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12話

通された部屋は、2階で最も広く上質な部屋という大部屋だった。

全部で10階くらいありそうだが、部屋としては4階まで。3階、4階の部屋の広さでは、今の人数を収容できないようだ。

全員だったら、何部屋取ることになったのだろうか…


オレたち、というか、オレだけ正装に着替えたところで、昼食前の作戦会議を始める。


「そっちは、バニラとソニアとフィオナに任せてしまって良いと思っているんだが。」

「そうね。私もそう思うわ。」


意見の合うオレとアリス。カトリーナと梓、リリも頷いている。


『船頭が多すぎるな。後でじゃんけんで決めよう。』

『分かりましたわ。』


本人たちがそれで良いなら構わないが、じゃんけんで決めるのか…


「遥香はフィオナと行動してくれ。」

『役割近いよ?』

「ボスを相手にするんじゃないんだ。調査時の役割は全然違う。それを学ぶ機会だぞ。」

『わかった…』


まあ、流石のフィオナも一人じゃ手に余るだろうからな。


「ソニアも一緒に頼む。メイドは一人で良いからな。」

『じゃあ、あたしが行きます。絵も描きたいので。』

『お願いしますわ。』

「あー、待って。」


止めるアリス。何かまずかっただろうか?


「不審に思われる可能性があるから、場所と回数は絞って。ただでさえ、私たちは目立っちゃってるから…」

『そうですね…』

『アクア、一度描いた絵を、後からまたすぐに描き直せてましたわよね?』

『2時間以内なら描き直せますよ。』

『何枚でも?』

『流石に1枚だけですよ。印象を深く刻み込まないといけませんので…』


実際にそれをやっているのを見たが、1時間ほど経っているのに見ながら描いたような緻密さには度肝を抜かされたものだ。


『分かりました。バニラ、私たちは大通りから見晴らしの良い場所に向かって調べますわ。調べたことについて、通話器からまとめてもらいたいのですが…』

『そうだな。3つに分けて、1つはまとめ役にしよう。

もう一組はわたしと柊、二人で裏通りだ。』

「あなたたちなら大丈夫ね。任せるわよ。」

『では、私が情報のまとめ役をやりましょう。ここでライブは出来そうにありませんからね。』

「いや、ライブはやろう。駐車場で、音量は控え目にな。娯楽もないだろうし、良い刺激になる。」


騒音というレベルじゃないなら、メイプルの文化爆弾(ライブ)もとやかく言われないと思いたい。少額の罰金で済むならやってやれば良いのだ。


「サンドラ、アンナ、情報のまとめは出来るな?」

『出来ます。ソニア様の元で長く働いておりますので。』

『では、こちらのリーダーはソニアかフィオナに任せる。わたしたちは定時連絡しか出来そうにないからな。』

『…せーのっ!はっ!やっ!はぁっ!』

『私がこちらのリーダーを勤めさせていただきます。』


独特な掛け声の結果、ソニアに決まったようだ。


「頼むわよソニア。」


デレデレ笑顔の姉のシスコンぶりは変わらず健在で、妹を全肯定しそうな勢いである。

いつも通りトントン拍子で決まり、早速行動に移るのであった。





ひどいちゅうしょくであった…

とにかく、味がおかしい。しょっぱすぎたり、苦味があったり、えぐみがあったりと、とにかく酷い。

どうもオレだけだったようで、他は梓を含めてこんなもんだろうという顔であった。

皆の気を害するのもあれなので、黙って食べたが。

ただ、アリスが凄い顔でオレを見ていたな。怒っているような、驚愕しているようなそんな顔だった。


「美味しかった?」

「いや…」


戻り際、アリスが側に来て小声で尋ねる。

料理が苦手なソニアとフィオナの作った料理の方が、成立してるだけ万倍マシである。さっきのは料理の味ではない。


「体はなんともない?」

「別になんともないが…」

「そう。そうよね…」


ホッとした様子で何か納得する。


「何でもないなら良いわ。何か口直しいる?」

「高級志向なだけあって量が少ないからなぁ。ミニ串とイグドラシル水で口直しするよ。」

「うん。それで良いと思うわ。」


活躍の場の多い便利なつまみである。

なんだかんだで味付けの増えているミニ串は、遥香の素晴らしい発明品だ。ミニ串は皆が万が一に備え量産しており、イグドラシルの実を漬けて作ったイグドラシル水は飲めるヤツはけっこうな量を蓄えている。

部屋に戻ってくると暇になってしまい、ベッドで大の字になった。怖くて訓練も出来ないしな。


「どうしたものか。」

「良い機会だし、魔法講座とかしない?」


魔法講座か…


「しても良いが、理論だけだと片手落ちなんだよな。」

「そうなんだけど、改めてあなたの考えている魔法をちゃんと聞いておきたいのよ。

この子たちの為にも。」


オレの考えている魔法か…

アリスがアレックスの頭を撫で、ユキがビクターを見て微笑んだ。


「まず、子供たちに分かりやすいように結論から言おう。

魔法は魔力を糧に、様々な現象へと変換させた物であるという事だ。魔法には式の理解も必要だが、式はバニラ風に言えば記憶にインストールするもので、使うだけならあまり気にする必要はないな。」


その後、魔法の強度とは魔力の量と精密さであること、オレは何よりも制御力を重視してきたという事を例を交えて説明した。

恐らく、半分も理解は出来ていないだろうが今はそれで良い。戦えない今は、バニラの魔導具が動かせれば十分なのだから。


「ひたすら制御訓練を繰り返していた理由が分かったわ。あなたにとって、それが全てに影響しているのね。」

「一応、瞑想はイメージトレーニングも兼ねている。魔法は強いだけでも、確実なだけでも、派手なだけでもダメだからな。

正しい強さ、正しい規模を導く必要もある。確実だからって、ゴブリン相手とドラゴン相手で、同じ魔法を同じように使うのが正しいはずがないからな。」

「そうよね…」


説明に納得してくれるアリス。子供達も理解してくれただろうか?


「魔法の次は魔力だ。この二つは密接な関係だから合わせて説明する。見れるヤツは魔力の動きを見てもらいたい。」


手の平で魔力弾をゆっくりと作り、ゆっくりと霧散させていく。

マナから魔力へ、魔力からマナへという実演だ。


「今のは体内の魔力を使わずにマナから魔力へ変換した。ほぼ全ての生物の体内で大なり小なり行われているようだ。

体内に取り込まれたマナは魔力に転換し、体から無意識に発散された魔力はマナへと返還される。

これは生物に限らず、植物や川も行う自然の営みのようだ。」


【認識拡張】があるからこそ見える現象だろう。【魔力感知】だけではマナへ返還されるところまでは見えない。

高位のスキル無しでは観測できない以上、この現象を公言しても今はペテン師や異端者呼ばわりされてしまうだけだ。


「例外はかつてのココアや一部の不能者くらいよね。ヒルデとショコラにも魔力を感じるし。」

「あれは素体の機能だな。魔力生成炉というのを備えているようだ。だからヒルデもココアも広い意味で不能者と言える。」


魂を納める為の器とも言える魔導人形。そのヒルデが1000年どころじゃないくらい生き延びているので、あれは不死の器と言えるだろう。ただ、状態を維持する為に、誰かに整備してもらう必要はあるが…


「正直、不能者という言葉は気に入らないが他に言葉がないからな…」


散々、オレも浴びせられた言葉なのであまり良い印象は無いが、こういう時はどうしても使わざるを得ない。


「マナを取り込む…瞑想はそれを加速する一環なのでしょうか?」


悠里が手を挙げて質問してくる。うむ、授業みたいで良いな。


「良い質問だ。それもあるが、それだけじゃない。取り込むのを早め、転換を効率的に行い、魔力を洗練させる。集中力も高まるぞ。」


瞑想の利点を挙げて布教に努めるが、ぼんやりでも子供たちは分かってくれただろうか?


「あと、一番気になってるんだけど…」


子供からではなく、アリスから質問が来た。


「魔力とかマナとかどの程度…ううん。どう見えているの?」


どう見えているか、か…


「一人一人に見せていこう。説明しても伝わらない。アリス、なるべく精密なライティングを頼む。」


一番近くに居たカトリーナから順番に、この前ジュリアにやった時と同じように見えているものを見せていく。

ビクターがはしゃぐのに対し、アレックスはなんとも言えない微妙な反応だった。もしかしたら、同程度以上に見えている可能性がある。

アリスには梓のライティングを見せた。


「数値、色、大きさや揺らぎに…混乱すること無いの?」

「場合によっては風の流れや温度、湿度まで増える。」

「おとーちゃんはどんどんサポーターに寄っていくねー」


それくらいが、この一家ではちょうど良いからな。


「優秀なアタッカー、タンクが他に揃っているし、もう引っ張る役は譲っても良いかと思ってるよ。

組分けや方針会議も、毎度トントン拍子で口を挟めない。」

「そうね。会議については私も思ってる。」

「みなさん、私よりちゃんと考えていらっしゃいますから、口の出しようがありませんよ。」

「提案もすんなり受け入れてくださいやすしね。あたしらの娘と呼ぶには立派すぎやすよ。」

「母が私より年下だった件。」

「うぐっ…」


梓の強烈な一撃がユキの心にクリティカル。

ビクターの前なので、あまり恥ずかしい反論も出来ないのだろう。ユキにしては珍しく黙った。


「まあ、ユキちゃんがおとーちゃんの事を大事に思っているのは、やって来たときから知ってたからね。いつか子供作っちゃうんだろうなぁとは思ってたよー」

「恐れ入りやす…」

「歳を誤魔化してたのは良くないけど、それ以外に嘘はなかったからね。だから、ユキちゃんもおかーちゃんだし、ビクターも可愛い弟だよ。」


母子揃って照れる。

二人とも飄々とした性格だが、褒められた時のこういう反応は揃って可愛いな。


「さて、他に質問はあるか?特に、アレックスとビクター。」


子供たちを見て尋ねる。

少し考えてアレックスが挙手した。


「父上はどの程度修練を重ねたのですか?

はじめから優れた魔導師だったのですか?」

「最初はただの剣士だった。魔法も手の届かない環境で、縁もなかったよ。

やっと手に入れられた物も、さっぱり役に立たない上に大失敗してな。制御を重視するのも、その経験があってこそだ。」


練習で上手くいっても、肝心な時にスカる。周りにも迷惑を掛けた苦い思い出だ。


「その辺りはバニラの方が詳しい。オレたちの使っていた魔法の変遷は、きっと誰よりも詳しいからな。」

「ほぼ製造元だもんねー」


当初は群雄割拠と言っても良いくらい乱立した魔法生産チームだが、魔法の世代を重ねるごとに競争相手は減っていき、最終的に大手は『アンティマジックの所』だけとなった。ただ、内部は分裂、分断状態だったみたいだが。


「その失敗が本当に悔しくてな。どうすれば制御が上手くなるのか、練習に練習を重ねたんだよ。」

「その結果が制御器官が生えてる、制御力オバケって呼ばれる規格外を生んだんだねー」

「どう呼ばれてもあまり嬉しくないな…」

「褒め言葉なのにあだーっ!?」


米粒くらいの魔力弾を額に当ててやる。


「お、おとーちゃんのツッコミは小粒だけど痛いね…」

「あんまり褒められてる気がしないんだよ。鍛冶場の大妖怪。」

「そう言われるとそうかも…」


鍛冶場の大妖怪が納得してくれる。


「ヨウカイ…?」

「魔物とゴーストの中間みたいなものか?」

「そうだねー」


現地組は分からないようなので、説明をしておく。


「あなたたちの地元は複雑ね…」

「アクアに妖怪の絵をいくつか描いてもらった事あったねー。鬼とか、天狗とか、河童とか。」

「外の大陸にはいるかもしれないな。」

「ディモスが鬼で、エルフが天狗だと思うんだよねー」

「ドワーフは河童か?」

「あぁ…否定できないかもー…」

「オレたちの世界に召喚された可能性も

あるのか…」


とんでもない可能性に気付いてしまったが、まあ可能性の話だからな。

古代のロマンと思えば、ありそうな話ではある。


「ビクターは良いか?」

「父上は結局のところ、魔導師と魔法剣士のどっちなんです?」

「厳しい質問だな。オレ自身はどっちでも良いと思っているんだが…」

「そうよね。あんまり気にしている様子は無いわよね。でも、剣にこだわる理由は何かしら?棍や槌でも、むしろそっちが良いと思うんだけど。」


もっともである。

魔導師寄りであるならば、ソニアのように棍を、梓のように槌を使うべきなのだ。魔法の効率はそっちが良いからな。

最近は杖を亜空間収納に忍ばせており、使うこともあるが。


「梓は分かっていると思うが、やっぱり剣が、特に片手剣が強いんだよ。武器種として非常に優秀なんだ。」

「おとーちゃんの今の片刃の剣がまさにそうなんだけど、突き、斬り、叩きが出来る便利な武器なんだよねー。槍でも出来るけど、長い分だけ扱うのが難しいから…」

「それもあるし、最強とされる武器が片手剣だと睨んでいる。」

「そうだねー。あれも魔法剣士の為の剣だからねー」


複雑な笑みを浮かべる梓。

ユーザーメイドではなく、NPC製作品。ドワーフの聖域にあるとされる逸品だ。


「ただまあ、手に入れられそうにないからな。」

「どうして?」

「ドワーフの聖域に納められているからだよ。」

「ああ、そういう事…」


様々な装備職人の人生の証を納める展示場なだけあり、それを奪うことは不可能。


「製法が分かれば再現できるから、それを探ることになるのかなー?」

「苦労を掛けるな。」

「私の為にありがとうねー」

「もう、そういう事になってるのね…」


オレと梓の強引な進め方に苦笑いするアリス。

あそこはダンジョンと言うより観光地だろうしな。何事もなければ…だが。

北の果てを見てからしばらくの北方滞在、それから一度東方へ戻って、船を手に入れてからの海底ダンジョンという予定を立てている。

更に一家の戦力や技術を磨いてからのドワーフ領。今から楽しみだ。


「あと、一つ質問なのですが、遥香姉上と父上はどちらが強いのですか?」


アレックスから痛い質問が飛んできた。


「条件次第でオレの方が強いかな。」

「条件とは?」

「何を使っても良いという条件だな。それならまだ負けてられない。」

「大人気ない父上ね?」

「そこまでしないと勝てないよ。オレはあいつほど体は器用じゃないからな。」


カトリーナを見て育ってきただけある柔軟性、ユキに負けない反応速度、アリスを越える魔力と制御力。母達の良い所を見事に吸収してくれたからな。それで性格がもう少し…と思うが、あの年頃はしかたないと割り切ろう。


「魔法は負けてないって事ね?」

「バニラ、リリより上手くならない内はな。」

「気付いていたけど傷付くわね…」


微妙な表情のアリス。自分の名前が無いのは、魔導師として思う所があるのだろう。


「裁縫士としても、製薬技術も遥香は足元に及ばないじゃないか。」

「それはそうなんだけど…」

「料理もアリスとカトリーナの方が上だしな。」


照れるアリスと、流れ弾に不意打ちを喰らったような表情のカトリーナ。


「はい!解散!これ以上は見てられないよー」


惚気の空気を感じ取った梓によって、会議は強制解散させられたのであった。

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