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20話

探索メンバーはオレ、四姉妹、アリス、ジュリア、ソニア、リリ、ジゼル、アクア。アクアはどうしても見ておきたいという事で参加となった。ユキが残るのは意外であるが、海は勝手が分からないという事らしい。

ただ、まとまって行動するには余りにも人数が多いので、パーティーを分けることになる。

第1パーティーはオレ、アリス、ジュリア、フィオナ、ソニア、ジゼル、アクア。

第2パーティーは娘4人とリリとなった。

人数はこちらが多いが、戦力的にはあちらが上だろうか。

装備は金属パーツを減らし、水中を考慮した浸水しにくい服に切り替えてある。ブーツも気休めだが少し深めになっていた。


「後衛が多めだな…やはり、オレが前に出るしかないか。」

「ピラーがあるんだし、盾や妨害に使えないかしら?」

「お兄様、私が前に出ますわ。」


ソニアを前に出して、ピラーを妨害に使うか…


「そうしよう。戦闘中は地形に気を付けて魔法を使うようにな。」


感電、凍結、水蒸気爆発に注意するよう伝え、装備の最終チェックに移った。


温度は入ってみないと分からないが、魔法や魔導具でもなんとかなるだろう。

甲板に出るとメイプルが人魚姫の歌を歌っており、既に第2パーティーは出発したようだ。

バニラと遥香の操作するピラーに乗って渦潮に突っ込んだそうで、見ていたカトリーナはソワソワしている。


『底に到着した。聞こえたなら返事をしてくれ。』

「聞こえている。バブルは必要か?」


オレが返事をすると、破裂音が聞こえる。


『大丈夫だ。ちゃんと呼吸も出来てるよ。』

『これ、どうやって外に出るの?』

「とりあえずは奥へ行くしかない。行けば後は流れだな。」

『ふーん?』


返事をしながらキョロキョロしている遥香が思い浮かぶ。

きっと、新鮮な光景に見えているに違いない。


「ボックスとピラーの準備できたわよ。」

「分かった。これから突入するから先に行って良いぞ。」

『そうさせてもらうよ。遥香を抑えられそうにない。』

『そ、そんな事ないから。あ、リレー代わりに私のボックス置いておこうか?』

「いや、大丈夫だ。リレーは置かずに行く予定だからな。」

『分かった。』


第2パーティーとのやり取りを終え、見送りに来たカトリーナとエディさんを見る。


「行ってらっしゃいませ、旦那様。皆様も。」

「土産話を待っているぞ!」


1週間、下手したら2週間は待つハメになるのだが、いつも通りに送り出してくれる。

ただ攻略するだけなら2時間で良いが、未踏破である以上、多くの情報を持ち帰りたいからな。


「留守は任せた。」

「子供達をよろしくね。」


【バブル】


全員がしっかり連結したピラーと箱に乗り、掴まったのを確認してからフィオナがバブルを発動。


「行くぞ。周囲に気を取られ過ぎるなよ。」

『おー!』


皆の掛け声を合図に、ピラーと箱を渦潮へと突入させた。





小舟を木っ端微塵にする渦潮は健在で、油断するとバブルが維持できないくらいだそうだ。

荒れ狂う渦の中、ひたすら潜り続けると、暗い海溝へと導かれる。


【ライト】


ソニアが明かりを生むと、周囲の殺風景が鮮明になった。

荒れ狂う渦潮は急流へと変わり、オレたちを海底へと引き込み続ける。

魔力は捉えているが、生命は…あるな。過酷な環境にも関わらず、生き物の鼓動を感じられた。

半刻くらい潜り続けただろうか。ゲームだとムービーが入って一瞬で到着なので、現実であるという実感を嫌でも味わう事になっている。

水圧の変化はあるが、中は魔法で空気が循環されているので問題はない。流石はバニラの魔法である。


「底が見えた。」


全員が息を飲むのを感じる。

こちらはアクア以外は現地組なので、想像できない光景だろう。


「あれが海中ダンジョン、海淵(かいえん)(その)の入口だ。」


ゲーム中は固定のダンジョンナンバーしか無かったので、ユーザーが勝手に付けた名称である。


「お城?」


ゆっくり近付くと、徐々に全貌が明らかになり、アリスがオレに訪ねてきた。


「まあ、そうだな。」

「竜宮城ですよねこれ。」


と、アクア。知っていればそういう感想になるよな。

しっかりと組まれた石垣と城壁。広大な建物は、石積だが平屋建ての館ように見えている。


「あれはバニラたちですわね。」


フィオナが表門付近を歩く一団を指す。


「バニラ、見えているな?オレたちは逆から調べるぞ。」

『すまん。中からはよく見えないが了解した。光は確認したぞ。』

「光の屈折の問題でしょうか。」

「かもしれない。大きな海中動物園ってところかもな。」


迂回し、全貌を確認してから逆側へと回る。

同じような門があり、近付くとゆっくりと開いてオレたちを勢いよく吸い込んだ。

吸い込んだ海水は地面を流れ、どこかから排水されたようである。


「降りても大丈夫だな。」


久し振りの陸地、と言っても海底だが、妙に安堵感があった。


「亀に乗ってやって来たようなものですし、なんだか浦島太郎みたいですね。」

「戻ったら1000年経っていた、というのは勘弁してもらいたいな。」


こういう話題が出せるので、アクアがいて大助かりである。


「子供の絵本にあったけど、実在していたからリアルだったのね…」

『違います。』

「えっ。えぇ?」


地元のおとぎ話だと説明し、勘違いを解いておいた。訂正は早い方がいいからな。


「だが、鬼はディモス、天狗はエルフ、河童はドワーフ、となると、おとぎ話が実話だというのも否定できなくなってきたな…」

「案外、鬼ヶ島はこの大陸かもしれませんね。

持ち帰った金銀財宝は、この地の物という線もありそうですし。」

「確かにな…」


ゲーム初期のディモス領の荒廃っぷりを知っていると、鬼ヶ島だったと言われても否定できない。


「まあ、今は攻略に専念しよう。考察は戻ってからだ。調査をするからアクアはここを描くなら今のうちにな。」


待機組への報告と調査を済ませている間に、アクアも下絵は済ませたようだ。


「何か気付いたことはあるか?」

「誰が作ったのか気になりますね。どう考えても、石垣の組み方も館も自然発生とは思えませんから。それに…」


そう言って、辺りをぐるっと見回す。


「海水の流れる場所に、苔や海藻が全く生えていません。」

「ああ、確かにそうだな。」

『ねえ、これ戦って良いの?あまりノリ気じゃないみたいだけど…』


どうやらバニラたちが何かと遭遇したようだ。


「バニラと梓に任せるぞ。」

『じゃあ、友好を示そうかー。別に侵略や虐殺に来た訳じゃないからねー』


という梓の発言で、オレたちの方針は決定した。


「そっちは任せる。じゃあ、落ち着いたら合流しよう。」

『わかったー』


通話器は有効状態にしておく。この深度でも、船と繋がるならリレーは不要だろう。


「私の同行を許可してくれたのは意外でしたが、そういうことだったのですね。」

「さて、どうだろうな。オクトデーモンを見せたいだけかも知れないぞ?」


話している間にアクアも準備を終えたようで、装備も万全な状態になっていた。


「先頭はフィオナ、ソニア、中衛にオレ、ジゼル、後衛はアリス、ジュリア、アクアだ。」


魔導師寄りの装備のアクア。色々とやって来たが、バッファ役に落ち着いたようだ。


【絵画召喚・八咫烏】


三本足の大きめのカラスを召喚するアクア。名称はイメージ固定化の為なので、実物という訳ではない。

意外と有能なスキルで、箱同様の運用ができる。ここに至るまで色々とやって来たが、魔法適正の高いアクアには最適なスキルとポジションだ。


「さあ、出発だ。武器は抜かないで良いからな。」


バニラたちの方針に従い、盾だけ構えたままオレたちは調査を開始した。





『地上からの来訪者よ。この地に何のようだ。』


現れたのは魚人。いわゆる、マーマンというヤツで、身形は海産物で飾られている。だいぶ人寄りのマーマンで、魚だがビーストと呼んで良いだろう。

体の多くは鱗で覆われ、エラもあるな。


「フィオナ、何て言ったか分かるか?」

「いいえ…発音が異質すぎて聞き取れません…」

「旦那様、私もよく分からないのですが…」


フィオナどころか召喚組のアクアも分からないという事は、【認識拡張】が仕事をしてくれているという事だろう。有能なスキルでありがたい。


「話し合いはオレがしよう。」


フィオナ達より一歩前に出て、話し合う意思を示す。


「エルディー魔法国から来た、冒険者のヒガンだ。ここのダンジョンの攻略にやって来た。」

『帰れ。地上の者が挑んだ所で、命を粗末にするだけだ。』


即答である。

帰れ、と言われても、そこを突破しないと帰るに帰れないのだが。


「ここへ望んで来るのにも相応の準備が必要なはずだが、それでも帰れと言うのか?」

『ただの偶然だ。地上の者が来れるはず』

『通しなさい。』


女性のマーマンがやって来た。色の白い成熟した肢体を惜しみ無く見せつけており、なかなか目に毒だ。

アリスとフィオナとアクアの視線が気になる。


『しかし…』

『陛下は一部始終を把握しております。付いてきなさい 。』


話が早くて助かるな。


「ついてこいと言っている。」

「あなたを見る視線が気になる。」

「恵まれた体型が気になりますわ。」

「旦那様がまたたらし込むのか気になります。」


優秀なスキルが拾ってしまうプレッシャーに耐えながら、オレたちは奥へと連れていかれるのであった。


『チッ。娼婦が調子に乗りやがって…』


優秀なスキルは聞き捨てならない一言も拾ってしまった。

これはまた、冒険どころではない気がしてきたぞ…





『陸より参られた戦士達よ。聖域の試練に挑みたいとは真か?』


バニラ達と合流したのは謁見の間のような部屋で、奥の中央には巨大な魚人が座していた。名はウェンドルガと言うそうだ。

見た目はまだ魚だが、角が生えていたりとかなり東洋的な龍に近い。他の屈強な戦士もそうなので、マーマンは成長すると龍寄りの見た目になるのかもしれないな。

エルディーの礼儀に乗っ取り、跪き、右手を左胸に当ての謁見だ。アクアの八咫烏も含め、全員がそれをしている。器用なカラスだ。


「はい。そして、最深部の光景を絵に残したいと思っております。」

『ふむ…絵か…』


魚の王は興味深そうに顎に手を当てる。


「こちらにイグドラシルの頂上、虹の橋から見た光景の絵がございます。差し上げる事は叶いませんが、どうぞご覧下さい。」


亜空間収納からアクアの絵を出し、見せる。


『そ、そうか。いや、言いたいことは他にあるが、どれ…』


お付きの人に渡すと、『おお…』という声が漏れる。

陛下が受け取ると、また『おお…』という声が漏れる。


『かつて感じた風を思い起こす、大変素晴らしい絵だ。これはいったいどなたが…』

「一番後ろのアクアでございます。その技術は、一家の至宝の一つと言っても過言ではございません。」

『素晴らしい腕前。さぞ、名のある絵描きなのであろう。完成した暁には、是非ともワシにも見せてもらいたい。』

「と言っている。」

「きょ、きょうしゅくでございます!」


アクアにはオレから伝えると、舞い上がって発音が危うくなっていた。

種族を越えたのは歌だけではないようだな。


『虹の橋か。神話の物語だと思っていたが、汝らはそこまで行ってきたのだな?』

「はい。踏破し、オーディンと謁見を果たしております。」

『ならば、引き留める理由はあるまい。戦士達よ、試練に挑むことを許可しよう。

高い技術、失うには忍びない。必ず生きて帰ってくるのだぞ。』

「我ら一同の身を案じていただける事は、感謝の極み。相応の成果で報いることにいたします。

ただ、一つ訂正させていただきます。」

『なんだ?』

「我々は戦士でもありますが、それ以前に冒険者であります。冒険者集団のヒガン一家、そう記憶していただければ幸いです。」

『ハハハッ!これは失礼した。冒険者のヒガンとその仲間よ。見事、海淵の試練を乗り越えてみせるが良い。その時は、褒美を一つ与えるぞ!』

「ありがたき幸せにございます。」


挑戦的な様子の陛下。陸の者に越えられるなら越えてみせろという雰囲気がある。

久し振りの新天地に、皆がうずうずしているのを感じた。

踏破を証明して、ここにいる全員をあっと言わせてやろうじゃないか。


去り際にここへ先導した白い女性マーマンと目が合うと、ニッコリと微笑んできたので軽く会釈だけしておいた。

色だけでなく、雰囲気も他のマーマンとも違い、何かただならぬものを感じる。


「鼻の下が伸びてる。」

「えっ!?」


バニラの一言で、思わず慌てた声が出てしまう。

違う、違うんだ。そんなつもりで見ていたわけじゃないんだ…



余計な一言になりそうな気がして反論もできず、痛い視線を背に一身に受けながら白いマーマンについて行くのであった…

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