7:エルフの森を焼き払う聖女
「じゃっきょうと♪ じゃっきょうと♪ 滅ぶっべし~、滅殺圧殺――〝ダークフレイムゲイザー〟!!」
調子外れの歌と共に、ステラエアが目の前に立ちはだかる鬱蒼とした暗い森へと、持っていたメイスを思いっきり振り払った。その足下には、異形化した生物の死体が積み重なっている。
メイスから闇色に燃える炎を纏った衝撃波が放たれ――轟音。
「さあ――地獄の釜が開いたわ」
「……なんちゅうことを」
ヴァルの呟きはしかし、木々が一瞬で灰となるほどの火力によって生じた突風が轟く音によって掻き消された。
「やっぱりエルフの森は燃やすに限るわね。罠はあるわ、わけわからん化け物はいるわで、ちんたら中を彷徨う暇なんてないもの」
「生態系が……」
ステラエアの目の前には――まっすぐ森の奥へと続く一本の道が出来ていた。馬車二台がすれ違えるほどの広さの道で、その道に沿って両側には未だ燃え続ける木々が立ち並んでいた。
それはステラエアの魔術と力技――本人曰く神の奇跡――によって木々が吹き飛ばされたことによって出来た道だった。
それはまるで地獄へと続く道のようで、目を凝らせばその奥に白い森が見えた。
「ヴァル、あんた何を寝ぼけたことを言ってるのよ。生態系? こんな生態系なら滅ぼしても神が赦すに決まってるわ」
そう言って、ステラエアが足下の異形化した巨大なカマキリのような生物の膨れ上がった腹を蹴った。
その中から、未消化のエルフらしき死体が出てくる。そのエルフもまた異形化しており、この森が尋常ではないことを物語っていた。
「……呪いのせいでしょうか」
祈るように、そのエルフの死体に十字を切ったヴァルの言葉にステラエアが頷く。
「そうね。でもそれだけじゃなさそう。邪教の一種である肉体改変の痕が残っているし、多分ここにいる四貴族……ロトスだっけ? そいつがやったんでしょ、魔術師なんて肩書きが付いてるぐらいだしどうせ、ろくでもない奴よ。あの神殿の老人みたいに純粋に呪いだけを与えられていたのなら、私でも救えるのだけど、こうなったエルフはもう助からないわ。ならば殺してあげるのもまた……慈悲よ」
「そうですね……俺もそう思います。その魔術師とやらはエルフを従えていたのでしょうか」
「エルフは排他的だからよそ者を王に担ぎ上げるなんてことはしないでしょうし、元々エルフだったかもしくは……無理矢理エルフを従えさせているか。ま、いずれにせよ断罪確定なので、サクッとプチッとやっちゃいましょ」
そう言って、メイスを腰に戻したステラエアが自らが造り上げた道を進んでいく。
「もう、この国は終わりなのでしょうか」
「多分ね。潰すとは言ったけど、もう半壊ぐらいはしてるんじゃないかしら。他の土地もきっと似たようなもんよ」
「……本部が動くかもしれないですね」
「うへえ……それは最悪。そうなったらめんどくさいから、さっさとやってしまいしょう」
珍しく、心底嫌そうな顔をしたステラエアがその足を早めた。ヴァルは剣を構え、いつ襲撃があっても良いように備える。
「もう、何も出て来なければ良いのですけど」
「そうはいかないみたいよ?」
ステラエアが不敵に笑うと、目の前に突如現れた異形を睨み付けた。
頭だけを見れば、それは鴉だった。しかしその巨大な身体はまるで蜘蛛のような形をしており、申し訳程度に背中から翼が生えていた。何より、巨大に発達した二本の前腕はまるで大鎌のようであり、禍々しい印象を見る者に与えている。
「悪魔ね。うん、悪魔決定。やるわよヴァル」
その言葉と同時に、その異形の悪魔――首狩り鴉と呼ばれるロトスの人造生命体――が何匹も脇の森から道へと這い出てきた。
「うへえ……また蜘蛛みたいなやつだ……勘弁してくださいよ」
「だったら引っ込んでなさい。前に出たら、容赦なく巻き込むからね」
「いや、そこはちょっとは手加減してくださいよ」
「良いじゃないアンデッドなんだし。特攻して私の魔術で奴等もろとも吹っ飛びなさい」
「……大人しく背中をお守りしときます」
そんな軽口の応酬と共に――戦闘が開始された。
道がなければ作れば良いのよ!