6:塩の玉座のその上で(敵視点、グロ表現あり)
翠玉柱の森、深部、〝塩柱林〟――玉座の間。
そこは残酷なほどまでに美しい場所だった。
木々も、鳥や蟲達も、そして世界で最も美しい生物と謳われるエルフまでもが全て――塩の結晶になっていた。
そんな漂白された森の中、かつてはエルフの王が腰掛けたと言われる大樹の切り株の上にある玉座――これもまた塩の結晶と化している――に座っていたのは、小さく醜い人のよう何かだった。
小さく、ガリガリに痩せた身体に不釣り合いなほど大きな頭には、いくつもの瘤と水疱ができており、青色の膿が噴き出ていた。頭には、サイズの合っていない茨で出来た王冠が乗っており、手には曲がりくねり先端にエルフの女性の首が乗った禍々しい杖を持っていた。
「異端……審問官……は殺せ……殺せ……殺せ」
その口からはどす黒い血と共に放たれたのは呪詛のような声だった。
「ろ、ロトス様! 森の中にいたエルフ達は皆、呪われて廃人化して、それを免れた者も異形化した森の生き物達に襲われたせいで無傷な者がほとんどいません! ここはロトス様の結界のおかげで無事ですが、もはや翠玉柱の森は地獄と化しています」
この森の主であり、ラムザンの四貴族の一人――〝魔術師ロトス〟にそう答えたのは側近である一人のエルフだった。
美しい金髪に整った顔立ち。そして他にはない長い耳が特徴のエルフだが、その顔は恐怖に引き攣っていた。
「わ、我が作ったハイエルフ、食人蟲……それに首狩り鴉。す、全て……解き放つ」
「い、いけません! あれらは既に人が御せる範疇を超えています! あれらを放てば、この森、いやこの国が終わ――や、やめてく……ぎゃああああ!!」
側近エルフが、ロトスに向けられた杖の先端にある歪んだ顔のエルフの女の生首と目が合った瞬間――その顔と右半身が大きく膨れ上がった。
「い、嫌だ! ハイエルフにはなりたくな――や、やめてくでええええ!!」
膨れ上がった皮膚はやがて水疱となり、膿を噴き出しはじめた。
「あ……が……げへ……おれ、ハイエルフ……ウツクシイモノ、ナリ……」
ロトスによく似た姿に変わり果てた側近エルフが、ブツブツと何やら呟きながら去っていく。
「も、森にはエルフのわ、罠がある……異端……審問官は死ぬ! 死ぬ! ギャハハハ!!」
塩の玉座の上でロトスは一人、笑い続けた。
だが、その笑いはすぐに止むことになる――
最後の一行で、彼の運命が窺い知れますね……
次話でまたステラエア視点に戻ります