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壁への告白

 私は前来た時と同じようにはなちゃんに貝島龍香がいる病院に案内された。

 はなちゃんはいくつも厳重なセキュリティを解除していく。


 最初の時は戸惑っていて考えが及ばなかったけど……ただの病院でこのセキュリティは少々大げさな気がした。

 まるで国家機密を扱う大企業の社長室のようなセキュリティだ。


 貝島龍香……何者なんだろう……正人くんの記憶からは深い情報は引っ張って来れないんだけど……まあ、正人くんの言葉や、私の記憶にある正人くんの記憶の残滓から……あの子が今回の件の元凶だというのはわかる。


「ついた……この扉を開けると龍香がいる。ん? まさと、何か考え事?」


「うん、ちょっとね……これからどうしようかなっと」


 いろいろ考えることは多い……自分の利益を優先したいとか、女の子と遊びたいとか、美味しいもの食べたいとか……ね。


「はぁ……今すぐ逃げて全てをなかったことにできるチャンスはこれが『最後』かな。にひひ、正人くんが持ってるゲームなら、選択肢ってやつが出てくるのかな?」


「ハナはプロ。全てを理解している……まさとは龍香と会ったら……多分、終わる。ここが分岐点。ここで逃げても誰もまさとのことを責めない……だって一番最初に逃げたのは久木正人なんだもん……」


「…………」


 はなちゃんが言うことは事実だろう。私は貝島龍香に会ってしまったら……『決断』せずにはいられない……。


「…………そっか、それもそうだよね。はなちゃんの言う通りだ。正人くんは私に久木正人という役割を押し付けた超極悪人だもん、私が好きにする権利はあるよね?」


 私が自称気味にそう答えると、はなちゃんは私に背を向けて廊下の壁を見る。


「まさとが望むならハナが一緒に逃げてもいい。遠い場所に……逃げて。ハナたちのことを誰も知らない土地で暮らすの。プロとして」


「……………えっと」


 いきなりの提案に戸惑ってしまう。

 あ、あれ……私いつの間にはなちゃんの好感度をフルマックスまで上げたのだろうか……。

 こ、これ駆け落ちエンド?


「それからまさとは久木正人としてはではなく、プロ……『源城美和』として生きるの。だから、残った問題はまさとには関係ない……だって貴方は……久木正人は別の人間だもん」


「違う人間……」


「うん、だって、貴方は久木正人と龍香に作られた『人格』。復讐する権利があっても恩を感じる必要ない……身勝手な思いで作られた被害者……だから好きにすればいいと思う」


「…………やっぱり、そうなんだ」


 2人に作られた存在というのは初耳だ……しかし、何だかしっくりくる……。い、いや、今はそれより? も、はなちゃんだ。


 な、なんか、ずっと壁を向いて話しかけてくるんだけど……はなちゃん。声がいつもよりも固くて緊張してる? 


「えっと……ごめん、私は適当な性格だから、自分のことは不幸だとは思ってるけど……そこまで悲観はしていない……って言うと嘘になるか。ごめんなさい、めっちゃショックです……」


「なら、ハナと一緒に海外にでも行こう……ロシア辺りがいいかな? ハナはコネもたくさんある。それにパソコンでお金を稼ぐのが得意。食べるのは困らせないし、2人でのんびり暮らせる。毎日おいしいカカオ栽培して、タピオカ並みの爆発力で、こなみじんにして、幸せのイントネーションを――」


 私は、早口で壁に向かってまくしたてるはなちゃんの言葉に割って入る。


「うん、この際、ベネチアでもイギリスでもバチカンでもなんでもいんだけど……えっと、はなちゃん……遠まわしで聞くのもなんだか、ごまかしてるみたいだから、はっきり聞いちゃうけど……私のこと好きなの?」


 私の言葉にはなちゃんの身体がびくっと震える。そして大きくため息をついて、壁に向かって会話を再開する。


「はぁぁ、まさと、デリカシーなさ過ぎ……女心をわかっていない。それでも元女なの? その言葉はプロじゃない」


「ご、ごめんなさい」


 普通に怒られちゃった……。


「私が好きな人……が気になるの?」


「えっと…………その」


「まさと、ここは勇気を出して、言いきって。グジグジするのはよくない」


「…………」


 壁に向かって話しかけてる人に言われてくないような……ま、まあ、ここはサクッと聞こう……あ、ああ、いきなりの展開で私もだいぶ混乱してるなぁ。


「はなちゃんの好きな人は誰なの?」


「目の前にいるけど」


「壁?」


「……怒るよ?」


「…………」


 また怒られちゃった……。


「あ、あの……はなちゃんは私というか、正人くんが好きなの?」


「違う、ハナが好きなのは貴方。話したこともない久木正人なんか知らない……」


「わ、私も、はなちゃんとは前会っただけだし……」


「好きになるのに会った回数は関係ない。ハナはプロ、貴方の人となりは理解している……あのいじめっ子を倒した時から」


「…………」


 あ、ああ……制服的に正人くんと同じ学校だとは思っていたけど……あの現場見られてたんだ。恥ずかしい……。


「ま、まさと、返事。あまり女を待たせるものじゃない……」


「…………」


 うん、はなちゃんが提示する未来はなんて……なんて……魅力的なのだろうか。私は消えずに美少女とずっと一緒にいられる……それは私の望んだ世界だ。

 世間体も気にせずに……ただ、欲望のままに生きる……だけど。


「…………でも、それでも……私は」


 私は決意を口にする。

 私の運命を決定付ける言葉を――。

あと2話です!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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