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召喚者は一家を支える。  作者: RayRim
第1.5部
145/308

番外編 〈魔国英雄〉達はバルサスの遺跡から逃げ出す

〈魔国英雄ヒガン〉


最終日の朝。雪が深く降り積もったが、ロードヒーティングのおかげでキャンプ地は無事である。この辺りはもう雨季に入ってしまったか。


「もうお墓も埋まっちゃってそうだね…」

「安心しろ。ちゃんとお前の分も話をした。お菓子が美味しかったって喜んでいたよ。」

『えっ』


そのヒルデの言葉に全員が思わず声を出す。


「お化けなんて嘘じゃなかったの…?」

「ゴーストも食事をするのですね…」


オレも食事をする事実にビックリだよ。


「フリューゲルはしぶといぞ。肉体を失っただけでは死なない。だから、機械人形に魂を移す技術が生まれたんだ。」

「あー、そうだったんだー」

「だが、その分、強大な魔素へと変質する。地下の魔物を生んでいる原因は同胞だよ。

滅亡の一因は、同胞同士の殺し合いだった事は過言ではない。」


意を決して梓が言う。


「もう一機、組もう。そうすれば」

「アズサ、良いんだ。もうあの子は満足なんだよ。フリューゲルで誰よりも働き、魂が磨り減るくらい務めを果たした。もう良いんだ。」

「…そっか。」

「解ってくれてありがとう。」

「…うん。」


納得いかないのだろう。でも、ヒルデにそう言われては、受け入れるしかない様だ。


「じゃあ、最後の調査に向かうか。組み合わせは…」

「同じで良いと思うぞ。父さんとヒルデが組めば良い。」

「じゃあ、それで行こう。装備は最低限で良いからな。」

「分かったよ。」


こうして、最後の調査が始まった。

なかなか派手に暴れたから、得るものが残っていれば良いが…





時々、残っていた魔物を潰し、浄化を掛け直しつつ調査を進める。

工場は魔物も利用していたようで、無事なものが思った以上に多かった。


「とは言え、オレにはよく分からないな…」

「無事なタブレットと材料だけ確保すれば良い。後はアズサが何とかしてくれるさ。」

「父として不甲斐ない…」

「そう思うなら、帰ってから知識を増やすんだな。」


残っていた何かのパーツをヒルデから投げ渡される。何に使うんだこの輪っか?

よく分からないが、しまっておく。


「後は…このタンクの中身も使えるな。まだ精製されたばかりのようだ。」

「魔物が作ったのか?」

「そういう事なのだろう。とても人が生き残れる場所じゃないからな。」


若干の知性があるゴブリンやオーガだけでなく、虫や獣も多かった。これを人間がどうこうしているとは思えない。

デーモンが居る可能性もあったが、確認する余裕もなかったからな。

亜空間収納に、タンクの中身を納めていく。これで研究が捗ると良いが。


「春まで無事に残っていると良いが。」

「何故だ?」

「こういうのって、配管の形も意味があるっぽいんだよ。うちの絵描きに描かせておきたいなと思って。」

「なるほど…」

「だが、魔法や錬金術なら、それを克服できるとも思っている。」

「そうあってもらいたいな。」


立って手の汚れを払う。

ヒルデもオレの真似をして、腰に手を当てながら笑みを浮かべた。

改めてしっかり見ると、バニラよりだいぶ気の強そうな顔付きである。自信満々といった立ち振舞いにも思える。


「どうした?私の顔に何か付いているか?」

「いいや。良い表情をするな、と思ってな。」

「なるほど。これがバニラの言っていた『ナチュラルにたらし込む』というヤツか?」

「人聞きが悪い!」


この短い期間に、バニラに何を仕込まれているんだ…


「私は嬉しいんだ。ちゃんと娘たちと同じ様に扱って貰えているからな。」


そう言って、体を密着させてくる。とても冷たい。


「冷たい。風邪を引きそうだ。」

「連れないヤツだ。」


オレの肩を二度と叩いて離れる。


「しかし、柔らかさは本物だな?」

「体の大きさは本来のものだ。見た目もそう変わらないと思っている。」

「ふむ…」


身長は遥香と同じくらいでさほど高くはない。が、体型は完全に女性のものだ。アリス程ではないが…といったところか。


「真剣に分析されるのはちょっと…」


照れた様子で胸元を隠す。さっきその氷水風船を押し付けてただろうに。


「失礼なことを考えてたな?」

「いいや?」


そう言って、オレは建物から出る。


「ふん。そういう事にしといてやる。」


足早に付いて来たと思いきや、独特の足音が止まる。


「どうした?」

「いや…何か」


ヒルデが耳のセンサー手を当てた瞬間、オレも胸騒ぎがする。


「ああ、この感じは…」

「分かるのか?」


ヒルデに尋ねられ、頷く。


「下からボスのお出ましだ。」


これ以上の長居は出来そうになかった。





オレたちはすぐに撤収し、家の方にも連絡する。


『早かったわね。何かあったの?』

「下層からボスが上がってきていた。今の人数と装備じゃ厳しいからすぐに戻る。」

『すぐ準備するわ。アクア、この子お願い。』

「すまんな。」


準備を終えたところでバニラとヒルデがやって来る。


「父さん、わたしたちは飛んで帰る。」

「…そうか。」

「反対しないのか?」


少し躊躇ったが、事情は分かっているつもりだ。


「テレポーターの人数制限があるからな。それに、残るならお前以上の適任は居ないと思っている。」


動作チェックを出来るのはバニラだけだ。それなら、挙動の確認からその後まで、バニラに見てもらうのが良いだろう。


「ヒルデ、おねーちゃんをよろしくね。」

「お姉ちゃん、向こうで待ってるから。」

「バニラ、ヒルデの歓迎会の準備をしておきますわ。」


思い出したかのように外套を出す遥香。


「ヒルデ、お気に入りだから返してね。お姉ちゃんに預けておくから。」


遥香の代名詞になりつつある白い外套は、バニラに預けられた。


「ハルカ、感謝するよ。」

「そういうのは、ちゃんとお姉ちゃんを連れて帰って来てからにして。」


遥香とヒルデが話している間に、魔石結晶を5つ作る。


「バニラ、これでありったけだ。持っていけ。」

「助かるよ。」


何かの豆を渡すような気持ちで魔石結晶を渡す。なんだったか、記憶から引き出せないな。


「オレのビームソードも一応持っていけ。バニラに預けておくから。」

「ああ。」


ヒルデも借りていた服を脱ぎ、アズサの協力を得て装甲を装着する。


「ヒルデ、専用ハンガー考えておくね。」

「それは楽しみだ。」

「おう、梓、それはフラグだ。」

「えー」


そんなやり取りをしていると、アリスから準備ができたという連絡が入る。


『バニラは戻らないのね?』

「ああ。ちゃんと見届けたいんだ。」

『そう。同行の娘、うちのヤンチャ娘をよろしくね。』

「任せてくれ。」

「心配のしすぎだ。」

『親はいつだって子供の心配をするものよ?』

「全く。実の親に聞かせたいよ。」


手にした携帯テレポーターが輝き出す。


「ヒルデ。」

「どうした?」

「帰りを待っているぞ。」

「…ああ!」


このやり取りの直後、視界が光に包まれ、目を閉じる。


「みんな、お帰り!」


ほぼ瞬時に帰宅していた。


「ただいま、アリス、カトリーナ、ユキ…そして、子供たち。」


子供を潰さないように気を付けて、全員を抱き締める。人数が多くて抱き締める、とは言い難い姿だが。

娘たちも当然可愛いが、実子との再会はやはり格別だった。

遥香と梓も装備を外して、一人ずつ抱き締めていく。


「後はバニラだけね…」

「二人を信じよう。」


オレの言葉に、その場にいる全員が頷いた。





通話器からの連絡もなく、3日が経っていた。

その間に、梓から予備パーツでライトクラフトを1機組んでもらい、遥香と一緒に迎えに行くことにした。

バニラの魔力は大きく、質にも特徴がある。近くにいるなら分かるはずだ。


「…やっぱり心配だよね。」


しがみつき、オレの胸に顔を埋めながら遥香が言う。

わりとバニラに憎まれ口を叩く事が多い遥香だが、こういう時は流石にそういう事はしない様だ。


「そりゃそうだ。二日、三日の差だが、一番付き合いが長いのがバニラだからな。

お前も梓がこういう事態になれば心配だろ?」

「うん。信じてても心配。あと、外套も心配。」


ヒルデが、とは言わない辺り、素直ではない。

頭をいつも通り撫でると、呻き声が帰って来た。


「もう子供扱いは止めてよ…」

「親にとって、子供はいつまでも子供だよ。バニラもそうだ。」

「お姉ちゃんは子供だと思ってないと思うよ?」

「…それはそれだ。」


30年後の不安が今でも拭えない。

ヒルデに対する好意も、なんだか歪で不安である。


「早くバニラを見つけるぞ。野放しにしておけない。」

「お姉ちゃんが聞いたら怒りそうだけど…うん、そうしよう。」


ゆっくりとバルサス方面へ向かって空を飛びつつ、感知スキルを駆使して調べる。

獣、魔獣はいるが、バニラは見つからない。


「お父さん、狼煙みたいに何か上げられない?」

「狼煙か…」


空中で止まり、何か良い魔法がないか考える。


「遥香、一発ぶちかます。その後はここで待っていて貰えるか?」

「うん。派手なの一発お願い。」


地面に降り立ち、遥香と離れる。

バニラなら気付く、バニラなら分かる魔法と言えばこれしかない。

剣を抜き、空に掲げる。


【ヴォイド・ブラスト】


今まで撃ったことのない規模でヴォイド・ブラストを空に向かって放つ。時間で30秒。


「ふぅ…」


剣を鞘に納め、宙に浮かぶ。


「かなりの出力だったけどだいじょ」


遥香が言葉の途中でハッとなる。

同じタイミングでオレも気付く。


「時間が惜しい。掴まれ。」

「うん。」


遥香を抱き上げ、感知に掛かった場所へと向かう。

微弱だが、確かにバニラの物だった。

距離があるわけではない。だが、あのバニラの魔力がここまで弱い理由が分からない。


「お姉ちゃん…」


オレにしがみつく手に力が入る。

気持ちは分かる。オレも不安になってきた。

すぐにその場所、荒野と針葉樹林の境界に辿り着くと、バニラたちが囲まれている。

しかも、魔物ではなく、人に。


「お父さん!」

「いけ!」


遥香が体を固定するベルトを外すと、オレの太腿を蹴って、弾丸の様に二人の前に着地する。

うぐおお…骨にヒビが入るかと思うほどの衝撃。涙目になりながら回復し、剣と盾を準備してから、座り込む二人を挟んで遥香と背中合わせになるように降り立った。


「バニラ、遅刻だぞ。」

「…済まない。」


ライトクラフトをしまい、バニラにポーションを渡す。


「お姉ちゃん、この殿方達とのご関係は?」


やつれ、やさぐれた、どう見ても賊としか見えない連中だ。


「同級生らしい。どうやら粛清を逃れて落ち延びて来たようだ。」


数本の矢が飛んでくるが、全て盾で叩き落とす。


「アンティマジックをやられた。私は無事だが、ヒルデが影響を受けて…」

「済まない…体が動かないんだ…」


全身が魔導具みたいなもので、制御力と無縁で動いているからな。意外な弱点が露見してしまった。


「遺跡のあいつが近くて、魔法も遠慮していたんだ。」

「追ってきているのか?」

「ああ。間違いない。」


アンティマジックで感知が邪魔されているな…

ここを切り抜けないとダメか。


「ヒルデ、走れるか?」

「やっと再調整出来た。メインスラスターも…くそっ!ダメか!」

「飛ばなくて良い。曳いて走れるな?」

「ああ。」

「遥香、突破口を開け。殿は任せろ。」

「わかった!」


【アースウォール】


ずっと飛んで来ている、鬱陶しい矢を避ける壁を作る。アンティマジックを物ともしない事に、相手の魔導師は唖然としていた。

バニラもシールドスフィアで凌いでいたんだ。オレに出来ないはずがないだろう。


【フォールピット】【シャドーバインド】


回り込もうとしたヤツらが落とし穴に落ち、踏み留まったヤツも、後ろのヤツが足を掴まれて転んだことで何人か落ちていった。

その間に、遥香が飛び出し、魔導弓で追っ手の肩や腿を撃ち抜く。これにも下手なアンティマジックは通らない。

悲鳴と怒号が木霊する。なんというか、哀れすぎて耳に入らない。努力や変革を放棄した人間が喚いているに過ぎないからな。

ユキともこっちで出会ったが、追い詰められた放浪者を呼び込む何かがあるのだろうか?

そんなことを考えていると、矢が肩に当たる。だが、服すら貫けない。

…なんだか、必死になってたのがバカらしく


【バリア・オール】


バニラの魔法と同時に矢が大爆発する。なんだ?どういう仕組みだ?

防御魔法は一撃で破られている。


「防御貫通してくるぞ!」


油断させて、という事か。小賢しい!


「遥香、バニラ、ヒルデ。一気に離脱する。シールドスフィアを頼む。」


【シールドスフィア】


バニラがオレたちを囲む様に防御魔法を展開。これなら防御貫通があろうと、こちらまで届かないので意味がない。とは言え、あの想定外の爆発力だ。時間はあまりない。

ライトクラフトを再び出し、急いで取り付ける。


「お父さん、アンティマジックは?」

「そんなの気にするな。こっちに来い。」


来た時のように、遥香を体の全面に固定する。


「ヒルデ、軽量化程度の効果は出せてるな?」

「ああ。重さは感じていない。」

「十分だ。バニラを抱き上げてくれ。」


ヒルデがバニラを抱き上げたのを見て、腰に腕を回し、装甲で良い感じに掴めるところを探る。ここかな?


「衝撃がキツいぞ。目を閉じて、覚悟しろ。」

『う、うん。』


いつかユキを抱えてやったヤツを、今回は小柄な3人を抱えてやる。


「解除したら一気に行く。カウント3、2、1、やれ!」


【シールド・エア】【エア・ストライク】


解除と入れ替わる様に球体状に風属性の防御魔法を展開し、エア・ストライクで自爆する。

その衝撃でオレたちは勢い良く斜めに空へと打ち上げられ、一気に賊連中から離れた。

10秒で魔法の影響外どころではない距離を稼げたので、制動を掛ける。


【エア・ストライク】


シールドが壊れない程度に弱いものを当て、徐々に減速する。


「ヒルデ、生きてるか?」

「だ、大丈夫だ!センサーがおかしくなりそうだが…飛べる。」

「上出来だ。」


掴んでいた手を離しても落ちる様子はなく、ちゃんと自力で飛べている。

防御魔法を解除し、ヒルデと手を繋いだ状態で、オレもライトクラフトで飛び始める。


「バニラと遥香は大丈夫か?」


ついでに聞いておこう。


「潰れたクリームパンになりそうだ…」

「同じく…」


ダメそうだった。




一度、誰もいない街道の休憩地点に降りて、簡易小屋を建てる。一泊するつもりはないが、寒いからな。

潰れたクリームパンになり欠けた二人が、落ち着いた所で3日の遅刻の理由を訪ねる。


「見送った直後に大物の一部が表層まで出てきた。それは禍々しい姿だが、不安定でよく分からなかった。」

「看破は通って、名前は分かっている。アビス・ディザスターと言う名だった。災厄の名に相応しい風貌だったよ…」

「ああ、あれか…」


RTAで一番頭を悩ました相手だ。少人数、限定された装備、消耗品で戦うような相手じゃないからな。


「死んでも安い、と言えるなら、この人数でもやれるがそうもいかないからな…」

「……」


遥香の視線が痛い。ビームソードの件があったからな…


「どっちにしても、真正面から殴り合う相手ではない。それをやるならOBたちをかき集めて、犠牲覚悟でようやくという相手だ。」

「…そんなに強いんだ。」

「お前が撤退に文句言わなかったくらいだからな。」

「…あんな恐ろしい気配は初めてだった。」


怖いもの知らずの遥香さえ恐れさせるには十分な相手だ。三大害悪の一角は伊達じゃない。


「物理は効かず、聖属性攻撃以外は吸収する。生半可な魔法は通らないって事だ。」

「無効じゃなくて吸収か…」


手がない訳じゃないが、その話はまた今度にしよう。それより聞きたいことがある。


「アビス・ディザスターが出てきたのは分かった。なんで三日も手間取って、あんなのに囲まれていた?」

「…落とした通話器を探していた。」


あんまりな理由だった。


「連中に狙撃され、ビックリして落としてしまったんだ…」

「向こうに渡ってる可能性は?」

「いや、回収したから大丈夫だ。壊れてしまったが。」


不穏な勢力の手に渡るのを嫌がったか。

オレたちに対し、恨みしか抱いてなさそうな連中だ。やり取りが筒抜けになるのは避けたい。


「そうか。じゃあ、これ以上は何も言わない。」

「落とさない様にする道具や仕組みが必要だな。」

「それもだが、ヒルデのアンティマジック対策が急務だ。」

「あんな魔法は初めてだ。今は想像しない魔法がいっぱいだな。お前の異常な魔力爆発もだ。」

「ヴォイドか?」


そう言って、掌に小さなヴォイド属性の球体を作ってみせる。

眼鏡を外してよく見る遥香と、目をパチパチさせるヒルデ。


「父さんの魔力は本当に緻密で綺麗だな。無駄が全くない。」

「計測できない…いや、魔力が渦巻いているのは確かだが、観測できない。」


ヒルデが指を伸ばしてきたので、慌てて遠ざける。


「触ると指が消えるぞ。」

「えっ」


慌てて指を引っ込める。

指どころか、この小屋が消えるからな…


「私も最初は見えなかったけど、今なら見えるよ。」


遥香は魔眼だし、普通とは見え方が違いそうだ。


「やっぱり金色、時々虹色なんだよね…これはサクラと戦った頃から変わらない。」

「わたしにはハッキリ虹色に見えているんだがなぁ…不思議な個人差だ。」

「魔法に対する適性の差かもしれんな。オレも遥香と変わらないよ。」


納得いかない様子で三人揃ってオレを見る。


『適性の差…?』

「なんでそんな顔をする。」


納得がいかないのはこちらである。


「わたしは父さんのように魔法は使えないぞ?」

「オレより魔法を知ってるし、扱えているだろうが。」

「…扱えているか?」

「…うーん?」


問われて首を傾げる遥香。ヒルデも難しい顔で腕を組んでいる。


「もう大丈夫そうだな。さっさと帰るぞ。」


そう言って、すぐに屋根を片付ける。


「さむっ!」

「せめて防寒着くらい待ってよ!」


有無を言わさずに壁、床と片付け、帰る準備を終えた。

ライトクラフトを装着している間に、三人も準備を終える。


「一応、拾った辺りを見ておくか。遥香。」

「うん。ゴーグルを外しておく。」


意図を察し、ゴーグルを外して目を閉じる。

ゆっくりと空へと浮上していくが、既に雪でまともに見えない。感知でも少し距離がありすぎる。


「…いる。

でも、ほとんど地上に出てないみたい。」

「帰らずの地はあれのせいかもなぁ…」

「単純に魔物が強すぎると思うんだけど。」

「それもあるが、それだけとも思えないんだよ。あそこ由来の道具が少なすぎるからな。

いくら強いと言っても、騎士団を動かせばなんとかなるレベルだ。強化も出来る。

過去に大失敗してるんじゃないか?」


オレの仮説にバニラと遥香が顔を見合わせた。


「ああ、バルサス遠征事件があったな。」

「授業で習ったよ。脱走に近い形で戻ってきた人ばかりだったって。」

「禁忌扱いになってそうだな…」


帰らずの地の理由が分かった。

そんな大失敗を経験していたら、命を預かる立場なら敬遠するだろう。実入りは良いが、リスクがあまりにも大きすぎた。


「行ったこと、公言しない方が良さそうだよね…」

「エディさん経由で、陛下にもこっそりくらいが良いだろう。」


とりあえずの方針が決まる。

報告まで済ませて、のんびりと春まで過ごしたいものだ。研究するものが多いが…


「アリス、二人を回収したからこれから帰る。」

『はいはい。歓迎会の準備をしておくから、寄り道しないでね。』

「そんな暇もないよ。」


ようやく、ヒルデを連れての帰還となった。

数多の装置とその知識を得たことで、オレたちの様々な研究や開発が進むことになる。

エルディー魔法国内への還元はまだ先になるが、大きな発展への助力となる事は間違いない。

これ以上の報酬は出せない、との詫び状が陛下からエディさん経由で送られてくるが、オレたちはそれで気にしなかった。

可愛い子供たちに、大きな発展の恩恵を与えられる。それだけで十分なのだから。

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