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召喚者は一家を支える。  作者: RayRim
第1.5部
122/308

番外編 〈魔国創士〉は未知の技術を得る。

〈魔国創士バニラ〉


思ったよりも作業が長引き、出来上がった試作品はようやく二つ。

一つは当初の予定通り、完全レバー操作型のもの。もう一つは、足で色々と操作できるものとなった。

両方にメリットがあるので、この二系統で開発を進める事になるだろう。


「こんな面白い改造できるなら、ゲームの頃におねーちゃんと知り合いたかったよ。なんで接点持てなかったんだろうね?」

「活動拠点が最前線と最後方だからな。接点が出来る方が不思議だよ。」

「あー、それもそっか。そもそも、私は他種族の初期町は観光でしか行ってないもんね…」


ドワーフとディモスでは接点は作れないだろう。まあ、うちのメンバーと知り合いだった可能性はあるが、言及してもお互い困るだけだしな。

そんな感じで話を長々としていると、テスト会場にした郊外の空き地に遅れて父さんがやって来た。今日のテストパイロットである。


「遅れてすまんな。」

「いいよ。事情は知ってるから。」


母達の定期検診に立ち会っていたのだ。文句なんて言うはずがない。

ジッと梓の姿を見る父さん。どうしたのだろうか?


「まるで雪ん子と遊ぶ子供みたいだな。」

「あー、既視感の正体はそれだったか…」


梓の姿に見覚えがあるはずだ。流石に藁の帽子ではないが、頭の側面を覆う毛糸の帽子がそれっぽかった。


「えへへー。ちょっと狙って注文してみたんだー」

「妹よ、妖怪扱いだが良いのか?」

「脱法ロリも大概じゃない?」

「…否定できない。」


度々、脱法ロリと呼ばれるが、その通りなので否定し難い。早く成長したい。


「アシストスーツの改良と聞いたが、詳しく教えてくれ。」


父さんに尋ねられたので、両方の概要を解説し、それから最初に試験するレバー式の方を説明する。


「わかった。早速テストしよう。」


流石は父さん。すぐに使いこなし、存分に楽しんでから戻ってきた。

挙動に怪しいところもないし、暴走の気配もない。実証試験は成功と言って良いだろう。


「お疲れ。どうだった?」

「じゃじゃ馬過ぎる。一般化するには制御が厳しい。」

『は?』


…テストパイロットが異次元過ぎて、わたしたちでは見て解らなかったようだ。


「人選ミスだったかもしれないねー…」

「ま、まあ、無事に戻って来ないとテストにならないからな…」


納得して、感想を聞く事にする。使った本人じゃないとわからない事もあるだろう。


「何かしらの魔法制御補助が必要だな。後、レバーの遊びが無さすぎる。もっと角度も速度も緩やかに変化するようにした方が良い。」

「なるほど…」

「あー、その辺はおねーちゃんに任せてたからね。アドバイスしておけば良かった。」

「いや、良い経験だ。今後のために覚えておくよ。」


面と向かって言われた方が覚えておける。


「それ以外は言うこと無しだな。この前のとは大違いだ。」

「あれは大失敗だったからな…」


危うく谷底だったことは墓場まで持っていく。言っていたら、母さんたちに止められていただろうからな…


「じゃあ、次のものにちょっと調整入れるから待っててくれ。」


そう言って、足で操作する方のパラメーターを調整する。

最高速はそのまま、加速度、加速が始まるまでの足の角度に余裕を持たせる。

魔法の制御は…これは別に研究が必要だ。

メモに新たに書き足し、二人の方を向く。


「制御までは調整じゃどうにもならないからそこは気を付けてくれ。」


細かい操作や注意事項を伝え、足操作式を着けさせる。


「…お、今度は良いな。不意の事に備え、まだ余裕があっても良い。」

「そこはもう作業時は、急な変化は受け付けない、くらいでも良いかもー?」

「事故対応もあるからなぁ…」

「それはモード変更からで良いと思うよー。戦闘でも無い限り、自分の体を守るだけならそのままでも十分なものにするし。」

「それもそうだな。梓のおかげで想像以上のものになりそうだよ。」


話をしている間に父さんはわたしたちから離れ、さっきと同じように動いて見せる。

手が自由だからか、それともさっきので慣れたのか、余裕があるように思える。

相変わらず、暴走の気配は見えないのだが…

存分に楽しんだところで戻ってくる。横では1号機を梓が片付け終えた所だ。


「やっぱり魔法の制御がこのままじゃ厳しい。操縦は感覚的に出来るこっちの方が良いが、そこは好みの問題だろうな。」

「そうか。十分な評価だよ。」

「そうだねー。元々は空を飛ぶことに対する挑戦だったからねー。一発でここまで良好な評価が得られるとは思ってなかったよー」


わたしも梓も、笑顔で父さんの評価を聞いていた。


「まあ、後はわたしの仕事だな。魔法制御をどう補助してやるか、という問題だからな。」

「そうだな。それはオレもやらせてもらおう。錬金術の領分でもありそうだからな。」

「頼む。どうも、わたし一人では色々と力不足だからな。」


今回の事でそれを痛感する。

喜んでテストに付き合ってくれた父さん、アシストスーツの改良という形で協力してくれた梓。二人の助力と助言があっての事だ。

不意に父さんがしゃがみ、わたしと梓の頭を帽子の上から撫でる。


「この調子で頑張れ。こういうのはオレには作れないからな。いくらでも協力するぞ。」


梓と顔を合わせ、互いに笑う。

まるでお互いに子供のようだ。

失ったはずの時間を取り戻している最中だと思えば、それも悪い気はしない。

まだまだわたしにはやれること、変えられるものはある。ミルクのように政治には携われないが、快適と便利を広める志を受け継ぐくらいは出来るはずだ。





魔法制御の補助強化は思った以上に難航する。

単純に制御の刻印とエンチャントを施したミスリルの板を複層にすれば良い、という話ではなかったのだ。

それだと大きめの遅延が発生し、急ブレーキが遅れるという致命的な欠点が判明。

ミスリル以上の素材がないのにこれは、とても頭が痛くなる事態である。

制御が制御を遅らせる、という何とも言えない欠陥に、頭から煙が出そうである。


「おねーちゃん、悩んでるねー?」


今回も梓がやって来て、声を掛けてくれた。


「こんなに面倒な問題だと思わなかった…」

「やはり人類に空は早すぎた?」

「…認めない。そんな事は絶対に認めない。」


何かの台詞のようなやり取りをし、互いに笑い合う。


「術式の階層化が出来れば良い。インストールするものは決まっているし、それを増幅させても良い。でも、それはミスリルでは出来ないのが問題だ。」

「それは鍛治師の領分じゃないから何も言えないよー?」

「という事で、錬金術師の領分という事だ。」


ドアを開けたまま話をしていたので、父さんがやって来て亜空間収納から何か取り出す。

無数の魔石だ。大小様々ある。


「金策でよくやったのを思い出す。ゲームでは錬金術の基礎で、生活の要だった方法だ。」


少し埃を被った錬金術台に魔石を置き、魔力を走らせる。

相変わらずきれいで繊細な魔力が魔石に流れ込み、互いを結合させていく。液体のようになった魔石から魔力が抜けていくと、まるで綺麗な水晶玉のようになってしまっていた。

様々な色の魔石がどうしてこうなった?


「結晶化という技術で、名前はそのまま魔石結晶と呼ばれていた。これ自体に何の力も無いんだが、面白い特性がある。術式を多層化して封入できるという事、迅速に魔法を展開できるという点だ。」


雷に打たれたような衝撃だった。

全くわたしの知識にない技術と物体。色々と調べたのに知ることのなかった物だ。


「知らない…そんなの知らなかった…」

「もう、末期で情報が滞ってた頃に見つかったんだよ。だから、最前線の一部のヤツしか持ってない技術で知識だ。」

「そうだったか…」


結局、旅だけでなく、知識でも置いてけぼりを喰らっていたんだなと思い知らされる。

わたしはどれだけの物や技術に触れられず、知る機会を失っていたのかと思うと寂しくなる。


「ずっとお前とアリスに錬金術は任せっきりだったから育成に苦労した。しばらくは毒や爆発物に困らないぞ。」

「もっと実用的なのを作ろうね。おとーちゃん。」


最近、わたしの前に作業室に籠ってたのはそれが理由か…


「一応、ここから形や大きさも自由に変更できる。強度もあるから使い道は色々だぞ。」

「エンチャント容量が爆増でおねーちゃん、おかーちゃんの杖に使えるね。」

「…梓、知ってたな?」

「まあ、おねーちゃんが知らないのも含めて、ね。

どうせ、おとーちゃんも暇そうだったし、引き込もうと思って言わないでいたんだー」


この妹はそういうヤツだった…

全く、出来が良すぎて困るよ。


「これで道筋が出来た。後はどう使うかだが。」

「デザイン含めて考えようかー。場所は大事だからね。」

「そうだな。これで魔法の多層化が出来るなら、無骨過ぎる形じゃなくても良くなりそうだ。」


ただ、飾ってもぶつけまくるようでは悲惨だから妥協含めた対策は必要だが…


「まあ、形と大きさは封入するもの次第な訳だが…」


腕を組み、二人を見上げる。


「いっそのこと、これ自体に諸々の処理機能を持たせようと思っている。」


呆気に取られる梓と、なるほどという様子の父さん。二人の違いが見ていて楽しい。


「…これ自体が独立して何か出来るってこと?」

「そうだな。亜空間収納を持たせても良い。

戦闘用とするならもっと色々と」

「戦闘用はやめよう。際限がなくなっちゃう。」


真剣な顔で梓が話を遮る。

アシストスーツはアシストスーツのままにしておきたいのだろう。


「…そうか。梓がそう言うならそうしよう。」


わたしがそう言うと、父さんが梓の頭を撫でた。

小さいからそうしたくなるのは分かるが、それで良いのか妹よ。


「そうだな。積極的に兵器開発なんてする必要はない。作りたくないなら作らなくて良い。」

「武器や防具を作ってるから今さらなんだけどね…」

「いや、全く別物だ。パワードスーツは誰でもそれなりに戦える様になるからな。

武器、防具とカテゴリーが違うんだよ。」


父さんが梓の主張を受け入れてくれる。

良い武器や防具があっても、使い手がダメなら脅威にはならない。

だが、誰でも戦えるようにしてしまうパワードスーツはもう別物という訳か…


「無力な職人を、商人を、子供を戦士に、兵士に変えてしまう。そんなものは作らなくて良いよ。」


梓の頭の上に手を乗せて、慰めるように言う。


「戦うのは、戦えて、戦う意志のあるヤツだけで良いんだ。」

「うん。そうだね。」


頷いて、頭に乗せられた手に両手を乗せる。

出来るから何でもやってしまう。作ってしまう。広めたくなってしまう。

それをゲーム時代にも一度咎められた事があったな…


「バニラ?」

「似たようなことがあったのを思い出していた。

ダメだな。成長してないのは体だけじゃなかったみたいだ。」


わたしがそう言うと、梓が握りしめた拳に手を乗せてくる。


「大丈夫。ちゃんとダメはダメって言うから。おねーちゃんも自由に作って良いからね。

世界を分裂させる程の魔法だって作れちゃうんだもん。自由にさせないとバチが当たるよ。」

「いや、流石にわたしがやった事とはいえ、バチ当たりが過ぎるからな…」


いったい、何が切っ掛けで世界の理に触れたのだろうか。あれだけヒントを貰っても、わたしには世界を分けてやり直すなどという荒業は出来そうにない。


「さあ、テストは第2段階だ。今度は作業、物流に革命を起こすぞ!」

「いいねー。おねーちゃんのそういう所、大好き!」


そう言って、梓が抱き着いてくると、椅子が嫌な音を立てて壊れてしまった。

慌てて二人掛かりで完全に直したが、末っ子がちゃんと見ていたことは記さねばなるまい…

トラブルあるところに必ず居るのは気のせいか?

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