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25話

更に青さが増す3層。

やはりここにも中央に広場があり、それを囲むように部屋がある。

ここにも仮拠点を作れれば楽になるのだが…


「とりあえず、中央の広場を目指す。ステップ1を維持だ。」

『了解。』


急がず、慌てずにオレたちは歩いて中央へ向かって歩いて進む。だが、すぐに道が途絶えた。


「崩落してる?」

「みたいだな。意図的か、何かの影響か…」


この階層は全体的に荒廃感が増している。敢えてなのかは判断できる材料がないが…


「ここを飛び越えても、結界のようなもので阻まれてダメそうだ。いよいよ対策をして来たな。」

「まあ、あれだけ好き勝手にしてたらそうよね…」


何とも言えない表情をアリスから向けられる。

箱でアシストしたり、風呂に入ったり、のんびりキャンプしただけなんだが。


ジッとしていてもしかたないので、迂回をしながら中央広場へと繋がる道を探すことにする。


やはり湧く敵はサハギン中心の編成だが、質が良くなっている。

烏合の衆という印象はなく、訓練された小隊という組み合わせになっていた。

だが、質も人数も勝るこちらの敵ではなく、遥香とフィオナが一撃離脱で崩した後、アリスとジュリアの追撃で一掃というパターンでサクサク進んでいく。

一刻ほど掛けて広場の周囲を回るが、このままでは入れそうになかった。


「何かギミック解除が必要か?」

「そうみたいだな…」


感知系を全開にしているが、繋がりが見えない。そもそも、入れる気がないという可能性が高いな。


「しかたない。攻略に移るとしよう。

組分けは同じで良いか?」

「ああ。わたしは構わないが。」


娘たちは異論がないようだ。リリも頷く。


「ここまでで分かっただろうが、3層は2層までとは違うぞ。遊び感覚は棄てていけ。箱やピラー、ライトクラフトも惜しむなよ。」

『了解。』


娘たち+1が返事をして、逆方向の部屋へと走って向かっていく。

こちらも入口に近い方から順に、攻略していくとしよう。


「アクア、気になることはあるか?」


ずっと周囲を気にしているアクアに尋ねる。

何か納得がいかない様子だ。


「多分、上層がありそうですよね。3層は上下2層になっている気がしますよ。」

「上層か…」


フィオナとソニアも同意する。

階段の長さの割に天井が低いからな。


「ライトクラフト潰しかもしれない。飛ばれたら厄介だからな。」

「なるほど。ダンジョンマスターも大変ですねー…」


易々とクリアされるのは困るのだろう。過小評価するつもりは無かったが、こうやってオレたちに向けた対策をされると何か(たぎ)ってくる。


「どちらにせよ、踏破してみせましょう。

あらゆる道具、あらゆる方法で勝ち取る事を至上とする東方エルフの流儀、ダンジョンマスターに知らしめますわ。」


どうやら、一番火を付けてはいけないお嬢さんを焚き付けてしまったようだ。

ダンジョンマスターは反省会で荒れそうだな…





思った通り、このダンジョンはフィオナの独壇場だった。

初手フロストノヴァで出来上がる凍結部屋。酷いギミック潰しに、流石にオレもドン引きである。

そんなのお構い無しに突き進む女性陣。みんな、逞しくて涙が出そうだよ…

皆、ルエーリヴ暮らしが長いこともあり、むしろ凍ってる方がマシ、とまで言い出したからな…


熟練サハギンたちも相手にならない。数が増え、戦術を用いるようになっても、圧倒的な火力の前に為す術なく消えていく。

魔法バリアならジュリアの矢が、物理バリアならアリスの魔法が、という風に、防御魔法も紙同然に破られていた。

丸裸にされた後は、前衛達の容赦ない斬擊、打撃の餌食である。口調と違いすぎる凄惨さは、親御さんにその姿は見せられない…

東方エルフのお嬢さんとこは、両親揃って誇らしげに笑いそうだが。

オレもただ眺めているわけではなく、伏兵をピラーやボックスを使って潰していたりする。殺意の高い配置なので、逆に分かりやすい。前方は完全に任せられるしな。


休憩を全く挟む事なく、オレたちは進撃し、気が付けば4層への階段であった。

心の中でダンジョンマスターに手を合わそう。なむー。


休憩準備を終えたところでバニラ達もやって来た。

納得いかない様子だが、道中の事を話すと『気の毒に…』と声を揃えて言う。ホントそう思う。


「明らかに様子が変わったな。ゲームもこんなだったのか?」

「いや、流石に天井が低くなることはなかったぞ。2層までの部屋の複合というだけだったな。熟練サハギンは同じだ。」

「わたしたち対策か…」

「やりすぎたんだ!って言われちゃいそうだねー」


一家の主と、その原因には何も言えなかった。


「まともにクリアしたんだろ?どうだった?」

「柊と遥香にはちょうど良かったみたいだよ。

わたしたちはそっちと同じだ。」


やはり、凍らせたか。

昨日の晩の内に、フィオナやソニアと話し合ったのかもしれないな。

柊、遥香と楽しそうに話をするフィオナとソニア。ようやくあったまってきた感じだろうか。

話をしていると、昼食の準備が終わったようで、アリスとアクアに呼ばれる。

すぐボスのはずなので、軽めにするよう伝えており、量は少ないが美味しいプレストーストを堪能した。





深い青の4層はただ広い部屋が一つだけ。ここまではゲームと変わらない。

オレたちはボス戦を想定してのフル装備。後衛組以外がライトクラフト、使えるヤツは箱やピラーまで展開している。


『愚かなる、本当に愚かなる人間よ…

我が憤怒、その身にしかと刻むが良い!』

「ステップ3!」


言葉に切実な思いを込め、威圧してくる角の生えた青く美しい大きい海蛇。一気に叩き込むべき相手だと判断する。


【インクリース・オール】【バリア・オール】

【ファイア・ストライク】


20程の箱&ピラーから更に3倍の火球が海蛇に叩き付けられる。


『ぐおぉっ!?』


【エンチャント・ファイア】

【フォース・インパクト】


怯んだところを前衛が容赦なく襲い掛かり、ダメージを与えていく。


『ま、まて!こうさんだ!こうさん!』


これ以上は自分が危ういと思ったのか、海蛇は体を縮めていく。


「もう終わり?もっと戦おうよ。」


遥香の言葉にブルブルと首を振るミニ蛇。


『これ以上は死んでしまう!許してくれ!』


という事で、オレたちは無事に海淵の園を攻略したのであった。





他に挑戦者もいないので、最深部であるこのエリアで一泊する事になった。

食事を振る舞いつつ、軽めの戦勝パーティーのような雰囲気になっている。


『特にお前は殺意が強すぎる。どう考えても、このダンジョンをどうにかしに来たとしか思えなかったぞ!』


遥香に向けて首を振りながらミニ蛇が言う。


「どう考えても殺す気の作戦だったし…」


そう言ってオレを見る。

やめろ、お前の殺意と作戦は無関係…とは言えないな。


「マーマンの戦い方はどうなんだ?」

『お前たちと違って、もっと肉体を用いる。サハギン達の戦い方が近い。』

「鎌倉武士相手に、戦車や航空兵器で挑むようなもんだよねー」


フェルナンドさん相手にヒルデを数揃える感じだろうか。流石にどうにもならないだろう。


「マスケットですらない所に絶望を感じる。」


と、バニラ。どうも知識の薄い所のようで、記憶から引き出せない。


『人数の何倍もの火球、威力も尋常じゃない。更に立て直す間もなく追撃。お前たちには血も涙もないのか?』


ついに魔物に説教をされてしまう。


「敵に容赦するな、は家訓だから。」


淀みなく言い切る遥香。皆の視線が痛い。

いやまあ、その通りだけど。


『試練の場だから殺生は無しだとは言わぬ。過去にも予期せぬ事故、自惚れによる戦死はあったからな。』


それがマーマン達が受け入れた選択なのだろう。

生きる為に巨大な魚を狩る種族だ。試練の場は、文字通り戦士として大成する為に必要な試練なのかも知れない。


『ここは力を技術を試す場だ。全力で互いを潰し合うダンジョンではない!』


それはミニ蛇からの悲痛な叫びだった。

マーマン達も試練の場と呼んでいたからな…


「すまん。オレたちがこちらの流儀に無頓着過ぎたようだ。」


ミニ蛇に頭を下げて謝罪する。

これは改めて、もう一回挑戦した方が良いかもしれないな。


「お父さん。私、もう一度挑戦してみたい。

今度は凍らせたりとか無しで。」

「私たちも挑戦したいですわ。」

「わたしは良いかな。ピラーやボックス無しで突破は無理そうだし。」

「私もバニラと同じよ。」

「私も無理かな…」


前衛、後衛で綺麗に割れた。


「じゃあ、戻ったら入れ換えよう。カトリーナとユキ、レオンとビクターにも挑戦させてみたい。」


異論がないようで、無言で頷く。


『他にも仲間がいるのか?

マーマン以外の人間も来たことはあるが、自由に行き来するヤツなど初めてだ。』


驚いたような、呆れたような声のミニ蛇。

それはそうだろう。そもそも、存在すら認知されていなかったのだから。


「わたしとしてはマーマンの起源が気になるが。」

『かつては天の泉を生息地にしていた、と言っていたな。天から落ちた際に、散り散りになり、生き残った者達がここを棲家にし始めたのだ。』


亜人と同じく天空都市由来だったのか…

天空都市について、オーディンに確かめた方が良さそうだが、ちゃんと教えてくれない気がするな。


「渦潮は何のためにあるんだ?」

『マーマン達の道標だ。

海は広く、海上には天敵があり、海中では方角などあって無いようなもの。もっと魚に近ければ迷うこともないのだろうが、人に寄り過ぎてはな…』


天敵とは、来る前に聞いたブラックドラゴンだろうか?

生まれた川へ産卵に戻ってくるって言っていうしな。知恵と引き換えに、そういう本能を失ったのだろうか。


『ところで、お前たちは何のためにこんな場所に来たのだ?得るものなんてないだろう。』


海中ダンジョンを目指した理由を問われる。

確かにちゃんとした理由は無かったな。


「船や魔導具の性能の確認や、海底を見せたかったからだな。」

『…そんな理由でダンジョンを荒らされ、我は半殺しにされたのか。』


萎れるミニ蛇。ちゃんとリザレクションを掛けたのだから許して欲しい。


「でも、楽しい経験が出来たわ。1層2層は子供たちに是非体験させたいもの。」

「そうだね。でも、ノエミにはちょっと早いかな。」

「ジェリーもだな。1層なら…という感じだが。」

『お前らは試練の場なんだと思っているのか。

だがまあ、子供に向けた調整をするのも悪くない。マーマンにも我慢出来ずに入り込む子供はいるからな。』


どの種族も子供の元気には手を焼いているようだ。


「なあ、海蛇よ。人と共存するダンジョンマスターは多いのか?」

『ダンジョンマスターに他との繋がりは無いから分からぬよ。ましてやこんな海底では情報を得られるはずなどない。』

「それもそうか…」


ミニ蛇の答えに納得するバニラ。

しかし、サクラ以外にも共存するダンジョンマスターが居たというのは収穫だ。土産話にしよう。

その後は取り留めの無い話が続き、ダンジョンの最深部とは思えない穏やかな一晩を過ごすのであった。

…時間はよく分からないからサポート頼みだったが。

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