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召喚者は一家を支える。  作者: RayRim
第1.5部
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番外編 〈白閃法剣〉はダンジョンマスターと語り合う

〈白閃法剣ハルカ〉


ダンジョンマスターの加入により、訓練場が劇的な進化を遂げる。

あの日にお父さんが建てて、そのまま更衣室や、深雪祭の時には物置に使っていた小屋がダンジョンとなった。

だが、その小屋は色々と用途があるから、というリナお母さんのお言葉により、第二の小屋が建てられる事となる。 新たな訓練場、改め訓練ダンジョンは、入り口だけ広い小さめの小屋が担うこととなった。


「ここで色々な器具を試して、問題がなければ、建設中の大型訓練場に反映させたいな。」

「ウエイトトレーニングが出来そうだよね。

今まではしっかり鍛えることができなくて、不安だったから。」


バニラお姉ちゃんと、身の丈の3倍の大きさの岩を担いで屈伸が準備運動の内である柊お姉ちゃんが言う。

亜空間収納はきっと金属や岩だらけなのではないか…?


「そうだねー。重りにブルーメタルを使って、そういう器具作るのも良いかもしれないねー」


こういう話は梓ちゃんの領分で、アリスお母さんは特に何も言わない。というか、ずっと笑顔のままお父さんを見ている。

なんてものを連れてきたのだ、という無言の圧力を見ているだけで感じてしまう。近付かないでおこう…


『ところで、なんで三人も妊婦がいるの?貴族とかじゃないんでしょう?』

「お父さん、あれで英雄だからね。でも、ちゃんと実家があるのは一人だけだよ。一人は親を知らない様だし、一人は冤罪で絶縁されてる。」


桃色げろげろ妖精、改め『サクラ』が私に尋ねてきた。

私とは話がしやすいらしく、道中もずっとおしゃべり妖精の話し相手をしている。


『ハルカもだけど、訳ありだらけの一家なのね。人間ってもっと血の繋がりとか大事にすると思ってたんだけど…』

「そうじゃない人が行き着いてしまった、という感じかなぁ。特に大人たちはもう他にすがれず、という感じが多いね。」


多い、というかそういう人しかいない気がする。

例外はリナお母さんだが、お父さんに出会わなければ生涯独身だった、と本人が言うくらいなので、やはり訳ありしかいないようだ…


『人生色々というヤツね。まあ、こうして無事に妊婦やれてるなら良い人生なんじゃない?

旅の途中、洞窟内で産み捨てて行ったなんてのもあったわね。子供は養分にしたし、親も無事に生き延びてる気がしない様子だったけど。』


ダンジョンマスターとしては当然の事だろうから、とやかく言わないでおこう。

子供には気の毒だが、そんな所で産み捨てられて、無事でいられたら奇跡だ。


『入口は安全地帯にするのがお約束だからね。旅慣れた人ならみんな知ってる様だったし。』


休憩代としてレベルをいただくわけか。まあ、旅人も背に腹は代えられない、という事もあるだろう。


「そう言えば、レベルってなんなの?漠然としか考えてなかったけど。」

『…まあ、そうよね。そこまで育っても、普通は分からないし気付けないわよね。』


そう言って、咳払いを一つする。長くなりそうだ。


『レベルは魂の強度と言っても良いわね。魂を狩り、取り込み、研ぎ澄まされていく。取り込む過程で余分な物を削ぎ落とされ、その後の様々によって自分の一部となっていくの。

だから、急激にレベルが上がった段階では、不安定になる事もあるわね。』

「私たちはめちゃくちゃなレベルの上げかたしたけど、そんな事なかったと思うなぁ…」

『性格が変わっているだけで済むこともあるけど、レベル不相応の厳しい鍛え方をしてると、不安定になりにくいみたいね。』


リナお母さんの、地獄の猛訓練のお陰だったようだ…


『思い当たる節がありそうね?感謝しなさい。きっと、あなたはそれに救われたんだから。』


忌々しげに私を見るサクラ。


『あたしを殺したヤツのせめて精神だけでも、と思ったけど、上手くいかなかったのはきっとそのおかげなんだから。』

「あぁ、あの時の辛さはやっぱりサクラが原因だったんだ。」


苦々しい思い出だが、色々な切っ掛けを得た戦いだ。忘れる訳にはいかない。


『魂がかなり不安定だったのは分かってたから、死なばもろともで呪ったはずなのに…』

「大騒ぎだったよ。あのままここまで来て、それから休み無しでエルフの森の東部まで行ったから…」

『…そんな事して、正気だったのが不思議よ。』

「正気じゃなかったよ。洗浄も浄化も、食事も睡眠もせずに何日も走ったから正気じゃなかった。」


呪いを撒きながら迷子になったのも、後で無断越境ですごく怒られたのも、今となっては苦い思い出だ。


『結局、あたしはあなたに全く歯が立たなかったって訳ね。』

「そんな事ない。サクラとの戦いは多くの学びを得たから。あれは今でも大事な一戦。死ぬまで忘れない最悪の一戦になると思うよ。」

『それは光栄ね。最悪なあなたに最悪と思われるなら本望よ。』


そう言われ、私は思わず笑いながら拳をサクラに向ける。


『なによ?』

「拳をぶつけ合うんだよ。

お互いの最悪はもう友達だからね。」

『…全く。あなたは本当に最悪な相手よっ!』


ぺちっと音がするが痛くない。サクラは痛そうだったが。

本当に大変だった卒業までの2年。それを最悪な相手に認められたのは少し嬉しかった。





サクラのおかげで訓練場が使われなくなる事が多くなり、代わりに子供達による雪像の展示会が行われる様になる。

安全だが、お母さんたちの目が届きにくくなるのを憂慮して、お姉ちゃんたちが提案したのだ。

最初は歪な雪だるまや、やたら積み上げられたスノーマンが多かったが、日数を重ねると雪の王宮や、可愛くされたアッシュ君が出来上がっていたりする。

色々な才能を発見できて、お母さん達だけでなく、私たちも訓練ダンジョンから出てくるのが楽しみになっていた。時々、みんなで大作を手伝ったりもしている。


ダンジョン潰しはローテーション制となり、私、ソニアちゃん、ジゼルが中心の班と、フィオナ、柊お姉ちゃん、梓ちゃんが中心の班の2班に分けられた。

どの班も更に三人連れてという事になるが、都合が合わない時はメイド達が穴埋めする感じになる。

バニラお姉ちゃんは、研究の状況次第といった感じだが、行き詰っている時は積極的に参加してくれた。


サクラの様な例はやはり存在せず、ちゃんとダンジョンマスターとして散っていく。

オーガのどちらかと会う可能性も考えたけど、残念ながらそれはなかった。

いや、まともに話の出来る相手がいなかったのだ。既に狂暴な魔物として活動しているものばかりで、サクラと会えたのは幸運だったのかもしれない。


『どうせまた生えてくるからいくらでも潰して上げて。でも、狂暴化していないのは本当に奇跡だから。

あたしはたまたま、小さな獣を数匹だけを喰らった状況であなたたちがやって来た。そんな幸運はこの先の季節はきっとないわよ。』


冬眠している大型の獣が、餌を求めて動き始めたらもう可能性は無いということだろう。


『でも、人語を話せるほどのボスなら、ちょっと分からないわね。次はまともである可能性は低いけど。』

「なんで?」

『ダンジョマスターの素質の無い者がなる訳だからね。異質な負荷で精神が壊れてる可能性が高い。

きっと、ダンジョンもかなり悲惨よ。まともな形をしてるなら御の字ね。』

「厄介なボスは死んでからも厄介なんだね…」


あのまま生け贄共々、成仏してくれれば良いのに。


『ハルカにそう言わせる程なら、一度会ってみたいわ。』

「サクラに負けないお喋りだったよ。しかも、戦闘中なのに。最後は喋ってる最中に首をはねたけど。」

『本当に容赦がないわね。一つ、良いことを教えて上げる。

変なダンジョンに入ったら、あらゆるものをとにかく壊しなさい。溜めたリソースを潰されるを嫌ってペナルティ無しで放り出されるわよ。』

「試してみよう。」

『やめて!剣を抜かないで!』

「冗談。」

『顔がマジだったじゃないの…』


不信げに私を見る。流石に事故以外でそんなことはしない。と思う。


『あのヴォイドとか呼んでる複合属性。あれの負荷でもえげつないリソースの消費してるんだから…

最初なんて、ダンジョンごと消し飛ぶかと思ったわよ。』

「お父さんに力を見せてみろ、なんて言うからだよ。」

『なんなのあの魔力の強さと密度、魔法の精密さ、式の無駄の無さ!あの強さは人類には早すぎるわよ!』

「ステータスも疑ってるからね…もう人類の物差しじゃ計れないよ。」

『神が匙を投げたのね…』


最近は言葉がお姉ちゃん達に寄ってきている気がする。匙を投げる、なんて他で聞かないし。


「相手にお父さんが居なくて良かったね。」

『良い笑顔で言われるとムカつくけど否定できない。あれでちゃんとチーム動かして戦うんでしょ?あたしなんて秒で死んでたわよ…』

「オーガはお父さんが復帰直後で張り切りすぎてたし、パーティーとしての熟成が進んでなかったから手こずった気がするんだよね。」

『今のあなたたちを止められるヤツがいたら参考にしたい…』

「オーディンくらいかなぁ。あれは別格でまだ敵う気がしない。」

『神様を含めないで頂戴。』


将来はイグドラシルくらいのダンジョンになるのか楽しみだ。

それなら、エルディーにいても鍛えられるからね。


『それにしても、ここは楽しい人が多いわね。子供達もだけど、あなたの姉も愉快なのばかりじゃない。

空飛ぶ装置なんて不可能だと思ってたわよ。』

「まだ納得してないみたいだけど。」

『光魔法の特性に気付くのも凄いけど、それを空飛ぶ魔導具として活用する発想も良いわね。

神聖視して、アンデッド退治にしか使わないと思ってたから。』


きっと、それがこの大陸の常識なのだろう。

お父さんに近い実力者は、そんな事ないと思っているが。


「宗教の問題があるからね。お母さんの一人も最初はお父さんの説明が受け入れられなかったみたいだよ。」

『信仰は厄介よね。確かに心の支えになるのでしょうけど、発想の制限になる方が多いから、冒険者に不要だと思うんだけど。』

「信仰があるから夜が怖くない人もいるんだよ。信仰が陽の光になって歩けるから。」

『…なるほど。』


私の説明に納得するサクラ。


「まあ、私たちの足元に、陽は照らされないのが解っちゃったけどね。」

『あなたたちに信仰の光は要らないわよ。信仰なんかじゃ、あなたたちの道は照らせそうにないもの。』

「それでも、心の支えになる人はいる。お先は誰も歩いてなくて真っ暗だからね。」

『意外と考えてるのね。力ばかり求めてるのかと思ってたけど。』


憎たらしげな笑みを浮かべ、私の足元を見る。


『その足は、光の無い道を何処まで歩けるのかしらね。』

「何処までもいけるよ。みんなで歩ける道なら、怖いことなんてないからね。」

『憎たらしい笑顔。

でも、あの殺意満々の感情の失せた顔より良いわね。』

「人の温かみが分かってきた?」

『わんこの気持ちが解ったわよ。あなたの言う一家の良さもちょっとだけね。

あたしには愉快な人たちという感じだけど。』


笑みで答えると、サクラは照れ臭そうに私から離れた。人と変わらない反応は好感が持てる。


『こら!備品は大事に扱いなさい!直すのにもリソース使うんだからね!』


監督が板について来たサクラ。

春が来たら私たちはここを離れる事になるけど、サクラは上手くやっていけると思う。

子供達との関係も良好だし、狂暴化もまだ見られない。このまま良い感じにやっていけたらいいな。

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