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召喚者は一家を支える。  作者: RayRim
第1.5部
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番外編 〈蒼刃閃姫〉は結婚式に立ち会う

〈蒼刃閃姫ハルカ〉


エディさんも王都に戻ってくると、私たちは存亡の危機以外はあまり動くなとお父さんに厳命された。

身重、と言うには早いが、そんな母が三人という状況なので、私としても離れたくはない。


ウェディングドレスと言えば、純白で華やかなイメージだが、三人揃って黒のドレスにはとても驚いた。宗教的な意味があるそうで、親のいない未婚女性は真っ黒で露出の無いドレスを着るのがあらゆる場面での正装だとか。

いつか実家に殴り込んだアリスお母さんは、そうするという決意の現れだったのだろう。それなのに、冒険者を辞めさせて嫁として送り出そうと考えた継母の対応は、無知で最悪の対応の部類だったのだと理解した。

少し残念、と言うと、アリスお母さんは笑顔で、仕込みをしましょう、と悪巧みをした様である。何をしたんだろう?


会場の確保から警備の段取りまで、全てエディさんが引き受けてくれたそうだ。

やったのは自分じゃないが、と苦笑いをしていたが、とても助かったとお父さんたちは深く感謝をしていた。

どうやら、繋がりが無い教会で式を挙げることが出来ないらしく、それでいて来客の顔触れに相応しい場所という所が思い付かなかったそうだ。

邪教ではない、真っ当な宗教からも邪険にされてしまう辺り、私たちは信仰と無縁の位置にあるのだなと思い知らされた。今度から私もお祈りは両手を合わせる事にしよう。


動くな、と言われても何もせずに居られないのが私たち一家の性分。

梓ちゃんは4人の結婚指輪を作り、バニラお姉ちゃんは刻印とエンチャントを施す。二人ならではの仕事だ。

問題は私と柊お姉ちゃんだが、私はエディさんの相手を、柊お姉ちゃんは警備役の同級生の相手をしていれば良いと言われ、そうすることにした。


「あの二人はどういう経緯でここに送ったの?」


魔眼と魔声の二人について尋ねる。

お父さんは信じているようだが、私はまだ懐疑的だ。魅了には良い思い出がない。


「二人は運命共同体でな。互いに支え合い、暮らしていたところを部下が引き取った。

事情を聴き、カトリーナが魔眼持ちを引き入れ、どうにかコントロールさせようとしていた、という事を思い出して送ったのだよ。

二人にとっては、居場所を転々することになっていて申し訳ないがな。」


最後に苦笑いをして私を見る。

あの二人、ここに来る前から二人一緒だったのか。引き取ったのもエディさんの部下。

それなら信用して良いのかな…


「訳ありの二人だ。少し大目に見てやってくれ。」

「うん…」


訳ありな事はみんな同じだ。敵対行為や迷惑行為を行わないなら私も信じよう。


「そう言えば、旧ヒュマス領の解放は進んでるの?

向こうじゃ全然伝わってこないから…」


私の質問に力の無い笑いを返してくる。


「森の東部は前線から遠い。伝わらないのもしかたあるまい。」


そう言うと、真面目な顔になって私と向かい合う。


「ハルカたちのおかげで、我々の国の近くは解放が進んでいる。だが、エルフ領やドワーフ領は手が付いておらぬ。人材が我々ほど恵まれていないからな。」

「私の先輩や同級生は?」


エディさんは首を横に振る。


「みんなエルディーから出ていかない。国内のダンジョンを抑えてくれているのはありがたいがな…」


まだ数年掛かりそうだ。

お父さんやお母さんたちは常に人手が足りない、と言っているが、その気持ちが少しだけわかった気がした。


「まあ、抑えられているだけマシだよ。

本当に怖いのは我らの、亜人たちの地を侵される事だからな。」


ドワーフの国の事情は全く分からないし、エルフ領も通り抜けるだけでよく分からない。

西部は少し余所者に厳しい気はするけど。


「エディさんはどこまで守りたい?」

「…ハルカ、良いんだ。もう十分に戦ってくれた。他の者に任せてくれないか。」


そう言って、目を合わさずに私の手を握る。


「勝つ度に、ハルカが何かを失っている気がして怖い。出会った頃の、無邪気だったハルカを失わせてしまったのが辛い…」


…そうだ。出会った頃の私はこんなじゃなかった。もっと子供で、エディさんがかわいいのに威厳があってキラキラしているのに憧れて…


「違うよ。うん。違わないけど、違う。」


変わってしまったのは仕方のない事だ。色々と越えてきてしまったのだから。


「私は変わらずエディさんが好き。

いつも頑張ってて、家に来るとダメにな所を見せて帰っていく、キラキラしているけど放っておけないエディさんが好き。」

「ハルカ、褒めてるか舐めてるか分からない。」

「どっちもだよ。」


微妙な表情になるエディさん。


「私は大人になっていかないといけない。敵は子供でも容赦なんてしてくれないから、大人になるしかない。」


硬くなった掌を見る。

剣を握り続けた手はマメだらけ。もう女の子の手とは呼べない。


「…そうか。」


悲しそうに私の右手を包む。


「子供の早い成長は嬉しいが、寂しいものだな。」


また、置いていかれてしまった。そう思っているのだろうか。

それはリナお母さんだけではない。きっとその前も、その前も、何人も見送ってきたのだろう。


「…でも、私の子供の時間はちょっと伸びたから。」


今度は私がエディさんの手を挟む。


「12歳が3年くらい伸びたから。」


エディさんの顔を見ると、私を見て笑顔を見せた。


「父親と似ても似つかない顔だな。でも…」


非力な手で力一杯に私の手を握ってきた。


「角も心意気も父親そっくりだ。手の握り方もな。」


それは私にとって最高の誉め言葉だった。





結婚式当日まであっという間。と言っても、二日でしかないけど。

事前に準備は進めていた様で、決まってから一気にという事のようだ 。

お父さんたちはなんだか落ち着かない様子。服もしっかり正装だが、お父さんは袴着姿でどうにも場違い感がある。

メイドたちはいつも通りにメイド服だが、正式にはメイドではないジゼルも黒いドレス。

…正装は色々なことを知らしめてしまう罪な衣装だと思ってしまった。


私たちは仮設小屋で待機している。

まだ雨季ではないので雪は降っていないが、気候は既に冬間近。流石にドレスで野晒しはキツいので用意させてもらった。

お父さんの物の真似だが、来賓にも評判は良く、鼻が高い。

何故こんなものを用意する必要があったかと言うと、会場が王都訓練場予定地だったからである。

土地の整備、結婚式の飾り付けまでは終わったが、流石に正式な建物まではまだ出来ていない。

飾りも、四角い構造体に絵の描かれた板を打ち付け、花を飾ってあるだけだった。

描いたのはアクア。時間がなくて丁寧に出来なかったと嘆いていた。

慣れないペンキにも関わらず、ビフレストからの光景がポップに描かれていると梓ちゃんが言っていた。本人はまだ行けていないから、説明からのイメージだけで描いたのだろう。

精密な絵だけでなく、適度に簡略化した絵も凄い。本人は否定するが、やはり凄い絵描きだ。


「君が蒼刃閃姫殿だね?」


色々と慌ただしい外の様子を眺めていると、際立って派手な正装の男性…と呼ぶには若い感じの男の人が私に話し掛けてきた。


「そうですが、貴方は?」

「ジェラルド・リヴ。貴族だよ。」


リヴ?いや、リヴなんて貴族は…陛下!?


「へ、へい…」


自分の唇に人差し指を当てるのを見て、私は黙る。こちらではほぼ見ない動作だ。


「…失礼しました。」

「驚かせてごめんね。この国の英雄達を見る、またとない機会だったから。」


英雄たち…英雄はお父さんだけでは無いという事だろうか。


「今日は父上の御結婚おめでとう。それに、復帰もだ。祝わなくてはいけない事はたくさんあったけど、滅多に城から動けないから許して欲しい。」


恭しく頭を下げる陛下。

こんな機会があるとは思っておらず、どう対応したら良いか分からない。

他の皆を見るが…みんな誰かと話している!


「陛下、性格が悪いと言われませんか?」

「エディアーナとミルクにはよく言われているよ。」


陛下を通し、違う誰かを見ているような気がする。失礼なことは分かっているが…


「陛下もミルクとお呼びになるのですね。」


エディさんと一緒に挨拶に回っているミルクさんを見る。出会った頃に比べ、少し老け込んだように見える。


「そうだね。あの小さいメイドがココアで…ん?そっくりで見分けがつかないという話だったけど…」

「ああ、姉のバニラも転生しまして、あの小さいディモスです。」


大人に囲まれ熱弁するバニラお姉ちゃん。

魔導具の売り込みでもしているのだろうか。


「ああ、みんな転生したんだね。優秀な同胞が増えるのは喜ばしいよ。」


嬉しそうに姉を見る陛下。


「姉妹揃ってというわけではございませんが。

あとの二人は東方エルフとドワーフです。」

「四人、それぞれが求めるものが違って当たり前だからね。

いくら私でも、個人の生き方を強制することは出来ない。残念だけど仕方のないことだよ。」


良識的な陛下で良かった。やはり、この王都に活気があるのは、エディさんとジェラルド陛下が居てこそだろう。


「軍、産、学と君たち一家の功績は計り知れない。本当は領地と伯爵位を与えたいくらいなんだけどね。」


苦笑いする陛下。留めておきたいというのはどこの領主も一緒だろう。きっと、フェルナンドさんもそうだ。

…更にフィオナはお父さんの子種を狙っている様子だけど。


「一家が英雄なのは今だけですよ。10年も経つと、優れた人材はもっと増えます。私たちが必要じゃなくなるくらいに。」


私の言葉に陛下はタメ息を吐きながら頷く。


「…それでも、偉業であることに変わらない。先駆者が正しく評価されないと、後に続けられないからね。

たとえ、それが荒唐無稽な常識外の行いであってもだ。」

「…そうですか。」


為政者にとって常識を超える先駆者は頭が痛いのだろう。評価、扱い、援助と困ることが多そうだ。


「一切受け取らないのも困ると、君の父上に伝えて欲しい。こういう前例は、後に続く者が困るから。」

「分かりました。

ですが陛下、一つ大事なものを忘れております。」

「…それはなんだい?」


何を言われるのか分からない様で、身構えるのがよく分かる。まさかこんなことを言われるとは思ってもいないだろう。


「労働には報酬を。あの父を言いくるめるのは骨が折れますので。

そうですね…この施設の建設、運営に関わっていただきたいのです。」

「私は荒事は苦手だよ?」

「指導や警備をしていただきたい、という話ではございません。将来の為、視察をしていただくだけで良いのです。せめて年に1度くらい。」


私の提案に陛下が考え込む。

陛下の視察がある施設、という事だけで箔が付く。どう転ぶかは運営次第だが、悪い話ではないはずだ。


「分かった。提案を受け入れよう。

酷いようなら、ダメ出しもするのでそのつもりで。」

「ありがたき幸せにございます。」

「君も食えない。誰に似たんだろうね?」


緊張した様子の父と母たち。慣れ親しんだ者たばかりだが、それとこれとは違うのだろう。

そんな両親を見て、私は自信を持って答える。


「両親でございます。」

「…愚問だったね。」


苦笑いを浮かべる陛下に、なんだか勝てた気がして少し嬉しかった。

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