二次元と三次元
◇◇◇
それから数時間後――。
窓の外の景色、民家は夕日によって茜色に染まり始めて、外からは子供の元気な声が聞こえてくる。
平和だ……平和の夏休みだ……そんな中で私は……。
「にひひひひひひひひひ、ハァハァ、マジ天使。ハァハァ、そ、そんな大胆なことしちゃうんですか? いいのう! いいのう! にひひひひ」
パソコンの画面にかじりついてエッチなゲーム『クラスメイトと6P――パラダイムシフト』に興じていた。ちなみに今パソコンの画面では絶賛2Pの真っ最中だ。
ふぅぅぅ、6Pまでの道のりはまだ長い!!
いやぁ、もう、最高!!! 女の子は可愛いし、声はエッチだし、私(主人公)のことをヒロイン全員がチヤホヤしてくるし……ユートピアはここにあった!!!
と……数時間前の葛藤は何だったんだろうか? と、思わないでもないぐらいドハマりしていた。いやぁ~前世ではこういうのと縁がなかったから余計に……ねぇ? やらず嫌いはよくない。
と……夢中になっていたので背後にいる存在に気が付くのが遅れた。
『おーい、そこのオタク!! ご飯だって言ってるんでしょ!!』
「えっ!?」
振り向くとそこには少し照れたような表情をしながらジト目でパソコンの画面を見ている水落ちゃんがいた。
終わった……。
「な、何でここにいるの!! 勝手に部屋に入って来ないでください!!!」
「何逆ギレしてるのよ!! 私は何度もノックしたわよ!! ゲームに夢中で無反応のあんたが悪いんじゃない!!」
「はぁ!? それでも男の部屋に入ってきます!? 水落ちゃんは危機管理が足りないんです!! この陰獣!!」
「はぁ!? い、陰獣って、絶賛エッチなゲームをしてるあんただけには言われたくないわよ!!」
「それな!!」
いやぁ~まったくもってその通りだ。
「はぁぁ、何をそんなに慌ててるのよ。さっきも言ったけど別にエッチなゲームぐらいやるぐらいいいわよ。それに……」
水落ちゃんはパソコンの横に置いていたエッチなゲームの箱を手に取り裏面を見る。
「さっきの痴漢ゲームに比べたらマシじゃない? …………………6Pはマシなのかしら? 私よくわからないんだけど、どうなの? あんたの性癖ってまともなの?」
「いや……そんな真顔で聞かれても……」
すごく答えずらい……と、同時に「6P最高!! やふうううううう!」って答えたら、どんな反応するか見てみたいかもしれない。
『…………ゴミくずが』
と、言われるのは目に見えてるので、言わないけど……。
「はぁぁ、まったくあんたは仕方ないんだから。ほら、ご飯できたから行くわよ。今日ろくに食べてないからお腹減ってるでしょ?」
「えっ……?」
「? 何よ? どうかしたの?」
「いや……普通こういうの見られたら口もきいてもらえなくなるものかと……」
「だから言ってるでしょ? 私は別に二次元だったら、あんたがどんなゲームをやっててもいいわよ。さすがに……痴漢とか凌辱物はどうかと思うけど……まあ、それも現実に持ち込まなきゃいいわよ……でも、そんなのが家にあったらもしもの時はフォローできないわよ?」
「…………」
何この聖人美少女は……理解力あり過ぎでしょ。
「二次元はって……それじゃあ、もし私が女の子を連れ込んで6Pしてたら笑って許して――」
『殺す』
可愛い顔からどすの利いた声で……一言。
うん……いきなり無表情になった……感情が読み取れず、冷たさしか感じない。いつもの「ぷんぷん!」と、怒っている時の温かみが一切ない……。
こ、恐い、さっきまで「しかないなぁ」みたいな表情だったのに……その変わりようもさらなる恐怖を駆り立てる。
「冗談だって……」
「付き合ってもいない私が言う権利はない。だから、普通のエッチを目撃しても笑って見ないふりをするわ。だけど……もしあんたが6Pなんてただれた行為をしてるところを見たら幼馴染の義務として――殺す。以上」
「あ、あい……」
「はい、わかればよろしい。さっ、早くキッチンにいくわよ」
そこで水落ちゃんに温かみのある笑顔が戻る。
「…………」
滅多に本気で怒らなそうだけど……この人は本気怒らせちゃだめだ……マジで恐い、恐いよ。ま、まあ、それだけ私のことを思ってくれてるということだけど思うけどね。