番外編 〈魔国英雄〉達はバルサスの遺跡から逃げ出す
〈魔国英雄ヒガン〉
最終日の朝。雪が深く降り積もったが、ロードヒーティングのおかげでキャンプ地は無事である。この辺りはもう雨季に入ってしまったか。
「もうお墓も埋まっちゃってそうだね…」
「安心しろ。ちゃんとお前の分も話をした。お菓子が美味しかったって喜んでいたよ。」
『えっ』
そのヒルデの言葉に全員が思わず声を出す。
「お化けなんて嘘じゃなかったの…?」
「ゴーストも食事をするのですね…」
オレも食事をする事実にビックリだよ。
「フリューゲルはしぶといぞ。肉体を失っただけでは死なない。だから、機械人形に魂を移す技術が生まれたんだ。」
「あー、そうだったんだー」
「だが、その分、強大な魔素へと変質する。地下の魔物を生んでいる原因は同胞だよ。
滅亡の一因は、同胞同士の殺し合いだった事は過言ではない。」
意を決して梓が言う。
「もう一機、組もう。そうすれば」
「アズサ、良いんだ。もうあの子は満足なんだよ。フリューゲルで誰よりも働き、魂が磨り減るくらい務めを果たした。もう良いんだ。」
「…そっか。」
「解ってくれてありがとう。」
「…うん。」
納得いかないのだろう。でも、ヒルデにそう言われては、受け入れるしかない様だ。
「じゃあ、最後の調査に向かうか。組み合わせは…」
「同じで良いと思うぞ。父さんとヒルデが組めば良い。」
「じゃあ、それで行こう。装備は最低限で良いからな。」
「分かったよ。」
こうして、最後の調査が始まった。
なかなか派手に暴れたから、得るものが残っていれば良いが…
時々、残っていた魔物を潰し、浄化を掛け直しつつ調査を進める。
工場は魔物も利用していたようで、無事なものが思った以上に多かった。
「とは言え、オレにはよく分からないな…」
「無事なタブレットと材料だけ確保すれば良い。後はアズサが何とかしてくれるさ。」
「父として不甲斐ない…」
「そう思うなら、帰ってから知識を増やすんだな。」
残っていた何かのパーツをヒルデから投げ渡される。何に使うんだこの輪っか?
よく分からないが、しまっておく。
「後は…このタンクの中身も使えるな。まだ精製されたばかりのようだ。」
「魔物が作ったのか?」
「そういう事なのだろう。とても人が生き残れる場所じゃないからな。」
若干の知性があるゴブリンやオーガだけでなく、虫や獣も多かった。これを人間がどうこうしているとは思えない。
デーモンが居る可能性もあったが、確認する余裕もなかったからな。
亜空間収納に、タンクの中身を納めていく。これで研究が捗ると良いが。
「春まで無事に残っていると良いが。」
「何故だ?」
「こういうのって、配管の形も意味があるっぽいんだよ。うちの絵描きに描かせておきたいなと思って。」
「なるほど…」
「だが、魔法や錬金術なら、それを克服できるとも思っている。」
「そうあってもらいたいな。」
立って手の汚れを払う。
ヒルデもオレの真似をして、腰に手を当てながら笑みを浮かべた。
改めてしっかり見ると、バニラよりだいぶ気の強そうな顔付きである。自信満々といった立ち振舞いにも思える。
「どうした?私の顔に何か付いているか?」
「いいや。良い表情をするな、と思ってな。」
「なるほど。これがバニラの言っていた『ナチュラルにたらし込む』というヤツか?」
「人聞きが悪い!」
この短い期間に、バニラに何を仕込まれているんだ…
「私は嬉しいんだ。ちゃんと娘たちと同じ様に扱って貰えているからな。」
そう言って、体を密着させてくる。とても冷たい。
「冷たい。風邪を引きそうだ。」
「連れないヤツだ。」
オレの肩を二度と叩いて離れる。
「しかし、柔らかさは本物だな?」
「体の大きさは本来のものだ。見た目もそう変わらないと思っている。」
「ふむ…」
身長は遥香と同じくらいでさほど高くはない。が、体型は完全に女性のものだ。アリス程ではないが…といったところか。
「真剣に分析されるのはちょっと…」
照れた様子で胸元を隠す。さっきその氷水風船を押し付けてただろうに。
「失礼なことを考えてたな?」
「いいや?」
そう言って、オレは建物から出る。
「ふん。そういう事にしといてやる。」
足早に付いて来たと思いきや、独特の足音が止まる。
「どうした?」
「いや…何か」
ヒルデが耳のセンサー手を当てた瞬間、オレも胸騒ぎがする。
「ああ、この感じは…」
「分かるのか?」
ヒルデに尋ねられ、頷く。
「下からボスのお出ましだ。」
これ以上の長居は出来そうになかった。
オレたちはすぐに撤収し、家の方にも連絡する。
『早かったわね。何かあったの?』
「下層からボスが上がってきていた。今の人数と装備じゃ厳しいからすぐに戻る。」
『すぐ準備するわ。アクア、この子お願い。』
「すまんな。」
準備を終えたところでバニラとヒルデがやって来る。
「父さん、わたしたちは飛んで帰る。」
「…そうか。」
「反対しないのか?」
少し躊躇ったが、事情は分かっているつもりだ。
「テレポーターの人数制限があるからな。それに、残るならお前以上の適任は居ないと思っている。」
動作チェックを出来るのはバニラだけだ。それなら、挙動の確認からその後まで、バニラに見てもらうのが良いだろう。
「ヒルデ、おねーちゃんをよろしくね。」
「お姉ちゃん、向こうで待ってるから。」
「バニラ、ヒルデの歓迎会の準備をしておきますわ。」
思い出したかのように外套を出す遥香。
「ヒルデ、お気に入りだから返してね。お姉ちゃんに預けておくから。」
遥香の代名詞になりつつある白い外套は、バニラに預けられた。
「ハルカ、感謝するよ。」
「そういうのは、ちゃんとお姉ちゃんを連れて帰って来てからにして。」
遥香とヒルデが話している間に、魔石結晶を5つ作る。
「バニラ、これでありったけだ。持っていけ。」
「助かるよ。」
何かの豆を渡すような気持ちで魔石結晶を渡す。なんだったか、記憶から引き出せないな。
「オレのビームソードも一応持っていけ。バニラに預けておくから。」
「ああ。」
ヒルデも借りていた服を脱ぎ、アズサの協力を得て装甲を装着する。
「ヒルデ、専用ハンガー考えておくね。」
「それは楽しみだ。」
「おう、梓、それはフラグだ。」
「えー」
そんなやり取りをしていると、アリスから準備ができたという連絡が入る。
『バニラは戻らないのね?』
「ああ。ちゃんと見届けたいんだ。」
『そう。同行の娘、うちのヤンチャ娘をよろしくね。』
「任せてくれ。」
「心配のしすぎだ。」
『親はいつだって子供の心配をするものよ?』
「全く。実の親に聞かせたいよ。」
手にした携帯テレポーターが輝き出す。
「ヒルデ。」
「どうした?」
「帰りを待っているぞ。」
「…ああ!」
このやり取りの直後、視界が光に包まれ、目を閉じる。
「みんな、お帰り!」
ほぼ瞬時に帰宅していた。
「ただいま、アリス、カトリーナ、ユキ…そして、子供たち。」
子供を潰さないように気を付けて、全員を抱き締める。人数が多くて抱き締める、とは言い難い姿だが。
娘たちも当然可愛いが、実子との再会はやはり格別だった。
遥香と梓も装備を外して、一人ずつ抱き締めていく。
「後はバニラだけね…」
「二人を信じよう。」
オレの言葉に、その場にいる全員が頷いた。
通話器からの連絡もなく、3日が経っていた。
その間に、梓から予備パーツでライトクラフトを1機組んでもらい、遥香と一緒に迎えに行くことにした。
バニラの魔力は大きく、質にも特徴がある。近くにいるなら分かるはずだ。
「…やっぱり心配だよね。」
しがみつき、オレの胸に顔を埋めながら遥香が言う。
わりとバニラに憎まれ口を叩く事が多い遥香だが、こういう時は流石にそういう事はしない様だ。
「そりゃそうだ。二日、三日の差だが、一番付き合いが長いのがバニラだからな。
お前も梓がこういう事態になれば心配だろ?」
「うん。信じてても心配。あと、外套も心配。」
ヒルデが、とは言わない辺り、素直ではない。
頭をいつも通り撫でると、呻き声が帰って来た。
「もう子供扱いは止めてよ…」
「親にとって、子供はいつまでも子供だよ。バニラもそうだ。」
「お姉ちゃんは子供だと思ってないと思うよ?」
「…それはそれだ。」
30年後の不安が今でも拭えない。
ヒルデに対する好意も、なんだか歪で不安である。
「早くバニラを見つけるぞ。野放しにしておけない。」
「お姉ちゃんが聞いたら怒りそうだけど…うん、そうしよう。」
ゆっくりとバルサス方面へ向かって空を飛びつつ、感知スキルを駆使して調べる。
獣、魔獣はいるが、バニラは見つからない。
「お父さん、狼煙みたいに何か上げられない?」
「狼煙か…」
空中で止まり、何か良い魔法がないか考える。
「遥香、一発ぶちかます。その後はここで待っていて貰えるか?」
「うん。派手なの一発お願い。」
地面に降り立ち、遥香と離れる。
バニラなら気付く、バニラなら分かる魔法と言えばこれしかない。
剣を抜き、空に掲げる。
【ヴォイド・ブラスト】
今まで撃ったことのない規模でヴォイド・ブラストを空に向かって放つ。時間で30秒。
「ふぅ…」
剣を鞘に納め、宙に浮かぶ。
「かなりの出力だったけどだいじょ」
遥香が言葉の途中でハッとなる。
同じタイミングでオレも気付く。
「時間が惜しい。掴まれ。」
「うん。」
遥香を抱き上げ、感知に掛かった場所へと向かう。
微弱だが、確かにバニラの物だった。
距離があるわけではない。だが、あのバニラの魔力がここまで弱い理由が分からない。
「お姉ちゃん…」
オレにしがみつく手に力が入る。
気持ちは分かる。オレも不安になってきた。
すぐにその場所、荒野と針葉樹林の境界に辿り着くと、バニラたちが囲まれている。
しかも、魔物ではなく、人に。
「お父さん!」
「いけ!」
遥香が体を固定するベルトを外すと、オレの太腿を蹴って、弾丸の様に二人の前に着地する。
うぐおお…骨にヒビが入るかと思うほどの衝撃。涙目になりながら回復し、剣と盾を準備してから、座り込む二人を挟んで遥香と背中合わせになるように降り立った。
「バニラ、遅刻だぞ。」
「…済まない。」
ライトクラフトをしまい、バニラにポーションを渡す。
「お姉ちゃん、この殿方達とのご関係は?」
やつれ、やさぐれた、どう見ても賊としか見えない連中だ。
「同級生らしい。どうやら粛清を逃れて落ち延びて来たようだ。」
数本の矢が飛んでくるが、全て盾で叩き落とす。
「アンティマジックをやられた。私は無事だが、ヒルデが影響を受けて…」
「済まない…体が動かないんだ…」
全身が魔導具みたいなもので、制御力と無縁で動いているからな。意外な弱点が露見してしまった。
「遺跡のあいつが近くて、魔法も遠慮していたんだ。」
「追ってきているのか?」
「ああ。間違いない。」
アンティマジックで感知が邪魔されているな…
ここを切り抜けないとダメか。
「ヒルデ、走れるか?」
「やっと再調整出来た。メインスラスターも…くそっ!ダメか!」
「飛ばなくて良い。曳いて走れるな?」
「ああ。」
「遥香、突破口を開け。殿は任せろ。」
「わかった!」
【アースウォール】
ずっと飛んで来ている、鬱陶しい矢を避ける壁を作る。アンティマジックを物ともしない事に、相手の魔導師は唖然としていた。
バニラもシールドスフィアで凌いでいたんだ。オレに出来ないはずがないだろう。
【フォールピット】【シャドーバインド】
回り込もうとしたヤツらが落とし穴に落ち、踏み留まったヤツも、後ろのヤツが足を掴まれて転んだことで何人か落ちていった。
その間に、遥香が飛び出し、魔導弓で追っ手の肩や腿を撃ち抜く。これにも下手なアンティマジックは通らない。
悲鳴と怒号が木霊する。なんというか、哀れすぎて耳に入らない。努力や変革を放棄した人間が喚いているに過ぎないからな。
ユキともこっちで出会ったが、追い詰められた放浪者を呼び込む何かがあるのだろうか?
そんなことを考えていると、矢が肩に当たる。だが、服すら貫けない。
…なんだか、必死になってたのがバカらしく
【バリア・オール】
バニラの魔法と同時に矢が大爆発する。なんだ?どういう仕組みだ?
防御魔法は一撃で破られている。
「防御貫通してくるぞ!」
油断させて、という事か。小賢しい!
「遥香、バニラ、ヒルデ。一気に離脱する。シールドスフィアを頼む。」
【シールドスフィア】
バニラがオレたちを囲む様に防御魔法を展開。これなら防御貫通があろうと、こちらまで届かないので意味がない。とは言え、あの想定外の爆発力だ。時間はあまりない。
ライトクラフトを再び出し、急いで取り付ける。
「お父さん、アンティマジックは?」
「そんなの気にするな。こっちに来い。」
来た時のように、遥香を体の全面に固定する。
「ヒルデ、軽量化程度の効果は出せてるな?」
「ああ。重さは感じていない。」
「十分だ。バニラを抱き上げてくれ。」
ヒルデがバニラを抱き上げたのを見て、腰に腕を回し、装甲で良い感じに掴めるところを探る。ここかな?
「衝撃がキツいぞ。目を閉じて、覚悟しろ。」
『う、うん。』
いつかユキを抱えてやったヤツを、今回は小柄な3人を抱えてやる。
「解除したら一気に行く。カウント3、2、1、やれ!」
【シールド・エア】【エア・ストライク】
解除と入れ替わる様に球体状に風属性の防御魔法を展開し、エア・ストライクで自爆する。
その衝撃でオレたちは勢い良く斜めに空へと打ち上げられ、一気に賊連中から離れた。
10秒で魔法の影響外どころではない距離を稼げたので、制動を掛ける。
【エア・ストライク】
シールドが壊れない程度に弱いものを当て、徐々に減速する。
「ヒルデ、生きてるか?」
「だ、大丈夫だ!センサーがおかしくなりそうだが…飛べる。」
「上出来だ。」
掴んでいた手を離しても落ちる様子はなく、ちゃんと自力で飛べている。
防御魔法を解除し、ヒルデと手を繋いだ状態で、オレもライトクラフトで飛び始める。
「バニラと遥香は大丈夫か?」
ついでに聞いておこう。
「潰れたクリームパンになりそうだ…」
「同じく…」
ダメそうだった。
一度、誰もいない街道の休憩地点に降りて、簡易小屋を建てる。一泊するつもりはないが、寒いからな。
潰れたクリームパンになり欠けた二人が、落ち着いた所で3日の遅刻の理由を訪ねる。
「見送った直後に大物の一部が表層まで出てきた。それは禍々しい姿だが、不安定でよく分からなかった。」
「看破は通って、名前は分かっている。アビス・ディザスターと言う名だった。災厄の名に相応しい風貌だったよ…」
「ああ、あれか…」
RTAで一番頭を悩ました相手だ。少人数、限定された装備、消耗品で戦うような相手じゃないからな。
「死んでも安い、と言えるなら、この人数でもやれるがそうもいかないからな…」
「……」
遥香の視線が痛い。ビームソードの件があったからな…
「どっちにしても、真正面から殴り合う相手ではない。それをやるならOBたちをかき集めて、犠牲覚悟でようやくという相手だ。」
「…そんなに強いんだ。」
「お前が撤退に文句言わなかったくらいだからな。」
「…あんな恐ろしい気配は初めてだった。」
怖いもの知らずの遥香さえ恐れさせるには十分な相手だ。三大害悪の一角は伊達じゃない。
「物理は効かず、聖属性攻撃以外は吸収する。生半可な魔法は通らないって事だ。」
「無効じゃなくて吸収か…」
手がない訳じゃないが、その話はまた今度にしよう。それより聞きたいことがある。
「アビス・ディザスターが出てきたのは分かった。なんで三日も手間取って、あんなのに囲まれていた?」
「…落とした通話器を探していた。」
あんまりな理由だった。
「連中に狙撃され、ビックリして落としてしまったんだ…」
「向こうに渡ってる可能性は?」
「いや、回収したから大丈夫だ。壊れてしまったが。」
不穏な勢力の手に渡るのを嫌がったか。
オレたちに対し、恨みしか抱いてなさそうな連中だ。やり取りが筒抜けになるのは避けたい。
「そうか。じゃあ、これ以上は何も言わない。」
「落とさない様にする道具や仕組みが必要だな。」
「それもだが、ヒルデのアンティマジック対策が急務だ。」
「あんな魔法は初めてだ。今は想像しない魔法がいっぱいだな。お前の異常な魔力爆発もだ。」
「ヴォイドか?」
そう言って、掌に小さなヴォイド属性の球体を作ってみせる。
眼鏡を外してよく見る遥香と、目をパチパチさせるヒルデ。
「父さんの魔力は本当に緻密で綺麗だな。無駄が全くない。」
「計測できない…いや、魔力が渦巻いているのは確かだが、観測できない。」
ヒルデが指を伸ばしてきたので、慌てて遠ざける。
「触ると指が消えるぞ。」
「えっ」
慌てて指を引っ込める。
指どころか、この小屋が消えるからな…
「私も最初は見えなかったけど、今なら見えるよ。」
遥香は魔眼だし、普通とは見え方が違いそうだ。
「やっぱり金色、時々虹色なんだよね…これはサクラと戦った頃から変わらない。」
「わたしにはハッキリ虹色に見えているんだがなぁ…不思議な個人差だ。」
「魔法に対する適性の差かもしれんな。オレも遥香と変わらないよ。」
納得いかない様子で三人揃ってオレを見る。
『適性の差…?』
「なんでそんな顔をする。」
納得がいかないのはこちらである。
「わたしは父さんのように魔法は使えないぞ?」
「オレより魔法を知ってるし、扱えているだろうが。」
「…扱えているか?」
「…うーん?」
問われて首を傾げる遥香。ヒルデも難しい顔で腕を組んでいる。
「もう大丈夫そうだな。さっさと帰るぞ。」
そう言って、すぐに屋根を片付ける。
「さむっ!」
「せめて防寒着くらい待ってよ!」
有無を言わさずに壁、床と片付け、帰る準備を終えた。
ライトクラフトを装着している間に、三人も準備を終える。
「一応、拾った辺りを見ておくか。遥香。」
「うん。ゴーグルを外しておく。」
意図を察し、ゴーグルを外して目を閉じる。
ゆっくりと空へと浮上していくが、既に雪でまともに見えない。感知でも少し距離がありすぎる。
「…いる。
でも、ほとんど地上に出てないみたい。」
「帰らずの地はあれのせいかもなぁ…」
「単純に魔物が強すぎると思うんだけど。」
「それもあるが、それだけとも思えないんだよ。あそこ由来の道具が少なすぎるからな。
いくら強いと言っても、騎士団を動かせばなんとかなるレベルだ。強化も出来る。
過去に大失敗してるんじゃないか?」
オレの仮説にバニラと遥香が顔を見合わせた。
「ああ、バルサス遠征事件があったな。」
「授業で習ったよ。脱走に近い形で戻ってきた人ばかりだったって。」
「禁忌扱いになってそうだな…」
帰らずの地の理由が分かった。
そんな大失敗を経験していたら、命を預かる立場なら敬遠するだろう。実入りは良いが、リスクがあまりにも大きすぎた。
「行ったこと、公言しない方が良さそうだよね…」
「エディさん経由で、陛下にもこっそりくらいが良いだろう。」
とりあえずの方針が決まる。
報告まで済ませて、のんびりと春まで過ごしたいものだ。研究するものが多いが…
「アリス、二人を回収したからこれから帰る。」
『はいはい。歓迎会の準備をしておくから、寄り道しないでね。』
「そんな暇もないよ。」
ようやく、ヒルデを連れての帰還となった。
数多の装置とその知識を得たことで、オレたちの様々な研究や開発が進むことになる。
エルディー魔法国内への還元はまだ先になるが、大きな発展への助力となる事は間違いない。
これ以上の報酬は出せない、との詫び状が陛下からエディさん経由で送られてくるが、オレたちはそれで気にしなかった。
可愛い子供たちに、大きな発展の恩恵を与えられる。それだけで十分なのだから。