走る幼馴染
◇◇◇
同時刻――。
久木家の正人の部屋にて――。
「うぅ…………」
水落は目を覚まして、ノロノロと上半身をベッドから起こす。
寝起きが悪い水落は寝ぼけ眼で部屋を見渡す。いつもと違う風景にすぐに気が付いてもよさそうだが、思考力の落ちた水落の頭ではすぐに今の状況が理解できない。
「えっと……私は昨日……」
水落は考える。
昨日会ったことを思い出そうと、思考を働かせようとする……そして、だんだんと思い出してきて……顔が焦りと恥ずかしさで段々と赤く染まっていく。
「あっ……あああああ!! わ、わた、私、深夜に正人の部屋に来てそ、それで、それで……え、エッチなゲームを一緒にやろうって……! 私は痴女かあああああ!!!」
あまりにも恥ずかしく手思わずかけていた布団に顔をこすり付ける。すると、懐かしくも安心する、好き人の匂いがした。
「ふにゃぁぁぁぁ。ずっとここにいたい……しあわせぇ、いい匂い。なごむぅぅぅ………って、あ、あれ……?」
そこで更なる事実というか疑問に気が付く……なぜ自分はここで寝ているのかと……? というバビロンの門の奥底に眠る秘宝を手に入れるように難しい難問にぶち当たる……。
ちなみにこの時点で水落の頭の覚醒率は60パーセントほどだ。
それが徐々に上がっていき、ようやく現状と昨日の出来事を理解し始める。
「わた、私……私……別の部屋で寝てたわよ? そ、そ、それで……何で、私は正人のベットで寝てるのかしら? ふ、ふ、不思議なこともあるものね。テレポートかしら? それとも正人が欲情して部屋に連れ込んだのかな? もうっ、正人ったらえっち♪ こっそり連れ込まなくても、正人なら私やぶさかでもないのに♪ もう、正人は昔からむっつりなんだから♪ あはは! 正人は仕方ないんだから、あははは! あはは……はは……はは」
ひとしきり喋ってさらに冷静になってくる……もう自分を誤魔化すのは限界だった……。
「~~~~~~~~~~~~~!!! 私は痴女かああああああああああ!!!」
本日二度目の雄叫びである。
「な、な、な、わ、私、寝ぼけて正人の布団に入り込んだの!? あ、ありえなくない!? やり過ぎじゃない!? なんでそんなことを……あ」
そこで完全に昨日のことを思い出す……。
突然、あるゲームのパッケージを見て、何かに戸惑うように動揺するがそれを無理に隠そうとする正人……。
そして 、その顔を見ていたら言いようのない不安に襲われたこと……。
「正人!!!!」
水落は慌てて周りを見渡すが、正人の姿はない……。
「ど、どこ行ったの……?」
言いえぬ不安に襲われる。それは……数か月前と同じだ……正人がいじめられているのに気が付かず、助けることができなかった後悔。
何もできなかった自分への怒り……その感情がよみがえる。
「……あんな想いはもうしない。正人は私が守る……」
それは幼い時の子供の頃の記憶……何年も前のことだが、水落の中では一切色あせてない記憶。
『わたしがまさとをまもる!! まもるんだから!!』
「……わたし行かなくちゃ!!」
水落は自分のバックから着替えを取り出して、パジャマを脱ぎ捨てる。
水落は……『約束』を果たしたかった。今度こそは。