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23話

サハギンを蹴散らした先のエリアは浮き石エリアだった。

水の流れが緩いので泳いで渡ることも出来るが、この程度なら普通に渡ってしまいたいところである。

大昔のテレビ番組で、似たようなのがあったと言ってたヤツがいたな。


「非常にバランスの危ういヤツがある。スキルがあればすぐ分かるんだが、まあ渡ってみせようか。」


二人揃ってとはいかないので、今回は先にさっさとクリアしてみせた。

見た目も内容もゲームと変わらないし、認識拡張で分かってしまうので、失敗もしようがないな。


「これ以外にもルートがあるから、探してみても良いぞー」


対岸に向かって言うと、話し合いを始めた。

先にアリスがオレと同じルートで一つずつ確実に跳び、無事に渡りきった。

やはり、体は小さいが部分的に大きいのがよく分かってしまい目のやり場に困る。困るが心配で目を離せないジレンマよ…


「見分けがつかないけど、本当に別ルートがあるの?」

「ああ。迂回含めて他に3つくらいルートがあるぞ。」

「逆に失敗の方が少なそうね。」

「まだここはな。」

「まだ、というのが気になるわ…」

「最悪、箱やピラーで通れば良いよ。」


二人目はアクアのようだ。

こう離れていると、髪色の違うカトリーナがいるようにも思えてくる。違う部分は多いのだが何故だろうか?


フェルナンドさんに鍛えられただけの事はあり、基礎的な部分はしっかりしているアクア。ここも問題なく突破してみせた。


「滑らなくて良かったです…」

「そういう時は凍らせるんだ。足場共々固めてしまえば、後は鍛え方の問題だよ。」

『なるほど…』


二人揃って納得する。

魔導師組には、これが良い解決方法だろう。

魔導師でも体を鍛える意味はある。それを示すのに良いダンジョンだ。


「次はジュリアよ。」

「さっきと逆順だな。」

「あー、たしかにそうね。」


考えがあっての順番か。

ジュリアも跳ねる度に揺れる。どことは言わないが、特に腹の辺りが心配になる。

アリスが胸元を気にするのを感知が拾ってしまったが、余計なことは言わないでおこう…

が、次の瞬間、事件が起きた。


『あっ!』


全員が同時に声を上げる。ジュリアもだ。

パワーに負けて足場が壊れ、ジュリアが前のめりに水の中へ落ちる。

反射的に踏ん張ってしまったせいか、壊れた足場が水飛沫を上げながら水面をかっ飛び、はずれ足場をいくつも弾き飛ばしてから、待機組の目前で跳ね上がった所をフィオナの盾で叩き落とされた。


「こうなると思っていましたわ…」


と言うフィオナ。

よく分かっている姉妹だから冷静に許されている気がするが、ユキが居たら確実に尻を蹴り飛ばされてそうな状況だったな…


「ああー…どうしてこうなるのー!」

「ジュリア、早く泳いでこい。そのままだと流されるぞ。」

「えっ!?」


少し流されているのに気付き、平泳ぎなのにすごい速さでこちらに辿り着いた。これがパワーか…

洗浄で洗い、しっかり乾かしてやると、少し嬉しそうな顔をしてくれる。


「まあ、概ね想像した通りになったわね…」

「そうだねー…こんな所でも不便を感じるとは思わなかったよ…」


それでこの順番か。

パワーが高すぎて足場が壊れるのは、オレにとっては想定外だったよ…


残りの3人は流石に同時ではないが、別ルートを風のように突破してみせる。ジゼルにはちゃんと大丈夫な足場が見えているようだな。


「楽しいけど、身体能力の差を痛感するわね…」

「まあ、楽しいのは2層までだ。存分に楽しんでおけ。」

『えぇー…』


ということで、もう1エリア、魔物を蹴散らしたところで拠点へと戻ることにした。

アクアのマッピングも順調だが、向こうはどのくらい進んだろうか?ドヤ顔で描き終えた地図を見せてくるのだろうか?

バニラたちの成果に期待しつつ、オレたちは中央へと向かう事にした。





お通夜かと思うような空気でした。

テーブルの上に石で押さえられた地図は、3つくらいエリアが埋まっていない…


「おとーちゃん…私には無理だよ…」


震え声の梓。ここまで弱気なのも珍しい。

2つは魔物エリアだが、1つはトラップエリア。どうやら、箱でやり過ごしたのと同じもののようだ。


「柊ちゃんは問題ないけど、ハルちゃんは到着するなり一人で奥まで進むし、おねーちゃんは足を滑らせまくるしで…」

「ハルカには私たちが話をしますわ。」

「じゃあ、私はバニラと話をしてくるわね。」


頼むより先に行動するフィオナ、ソニア、アリス。とてもありがたい。


「いやまあ、梓はよくやっていると思うぞ…」


頭を撫でると大きなタメ息を吐いた。


「おねーちゃんは良いけど、ハルちゃんがあんなに前に出る理由がわからなくて…」

「前に出る理由か…

前衛としての意地、みたいなのがあるのかもな。

魔眼で見分けられるものもあるし、それでの気もするが?」

「ああ…そっか。おとーちゃんも近い状態だから分かるんだね。」


再び大きなタメ息の梓。


「見えていない私が逆に無理し過ぎちゃってたんだ。」

「ガイドだからって、一番前にいる必要はないよ。オレもフィオナとソニアを先に行かせているしな。」

「固執しちゃってたのは私かー…

はあ…ちょっと久し振りで空回りしてたかも。」


苦笑いする梓に、アクアがイグドラシル水を差し出した。


「今はしっかりお休みください。昼食は私が準備しますので。」

「手伝おう。ジュリアは、梓の話し相手になってくれ。」

「えっ!?」

「良い土産話があるだろ?」

「ひどい…」


不満げなジュリアを置き、新鮮な海産物を焼いたり、煮たりして皆に振る舞った。

昨日と変わらない食事だが、今日もなんとか賑やかで和やかな昼食となり、一安心である。

とはいえ、3層以降もこの調子だと厳しい気がするので、娘たちの事も気にかけてやる必要がありそうだ。





2刻ほどの昼休憩の後、探索を再開する。

中央を押さえてしまえば、何処からでも再開できるのがここのダンジョンの良いところである。

こちらはあと2エリア。1つはエネミー部屋だと思うので、実質1エリアか。

一気にクリアするか迷ったが、娘たちの状態を見ると、引き上げて正解だったな…

なんとか持ち直したようなので、しっかり成果を出してくれるはず。午後の終わりを労ってやりたい。


そんな事を考えながら、こちら側では最後のアスレチックエリアに到着した。


「ここは足場が上下したり流れて周回するヤツだな。アリス、いけそうか?」

「ちょっと届かない気がするわ…待って。ああ、大丈夫になってるのね。」


ちゃんと足場が隣接するので、問題は乗り間違えないか、ということくらいだろう。

2層のこちらは、熱湯温泉の以外はだいぶゆるめだったな。

ということで、後衛組が先にゆっくりと、前衛組が後から10秒掛からずに突破してみせた。ソニアも空中2段ジャンプが出来るなかなかおかしい身体能力に育ってしまい、ハロルドさんには申し訳ない。

単純にエア・ストライクを絶妙な調整をしているだけだったりするのだが、これは単純に魔法が一定以上扱えれば出来るという事ではなく、アリスでは空中でバランスを取れないので真似できるテクニックではないだろう。


「全部このくらいなら良いのに。」


アリスのぼやきに頷くジュリアとアクア。


「私たちには物足りませんわ。」


フィオナに賛同するソニアとジゼル。ジゼルも魔導師寄りかと思いきや、ユキと同タイプだったようで、身体能力が10年でかなり向上していた。魔眼持ちでこの身体能力はとても心強い。


「まあ、後衛組はオレが運ぶよ。3人は厳しいから、アクアには挑戦してもらいたいが。」

「善処させていただきます…」


そんなやり取りをしていると、最後の部屋に到着した。

たくさんのサハギンの中に1匹だけ大きなサハギン。こいつはサハギンリーダーと呼ぶことにする。


「フィオナはサハギンリーダーを抑えろ。ソニアは右側の敵、ジゼルはソニアのサポート。アリスは全体バッファ兼アタッカー、左側を狙え。アクアは八咫烏でアリスの援護。ジュリアはフィオナに向かうのを撃ってくれ。」

「あなたは?」

「ピラーで分断して、援護する。」

「分かったわ。」


アリスが返事をすると、全員が武器を持つ。オレも遅れて今回は剣を手にした。


「フロストノヴァなしでやってみようか。ありだと、あまりにも有利すぎる。」

「分かりました。では、錆び落としの相手になっていただきましょう。」


航行中もライトクラフトを使って模擬戦闘を繰り返しているフィオナとソニアだ。当然ながら錆び付いてなんていない。

どちらかと言えば、実戦から離れていたのが長いから気持ちの問題かもしれないな。


「では、戦闘開始だ!」

『おー!』


合図と共に、全員で一気に走って陣形を整える。


『ギギッ!ギギギッ!』


サハギン独自の言語か。サポートも流石に翻訳は出来なかったようだ。

まあ、名乗りかもしれんが、理解できないから関係ない。一気に場を整え、させてもらうぞ。

亜空間収納から5本のピラーを飛ばし、サハギンリーダーの左側に落とす。刺さらなかったが地面の岩が砕けて飛散し、サハギンをわずかに傷付けた。一応3体、ピラーの下敷きになっている。


【アイスウォール】


今回はピラー伝いに氷の壁を展開し、ピラーの間のサハギンも2体まとめて氷の壁の中に閉じ込める。

弧状に展開されるアイスウォール。雑魚処理に強い魔導師組側の方を多めにした。


【インクリース・オール】【バリア・オール】


アイスウォールと同時にアリスのバフが掛かる。これだけあれば十分だろう。


「我が名はエルフの森東部の総領の娘にしてヒガン一家のフィオナ!参ります!」


サハギンの言葉の意図が分かったのか、名乗りを上げてリーダーに突っ込むエルフリーダーちゃんことフィオナ。初擊は剣ではなく、盾を構えてのタックルだった。

全く想定していなかったのか、上手く処理できずに長大なトライデントで受け止める。だが、フィオナのパワーと勢いに押され、たたらを踏んで数歩下がる。

これは決着が早いパターンか?


それを見逃すフィオナではなく、体を回転させて遠心力を加え、斜め下から盾でトライデントを強烈に叩き付ける。凄まじい金属音がエリア内に響き、思わず後衛組が耳を塞ぎ、サハギンたちは動きが止まる。

かなりの太さのトライデントは、たった2発で折られてしまっていた。

戸惑いは文字通り命取りとなり、トライデントを折った一撃からの流れるような斬擊。サハギンリーダーの首は宙を舞っていた。

更に首のない胴体を、回し蹴りでアイスウォールへと弾き飛ばす。自分の方へと倒れてくるのを嫌ったようだ。


「修練が足りませんわね。」


そう言って、リーダーを失った雑魚たちに向き直る。

後は一方的な、オレたちによる殺戮ショーとなったのだった。





「まあ、予想はしていた。」


折られたトライデントを回収してから、微妙な笑みを浮かべるフィオナを見る。

サハギンを殲滅し、ドロップ品の鱗やエラを一人で回収していた。他で見ないが安い素材なので、オレだけが持っておけば良いという理由もある。


「もう少し歯応えがあると思っていましたのに…」

「それは同感だ。」


リーダーを潰されたサハギンはただ右往左往。反撃も何も出来ずに潰されていったからな…

単純な調整ミスだと思いたい。


「まあ、この層は簡単だったみたいだし、こんなもんなんでしょうね。先に進む?」

「ああ。」


オレに介護されまくったアリスに促され、魔法を解除して氷の壁を消す。

最後に、残ったピラーは周囲に展開し、一本ずつ洗浄を掛けてから亜空間収納に片付けた。綺麗にしておかないと、掴もうとして手を滑らしそうだ。


「ここが3層に下りる部屋ですわね。」

「じゃあ、バニラたちを待ちましょう。」


打ち合わせ通り、先に着いた側の役割として、簡易休憩所を用意することにした。


「そう言えば、温泉を回収しておいたが入るか?」

『回収?』


全員が信じられないものを見るように、オレを見ていた。

ただ熱湯を被っただけではない事を、しっかり感謝して欲しいものである。

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