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21話

部屋を一室借り、そこには念のためのリレーを設置させてもらう事にした。見た目はただの金属製の箱なので、これをどうこうしようとは思わないはずだ。ちょっとした気の迷いで、どうこう出来るものでもないが。

休憩はその為の時間程度で、設置が終わり次第オレたちは地下へと案内された。

先導役は例の女性。名を聞くと薮蛇になりそうな気配がするので、オレは黙ってついて行く事にした。

その間に、アリスが色々と聞いてくれる。

時期はよく分からないが、ここは先祖が当時の海の魔物から逃げ込んだ地だという事。何代もかけて建物を拡張し、今の広さと形になったという事。そして…


『我らの本当の棲家は地下にあるのですよ。』


地下は想像を越える光景が広がっていた。

技術的な部分は及ばないが、ルエーリヴに劣らぬ規模の都市が地下に存在していたのだ。

碁盤目状の街路にひしめく四角い石積の建物たち。人口も多く、とても活気もあった。

ネオンのように輝く魔力光。オレたちの目には少し暗いが、マーマンたちにはこれくらいで良いのだろう。


「凄いな…これは想像していなかった。」


広い空間が広がっているのはゲームと同じだ。だが、この空間を都市として活用しているとは思いもしなかった。


「食料はどうなっているの?都市が他にもあるのかしら?」

『戦士たちが外に出て取ってくるのです。我々の糧は魚ですので。』

「そう…」


効率が悪すぎる。

アリスはそう言いたいのだろうが、なんとか飲み込んだようだ。


『心配することはありません。我々の戦士達は強く、勇敢で、礼儀正しいのですから。』

「そうね。これだけの人を支えているんですもの。それは間違いないわ。」


胸を張る女性。だが、アリスの声色には、賞賛よりも哀れみの方が強かった。


「網か何か使っているのか?」

『まさか。大きすぎて網なんて使えません。ほら、あそこに解体所が見えますよ。』


工場かと思うほど巨大な建物は解体所だったようだ。


「ああ、そんな大きな魚を獲っているから戦士なのね。」

「なるほどな…」


どうやら、オレたちの考える漁業とは違うようで、大物相手の狩猟に近いのではないだろうか?

長い大階段を下り、街路へと到着する。


『この通りの先に、試練の場へ通じる神殿がございます。』


この安全エリアを都市化した際に、ダンジョンを試練の場、更に神殿として立ち入りを制限したという事か。


「地下の方が安全なようだが、陛下は上にいるんだな。」

『陛下も偉大な戦士です。戦士を束ねる為、砦に居を構えておられるのですよ。』


フェルナンドさんと似たようなものか。

その後も町の名物、流行りの服装、歌や躍りなどの話をしている内に神殿に到着した。


『これは補佐官殿。今日はどんなご用件で?』


出迎えたのは大きな鱗やら貝殻やらを着飾ったマーマン。声から察するに女性のようだが、顔や体型が分からないくらい色々と身に付けていた。

糸は何を使っているのだろうか?


『こちらの方々を試練の場へと案内に参りました。ウェンドルガ様の許可は得ております。』

『あなたの独断じゃないでしょうね?前にも一度似たようなことがあったでしょう?』

『こ、今回はちゃんと勅書もありますから!ほら!』


そう言って、大きく平たい貝殻を見せた。

なるほど。紙ではなく、貝殻に書くのか。

余程仲が良い間柄なのか、妙に子供っぽくなる白マーマンさん。なんか可愛いところがあるな。


『分かりましたよ。…ごほん。

勇敢なる戦士達よ、偉大なる始祖様方の御加護があらんことを。無事の帰還をお待ちしております。』


短い杖を片手に、目を閉じながら腕を上げたり下ろしたり円を描いたりして、オレたちの帰還を願ってくれた。


「ありがとう。何か気を付ける事はあるか?」

『足を滑らせないようにしてください。落ちたら入口付近まで水の中ですからね。』

「気を付けるよ。」


バブルが使えるからなんとかなるが、注意はしておこう。箱を多めにした方が良さそうだ。

大きな扉が開かれ、二人が両脇に立つ。


『勇気ある者達よ、どうかご無事で…』


案内してくれた女性が不安げな表情でそう言った。なんとも背筋が冷たくなるものを方々から感じるが…なぜだろうか?


「ここまで案内ありがとう。助かったよ。」


そう礼をすると、女性二人は満面の笑みでペコリと頭を下げたのだった。





「あれは落ちたなぁ…」

「でも、マーマンだよ?おとーちゃんのこと、そんな目でみないでしょー?」


階段を降り、ダンジョンの1階に到着したところでバニラと梓がそんな事を言っていた。


「力さえあれば、というパターンかもしれないぞ。やたら戦士を尊ぶ感じだったし。」

「あー、それなら納得かなー」


そんな会話をする二人がオレの肩に手を乗せる。


「くれぐれも気を付けるように。」

「マーマンと旅暮らしは大変だからねー?」

「そんな関係にはならんだろう…」


タメ息を吐くしかない。

いったいオレをなんだと思っているのか…


「組分けは上と同じで良いな。ルートも2つだし、合流する度に情報交換をしよう。」

「そうね。そうしましょう。

後は上で聞いた通り、足元には注意が必要そうね。」

「それなんだが、わたしとアリスはボックスに乗った方が良いと思う。少なくとも、落ちることは無いからな。」


そう言って、亜空間収納から革製の座布団のようなものを取り出して、箱に固定する。準備が良いな。


「そうね。バブルは使えるけど、落ちて戻されるのは困るわ。」


アリスも同じようにする。二人とも準備が良い。

箱は引っかける場所が多いので、こういう事も出来るようだ。


「敵は物理打撃が通りにくいのが多い。柊と梓とソニアは、フォースインパクトにした方が良いぞ。斬撃はなるべく関節を狙え。」

「靴は絶縁対策してあるけど、それ以外は違うから、電気は気を付けてねー」


一通りの注意事項が終わったところで、いよいよ出発である。


「マッピング役、入り組んでて大変だろうが大事な仕事だ。褒美も弾むぞ。」

「本当ですか!?」

「お、おう…」


目をキラキラさせるリリ。


「おとーちゃん…またこのパターン?」

「学習をしろ。」

「いえ、そのままでいてくださいませ。」

「フィオナよ、姉妹で嫁いだらフェルナンドさんも困るだろう?」

「…クエスト、スタートだ。」

『おー!』


始まる前からトラップに掛かった気分で探索開始である…





第1層の地形は上の都市層と大差がなく、出てくる魔物も大したことがない。

出てくるのはマーマンをより魚に近い見た目にしたサハギン・ソルジャーを中心に、海洋系の魔物ばかりである。

アクア曰く、巨大な人食いイソギンチャクや蛇、亀、蟹。夕飯が豪勢になりそうな布陣だ。


「あれはエビ…じゃなくてシャコでしょうか。」

「食べられるから仕留めるか。」

「あ、シャコならパンチに気を付けてくださいね。」

「分かってる。苦い記憶があるからな…」


新鮮なエビだー!と突っ込んだら、ワンパンでパーティー崩壊という経験は忘れられない。あれは酷い出来事だった…


「どうしますの?」

「瞬間冷凍だ。」


【アイスブラスト】


完全に氷付けにされた巨大シャコ。分類上は魔獣なのだが、食用に出来るのでよく獲りに来たものだ。味噌や醤油が欲しくなる。

しっかりと締めて、凍った状態で巨大シャコは亜空間収納送りとなった。


『遥香が吹っ飛んで落ちた!なんだあのエビ!?』


向こうは油断したようである…


「衝撃波がえげつないからな。仕留めるなら遠距離で凍らせると良い。こっちで1匹確保したから無理しなくて良いぞ。」

『先に注意してよ…』

「バニラ様もシャコは知らなかったのですね…」

『あー、音速パンチってこいつなのか…』

「生きてるなら良い。次は気を付けろよ。」

『…良い刺激になった。もう油断しないから。』


イグドラシルの頃の研ぎ澄まされた遥香が戻ってきたなら何よりだ。

訓練をサボっていた訳ではないだろうが、最近はその時のような鋭さが動きに無いからな。


「1層、2層はウォーターパークなんて言われてたからな。ここで慣らしておけ。」

『了解。』


頼もしい娘たちは、放っておいても大丈夫だろう。


「こっちの気合いは十分か?」

「ハルカが吹っ飛ばされた、という事実だけで気が引き締まるわね…」


微妙な表情で、アクア以外がオレを見ていた。アクアは周囲の光景の方が気になるようだ。


「緊張するにはまだ早いぞ。どうせ落ちてもすぐ戻って来れるし、楽しんでいこう。」

「そういう事でしたら…」


と、皆を納得させた所で探索を再開する。

魔獣、と言っても獣寄りのばかりなので良い準備段階だ。余裕は十分あるが、食料に出来るものも多く確保しておきたい。

こうして、海底ダンジョン、海淵の園の探索が始まった。





「ウォーターパークとはよく言ったものね。とても楽しい階層だったわ!」

「そうですわね。どこのダンジョンもこうなら良いのに。」


ニコニコ顔なうちの組の女性陣。ガイドとしては落ちること含め、存分に楽しんでいただきなによりである。


「…どういうことなの?」


逆に疲れきっている遥香たち。

梓には少々荷が重かったようである…


「ごめんね…私にガイドは務まらなかったよ…」


跳ねっ返りとうっかりのパーティーだからな…

オレにも上手くガイド出来る気がしない。


「私たちは落ちるものとして挑んでいたからね。厳しいところは、ボックスやピラーに乗って越えたし。」

「うぐぐ…」


ジュリアの言葉に悔しそうな表情の遥香。

まあ、言いたいことも、気持ちもわかる。


「バブルがある以上、落ちても死なない。だったら、楽しまなきゃ損だ。」

「だから言っただろう?過剰なプライドは身も心も縛るだけだって…」


遥香にしっかり付き合ったのか、バニラもヘトヘトのようだ。


「全部越えないとダメな気がして…」

「もうイソギンチャクに絡まれるのは嫌だ…」

「私もシャコにボールにされるのはゴメンかなー…」


遥香だけでなく、柊も梓も本当に散々だったようだな…


「まあ、一通りのギミックは身に染み付いただろ?だったら、2層以降は大丈夫だよ。」

「ちょっと休憩させてくれ…」

「ああ。半刻くらい休め。今日中に2層の中央まで行くぞ。」

『はーい…』


明暗分かれた1層探索を終え、休憩を挟んで第2層に向かう。


「遥香、お前もゲーマー気質だよな。」

「それは納得いかない…」


休憩中、オレに言われて不貞腐れる四女であった。

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