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召喚者は一家を支える。  作者: RayRim
第1.5部
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番外編 〈魔国英雄〉は呪いの原因を知る

〈魔国英雄ヒガン〉


無事?に転生を終え、帰宅して自室でリラックスしながら聞き取った質問の内容をまとめていた。


アリスは自身の『枷』について尋ねた。

母方の先祖、と言っても、10代ほど前に掛けられた呪いが原因だと判明する。アリスの母がわりと短命であることを考えると、そう昔でもないだろう。とは言え、雑に計算して1000年以上は前なのだろうが。

産めば寿命が縮む呪いで、当初は一人でも致命的だったようだが、代を経たことで効果はかなり薄まっている。だが、10代以上経てなお双子で5割のインジュリーダメージは無視出来ず、解呪方法まで教えてもらったが、それを行える場所が外の大陸にあると判明した。


『遥か西の大陸に聖霊の祀られた地がある。力を借りることができれば、呪いを解くことが出来るだろう。』


これには全員が驚く。いや、外がある可能性は考えていた。

イグドラシルがいくら高いとは言え、そこから見える全てがこの世界の全てでは無いだろうな、くらいは考えている。

となると、いつかは確実にエディさんや、通う子供たちに長いお別れを言わなくてはならない。ソニアともお別れかもしれない。

それはまだずっと先だが、覚悟はしておくべきだろう。


アリスに体の調子を尋ねると、とても良いと答えた。少なくとも妊娠前よりも調子が良く、前衛は担えないがチンピラくらいなら体術で抑えられる 、と自信満々に答えたが、絶対にやめるようみんなで説得した。危なっかしいにもほどがある。


しかし、なんとしても子孫を残させまいとするような呪いだが、短命とは言え10代も繋いだ上に、解決方法を得る所に至れるとは掛けた側も思わなかっただろう。

理由も気になるが、知ったところで誰も得はしないから、好奇心はしまっておくことにした。



ジュリアもフィオナもエルフのままである。もしかしたらとも思ったが、そうはしなかったようだ。

ハイエルフとか呼び名も変わるかと思ったが、表記はエルフのままである。

現地組で初めての転生なので、オレたちとの違いはどうなのか気になる所だ。

特に二人はカンストしてからもあちこちに連れ回していたので余剰分のEXPが気になっていたが、しっかりと蓄えられており、いきなりレベルが130を越えていた。オレが144であるのを考えると、補正分込みでほぼ同じくらい稼いでいそうだ。

ちなみにジュリアは、ふくよかさはそのままだがだいぶ若返っており、120歳近かったのが85歳になっていた。単純にエルフ5倍と考えると、25歳が17歳になったわけか…

女性陣では、エレナさんを除くと完全にカトリーナが最年長となってしまったようである。


ジュリアの質問は、海の向こうは何があるのか?というものだった。人の事は言えないが、ジュリアも力さえあれば一人で何処までも行ってしまいそうだ。

ヒュマス国家が多いが、この大陸ほど排斥は行われておらず、共存している地域が多いらしい。種族特性から数は最も多く、必然的に頂点に立っている国が多いそうだ。まあ、少ないとはいえヒュマス至上主義な国も皆無ではないようで、やはりそういう国は上手く回らなくなるらしい。

それでも、消えて生まれてを繰り返しているようなので、ヒュマスという種がある限り、無くならない問題かもしれないな。


この大陸には無い熱帯の密林、広大な砂漠、高山地帯、海底と交流のある都市もあると教えてもらった。

浮遊地帯というものもあるらしく、それは自分の目で確かめろと言われた。

世界の事はビフレストの向こうからでも把握できる様で、時々あちこち眺めているらしい。

この世界は思ったより大きく、深い。

外の世界を知れたことはオレたちにどう作用するのか…それはこの大陸を踏破してからだな。


そして、フィオナだが、イグドラシルの底の者はいつまでも封じられているのか?というものだった。

これはオレだけでなく、バニラとヒルデも食い付いた。

イグドラシルの成り立ちを探るクエストはあったが、解明されることなく終わったからな。実際に伝承として存在しているのは、バニラもこちらで調べて知っていた様だ。


『それは我々の問題で、汝らに解決出来るものではない。協力も、神へと至れねばその資格すら得られぬ。』


と言われ、質問はそれで終了した。

オレがそれで良かったのか?と問うと、


「ええ、十分ですわ。古すぎて確かな伝承が残っておりませんでしたので。

我々、人の身では助力の資格すら得られない。これは後世にしっかりと伝える価値がありますわ。」


神話が実話であるということは、自惚れて開けてはならない箱を開ける者が出てくる可能性もある、という事だ。

秘しておくべき情報ではあるが、人の身に余る事もしっかりと伝えていく必要もある。

総領のみが知るべき事なので、これはシークレット送りにしよう。


ガッカリした様子なのはヒルデであった。

オーディンの眷属を自負しているようだが、力になる資格すら無いという事が堪えたらしい。


「いや、封じられているものを知っているから納得はしている。

だが、神に至るのはこの器では叶わぬ…」


それはヒルデにとって屈辱だろう。転生がフリューゲルに可能なのかどうかという問題もある。力になってやりたいが、封じられているものと対峙するのは、100年くらい先であってもらいたい。今のオレたちではどうにもなりそうにないからな。


まだまだ、この大陸で試さないと、調べないといけない事が多い。

南方とバルサス大峡谷の問題もあるし、各地の探索もある。バニラと梓は、もっと人々の生活の向上に寄与したいところだろう。


「まだまだ道半ばという感じだな…」


まとめた物をしまい、体を伸ばす。

ベッドの方を見ると、アリスが横になってこっちを見ていた。


「お疲れ様。私は後で読むわね。」


アリスの隣に横たわると労いの言葉を掛けてくれる。

本人はもう二人くらい欲しい様だが、流石にリスクが高過ぎて行為に及ぶ気になれない。なんとも歯痒い。


「すっかり元気になったな。」


血色が良い頬に触れると、微笑みを返してくれる。


「うん。でも、次の子供はしばらくお預けね。まだ倒れる訳にはいかないもの。

一家のためにも、子供達の為にも。」

「また、ますます強くなったな。挫折の度に強くなっている。」

「…みんなが支えてくれてるからよ。うずくまって、泣いて困らせる訳にはいかないもの。」


あの大泣きは、本当に折れ欠けた大泣きなのだろう。そして、我が子へとんでもないものを受け継がせた呵責の泣き。

オレは元々そういう事も含めて受け入れていたので、しかたないくらいにしか思わなかったが、アリスは全く違ったようだ…


「なあ、アリスは子供たちに何を望んでいる?」

「私より凄い魔導師になってもらいたいわね。バニラと並んで、国一番の魔導師として活躍してもらいたいわ。」

「今のお前と同じじゃないか?」

「違うわよ。私は協力者止まり。助手にもなれていないの。

発想も、技術も、行動力も、全く異次元で付いていけないわ。」


新技術、元の世界の道具の再現への熱意は凄いからな。

最近は、押し留めていた物が吹き出したかの様に研究に勤しんでいる。

それでいて、梓のように体を壊す兆候が無いのは一種の才能だろう。


「あれはもう天才の領域だ。梓もよく手伝えてると感心するよ。」

「アズサが良い抑えになっているのよ。

世界を分けてやり直す魔法を生み出す可能性もあるわけでしょ?発想も、発明も、作業も、アズサが居るから抑えられているんだわ。」

「となると、ココアが心配だな。」


あいつには良い相棒がいない。

梓やバニラは自分達のを優先させたいだろうし、それはココアもそう思っているだろう。


「ココアは大丈夫よ。

どうなっても、後悔はしないから。

だから、覚悟をするのは私たちの方。彼女の選択をどう受け入れるのか、そっちの方が大事なの。」

「そうか…」

「そうなのよ。」


アリスがオレの胸に額を押し付ける。

角は歪んだままだが、手入れはしっかりされている。ここまできちんと磨いてあるのは、初めて見るな。


「角って、こんなに綺麗になるんだな。」

「うん。私もビックリしちゃった。

直視したくないから、今までは簡単にしかしてなかったのよ。

でも、よく知ってる、憧れた角にこれで近付けた気がする。」

「誰の角だ?」

「お母さんの角。」


それ以上はお互いに語らず、気が付くとアリスは寝息を立てていた。

母から娘へ、しっかりと受け継がれた物があるのだと実感する。

この体の小さな頑張り屋の母は、小さな双子に何を受け継がせるのだろうか。

そんな事を思いながら、オレも眠りについたのだった。




「ゆうべはおたのしみでしたわね!」


いつか誰かに言われた気がすることをフィオナに言われる。

まだ、イグドラシルでの事を根に持っているようだ。

被害者の柊は、その横で苦笑いをしている。


「何もしてないよ。一緒に眠っただけだ。」

「ぐぬぬ…」


怒った犬のような険しいしかめっ面。

戦闘時は頼りになるのに、スイッチが切れると妙に子供っぽい所がある妹君だ。

エルフ5倍に当てはめると…あれ?100近いのか?


「なあ、フィオナ、今何歳だ?」

「唐突ですわね。71になりましたわ。」


んんん?


「えっ!?その見た目でそんなに若かったの!?」

「どういうことですの…」


アリスでさえ、もっと上だと思っていたようで、意外に感じたようだ。


「ジュリアも120近かったでしょ?てっきり、カトリーナくらいかと思ってたわよ。」

「私、どう見ても子供でしょう…?」


そっと目を逸らす。


「ヒガン様はいったい私をいくつだと?」

「柊と同い年くらいだと…」

「ばかー!」


バシンと平手打ちを喰らってしまった。

まあ、加減しているのか全く痛くはないんだが。


「実家に帰らせていただきます!」

「フィオナ、落ち着いて。」


怒る妹を宥める姉。

という事は、フィオナもジュリアくらいの体型になるんだろうか…?


「将来はダブルやわらかエルフ…」


両頬にビンタを喰らってしまった。


「じゅ、ジュリア、もう少し手加減を…」


痛む頬を擦りながらそう訴えるが、


「ばかー!実家に帰らせてもらうからね!」


涙目で宣言し、姉妹揃って出て行ってしまう。

翌朝、しれっと食卓で姉妹仲良く朝食を食べる姿がありました。

実家へ報告に戻っただけだそうです。





娘の周りは本当に優秀なのが残ったんだなと改めて思う反面、バニラと梓にはついてこれなかったんだな、と寂しくも感じてしまう。

戦闘面では追随する者が出てきているのだが。

今度の代表戦は他校含めて楽しみにしているが、ちゃんと見れると良いな…


「昨日でする事が無くなっちゃったけど、どうするの?」


フィオナとジュリアが出ていった間に、オレたちは戦利品の分別と納品を済ませてある。

キラーだけは、手付かずで持って帰ることにした。


「何か依頼を探すか。フェルナンドさんは何か言っていなかったか?」

「特に言付かっておりませんわ。」


ルエーリヴなら子供を揉んでやれるんだが、こちらじゃそうもいかないからな…


「ギルドなら私も行くわよ。顔を出しておきたいし。」

「では、私たちは留守番をしております。

柊、久し振りに手合わせしましょう。」

「うん。いいよ。」


ジュリアもにこやかに手を振る。二人を見守るという事か。


という事で、アリスと共にギルドの方へ今日もやって来た。依頼掲示板に何か無いか見るが、ドブさらいや猫探しくらいしかないな…


「あ、ヒガン様、お仕事探しですか?」


受付嬢が新たな依頼書を持ってやって来た。更新のタイミングだったようだ。


「どっちも盛況だな。」

「そうですね。人が多いと処理も早いのですが、その分だけ仕事も増えまして…」

「貼るの手伝うわよ。」

「あ、お願いします!」


三人で手分けして貼り出すと、あっという間に冒険者でいっぱいになり、あっという間に貼った紙も無くなっていった。

オレたちに頼んだ受付嬢もてんてこ舞いである。


「これはドブさらいをするしかないわね。」

「服は大丈夫か?」

「念入りに洗浄と浄化をしないとダメね…」

「…あ、あの!」


依頼書に手を伸ばした所で声を掛けられる。

エルフ…西方エルフの二人組だ。

声を掛けてきた方はよく通る声の娘で、駆け出し感がある。もう一人は男だが…オレと変わらないくらいに見えるな。


「その依頼、譲っていただけませんか…?」

「ええ。構わないわよ。」


依頼書を剥がし、声を掛けてきた娘の方に手渡す。


「ありがとうございます!」


娘が勢い良く頭を下げると、横でアリスが苦笑いを浮かべる。無用心過ぎると言いたげだ。

後ろの男もタメ息を吐いた。


「そこまでする事はない。舐められるぞ。」

「…は、はい。」


元気に跳ねていたアホ毛がしおしおになった。

おお…これが西方アホ毛というヤツか…

なぜか西方エルフのみに現れる特徴で、アホ毛が感情に反映されるというもの。ゲームだけの表現だと思っていたが、現実になっていたか…

男の方は落ち着きすぎているせいか、よく分からない。


「私もドブさらい獲得に必死になってたから気持ちは分かるわよ。」

「そ、そうですか…」


今からだと何十分待ちになるか分からない受付状況だな…


「お付きの人、一緒にお茶でもどうかしら?

新人に恩を売っておきたいのだけど。」

「でも…」

「今のお前に圧倒的に足りていないのは人脈だ。色々と教えてもらうと良い。」

「…はい。」


強い意志の籠った瞳で娘が頷いた。


「依頼はオレが受けておこう。」

「じゃあ、付き合うよ。それとアリス、」

「なにかしら?」

「絡まれても体術だけで切り抜けようとするのは無しだ。お前の体術は子供たちにも通用しないからな。」

「わ、わかってるわよ!」


二人を見送ってから猫探しの依頼書を取り、オレたちは空いている席に着いた。

防音の魔導具を使い、口元を隠して話を始める。


「あれは何処のお嬢様だ?あまりにも向いてなさすぎる。」


娘達の言葉を借りるなら、キラキラ過ぎるのだ。

あれはこんな所に来て、ほぼ単独でドブさらいをするような娘じゃない。

それに、この男だ。手練れオーラを隠す気が無さすぎて逆に怪しい。


「エルフの森西部の第3位、オラベリア家の第20子リリ様だ。」

「西部の貴族か…」


男も口を隠して喋る。

無言で向き合っている様子は、端から見たら怪し過ぎるよな…


「俺はただの雇われだ。西部から贈り物を届ける為の。」

「ほう?」


贈り物…と来たか。


「魔国英雄ヒガン。西部の貴族は貴公を高く評価している。

単独での一都市防衛、学生の育成、イグドラシルの踏破、旧ヒュマス領での活躍。英雄という枠に納まらないというのが西方エルフの評価だ。」

「光栄だよ。でも、それは正しくない評価だ。」

「ほう?」

「単独防衛以外は一家の皆が居てこそだ。イグドラシルの踏破に至っては、背負われているだけだったからな。」

「では、一時期再起不能だったという噂は…」

「本当だよ。その再起の為に、頑張ってイグドラシルを踏破したのは娘たちと嫁たちのおかげだ。育成だって一家全員の協力があってこそ。南方の戦果もだ。

オレ一人の評価はその1割程度が正しいよ。」

「…そうか。」


驚いた表情で、男は口元を隠さずに呟いた。


「安心したよ英雄。全て本当にお前の力だけで成し遂げたのなら、あの娘は贈り物として余りにも釣り合わない。」


男は再び口元を隠し、娘の事をバラした。


「…趣味が悪いな。」

「俺もそう思うよ。だが、国をほぼ閉じている西部にはこれしかないのだ。」

「閉じているのか?西方エルフは見掛けるが…」


これは想像しなかった。

北部は間違いなく閉じているが、西部もか…

交易路は普通に動いている様子だったが。


「交易のみで、西部からイグドラシルに近付くことは不可能だ。

聖地を暴いてしまった英雄が居て、聖地を魔物の巣と公言した娘が居るからな。」


オレたちがやっちまったという事か。


「イグドラシルを信奉する者は多い。

同時に、それを是としない者もな。あの娘はそういう貴族からの贈り物だ。」

「意図はなんだ?」

「さあな。俺には分からぬ。」

「変な育て方をしても知らんぞ?」

「四肢斬りの白閃のようにか?」


遥香よ、とんでもない渾名が付いてしまったぞ…


「そんな事を気にする親ではない。上に19人の兄と姉がいるからな。」

「…子供全員を気にする、こっちの気苦労を知ってもらいたいよ。」


防音の魔導具を解除して立ち上がる。


「さて、オレたちも役割をこなそう。

ドブさらいと猫探しの仕事を取らなきゃな。」

「ああ。」


ぐったりしている受付嬢を労いつつ、しっかりと役割を果たしておいた。

仕事の方は、ドブさらいの現場に迷い込んだ猫を回収する事で済んだが、せっかくなのでドブさらいも手伝い、二組揃って報告となった。

仕事の間に男とオレ達の話をしたのか、出会った時と様子が違う。


「…ヒガン様、アリス様。」

「話は聞いているわ。」


猫探しの間に、アリスにも伝えておいた。

思うところはあるようだが、西方エルフの娘、リリの事を好意的に受け入れていた。

だが、そうでない者が二人。


「お、お姉様、先を越されていますわよ!?」

「だ、大丈夫、ヒガンは子供に手は出さないから…」

「そ、そうでしたわ。…って、それじゃあ、お姉様は何のために若返ったのですか!?」

「…ッハ!?」

「お姉様のばかー!」


エルフ同士、仲良くしてもらいたいものである。


「カルロス・オラベリアの第20子、リリ・オラベリアです。ジュリアーナ様、フィオレンティーナ様、ご指導のほどよろしくお願いします。」


二人のコントに若干の困惑を見せたが、しっかりと真面目な挨拶をしてみせた。

ちゃんとした貴族を迎えるのは初めてだな。


「おほん。これはご丁寧に。東部の総領、フェルナンドの三女、フィオレンティーナですわ。」

「姉のジュリアーナだよ。」


総領の娘らしく、綺麗な礼をする。

こちらも、決してなんちゃって貴族ではないのだ。


「継承順位はジュリアーナ様が上なのでは?」

「うちはそういうの関係ありませんわ。愚かな姉より私の方が相応しかった、という事ですので。」

「さっきのやり取りのあとだと言い返せない…」

「…それに、冒険は姉の幼い頃からの夢ですので。妹はそれを後押ししたいのですわ。」

「…そうでしたか。」


フィオナの言葉に目をパチパチさせるジュリア。初めて聞いたのだろう。


「リリをどういう形で受け入れれば良いのかしら?養女?メイド?ただの一員?」


アリスの言葉にオレも腕を組んで悩む。


「父には嫁として娶って貰うよう言付かっておりますが…」

『嫁!?』


全員が声を揃えて驚く。オレも声が出た。

ついに政略結婚を仕掛けられたか…


「おそらく、父はディモスの30代だと誤認しております…

私となら歳も釣り合うだろう、と仰っておりましたので…」


ああ、転生した情報が抜けているのか…

確かに、数字だけではそういう誤認が起きるのも無理はない。


「という事は、50代か?」

「いえ、71になります。」


全員がフィオナと見比べた。横にいたジュリアは驚愕の表情で、固まっている。


「私と同い年ですわね。…なんで皆そんな顔をなさるのですか?」

「てっきり、100近いと…」

「リリ様、決闘をいたしましょう。」

「ダメだダメだダメだー!」


フィオナの笑顔の提案を全力で止める。


「ヒガン様退いて。そいつ凍らせられない。」


どこで仕入れたそんな古のネタ。

というか、寒い!凍る!家具が痛む!

全力でフィオナを抱きしめ、思い止まらせる。


「出会ってから柊のお守りに、イグドラシル攻略班のリーダーにと、様々な苦労をさせたオレの責任だ許して欲しい。」

「…ゆ、ゆるします。」


顔を見ると、さっきまで氷の女王の面持ちは溶けきり、一人の少女となってしまっていた。


「旦那様、それはやってしまった、というヤツでは?」


バニラみたいな事を言うアリス。

ジュリアと柊が、慣れた様子であちこち拭いてから雑巾を搾っていた。助かる。


「…も、もうヒガン様とフィオレンティーナ様はその様なご関係に。」


内股でもじもじするリリ。可愛いが違うからね?


「ジュリアより先に4人目を射止めるのかしら?」

『えっ!?』

「私は今すぐにでも」


【スリープ】


「くかー…」


抱き締められたまま、ややこしくなりそうな事を言い出す東方エルフの三女を、めちゃくちゃ強度を高めた睡眠魔法で眠らし、ソファーに投げておく。普通にデバフが通ってしまったな。


「既に3人妻がいる。そして、そこの柊含めて養女だが良い歳の娘もいる。

どういう立場で一家に加わるか決めるのは、少し時間をおいた方がいいと思うが?」

「…分かりました。

ヒガン様は私に自由を与えて下さるのですね。」

「ああ。全員と同じ様に扱うと約束しよう。」


オレがそう言うと、リリが自分の中の胸に手を当てぶつぶつと何か呟く。声に出しておらず、流石に読み取ることも出来なかった。


「このリリ、妻として、一家でのお役目を果たしたいと思います。」

『なんだってー!?』


通話器で聞いていた全員が口を揃えて叫んだのであった。

嵐のように現れた娘がこれからどう関わっていくのか、般若のオーラを纏うニコニコ顔のアリスを見てしまい、不安しかなかった…

なぜ、妻というポジションを潰さなかったのか?これはそういう顔だよな…

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