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7話

家で集めた情報をまとめているが、海に関しても本当か分からない話が多かった。

巨大な魚に飲み込まれ、腹の中で一晩過ごしたという話。打ち上げられた魚を助けたら魔法で海底の城へ連れて行かれ歓待を受けたという話。若い男がオクトデーモンと恋に落ちたという話。


「オクトデーモンって8本足のあれだよなぁ…」


タコ娘などという可愛いものではなく、海底の岩を引き抜いて武器にするわ、回って渦潮を起こすわ、 その状態で殴ってくるわで厄介だった覚えがある。ただ、陸に上がれば焼き放題、斬り放題で、味が良いというテキストがあった覚えがある。

そんなものとどう恋に落ちるのか。人化するのか?


「オクト…?」

「あー、ピンと来ないか。説明しにくいからアクアにタコの絵を描いて貰ってくれ。」

「はぁ…」


海と縁がないソニアのメモは大量になっていた。どれが正しいのか分からないだろうしな。


「やっぱり、一度は海で慣れた方が良いな。川で流されるのも怖いが、海は流されたら戻ってこれない可能性がある。

…遥香はたぶん大丈夫だろうが。」


水柱が立つくらいのばた足で泳ぐからな。あれなら沖で離しても帰って来そうだ。


「魔法でなんとかなりそうですが…でも、確かにそうですわね。全く体験したことの無い環境は恐ろしいですから。」

「こっちの海は塩辛いんだろうか?」

「塩は海と山の物ですので恐らく。」


地球との違いはマナの有無くらいの差なのだろうか。

それが魔物が発生する原因の一つであるようだし、大きな違いではあるが…


「醤油があれば、貝や魚の刺身というのも良いが、そのまま焼くのも捨て難い…」

「豆のソースですわね。」

「流石に醸造の知識は誰も持っていないから残念だよ…」


大豆、らしきものがあれば依頼できそうな気はしているが。


「食は文化、とバニラ様が仰っておりました。お兄様達の文化も味わってみたいものですわ。」

「度肝を抜かして、一月でいつかのバニラみたいになりそうだ。」

「…恐ろしい!恐ろしいですわ!」


その笑顔、全く言葉と噛み合ってないぞ義妹よ。

そんなやり取りをしつつ、情報の整理を進めていく。




真偽不明が4割、明らかな作り話が3割、確証はないがゲームと合うのが3割だった。

それぞれを紙に書いて別々にまとめ、家に戻ってバニラと梓、エディさんと母達にも確認してもらっていた。


「どれも絵本にしたら楽しそうな内容ね。」

「旦那はオクトデーモンとやらと、恋に落ちたりしやせんよね?」

「食べてはみたい。」

『デーモンを食べる?』


声は揃っても、目を見開いたり、半目になったりと反応がバラバラで楽しい。

形が想像できないと、そういう反応になるのは仕方ない。


「細かく切って焼いたり、煮たりすれば美味しいと思うんだが、バニラに頼んだ方が良さそうだな。」

「子供が真似するから隠れてやってね?」


ジュリアにまで咎められる。せめて実物を見て、食べてからにしてくれ。


「たこ焼きが無限に作れそうだな。北方でなんとしても出汁用の昆布を手に入れたい。」

「おー、いいねー。それだけで無限に頑張れちゃいそうだよー」

「ソースが貴重だから無限には作れないがな。」

「あの量の樽なら実質無限だよー」


カレー作りの副産物で『ハスキー印』のソースも作ってしまったバニラ。

トマトのような物と香辛料があるんだからやってみよう、と言うので任せたら、とんでもないものを発明してくれた。

貴重というのは、他で再現が不可能だということ。オレのスープ現象が、バニラはソースで起きてしまったようだ。入っている物も量もまともだし、美味しいから文句はない。


「たこ焼きは置いといて、念のために海に慣れておいた方が良いと思うんだが、どうだ?」

「そうだねー。防具の下は水着に近い素材の物にして、それで海に入るとかした方が良いと思うよー。」

「錆びないか?」

「丸1日、2日洗浄しないとかじゃない限り大丈夫だよー」


装備は大丈夫そうだな。後は…


「フロートはわたしたちに任せてくれ。コンテナのアレンジでなんとかしよう。」

「その技術、コンテナにも活かすつもりだから期待しててねー」


梓が母達を見て言う。どういう技術か気になるな。


「じゃあ、服は任せて。袖は長くて良いのよね?」

「わたしのはローブじゃない方が良い。今のは雨ですら吸うと地獄なんだ…」


ゲンナリした様子のバニラ。リリも似たような表情をしていた。


「確かにそうよね。私とリリの分も含めて見直すわ。ここにはしばらく居るでしょ?」

「そうだな。子供達もノビノビさせたい。」

「また忙しくなりそうね。」


久し振りの新作に気合いの入るアリス。


「上の子達は、もう昼間は目を掛けなくても大丈夫でしょう。私たちもお手伝いしますよ。」

「そうですね。うちの子らに下の子の世話を任せやしょう。」

「家の事は私のメイドに任せますわ。カトリーナさん、後で細かいお話を。」

「分かりました。」


話し方といい、なんだかソニアが一家の主っぽい気がしてきたな。一任したり気後れしてる訳ではないが、いつも女性陣だけで話が進行していってしまうのは何故なのか…


「あ、一応、足ヒレも用意するねー。良さそうな素材が無いか探すことになるけど。」

「わたしは緊急用のバブル発生機を作ろう。ついでに訓練場の一角に、試験用の巨大な貯水槽を作っておくよ。」

「あ、一応ヒルデちゃんの耐水、耐圧性確認したいから深めにお願い。」


うん、オレ、もういらないのでは…?


「不安そうにしている父さんにも仕事があるから安心しろ。」

「そうか?」


こうして、楽しい楽しい北へと向かう準備が始まったのであった。





という事で準備の一ヶ月があっという間に過ぎる。

子供達の初めてのおつかいという大仕事、海を知らない連中の訓練とノラの里帰りを兼ねての南部遠征を経て、準備ももう一歩というところまで来た。

だが、問題も発生する。


「遥香は何処行った?」


朝も昼も姿を見せなかったのである。

通話器も音沙汰が無いのだが、事情を知っているのか、目が泳いでいるのが2名。


「レオン、ノエミ。」

『は、はい!?』


名前を呼ぶと二人揃って震え上がった。


「いや、出て行くところ見ただけだろうから何も言わないよ。」

「は、はい…」


ホッと息を吐き、ジュリアが苦笑いしながらノエミの頭を撫でた。

幼い二人に責任を問えるはずもないからな。


「はぁ…レイドボス級じゃなきゃ、どうにかなりそうもないからな。北で会えると信じよう。」


最近は大人しくしているな、と思ったらこれである。


「まあまあ。わたしたちより世界を楽しんでいると思おうじゃないか。新マップとか我慢できなかっただろ?」

「むう…」


バニラのフォローに唸るしかない。

色々とあって、またバニラの髪が白くなっている。こいつもすぐ無茶をするので目が離せないな…


「信じてあげましょう。きっと、私もハルカくらいの歳で、ハルカくらい戦えてたらジッとしてられないと思うから。」


苦笑いするアリスも遥香をフォローした。


「私もそうかも。」


ジュリアも同意する。

冒険者の性分を抑えられるほど、まだ大人じゃないって事だろうか…


「今は遥香の事は置いておこう。

みんな集まってるから聞いておくが、進捗はどうだ?」

「水中対応用の服は、遠征で出た問題点を改善できたわ。防水液のおかげね。」


体にピッタリと貼り付く様に作られた水中服。柊はウェットスーツみたいだと言っており、バニラと梓の助言によるものだと分かった。

アリス自身が、同じ素材で少しゆったりめの服で水中に潜ったが、秒で諦めている。抵抗が凄まじく、体が思うように動かせなかったのだ。

使い道が無いので、その服は洗われてジャンクボックス送りとなってしまったのは少し気の毒である。


オレも錬金術で防水液を作って協力した。これにより、更に服が水を吸うのを抑えられる。

普通に水に入るだけなら良いが、戦闘、長時間となると、流石に気になってくるのでその対策だ。わりと繊細さが求められる近接戦闘を行うヤツが多いからな。


主な材料は2つ。1つは油分が多い、というかほぼ中身が油のような果汁のエルフの森によく実っているエジルの実。もう1つは身がほぼ油のようで不味く、漁具ごと魚を食べる厄介さを備えた、漁業の天敵のようなサメ系魔物のマッドシャークである。

両方の油を搾って濾し、錬金術特有の魔力融合という過程を経れば完成する。

どちらも南方エルフの居る辺りでは珍しい物ではなく、大量に手に入れられるので大量に作っておいた。

一度に使う量も尋常じゃないので、特にエジルの実に関しては、手が足りないのでこちらから依頼を出した。冒険者ギルドの受付嬢(南部についてきた)には、目玉が飛び出そうなくらい驚かれていたな。


「フロートも問題ない。この後、商業ギルドに特許出してくるよ。」


人工の浮き島を、浮遊コンテナで実現してみせた。

流石に巨大魚が手に入るほど沖には行けなかったのでテストだけとなったが、その場で改良出来るレベルの改善で済んだようだ。これも漁業や南国観光の助けになってもらいたいものだ。


このフロート、コンテナを変形させて2つ1組にして何組も連結させているのだが、従来の使い方とは少し違っている。

本来は他のコンテナと繋ぎ、より大きなコンテナを作るのが目的だ。今のトレーラーも、このコンテナに切り替えたので、次の旅先では纏まった人数で食事が出来るようにも、眠れるようにもなる。子供たちにいつもの元気がなかった事が、これで改善されると願いたい。


「バブル発生機も問題ない。基本的に二人一組で魔法の苦手な側が持つことになる。得意な方は【バブル】を覚えて、即発動も出来るようになってもらった。」


オレも覚えた便利な魔法で、使用者次第では消火にも、遊びにも使える。泡の強度を高めれば、子供達を中に入れて転がす程度は出来た。悠里、ノエミ、ジェリーは大はしゃぎしてたが、息子達にはいまいちだったな…


「お父様、次はいつ南方へ向かうのですか?」

「悠里、楽しかったのは分かるが、次は来年になる。」

「そうですか…」


しょんぼりする娘達には悪いが、北は夏でも寒いだろうし、ドワーフ領の海はなんか飲んだらやばそうだしな…


「ドワーフ領は大きな温水プールがあるかも知れないけど、ユーザーメイドだった気がするんだよねー…」

「例のプールと呼ばれたヤツだな。」


バニラがドヤ気味に言うが、知ってるのがオレくらいだったようなので何も反応しないでおこう。メイプルも知らなかったようだ。ココアは忘れているっぽいな。


「…忘れてくれ。」

「忘れよう。後は…リリ。」


リリにはエディさんと、各地の情報を再度調べてもらっていた。

遥香と実際に旅をしていたリリと、商会であちこち回っていたエディさんの二人なら適任だろう。


「これといった動きはございません。どこも平和…とは言いませんが、大きな変化は起きていません。」

「そうだな。エルディーもエルフ領も変わらぬよ。」


この2国は今の所は安定している。バニラのもたらした物流革命の恩恵を強く受けており、不満も薄いからだろう。


「あー、ごめん。始まってたねー。」


汗をかいた梓が、ドタドタと走って自分の席に着く。アクアが梓にイグドラシル水を渡すと、自分で専用の金属ストローを出して一気に飲み干した。

足りないと判断したアクアがおかわりを注ぐと、更に半分くらい飲んでようやく落ち着く。


「造船の依頼、済ませて来たよー。

試作含めて2隻、試作は研究用に寄贈する事で割り引いて貰えたよー」

「上出来だ。」


南方遠征の成果はもう一つ。船用に水を噴射する推進装置、ウォータージェットだ。

これが出来た事で、空気をエアロジェット、水をウォータージェットと区別することになる。

この技術を造船所に提供することで、ライトクラフトとエアロジェット、ウォータージェットを備えた船を安めに建造してもらえるようだ。

とはいえ、新技術、新素材満載の船。すぐに出来るとは思っていない。


「3ヶ月は欲しいって言ってたよー」

「それでも早いな。半年くらいは覚悟してた。」

「魔法があるからね。それでも、おとーちゃんが思っている以上に、職人にとっては難産だと思うよー?」


各方面に苦労を掛けているなぁ…

エディさんの視線が痛い。


「どうする?ここで分けるか?」

「大丈夫ー。職人を信じて上げて。」


何かサポートできれば、と思ったが、一番の職人にそう言われては信じるしかあるまい。


「分かった。梓がそう言うなら信じよう。こっちから協力は必要ないな?」

「うん。お金の持ち逃げしたら、怖い北方エルフと、ふくよかな東方エルフに、水平線の向こうからだろうが始末されるってみんな知ってるからね。」

「怖い…」

「ふくよか…」


思い当たる二人が微妙な表情で呟いた。

流石に水平線の向こうからは無理だろう。無理だよね?

そこを否定しないのがちょっと怖い…


「…進捗報告は以上か?」

「父さん、それとは別なんだけど…」


柊が緊張した様子で手を上げる。

この場で柊が発言するのは珍しいな。


「どうした?」

「明らかに若い獣人が増えてるんだ。

それも戦士じゃないか、だったとしても心得が無さすぎるルーキー。事情までは分からないけど、あまり良くない兆候だと思う。」


家での作業が多くて、街にあまり出てなかったから気付かなかったな…


「獣人国家群の方か…

そちらは私の方で探りを入れさせよう。」

「頼む。」


向こうはオレたちにどうこう出来る場所ではないから、エディさんに任せるしかないだろう。


「では、私もお父様に進言して参りますわ。きっと、把握していらっしゃると思いますが。」

「認識を共有出来ている事は大事だ。頼むよ。」


フィオナに頼むと、エディさんが意味深な表情でオレを見ている。


「その言葉、ハルカに聞かせてやりたかったな。」

「…ああ。そうか。そうだな…」


こうして、出発前最後の家族会議が終わる。

そして、オレたちと遥香のズレの理由が分からないまま、出発の日を迎えるのであった。


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