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22話

2層は1層に比べて魔力光の青に深みが増している。変化はそれくらいで出てくる魔物は大差がなく、レベルが上がっている程度の違いしかない。

とは言え、この小さな違いは大きな違いとなっていた。


「不思議だ。味が全然違う。」


1層と2層のシャコの焼いた物で、食べ比べを料理上手達としている。

2層の物と比べると1層のは薄味に感じるが、どちらが良いかは料理次第かもしれない。頑張って活用してくれ料理上手たち。


中央の制圧は総力で行い、その道中で食べ比べる為の食料も確保しておいた。

通りが狭まり展開がしにくい地形だが、箱やピラーに乗っての地形無視移動には関係ない。速度を落とすことなく魔物を蹴散らし、中央の開けた舞台のような場所に到着すると、浄化とシールドスフィアでキャンプ地を確保した。

ログハウスは湿度の関係で作りたくないので、屋根のみ木材の石積簡易小屋を4つほど建てておいた。

それからの試食タイムである。


1層は縄張りに入らない限り襲われないが、2層以降は見つけ次第襲い掛かってくる。1層がウォーターパークなんて呼ばれたのもそれが理由だ。まあ、2層も大したことないから、まとめて言うヤツも多かったが。

浄化でリポップを、シールドスフィアで襲撃を抑制できるのは変わらないが、3層は難度が大違いになる。


「魔力が味に影響しているのね。」

「食べる物の違いもあるかもしれないな。」

「どっちが美味しいかと言われると、どっちも美味しいですね。味が違うのに不思議です…」


アクアの言葉に横のリリも頷いた。

リリも遥香に負けず劣らずの万能っぷりで、色々な事が出来るようになっている。5年前からその片鱗は見せていたが、旅暮らしでそれが更に磨かれたようだ。

ヒルデに細かい事は無理そうだし、その頃の遥香はやらなさそうだからな…


「調味料不要で味にバリエーションが得られる。長期遠征の良いお供になりそうだ。」


バニラも海藻を煮た物を器に注いで渡してきた。


「良い香りだ。」

「なにこれ。こんなの初めてよ!」

「これが海の味なのですね…!」


感激した様子のアリスとリリ。


「うおおお…ワカメのスープだぁ…!」


泣きそうなほど感動するバニラ。気持ちは分かるが自分で作ってそれは大袈裟すぎるだろう。

更にずっと亜空間収納で保管していた秘蔵の卵を落とし、かき混ぜた。

それを一口飲み、固まるアリスとリリ。すぐに平らげおかわりを要求した。種族も違うのに、よく似た二人である。


「適度な塩加減とスパイスがうま味を引き立てているなぁ。」

「この反応、父さんのスープに勝ってやったぞ。」

「これに比べたら、あれは何も入ってないも同然だからな。」


ドヤるバニラに苦笑いを返すしかなかった。


「春雨や芋も使いたいな。もっと色々な食材を手に入れよう。」

「そうね。料理でも世界を手中に納めるわよ。」

「大袈裟ですよ。でも、そう言いたくなる気持ちも分かります。」


焼いたシャコの身を少しずつ切り分け、そんな事を言っているバニラ、アリス、カトリーナの器に入れていく。


「春雨は無いがシャコならあるぞ。」

『いただきます。』


また味が変わったようで、3人はとても幸せそうに3杯目を堪能したのであった。





寝起きのホラーかと思うくらい張り付いていたサハギン退治で訓練を消化し、2日目が始まる。

パンと肉とサラダと昨日のスープで腹を満たして出発だ。

一心不乱に目を輝かせ、食事をする遥香はなんだか微笑ましい。後で見れたことをカトリーナに自慢しよう。


組分けは昨日と同じままで、2層の探索からとなった。


「今日から探索本番だ。昨日ので緩みは取れたと思うから、しっかり気を引き締めて行くぞ。」

『おー!』


という事で、バニラと軽い打ち合わせをしてからの出発。

昨日は初見でとりあえず体験させる感じだったので、仕掛けの簡単な見分け方だけを教えておいた。突破法についてはまた後となる。自分達で対処方法が見付けられるなら、それが一番良いからな。


オレたちは後片付けをしてからの出発。このまま臨時拠点にするつもりなので、小屋とシールドスフィアはそのままにしておくが、野営道具類は綺麗にして回収しておく。湿度が高いので、放置しておくとカビが心配だ。


「じゃあ、出発しましょうか。アクア、今日もマッピングお願いね。」

「お任せください。」

「フィオナ、ソニア、トラップは引っ掛かっても良い。ちゃんと回収するし、フォローもする。慌てて泥沼化する方が深刻だからな。

『分かりましたわ。』


口調が同じで付き合いも長いからか、この二人も姉妹に感じることがあるな。オレが師事した影響もあるのか、魔力の質も近く、目で見てないと時々勘違いすることがある。

実の姉たちは、この状況をどう思っているのだろうか?ジュリアはあんまり気にしてなさそうだが。


そんな事や昼飯の事を考えながら進んでいると、トラップの存在に気が付く。

指摘しても良いのだが、2層に関しては口出ししないと事前に決めている。トラップ満載のダンジョンは、挑戦経験が少なかったからな。


「待って下さいませ。」


フィオナがそう言うと、箱だけを移動させ始める。

10歩分ほど移動したところで、上から激流が降り注いできた。流石にこれはオレたちでも足を取られて流されてしまいそうだが、浮いている箱には全く影響が無い。


「あの穴はこの為のものでしたか…」


ソニアも気付いていたようだが、後衛組はポカーンとしている。任せなくて良かったよ…


「ということは、このエリアは全てこういうトラップということですわね。」


フィオナはこれだけでなく、他も気付いているようで愉快そうに看破してみせた。


「私とソニアだけならこのまま走り抜けるのも良いですが、お姉様方もいらっしゃいますからね。」

「しっかりと潰していきましょう。」


普通なら濡れてる場所を避けつつ、安全地帯を目指すというこのエリアだが、穴を凍らせて無効化するという力業であっさり全員を突破させるフィオナ。ここにサクラが居たら、ダンジョンマスターを哀れんでいたに違いない。

途中、足を滑らしたアクアを抱き留めたら、妙な視線が集中した気がするが…


「なるほど。その方法が…」

「ダンジョン外でお願いしますね!?」


フィオナの呟きに、アクアが顔を赤くしてツッコミを入れた。





魔獣エリアで食材を補充した先は、再び穴だらけの区画となっていた。


「アクアは察してるだろうから黙っておこうな。」

「ああ、ここはそういう罠なんですね。」


独特の臭いに皆が顔をしかめる。

そして、離れた所でお湯が噴出したことに驚いていた。

しばらく待つと、今度は違う穴から吹き出る。そして、更に待つと違う穴から。最後に全ての穴から熱湯が吹き出した。


「臭いの原因はこのお湯ですか…」

「そうみたいね。穴の中で何か腐ってるのかしら?」


まじまじとお湯を観察するアリスだが、鑑定が通ったようで驚きの表情に変わる。


「おんせん?これだけで薬草に近い効果があるのは不思議ね。」

「そうだな。」

「ポーションの材料にすれば…」

「いやあ、毒と紙一重だからやめた方が良いと思うぞ。」

「えっ、毒なのこれ?」

「ここは大丈夫だが、強烈な蒸気も体内に取り込み過ぎるとな。」


温泉状態は一斉に吹き出した時だけのようなので、それ以外は入り込んだ海水が噴出しているのだろう。原理はよく分からんが。


「若干のズレがありますが、ほぼ一定のようですわね。」

「あそこは安全みたいですわ。」


一ヶ所だけ噴射の影響を受けない場所があり、そこでやり過ごすようだ。


「いっぺんには無理だな。前衛、後衛で別れるか?」

「そうですわね。それと、あそことあそこにボックスを配置しましょう。間に合わなくても火傷で済みますわ。」


ギョッとする後衛組。

見た目には気を使っている面々なので、落ちた方がマシだと思っていそうだ。


「まあ、リザレクションで治してやるから。」

『そういうことじゃ…』


声を揃え、ジト目を向けられる。


「当たらなければ良いのですわ。では、参りましょう。」


そう言うと、フィオナ、ソニア、ジゼルがあっという間に走り抜けてみせた。安全地帯を利用すらしなかったな。


「さ、参考にならないわ…」

「ジュリアとアクアはいけるだろ?」

『えっ!?』


そんな事もないようだ…


「まあ、無理なら良いが…」


ピラーを出して運搬準備に入るが、


「やる。姉として頑張らないと。」


決意した様子で一歩前に出るジュリア。

その瞬間、お湯が吹き出し、飛沫が掛かった。


「あっついっ!?けどぉっ!!」


ふくよかな体を揺らし、一気に安全地帯に到着した。


「ひぃぃ…ふぅぅ…よしっ…!」


息を整え、後半も同じように突破


「あ゛ぁっ~!!?」


出来なかった。

間に合わずに熱湯が尻に直撃し、フィオナの足元へと転がった。


「おおう…ちょっと噴射のタイミングが早かったですね…」

「だなぁ。意図的にも思える。」


フィオナに冷やされ、ソニアに癒されるジュリア。適役が居て助かるよ。


「アクアはいけるだろ?色々と鍛えてきた成果を見せろ。」

「分かりました…!」


描き欠けの地図をしまい、気合いを入れる。

もしもの時のための箱は、しっかり冷やしておいた。

熱湯の噴射に合わせ、駆け出す。フィオナ達ほどではないが動きは良い。これで弱気とうっかりが無ければ良い戦士なのだが…

ジュリアより余裕を持って安全地帯に入る。

さて、問題はこの後だが…


「っ!」


走らず、箱を使い一気に飛んで突き抜けた。

そう来たか。ダンジョンマスター涙目事案だがな。

やはり、早いタイミングで噴射が起きた。

仕組みは分かった、と言わんばかりにこちらを見てVサインをするアクア。


「さて、アリス。仕組みは分かったな?」

「えっ。えぇ!?」


アリスの手を握り、出発を促す。


「大丈夫。火傷する時は一緒だ。」

「いや、火傷自体遠慮したいんだけど…

わかったわよ!やるわよ!」


ソニアの苦笑いに刺激されたのか、気合いを入れてくれる。


「行くわよ!」

「おう。」


アリスに手を引かれ、オレも走る。

速くはない。だが、遅すぎないギリギリの速さ。

安全地帯に入るまでにお湯を浴びるがぬるま湯だ。火傷にはならない。


「ま、間に合ってない…」


肩で息をしながら愕然とする。


「手を離すか?両手をしっかり振った方が走れるぞ。」

「…ううん。このまま走りたい。」

「わかった。」


一周逃してから駆け抜けるようだ。

この間に何を考えたのだろうか。

箱を使うのか?やっぱり手を離すのか?それとも魔法を使うのか?

しかし、アリスにそんな考えはなかったようだ。


「アリス、私はヒガン一家のアリス。ヒガン第二夫人のアリス、紅黒縫士のアリス…

誰よりもこの人に相応しいと認められなくちゃいけないのよ…!」


独り言が駄々漏れであった。

横で手を握られたままそんなことを言われたら恥ずかしい。


「行きましょう。」


悩むのではなく、気合いを入れる為の時間だったようだ。こういう妙に不器用な所を見せられると放っておけない。

返事を待たずにアリスが駆け出す。さっきより動きも速い。だが、突破には遅すぎる…

ぬるま湯を被りながらも走るが、アリスが足を滑らした。

絶望に染まるアリスの顔。そんな顔をされたら何もせずにいられない。


【エア・ストライク】


アリスを弾き飛ばした所で、熱湯の奔流がオレに襲い掛かる。

視界がお湯に遮られる瞬間、青くなるアリスの表情に、オレも少し悲しくなった。





「いやあ、失敗失敗。」

「私の涙を返して欲しいわ…」


ぷんぷんと聞こえてきそうな顔で怒るアリス。

まあ、今更熱湯程度でどうこうなる体でもないので、こういう行動が取れたわけだが。

流石に滑るのまではどうしようもないので、出した箱に掴まり、その場で熱湯を浴びきってみせた。


「お兄様、お体は大丈夫ですか?」

「少しヒリヒリするくらいだ。大丈夫だよ。」


気遣うソニアを安心させ、座り込むアリスに手を差し伸べた。


「立てるか?」

「…うん。」

「良い気合いの入れ方だった。」

「き、きこえてたの!?」

「バッチリな。」

「うう…」


アリスとしては、踏んだり蹴ったりというところだろう。


「まあ、このトラップはオレが抱いて走るよ。」

「ごめんね…」

「適材適所だ。うちは長所短所がみんな極端だから気にするな。」

「うん…」


納得いかない様子のが二人いるな。


「私は短所があるとは思っていないのですが?」

「私もですわ。」


フィオナとソニアである。


「お前らは料理が炭になるだろうが。何でも強火にするのはやめろ。フィオナはそれを魔法で凍らせるのもやめろ。」

『んぐぐっ…』


反論の出来ない二人。

基本器用なのだが、焼き料理、煮込み料理にその才能が及ばないのは何故なのか。そんな所まで似なくて良いんだぞ…


「さて、落ち着いたなら次へ行こうか。2層目はまだ終わりじゃないぞ。」

『おー!』


戦闘を経てのトラップ部屋だったが、前衛組には良い休憩だっただろう。

少し照れ臭そうなアリスを立ち上がらせ、背中を軽く3度叩いてから次のエリアへと進むのであった。

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