2:やられたらやり返す聖女
「――〝セイクリッド・アロー〟!」
ステラエアが魔力を込め、手を空になった聖杯へと向けた。
しかし、何も起こらない。
「……城壁すら吹っ飛ばすステラエア様のセイクリッド・アローが不発とは……」
「やれやれ、これではっきりしたわ――〝ダークネス・アロー〟」
そうステラエアが言い放った瞬間、彼女の手から闇色に輝く極太の矢が放たれ、命中したそれは黒い爆発を起こし――聖杯を石の台座ごと吹き飛ばした。
見れば向こう側の壁まで爆発は及び、床と壁が大きく抉れていた。当然、聖杯どころか台座すらも跡形もなく消失している。
「……魔力をほんのちょこっと込めただけでこれよ? しかも闇属性魔術だし。これじゃあ私が邪教徒みたいじゃない」
「やはり、呪いが反転したのでしょうか?」
「さてね。でもとにかく、私の神聖力は全部消えて代わりに闇の魔力が馬鹿みたいに増えたわ。そしてアンデッドになった」
「俺は剣振るだけなんで何も変わりませんが、やっぱり不死になってますね。まさか手首を切り落としてもくっつくとは」
ヴァルがため息をついて、左手首を取ったり外したりすると、ステラエアが笑った。
「ま、ヴァルまで不死身なのは嬉しい誤算ね。おかげで近距離戦闘も不安がなくなった」
「……何するつもりです」
ステラエアの不穏な雰囲気をいち早く感じ、ヴァルが一歩下がった。
「私、この呪いを受けた時に見たし、知識も得たの。この呪いの源は――四人の貴族、そしてこの国の王よ。彼らは自らの欲望を満たす為に邪教に手を出した結果、強大な力を手に入れたけど――呪われた。そこまではまだ良いんだけどね、ざまあみろって感じだし。だけど、あいつらはよりにもよってその呪いを何も知らない聖女を人柱にして肩代わりさせる儀式を考案してしまった」
「それが――さっきのやつですね」
「そう。奴等は旅の聖女が来ると、この場所におびき寄せてそして生け贄に捧げた。おそらく十年から百年ぐらいはそれで安泰なのでしょう。そしてまた呪いが自身に返ってくる前に、別の聖女を捧げた。そんなことをずっと繰り返してきたのよ」
ステラエアの声に静かな怒気が籠もる。
聖女のなれの果て――死体の山はヴァルと協力して丁寧に一人一人床に並べた。皆、苦悶の表情だった。
残念ながら聖女としての力を喪ってしまった為、祝福することができなかったが、せめて祈りの言葉だけでもと、彼女は跪き全員に祈りを捧げた。
「だけど、この私を生け贄に捧げたのが運の尽きね。私の神聖力と呪いが拮抗した結果――呪いは反転。一部を残して全てこの周囲……おそらくこの国中に飛び散ったでしょう」
「じゃあ、その貴族達も再び呪われたのでしょうか?」
「そうは思えないわね。飛び散ったのは残滓程度の呪い。それでも十分に脅威なのだけど、その呪いの源は未だに私の中にある」
そう言って、ステラエアが胸に手を当てた。まだこの心の奥に――どす黒い塊が五つ、蠢いている。これを何とかしないことには、おそらく不死も解けないし、神聖力も戻ってこないだろう。
「どうする気ですか……と聞くのは愚問でしたね」
ヴァルは長年の付き合いで、この聖女の気質をよく知っていた。彼女は決して――やられっぱなしで終わる女性ではない。
「どうするかって? そりゃあもちろん……」
ステラエアをそう言って、自分達が落ちてきた穴を見つめた。良く見ればその穴の壁が、全て白骨死体で出来ていて、それが上まで続いていることに気付き、彼女はにやりと笑ったのだった。
元々、マッチョな聖女パワー持っていたので、彼女に目を付けられた邪教徒で、いまだに生きている者は一部を除いてほとんどいません