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朝目覚めたらキモオタデブになっていた。

 私は綺麗な夕日が眺められる自宅の10階建てのマンションの屋上に来ていた。風は気持ちよく景色もいい……さぞ、気分も晴れるかと思ったが……とある考えが頭から離れない。


「…………」


 世間体なんてクソクラエだ。


 17年間、教育熱心な両親に挟まれて、優等生として、育った女子高生の私、『源城美和みなしろみわは思う。いつも何かに縛られて生きる……笑いたくもないことに笑い、やりたくもない勉強をし、趣味でもない男の話をする。


 世間体などクソだ。

 それに囚われることで、本当の自分が隠されて行く感覚に襲われ、本当の自分とは何かを忘れてしまう。世間体を大事にすればするほど、個性というものからかけ離れていく。そんな気がしてならない。


 個性を失い……生きていく。それが本当に生きていると言えるのか?


「…………はぁ、綺麗ごとですね」


 まあ、所詮は私の戯言だ。もしくは厨二病患者だ。

 もしも、私が他人からその話を聞いたら『はぁ? この人は頭がおかしいんでしょうか?』と思うだろう。世間を知らないただの子供。


 世間体というものは吐き気をもよおす邪悪だが……人間という自分の欲に忠実な生き物にはそれが必要だ。人からどう見えるか……それを意識することで様々な秩序が生まれ、さらにはまもった人間は『得』をすることがある。


 私も自分で言うのもなんだが、美人優等生JKとしての世間体を守ることで様々な得をしてきた。

 周りからはチヤホヤと甘やかされ、面倒な仕事はやってくれるし、教育熱心で私をブランド品か何かとしか見ていない両親も褒めてくれ、いろいろ買ってくれる。


 私は……周りの期待のまま、このまま一流企業にでも務めて、その同僚の男とでも結婚するのだろう…………。


「…………………」


 駄目だ、納得できない。

 親の言いなりのまま、一流企業に就職するのはいい……お金を稼いで親孝行する……それもいい。だが…………。

 だが…………私にはどうしても許せないことがある。


「私は……どうして、男と結婚しなければならないんですかね……」


 周りに人がいたら「???」と疑問に思うかもしれないが、私にとっては最重要な案件だ……だって、私は性的に男に興味がない。


 おっぱい、おっぱいを揉みたいし、女の子の穴にしか興味がない!!! チンチンなどには興味はない……それよりも女体だ。自分以外の女体が欲しい……Aカップの私にはないふわふわ巨乳に包まれて窒息死したい……できればFカップがいい。

 

 女の子と結婚して、女の子エッチをしたい……もう夜通し……性的な悪戯をしたい。恥ずかしが顔を見て、顔射したい……。


「はぁ……」


 だが、そんな特殊な思考を他人に言えるはずはなく、日々悶々として生きている。


 うん、私は変態です。


 ああ……大声で『私は美少女が好きだ!!!』と言えないこんな世の中に……どれだけ価値があるのか……ああ、憎い、世間体という人間が作り出した概念が憎い……。


「…………あっ」


 私の怨念が天に届いたのか、その時、強い風が身体をよろめかせる。その風はとにかく強く、立っているのがやっとだ。ここまで強い風は人生で初めてかもしれない。


「…………くっ、ああ、えっ……こ、これ……す、すごい風」


 風が強すぎて息ができない、目を開けてられない……そして……風に揺れる身体を支えようと、フェンスにもたれ掛かった瞬間――。


 ガコン!!


「…………えっ」


 鈍い音と共に落下する身体とフェンス……私は今……落ちている?

 落ちて……落ちて……地面が近づいた瞬間、思う……「ああ、私は死ぬのか……死ぬ前に女のことセックスがしたかった……」と……。


   ◇◇◇


 私は目が覚める。

 目の前の天井にはアニメの巨乳の女の子ポスター……。


 見覚えのない景色だ。さらに視界に写るのは、目をこするために上げた腕と手のひらが太い……いつもの2倍上はある。


「………………」


 ふぅ、私はきっとまだ夢の中にいるんだろう……どうせ見るんなら、美少女とセックスをする夢を見たいのに……よりによって男に……。


「………………」


 と、思っていて……急に意識が覚醒する。

 おかしい……な、なんか身体がいつもより、重い……というか大きい!?


 私はガバッと寝ていたベッドから上半身起こす。すると美少女フィギュアやポスターなどが大量に飾られている見覚えのない部屋が視界に入る。お世辞にも綺麗とは言えない部屋だ……なんか、男くさいし……。な、なにこれ……?


 混乱しているとやがて、フィギュア棚に設置されていた大きめの鏡が視界に入る。


「………………えっ……わ、私、男になってる?」


 自分から出た声は野太く、いつもよりも数段低い。

 そして鏡写る姿は100キロを超える清潔感のないぼさぼさ頭の巨体が映っていた。その姿はお世辞抜きで言うと……醜くい……若いのだけが唯一の救いといった感じだ。


 私と同じ17歳ぐらいかな……?


「…………落ち着こう」


 私は小さく呟く。

 予想外の出来事も冷静に対処できるのは私の長所の1つだ。ここは冷静に冷静に考えよう……。


 私は風に流されてビルから落ちた。


 これが最後の記憶だ。そして気が付いたら、この巨体になっていた。

 男になっていた……ん? 待て……男になっていたということは……。


 私は死んで……男に転生した? んん? ええ? ま、まさか……!!!


「…………!!!」


 私は冷静さを速攻で捨てて、慌てた様子で、かかっていた布団を引っぺがし、ズボンを持ち上げて、自分の股間を確認する。


「………………」


 私の目に映るのは初めて見る男性器……。

 やがて動揺の気持ちを押しのけるようにして、歓喜の気持ちが心を潤していく。


「よっしゃああああああああああああああ!!! チンチンついてる!!! これで美少女とセックスできるじゃん!!!!」


 私の第二ハーレム人生はこの時を持って始まった。

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