これからのこと
◇◇◇
私は家を出てある場所に向かった。その間……何を考えればいいのかわからなかった。ただ一つ言えることは私は……偽物だ。
電車に乗ること数時間――。
都心から離れた地方都市――。
見覚えのある駅。
見覚えのある商店街。
見覚えのある学校。
見覚えのある住宅街。
だが……見覚えあるだけでどこか虚で作り物のようにぼんやりしている記憶だ。確かに経験はしていると感じるのに……そこにリアリティがない。
そして……私が屋上から落ちたマンションは……空き地になっていた。
「…………」
かつて私が住んでいた家はそこにはない……。それどころか、人通りもなく、真昼間だというのに、住宅街なのにまるでゴーストタウンのような雰囲気だ。
私が生まれてから育って見てきた風景だが……何かが決定的に違う。
感じるのは懐かしさではなく、大きな悲しみだ……
「……お化けでも出そうですね。まあ……私がお化けみたいなものだけど」
『おやおや、貴方も聖地巡礼ですかな???』
自称気味に呟くと、1人のいかにもオタク! という雰囲気の男が人のよさそうな笑顔で話しかけて来た。
「聖地……ああ、ゲームの」
「『美人優等生の私がキモオタデブに転生して無双する!』ですぞ!」
そう、ここはゲームの舞台だ。私をモデルにしたヒロインの……いえ、『私のモデル』なったヒロインの運命の場所だ。
「そうそう! ここはかのヒロインの始まりの場所ですからな! マニアとしては外せない場所なのです! しかし――」
男は笑顔を消し、真剣な表情になる。
「ここは『呪われている』とも言われているから長いはしない方がいいですぞ! その呪いのせいでマンションは取り壊されて……なんでもヒロインの『みわたん』の怨念が……」
「……怨念ね」
目の前にいるけどね……。『偽物』だけど。
「あああああ! 考えたら恐くなってきたですぞ! 拙者はこれにて! お主も呪われないうちに帰った方がいいですぞ!!」
そう言って男は去っていった……私は1人その場に残され。青い晴天の空を見上げる。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
事実を目の当たりにして大きくため息をつく。
ここまできてようやくすべてが理解できたし、今ある現実が事実だということに気が付いた。
「…………そっか。私という人間は最初から……『この世にいなかったんですね』。私はただの正人くんの妄想……数多くやったゲームのヒロインを模倣した存在だったんだ……正人くんどれだけオタクなんですか…」
口にしてしまうとなんてやっすぽく感じる。突拍子もない話だ……所詮、この世は科学で支配されている……転生なんて非科学的なことは起こらない。
「…………私って言う存在も充分非科学的な気はしますけどね。さて……これからどうしましょうか。正人くんは出てくる気はないみたいだし」
正人くんの言葉を思い出す。
『ねぇ……僕の身体を自由に使っていい……君にはその『権利』がある。僕の身体はもう……君の身体だ。僕はそれに納得をしている……』
「そうは言われてもね……はぁ、どうしよう」
自分が作られた存在……というのは確かにショックだ。心に深い傷を負わせている……今すぐ泣き出したいという衝動に駆られるぐらいは……だけど……。
「まあ、くよくよしても仕方ないですね。私は世間体をすてて前向きっていう『設定』ですし。さて……次は『美少女』に会いに行きましょうか。気は乗りませんけど……」
私は次の目的地に向かう。
それは私がこの世でもっとも嫌いな『美少女』であり、正人くんの言動から恐らく今回の私の件に深く関わっていると思われる人物……『貝島龍香』の元へ……。