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召喚者は一家を支える。  作者: RayRim
第1.5部
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番外編 〈魔国英雄〉は贈りものに苦慮する

〈魔国英雄ヒガン〉


「西部エルフ領、第三位カルロス・オラベリアの第20子、リリ・オラベリアです。

この度、魔国英雄ヒガン様に嫁ぐ事となりました。以後、よろしくお願いいたします。」


ルエーリヴの実家へ帰宅後、堂々とした名乗りに、全員言葉が次げなかった。

事態を把握していたとはいえ、実際に目の当たりにして対応に困るのだろう。


「正式に嫁ぐかどうかは置いといて、みんな仲良くしてやってくれ。頼むぞ。本当に頼むぞ!」


一番渋い顔をしていた遥香がそそくさと居なくなる。それを見て、苦笑いをしているカトリーナが頷いて、息子を連れて付いていった。


「今の子は?」

「白閃だよ新入り。」


こちらも渋い顔のバニラ。


「噂の四肢斬りですね。まだ子供じゃないですか。」

「しし?」


どうやらバニラには意味が伝わらなかったようだ。オレより小難しい事を知っているだけに、少し意外だ。


「腕と足だよ。」

「ハルちゃん、そんな物騒な渾名が付いちゃったんだ…」

「目撃者も被害者も多すぎるからな。」


実際、オレも目の当たりにもしている…

まあ、敢えて目立つようにやっていたから、しかたない部分もあるが。


「ところで自称母候補よ。おまえは何が出来るんだ?

わたしたちは戦闘、生産、芸術の一流が揃っていると自負している。その一家で母役に就くというのは、いざという時の舵取りをするという事でもあると理解しているか?」


リリより小さいバニラが尋ねる。


「…さっきから、ちゃんと名前を呼んで下さらないのは何故ですの?」

「わたしが就くべきポジションをお前が狙っているからだろうが。」


まだ諦めてなかったのかバニラ…

本当に30年後が怖い。


「今の英雄様に必要なのは礼儀を知り、正しい交渉を行える者であると確信いたしました。

あなたのように粗暴な口の聞き方では交渉など…なんですのその書類は?」

「わたしが交渉し、勝ち取った契約書の写しだ。」

「洗浄、浄化装置の製造及び販売委託契約…ライトクラフトの製造許可契約がこんなに…!?」


バニラの正体を知り、青い顔で震えだすリリ。

ライトクラフトの発明により、魔導創士の名は大陸中に知れ渡りつつあると言っても良いだろう。

産業、物流に寄与したその発明は、梓と揃って歴史に刻まれるはずだ。


「こ、これは大変なご無礼を!」


跪き、頭を下げるリリ。アホ毛もしおしおになっていた。

腰に手を当て、バニラは胸を張る。ドヤ顔をこっちに向けるな。


「分かれば良いぞ新入り。

あと、わたしは転生しているから、中身の年齢は見た目より上だ。」

「は、ははー!」


なんだろう。この光景は。見た気がするが思い出せないな…


「大昔の時代劇みたいに御老公と印籠にひれ伏してるみたいだねー」

「助さんと格さんがいませんね。」

「格さんは真っ先にログアウトしちゃったしねー」

「格闘の柊様じゃないんですね…」


梓とアクアが教えてくれた。もやもや解消ありがとう。


「リリ、気持ちは分かるが落ち着け。

ここでの今のお前は赤子と大差がない。全員が多くの強敵を打ち倒し、多くの課題を乗り越えてきた。

そんな集団の中でいきなり舵取りをしようとしても上手く行きっこない。だから、しばらくは野心を抑え、ちゃんと皆の人となりを見て、己の技術を磨き、知識を広げるんだ。」

「赤子と…」


我が子に集中してしまっている、デレデレなアリスに視線を向ける。

アリスはソニアに対してもだが、そういう所があるからな…


「…悔しいですが認めます。これまでの数々のご無礼も謝罪いたします。何卒、ご指導のほど、よろしくお願いします。」


こちらの人間なのに綺麗な土下座だった。

こんな事をされたら邪険に出来ない。


「一家に加わるなら守ってもらう事がある。

重大な嘘を吐かない、重大な隠し事をしない、他所に迷惑を掛けない、そして…」

「そして?」

「夜這いは、絶対に、禁止だ。頼むぞ。」

「は、はい…」


正座したままもじもじするリリであった。





懸念事項はいくつかあるが、早期に解決するべき事は解決されたと言って良いだろう。

リリはソニアに預け、子供たちと共に指導してもらう事になった。歳はフィオナと同じだが、そこまで優秀かと言われると、首を傾げたくなるのでしばらく鍛えられてもらおう。


深刻なのは遥香との仲だ。遥香から絶対に近付こうとしない。露骨に避けている節すらある。部屋に近付いたら影に潜るので、リリ接近レーダーと化している。

親友まで取られてしまい、その傾向はより強くなってしまっているようにも思えた。まあ、リリが戦力としてカウントされるまでだろうが…これがまた気が遠くなりそうなのである。


知識や礼儀は十分だが、あらゆる実技がからっきしだった。

魔法の適正は高い。血統が良いだけの事はある。

体も柔軟性が高く、足も早ければ、筋力も見た目のわりに高い。

これは育て甲斐がありますわ、と不適な笑みをソニアも浮かべていた。

ただ、筋力のわりにダメージに弱い、というか打たれ慣れていない。方法は分からないが、促成で育成をされた疑惑があるな。


そして、服装だが、高級メイド服が支給された。本人は不服かと思ったが、カトリーナの仕事っぷりに心を打たれたようで、その後ろを付いて回る姿を度々目にしていた。


「戦闘もカトリーナに寄せて良いかもなぁ。」

「そうですわね。体の軟らかさは魅力ですし、今の能力の傾向も近いですからね。」

「そこに魔法を絡めた戦い方か…」

「その辺りは基礎が固まってからにしましょう。今はただ鍛えるのが第一ですわ。」


メモに今話した内容を記述して片付ける。

すっかり良い指導者だな。


「ヒルデの方はどうだ?」

「剣術はハルカさんが相手をしていて、互いに拮抗していますわ。基本的に魔物専門と割り切って良いかと。町中で使える武器ではありませんので。」

「フリューゲルは伊達じゃないか。」


色々な武装を用意してやりたいが、梓が過労死しそうだからな…

実験で中身がミスコンの爆弾を投げるのは見たが、やはり魔力あってのものだと思い知らされる。中身が中身だけに、威力は高いのだが。


「一度、南方へ連れていっても良いな。」

「そうですわね。メイドたちを私が率いて、スタンピード処理を経験させるのも良いかもしれません。」

「その際は、柊とフィオナをお目付け役に連れていくと良い。」

「分かりましたわ。」


春以降の予定を話し合っていると、リリがやって来る。

冬場は完全にダンジョンで済ます事になったので汚れていないが、顔に擦り傷が出来ていた。


「その話、私も」

「ダメだ。まだ早い。」

「…うっ。」


言い切る前に遮る。

体を鍛えるのは間に合うだろうが、肝心の技術が頼りにならなさすぎる。


「南方はそこらの小さなダンジョンと事情が違う。うちは人手が足りていないから、一人でオーガクラス数体を処理出来るのは大前提だ。

今のお前にそれが出来るか?」

「出来ません…」

「今は自分を高める事を考えろ。任せられる仕事があるならしっかり割り当てる。」

「はい…」


とぼとぼと、訓練ダンジョンへ戻っていった。


「行った?」


オレの足元から遥香が生える。


「そこまで嫌か…」

「策略の臭いがして信用ならない。」

「ハルカさんのその勘は当たりますので…」

「自分の立場を確立したいんだろう。

後発で伸びるのはリリみたいなヤツだよ。」

「そうだと良いけど…」


唇を尖らせ、納得いかない様子。

まあ、半分オレの願望でもあるが。


「その時が来たらよろしく頼むぞ。」

「ああっ!?」


遥香とソニアの頭をわしゃわしゃと撫でると、遥香だけ抗議の声を上げた。


「もう。また整えないと『ママ』に…あっ。」

「どうした?」


何か落ち着かない様子の遥香だが、


「ううん…なんでもない。」

「そうか?」


ソニアを見ると、後は任せて欲しいと言いたげに頷いた。


「じゃあ、作業室に行ってるよ。」

「はい。こちらはお任せ下さい。」


遥香と訓練場はソニアに任せ、作業室に向かった。

作業室に入ると、だいぶ物が増えて、広々と使えていたアクアの絵画スペースが狭くなっている。


「ん、父さんか。」


昼寝をしていたようで、突っ伏していたバニラが起きてこちらを向く。


「だいぶくたびれているな。梓もか…」


部屋の隅で毛布が丸まっている、と思ったら梓だった。


「お互いに煮詰まってな。」


バニラの近くの椅子に腰掛け、机の上を眺めた。

魔石結晶と、魔導具のガワとなるパーツが転がっている。

後は…鉤爪?


「今度は何を作っているんだ?」

「射出型ワイヤークローというヤツだ。引っ掻けるにしても、掴むにしてもなかなか上手くいかない。」

「ワイヤークローか。」


できるだけ魔法に頼らず、実現したいわけか。


「オレに助言できることは無さそうだな。」

「テストは付き合って欲しい…」


大あくびをするバニラ。


「今日はもうここまでにしておけ。オレはこれから製薬の幅を広げるよ。」

「頑張ってくれ…」

「ほら、部屋に戻れ。梓は抱えてやるから。」

「カレーライスが食べたい…」


梓の寝言にオレたちは思わず笑う。


「春になったらスパイス探しも悪くないな。」

「ああ。チビたちにはまだ早いから、父さんと母さん達は留守番だな。」


バニラを部屋まで送り、梓をベッドに寝かして再び作業室に戻る。

一人でもすっかり手狭となった作業室。少しアクアが不憫だな。


バルサスからの持ち帰り品には魔法シミュレーターがあり、これによって魔法を習得前にテスト出来るようになっていた。

一番恩恵を受けたのは魔法開発を行うバニラだが、メイプルの歌を調べる事にも一役買ってくれており、具体的な効果が判明する。

プレアデスは攻撃、スピード強化。ラグナロクは攻撃絶大強化というようにだ。

そりゃ魔法が暴発するわけである…

これに影響されたのはやはりバニラ。絶大、という強化を初めて見たそうで、可能性を手に入れたと大はしゃぎだった。

インクリース・オール、バリア・オール、プロテクション・オールが更に強化される日が来るかも知れないな。


変わったものでは固体化された魔力を形にするマジック3Dプリンター、マナや魔力を掴むマジックグローブ、高純度な魔力物質へ変化させる魔力転換炉があった。

3Dプリンターは、今のところ使い方が分からないので置物だ。マジックグローブは、アリスが裁縫で使いたいそうだが、暇がないので飾りとなっている。魔力転換炉、という魔女の大釜は転換したものが今の家の鍛冶設備では扱い切れないらしいので、これも半ば飾りだ。片付けた方がいいと思うが、何故かバニラが譲らなかった。


せっかくなので、その転換炉で作ったものを活用してみる事にする。とは言え、ここまで高度になると流石に知識にないのだが。

鍛冶や彫金は無理でも、錬金術方面なら何か出来るだろうか?

薬草、魔石、木の実、虫と色々入れてみた。

1種類につき1分程度なのだが、気が付くと実験に1刻ほど費やしている。やり過ぎてしまった。

全く別な物質になるのかと思いきやそんな事はなく、薬草類は品質が向上したものもあれば、逆に枯れ果てたものも。他も同様で、虫はなんだか艶々になったものと枯れ果てたものに分かれた。

しかし、看破をすると面白いことが分かる。枯れ果てたものの方が品質に素晴らしいという物が付いてしまっているのだ。これはどういう事なのだろう?

干した魚に旨味云々という理屈だろうか?よく分からないな。


とりあえず、一気に使うのは怖いので少量で通常の割合でポーションを作ってみた。


【強化回復ポーション】

魔力転換した素材で作られたポーション。

とても強力で、欠損部位の修復も行える。


「やってしまった…」


世に出せない発明をしてしまった…

いや、ゲーム時代にはあって、オレも愛用していた。だが、バニラの所が提供する魔法の質が良くて、次第に使われなくなっていったのだが…こういう作り方だったのか…

試したいが、失敗の可能性を考えると難しい。切り落とした指が半分だけ再生は一生後悔するだろう。バニラがリザレクションの開発に、人体実験を行った理由がよく分かった…

一家内に情報開示は行い、人体実験の禁止を徹底しよう。リリがやらかしそうな気がする。


他も概ね【強化】と付く物が出来上がったが、魔石結晶は違った。


【高純度魔石結晶】

高い純度の魔石で作られた魔石結晶。

結晶にはより高密度の魔力が蓄えられている。


容量が増えた、という事だろうか?

後でバニラに渡そう。


使えそうなのはこれとマジックポーション、状態異常回復、攻撃、デバフアイテムか。能力強化も出来たが、『正気と引き換えに』の文言がヤバすぎるのでこれも禁制品にしよう。

攻撃、デバフアイテムは実際に使ってみて、というところか。


時刻は更に2刻が経ち、そろそろ夕食か。

作ったものを全て片付け、使った道具も念入りに洗浄して一階へと上がる。

居間へ行くと、皆が寛いでいた。

訓練や勉強がキツいのだろう。リリは新しい椅子に座って、うつらうつらしていた。

アホ毛があっちこっち向くのが面白い。うなされてから目を開けてキョロキョロするのも面白い。


「…な、なんでしょうか?」

「気にせず、ゆっくり休め。」

「むう…」


見られていた事が恥ずかしかったのか、頬を膨らませて黙った。また、すぐに船を漕ぐのだが。


「皆様、準備が出来ましたよ。」


レオンを抱きながら仕事をしていたカトリーナが呼びに来た。

ビクッと目を覚ますリリの姿に、皆が笑う。


「おねーちゃん、起きないと夕飯抜きだよ。」

「んああ?ああ…」


言葉にならない返事に、また笑いが起きた。

リリを思ってだろうか?…普通にくたびれてるだけにも見えるが。


「バニラ、梓。3日くらい休め。ちょっと頑張りすぎだ。」

「えっ。…うん、そうだね。」

「ああ…そうさせてもらうよ…」


欠伸をしながら眠そうに食卓へ向かう二人を見送ると、リリだけ残っていた。


「…ヒガン様、後でお話があります。」

「分かった。」


アホ毛がしょぼくれたままのリリに触れられることなく、いつも通りに夕食を済ませた。




居間でアリスと一緒にアレックスと悠里の相手をしていると、リリがやって来た。


「話はなんだ?」

「私がいない方が良いなら、部屋に戻るけど?」

「いえ、居て下さると助かります。最初に出会ったお二人ですので。」

「そう?」


トイレから出てきたが、トイレで泣いていたのだろうか?目と目の回りが赤い。


「…認めます。この家では赤子同然だったという事を。

白状します。ヒガン一家を甘く見ていたことを。」


立ったままメイド服のエプロンをギュッと握る。


「皆様の居るところへ至れないどころか、あまりにも遠すぎて見えない。皆様の様な熱意も才能も持てない…

私には余りにも…まぶしい。」


嗚咽が漏れ、俯いた拍子に涙が零れた。

アリスが思わず手を伸ばすが、すぐに引っ込める。迷っているのだろう。その姿は間違いなく、かつての自分と同じなのだから。


「…実家にはなんて言われて来たの?」

「…ヒガン一家の中核を担えと。そして、西方エルフと敵対しない様にしろと。」


敵対か。向こうから手を出さないなら何もするつもりはないが…


「一家にそんな野心は無いわよ?

エルディーや、東部領に攻め入るなら話は違うけど。」

「そんなことはしないと思います。

ですが、宗教勢力は分かりません。イグドラシルの物が各地へ流れている事に、大きな憂いを抱いているのは間違いないかと。」


似たような新興宗教を潰した覚えはあるが、各地にあるという事か?


「他にもそんな宗教があるの?」

「…他、とは?」

「私たち、一つそういう宗教を返り討ちにしているのよ。潰したのは東部の総領様だけど。」

「初耳です。もしかすると、何者かを潜り込ませていたのかもしれません。西方エルフはそういう事が得意ですので。」

「しかし、西方エルフは逆に目立つだろ。耳の違いは大きい。」

「冒険者はフードを被る方が多いですから…」


確かに、遥香も含めて愛用者は多い。そういう姿なら警戒はされど、身元までは割れにくいか。


「確か、教祖が死んで、後任が彼女だったわね。

なんでディモスが、と思ってたけど、裏で色々やった結果、御しやすかったのが彼女だったのかしらね…」

「まあ、深く考えても答えは出ない。もう終わったことだし、随分と前だからな。」

「…うん。そうね。」


タメ息を吐いてから、欠伸をしていた悠里の目尻を拭う。


「で、打ち明けた理由はなんだ?こんな話がしたい訳じゃないだろう?」

「…はい。」


姿は見えないが、あちこちで聞き耳を立てている気配がする。ユキに至っては、テーブルの下の影に子供と潜んでいるな。将来が不安になってきた。


「…何卒、私にお暇を…」

「ダメよ。」


アリスに即却下された。

再び、俯いたまま、グッとエプロンを握る。表情は見えないが、顔も強張っていそうだ。アホ毛は…消えた?


「ダメに決まっているじゃない。こんなあなたを放り出す訳にはいかない。

ここで学び、技術を磨き上げたあなたなら送り出しても良い。でも…」


悠里をオレに預け、アリスはリリの青白い手を優しく包む。


「いつかの私のように、絶望して逃げ出すことは無いのよ。」

「アリス…さま…」


我慢できずに嗚咽が漏れ始める。


「この人となら凄い世界が見れる、そう確信した矢先にこの人が壊れちゃってね。

私は娘たちのように力もないし、体も弱いから怖くなっちゃって抜けたことがあるのよ。」


あれはそういう事だったのか。

悩んで、泣いたのは察したが、半分くらい愛想を尽かされて抜けたのかと思っていた。


「その後が大変だったわ。ジュリアには毎日必死に説得されるし、居心地の悪い実家に戻らないといけなかったし、ソニアに本気で殴り飛ばされたし…」


アリスの首が斜め下を向くように動いた。

人生最大級の衝撃だったのだろう。溺愛している妹に殴り飛ばされたら、それはショックに違いない…


「あなたの実家での立場は、きっと私とそう変わらないはずでしょう?

ちゃんとあなたの能力を活かせる家族がいるなら、私は送り返しても良いと思うけど。」


リリは首を横に振る。


「…無駄飯喰らいには、ちょうど良い仕事だと言われました。

冒険者ごとき低俗な者なら、私の様な出来の悪い末子がお似合いだとも…

このまま実家に帰ったら、本当に居場所がなくなってしまうのは間違いありません…」


何かあっても、オレの妻という実績があれば、実家に帰っても安泰だと考えたか…

焦った行動の理由が分かった。そして、歪な体の鍛えられ方も。

まともに師事してもらえず、独学で鍛えて来たのかもしれない。それはそれで凄いが。


「リリ、お前は強くなると確信している。

カトリーナ並みの身体能力、アリスに匹敵する魔力。オレはそれを手放したくない。」

「ヒガン様…それは買い被りです…このリリにはそんな大層なものはございません…」


何度も首を振り、オレの言葉を否定する。

まるで、希望を、期待を振り払うかの様に否定する。

だが、アリスが抱き締め、それを止めさせた。


「みんな、最初はリリと同じだったのよ。うちの白閃法剣だってそう。旦那様だって、フィオナだって同じ。

みんな、何度も何度も、毎日のようにカトリーナにねじ伏せられて来たわ。」

「オレは今でも5回に4回はねじ伏せられてるな…」


まぐれ当たり以外で勝てる気がしない。


「ふふっ。だからね、あなたはきっと私たち二人より強くなる才能がある。」


アリスがベソかくリリの頬を両手で押さえ、しっかりと向き合う。

涙が零れ続け、顔はくしゃくしゃだ。鼻からも流れている。


「そんな…」

「リリ。今の自分を疑うのは大事だ。

だが、将来の自分まで否定はしないで欲しい。オレたちはちゃんと見届けるから。」

「リリ。私は、私たちはあなたの事を放っておけない。だから、あなたさえ良ければ妹として扱うわ。どうかしら?」

「おねえさま…アリス…おねえさま…!」


そこからは大変だった。

大泣きするリリに釣られる双子。ユキと隠れていたビクターに、聞き耳を立てていたカトリーナと一緒のレオンもだ。


「なにやってるんだい!赤子を巻き込むんじゃないよ!」


オレと母全員がエレナさんに怒られたが、その眼差しからは優しいものを感じた。

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