夫大丈夫。」

「そうか。おまえがそう言うなら任せて大丈夫だろう。」


二人の合作武器か。これは大事にしないとな。


「では、旦那。最後に採寸させていただきますぜ。」

「フリッツ殿、言葉が。」

「おっと、いけね。」


どうやらこの人も生粋の職人のようだ。

面倒見も良さそうだし、安心して任せられるだろう。

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