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召喚者は一家を支える。  作者: RayRim
第1.5部
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番外編 〈魔国創士〉は魔導具開発の日々を送る

〈魔国創士バニラ〉


末っ子だけでなく、一家の父とメイド以外の全員に二つ名が下賜される大騒ぎから一月が経っていた。


わたしは魔導具製造と、魔法の術式の開発が評価されて、創士というわりととんでもない名前をもらってしまった。

ゲームでも、固有に近い二つ名で、多くの成果を生んだ者が得ている。VR酔いが理由で、町どころか、チーム拠点の自室から出られなかったわたしには縁がなかったのだが…


梓は魔国名匠の名を賜っている。流石に一瞬固まり、困惑を隠せずにいた。

ゲームでも名匠の二つ名を得ていたそうだが、こんな早く得られるとは思っていなかったらしく、学園で世話になった師匠さんに会うのが怖いと言っている。


柊は蒼星拳士の名を賜った。本人はピンと来なかった様だが、格闘で極まった人物を聞かないので、実質的に拳士は固有称号のようなものだろう。蒼星は独特のハードインパクトの光が由来だろうか。わたしの魔法だが、あれはわたしにも説明がつかない。

名の説明をすると、獣人に強そうな人が居そうなのに、と少し納得いかない様子。獣人のアウェー感はなかなか改善されないようだ。


アリス母さんは紅黒縫士の二つ名と、軍師の称号を賜った。二つ名は普段の服装と、鍛え続けた裁縫スキルが認められての事で、とても喜んでいる。だが、軍師の称号はそうでもないようだ。

この称号、誰に貰ったかで意味が全く違う。魔王陛下から賜ったという事は、あらゆる戦場、少なくとも南方で陛下の代行として指揮を行えるという事になる。あまりの事に、魂が抜け欠けていた。大丈夫か、ロイヤル軍師。

元の歪角の名は、本人もかなり気にしてる様だったので、こればかりは陛下を褒めたい。


ソニアは魔国導師の二つ名だ。導師、と言っても魔導師ではなく、教育者の方の意味だそうだ。アリス母さんと同じく、信心深いからという意味も、魔導師として優れているという意味もありそうだが。

まだ経験が足りてないので畏れ多い、と思っているようだが、実績は既に出しているので文句は少ないだろう。春に教え子が優勝すれば、名実共に、と言われることになるに違いない。


ジュリアとフィオナには与えられなかった。いや、立場上、与えることが出来なかったというのが正しいのだろう。

エルフのお姫様たちには陛下でもちょっかいが出せなかったようだ。代わりに氷の結晶と、弓の形の置物が送られてきて揃って困惑していたが。


ジゼルにはまだ実績が無いので、二つ名は得られなかった。

当人は胸を撫で下ろしていたが、活躍すれば評価されると希望を得た様にも思える。


メイドたちはあくまでも一家に仕えている、という事にしたのだろう。

特徴もある母の二人は間違いなく知名度が高い。それなのに二つ名を与えなかったという事は、魔王でも手出しできないぞという事を示したのかもしれない。考えるのが大変だっただけかもしれない。

尋ねないとわからないが、機会は無さそうだし、どうにもめんどくさそうな人なので、このまま無くて構わない。


年が明けて一月というと、深雪祭の準備の時期だ。

今年も例年通り凄まじいとしか言い様のない降雪だが、我が家の周囲と大通りの路上は納入したロードヒーティングシステムのおかげで雪がない。

道路だけ融かして終わり、というわけでなく、融雪溝も整備させてもらった。

わたしは雪かきついでに、魔導具のチェックをしている。


「毎日、二度も雪掻きするのは骨が折れますね…」

「今年はだいぶマシだ。去年までは道路もやってたからな。魔法で微調整するより、体を使った方が早いし、楽だから頑張ってくれ。」

「なんだか、雪ではしゃいだのが恥ずかしいです…」


ぼやきながらも、玄関前から庭の何も植えてない所までを雪掻き作業をするアクア。

雪が積もる事に大喜びしていた姿は何処へやら。まあ、鍛えているので苦では無いようだが。


「訓練場はそのままなのですね。」

「あっちは深雪祭に使うんだよ。一昨年は巨大アッシュ像、去年は巨大ホーン・ラビット像だったな。」

「そんなの作ったんですね。」

「子供には評判が良かった。ライトアップしたら不気味だと言われたが…」

「どっちも魔物ですからね…しかたないですよ。」

「そこで提案だが…」


アクアに耳打ちをし、表情を探る。


「おお…良いですね。モデルは誰にします?」


目を輝かせ、話に乗ってくれる。これは良いものが作れそうだ。

アッシュはジッとしないし、キラーラビットは毛皮だけだしで大変だった…


「どっちも捨てがたいからな…」

「いっそ、顔と体で別々にしても良いかもしれませんね。」

「なるほど。作るのはわたしたちでやろう。デザインは頼むよ。」

「任されました!色々と楽しみですねー。」

「そうだな。」


二人でくっふっふっと、悪い笑い方をしてから再び雪掻き作業に戻った。

さあ、今年の作品が楽しみになってきたぞ!





深雪祭の準備も大事だが、試作した魔導具の見直しもしなくてはならない。

イグドラシルに挑んでいた時は製薬に当てていた分の時間が空いているが、その時に相棒だったアリス母さんには調整で意見を貰う程度。アクアとメイプル、特に汚してくるノラの服の用意と調整で苦労しているようだ。

アクアも雪に喜んでいたが、温暖な地域出身のノラにとって雪は不思議なものの様だ。


今日はジェットブーツ類の見直しをしている。

年末に伯爵領へ行った際に使って、いくつかトラブルに見舞われたのでその改善案を考えていた。

風魔法で使った際、魔法で飛ぶ補助装置として使うには良いが、これだけで飛ぼうとなると出力が足りなくて飛ぶことが出来ない。ホバークラフトの様に滑るのが限度の様だ。無理にやったら壊れてしまったしな。これはこれで面白いので使いたい。

単純にブーツの強度の問題なので、ドッペルドールの装甲をどうにかして利用したいが、まだ自在に加工できていない。明らかに、わたしたちにとってもオーバーテクノロジーの物体なのが辛いところだ。


風がダメなら、という事で、光属性を用いた物も用意した。

これは、最初からブーツという形は諦め、スノーシューの様に靴の下に履く方法にした。

材質はミスリル製、結果は何処までもゆっくり浮き続けるという愉快なものとなった。壊れるのを恐れて出力を抑えていたせいもあるが、これだけでは遅く、移動や戦闘では使い物にならない。

しかたないので、予備の長方形のミスリル製の板にジェットブーツと同じものを施し、父さんに背負われたわたしが背負ってコントロールする事に。これでようやく想定した通りの速度だが、戦闘向きでは無いそうだ。


ライトクラフトと命名したこれをベースに、空を飛ぶ魔導具の開発を進めることにする。

戦闘に使えずとも、空輸の手段になれば、冬の雪で物流が止まっている状況くらいは改善できるだろう。吹雪や落雷が怖いので、誰でも使えるとはいかないだろうが。

あと、使ってるのが光魔法で魔力消費が重いからか、魔力感知でめちゃくちゃ目立つ。この規模でも目立つ様なので、悪用も出来なさそうで良い。


さて、改善案だが、スノーシューの様にブーツの外に取り付ける方が良いだろう。特に、冬の使用を想定してなら尚更だ。

スパイクをブーツに後付けする感じが良いのだろうか? ツルツル平たいままだと滑りそうだし。無理にヒーティングを付加すると、不測の事態で凍った水面に着地したらトドメを刺しかねない。

地面側に刻印で制限を施し、出力を上げすぎない様にする。靴底側に左右で連動させる為の刻印を施し、だいたい水平なら真っ直ぐ、左右の足の高さで左右に曲がるようにしたい。

これでは浮くだけなので、もう一つなにか追加したいが…


「へへ、旦那。良い案がありやすぜ。」


聞きつけた梓が、作業室にやって来てユキみたいな事を言う。


「おとーちゃんが使ってたアシストスーツあったでしょ?」


本来はパワードスーツなのだろうが、戦闘用として想定してないらしく、梓は区別するためにアシストスーツと呼んでいる。


「あったな。」

「あれに利用できないかなと思ってー。

姿勢そのままで長距離移動はキツいだろうから、やっぱり何か補助した方が良いと思うんだよね。」

「ああ、確かにそうだな。ぶっつけでその辺は全く考えてなくて、父さんも大変そうだった。」

「だろうねー」


軌道に乗ってしまえば魔力供給だけ、という使い方が良いだろう。細かい操縦が必要になると長距離は大変だろうし。


「そうなると、もう乗り物が良い気もするな。」

「あー、確かに。

でも、高所での作業とか、配達とかにも使えそうだよね。私、けっこう不便に思うことが多くて…」

「なるほど。この国のドワーフには役立ちそうだな。」


わたしより更に背が低くなってしまったからこそだろう。前は母さんに次ぐ高身長だったのに。


「作業用と移動用で分けるのもな…」

「通話器のモード切り替えみたいに出来ないのー?」

「あれはシンプルだったからなぁ。

でも、出力の問題だけだし、出来ると思う。」


梓が書き出した改善案を見る。


「ブーツに付けるの想定してたんだ。

で、推進力をどうするか、というので悩んでいたと。」

「その通りだ。」


新しい紙に何やら書き始める梓。

こういうのは本当に頼れる妹だ。


「私は全部腰にまとめた方が良いと思う。足だとバランスが取りにくいし、けっこうあちこちにぶつける上に、足癖悪い人多いし、交換が早くなりそう。」


何人かくしゃみをしそうな事を言う梓。だが、その通りなので足に装備というのは無理そうだ。


「旋回とかはどうする?」

「レバーか取っ手でも付けちゃえば良いと思うよ。

縦の回転は考慮しなくて良いなら十分ありだし。」

「それもそうだな。」

「こう…夜でも目立つように貝が開いてるようなデザインのものを腰の後ろに付けて、これで浮遊。推進力はこう…腰の両脇に付け足したラッパみたいなので良いんじゃないかな。」

「なるほど…」


ちゃんとデザインができるのが居ると心強いし、イメージが伝わりやすく話も早い。


「作業用は貝のだけで良さそうだな。それなら分けやすい。」

「そうだね。 それで良いと思う。」

「レバー周りは、とりあえず作ってから考えよう。

梓、試作を頼めるか?」

「うん。ミスリルベースで良いよね?」

「想定した通りになるかだけで良いから、両脇は板で良いぞ。ラッパは衝撃をチェックしたいから、ちゃんとしてた方が良さそうだが。」

「わかったー。二日待ってねー」


そう言って、デザインした紙に何か書いて持っていった。

本当に頼りになる妹でありがたい。わたしだけではまだ頭を悩ませていそうだし、問題も山積みで眠れない日々になりそうだったな…

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