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召喚者は一家を支える。  作者: RayRim
第1.5部
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番外編 〈魔国英雄〉達はバルサスの遺跡へ潜る

〈魔国英雄ヒガン〉


残存する建造物も少なく、1日で表層は調査が完了した。

相変わらずネズミが様子を伺っているが、手を出してくる様子はない。鬱陶しいが。


残っていた建物は既に荒らされた形跡があり、何か運び出した様子だった。テレポーターはそこにあった可能性が高い。

という事で、もう表層では得られるものは無いと判断し、3日目からは地下を探索することにした。


早めに切り上げた事で時間ができ、皆でタブレットを読んでまとめることにした。フィオナは読めないので、明日の準備をしてもらっている。


中でも一番気になったのは日記だったので、最期から読むことにした。

読み終えて、その高潔さにタメ息が漏れる。

諦めや絶望、最後の一人になった恐怖は当然書かれている。 それ以上に、為すべき事を為したという達成感が圧倒的だ。

どうも、本人は落ちこぼれに近い能力だったらしく、天空都市における魔力…神力がとても低かったのが、延命できていた理由と推測している。簡易ながらマナの変換補助装置が作れた事、自ら象徴たる翼を放棄した事も大きい。

フリューゲルをフリューゲルたらしめる光の翼。それを捨てる事に後悔は当然あった。だが、翼がマナの吸収を過剰に行っている以上、放棄するしかないと判断したようだ。

亜人従者の服を改造し、更にマナの吸収を減らす。これ以上ないくらい、献身的な最後の一人の姿が遺されていた。


「私はやり遂げた。ただ一人の家族も、ただ一人の同胞も見捨てる事なく見送った。もう思い残す事はない。ただ、残念に思うのは、最後のお茶に合うお菓子を用意できなかった事くらいだ…か。」


多分、気持ちが分かるのはエディさんくらいだろう。あの人は、いったいどれだけの身内を見送ったんだろうな…


「日記は別にしておくぞ。読んでも大丈夫だからな。」

『とんでもないネタバレを喰らってしまった件。』


全身全霊を以て深く謝罪した。





地下探索の前にやるべき事がある。

最後の一人…娘たちに『アイ』と呼称される、名前の分からないフリューゲルの墓にお菓子をそれぞれが一つずつお供えしていた。

その行為、目的に愛情があったのか?性別は分からないが良いのか?という野暮なツッコミは控える。最後の一人に確実に先頭になる名前というのは良いな、と思ってしまった。


ネタバレを喰らったら泣けない、と言っていたのにぐずぐずになってた娘たち。後から書き写された物を読んで、フィオナも目を潤ませていた。

皆、何か心を打つものがあったようだ。

それは生い立ちか、生き様か、最後の姿か…これを聞くのも野暮だろう。


気を取り直して地下探索。ここからが本番だ。

日記にも地下の事は書かれており、早々に最下層は魔素溜まりが発生していたようだ。

文字通り、命を懸けたフリューゲル達による結界の生成により、1000年以上に及ぶ封印が成されている。フリューゲルという種族の強さはそれが証明していた。


「戦ってみたかった…」

「ヘイムダル程じゃないだろうが強いだろうな。」


遥香の呟きに答える。あれはもう神と呼んでも良いレベルだからな。

階段を降りていると、既に領域に入っている事を察する。

結界は効いているが、弱いヤツは抑えられてないようだ。


「調査はゴミ掃除をしてからだ。ヴォイド、広範囲ブラストは禁止、梓も攻撃は極力避けろ。」

「わかってるー。」


打撃武器は周囲のものを壊しやすいからな…

階段を降り切ると魔物気配がこちらに向かってくる。耳も鼻も良いようだ。


「バニラ。」

「準備だ。」


【シールドスフィア】


有無を言わさない攻撃がバニラの防御魔法にぶつかった。

事前の打ち合わせ通り、先頭のオレが盾を構え、光源となる光の玉を浮かせて走る。

居たのはゴブリン。本当に何処でも湧くな!

ゴブリン・マジックソード、とも呼ぶべきか、ここに遺された光る武器を使い、魔法を撃ってきていた。


【エンチャント・ダーク】


闇属性をエンチャントし迎え撃つ。


「絶対に武器で受けないで!多分、武器が負けるから!」


ゴブリンの武器を見た梓が言う。オリハルコンじゃダメなようだ。

盾に意識を集中し、ゴブリンの斬擊を受ける。

偽装の革はあっさり破られるが、盾は無傷だ。

盾で受けられるならいける。やれる!


【ダーク・ストライク】


喰らったゴブリンは胴体が潰れ、息絶える。

武器は厄介だが、防具はなんて事無いな。

フィオナの援護の魔法矢が後続に突き刺さり、同様に体が潰される。あれも闇属性か。


「残り5!遥香!」

「うん!」


左をオレが、右を遥香が切り払う。

残ったのは後衛装備だけ。


【ダーク・ストライク】


バニラの魔法が中央を飲み込み、まごまごしている両脇を一気に斬り伏せた。


「ふう。残存なし。遥香、今日も良い動きだったぞ。」

「はぁ。物足りない。」

「まだ始まったばかりだ。その感想は一日が終わるのを待つんだな。」


剣を納め、頭をくしゃくしゃに撫でる。

後ろでは梓とバニラが戦利品を吟味していた。


「おとーちゃん、これ使ってみる?」


投げ渡されたのは金属製の筒。ゴブリンが使っていた剣だ。上下は…わかりにくいな?

魔力に反応して輝く刀身部分が伸びる。なんだか心を揺さぶる武器だ。


「良い顔するねー。」


ニヤニヤする梓。顔に出てしまっていたようだ。


「ここで使うことにするよ。」

「お父さん、これをぶつけ合うとどうなるの?」

「爆発する。」

「えっ!?」


久し振りに遥香がビックリする顔を見る。


「じょ、冗談でしょ?」

「冗談じゃないからねー?」

「試してみるか?」

「か、確認したい。」


【バリア・マジック】【シールドスフィア】


バニラが全員に防御魔法を掛けた。


「いくぞ。」

「う、うん。」


触れ合う様に交差させると手に強烈な反発を感じ、爆発した。

バリアが一発で破壊され、シールドスフィアにも亀裂が走る。


「お、お父さん!?」


再びビックリする遥香の顔。流石に梓もバニラも想定外だった様だ。フィオナは呆気にとられている。


「あはは…二人の魔力が強すぎたんじゃないかな…?」


引きつった笑みで誤魔化す梓。


「梓ちゃん!?」

「ご、ごめん…」


流石にこれには梓も謝った。


「シールドスフィアが無かったら下敷きもあったな…」


震え声のバニラ。


「古代の兵器は恐ろしいですわね…」


フィオナは顔を青くしていた。


「デステレポって言って、RTAでやったな。」

「お父さん!!」


ビームソードをしまい、遥香がオレに詰め寄ってきて、首を掴む。これはマジギレの顔…!


「いい?二度目は許さないからね?首と頭が離れてお尻にキスする事になるからね?」

「…はい。」


父にはマジギレ四女の脅しを茶化せる勇気はありませんでした…


「とは言っても、この現象って力量が近くないと起きないんだよねー。

魔力の強さや制御力で圧倒してると、相手の刀身が消えちゃうんだよ。」

「…試したくないよ。」


さっきの爆発で懲りたのだろう。

げんなりした表情で首を傾けていた。


「…お父さんに魔力でも追い付いちゃったの?」

「合わせたんだよ。流石に魔力で負けるわけにはいかない。」

「ふーん?」


合わせたのは確かだが、うかうかしてられない強さだった。完全に追い越される日も近いかもしれない。


「魔法も撃ってたな。不思議な武器だ。」

「魔法じゃなくて、刀身を撃ち出してるんだよー。ビームソードガンってところかなー」


バニラの感想に答える梓。


「そうだったのか。オレも魔法だと思ってた。」

「基本的に整備はできない使い捨てと思って欲しいなー。分解のしかたも、素材も、作り方も分からないからねー」

「オーバーテクノロジーの品物か。しかたない 。」

「どっちかと言うと、ロストテクノロジーかもね。」


フリューゲルと共に失われた技術か…

表層と変わらぬ広さの地下一層。ここではどんな営みがあったのか、何か知れる物があれば良いが。


「さて、掃除を始めるぞ。遥香、ビームソードに慣れておけ。ここはそれが最適みたいだからな。」

「う…うん…」


嫌そうな顔でしまったビームソードを取り出す。

危なっかしいので使い方のコツを教えておく。

持ち方、振り方、撃ち方を軽く教えると、すぐ物にした。これも若さか…


「ハルカが特別なのですわ…」


察したフィオナが認識を正してくれた。助かるよ…


「重さが無さすぎて違和感が…」

「そこは慣れだな。ナックルガードとか付けて、軽すぎるのを軽減しているヤツとかいたよ。」

「そういう依頼もあったねー。これって共通規格で作られてるから、意外と需要もあったんだよ。本体交換するだけで良いし。」

「どっちが本体か分からないな。」


バニラさんや、それを言ってはいけない。散々、言われてたけどな。


「じゃあ、行こうか。早くここも調べたいし。」


遥香に急かされ、地下一層の休憩地点を確保することにした。

ここに巣食っているのはほぼゴブリン。たまにネズミの魔物もいるが、微かな魔素の影響を受けて魔物化し、ペットになっていた様だ。

倒した場所で浄化をしていくと、階層の嫌な感じが薄まっていく。

溜まってしまったものを掃除していくと、結界の状態がより安定していく。内の淀みが結界の綻びを生んでしまっていた様である。

最後のゴブリンたちを始末し、浄化をすると表層と変わらない感じになった。


「これは参ったな…」


オレのぼやきに遥香が首を傾げる。


「どうして?どんどん解放していけば良いんじゃないの?」

「日数が足りない。解放だけなら良いが、調査も必要だからな。」

「それはそうだけど、元からその覚悟で来てたし、困ることあるの?」

「遥香、これに対応できるのは、今のところわたしたちしかいないんだ。」

「あっ…」


遥香もそれで察したようだ。


「イグドラシルと同じ状況だよねー。ただ、得たものは私たちにしか扱えないし、扱わせるわけにもいかない。」

「そうだな。」

「あるものがどれも、世間の常識をひっくり返してしまうものですわ。バニラが匙加減を考えて出している様に感じるほどに。」


名前を出された当人は、何も言わないが納得いかない様子だ。だが、フィオナの言う通りだろう。どれも一足飛びどころではない。段階を経ていない技術は、得たところで根付かないだろう。


「儲けが出ない調査なんだね…」

「だが、将来に繋げられる調査だ。ここで得たものは秘匿し続ける事になるが、不安要素を取り除ける。」

「全部手に入れちゃうの?」

「そうだな。その上で、タブレットの内容は、書籍にして公表して良いと思っている。」


読んで動く者がいてもいい。だが、その者の為に何か残すつもりはない。今の亜人には分不相応な物ばかりだ。


「…後から来る人は大損だね。」

「そうだな。」


ギルドや王宮に報告する際は、宝は何もなかったと伝えねば。

話をしている内に階段まで戻ってきていた。


「どこで休憩するか。」

「ここで良いんじゃないか?」


バニラは投げやりな感じで言う。どこも同じということか。


「仮拠点だし、ここなら仮設トイレも近くに作れるねー。」


仮設トイレはぼっとん方式で、使用済みの箱はその時の担当者が責任を持って処理する。道中で中身を棄ててから洗浄、浄化をするだけなのだが、ここはキャンプ地に戻るまで捨てられそうにない。今回の担当は梓のようだ。


「じゃあ、ここに設置するぞ。」


表層の学校で使ったものを、そのまま全く同じ様に設置する。


「相変わらず、意味の分からない早さだよ…」

「組み立てるだけだからな。」


あらかじめ切って、ある程度は組んでおくのが時短のコツだ。


「じゃあ、調査の組み合わせは前と同じで良いな?」

「めぼしい物はなかったが、何か隠れているかもしれない。よく調べろよ。」

『おー。』


こうして、地下第一層の捜索が始まるが、特に何も見つからずに終わった。

あったのは、破壊された無数のタブレットや、がらくたの山。どれも原型を留めていない。

ゴブリンが巣くっている時点で、こうなっていたのは覚悟していたけどな…

昼食を終えたところで休憩室は撤収。そのまま第二層へ向かうことにした。

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