13:神秘は海の底にあり(敵視点)
その空間は、圧倒的なまでの無音に支配されていた。ときおり、水圧によって外殻が軋む音が鳴るがそれもすぐに沈黙に戻る。
「レーゼンハイム老師。凶星が西に上がったと、観測士が」
沈黙を破るように、学士らしき姿をした青年が、祭壇の前に置いた安楽椅子に座る人物へと声を掛けた。祭壇には巨大な海獣の骨が飾られており、その下にはおびただしい量の甲殻類や魚類の死体が積み重なっていた。
それは、海の死を一カ所に凝縮させたような有様の禍々しい祭壇だった。そしてその祭壇の向こうには、暗黒とも呼べる大量の水があり、静かに揺れていた。
祭壇の前に座る老人は立派な白髭を蓄えており、ゆったりとしたガウンを羽織っているが、袖や裾から見える肌は青白く、フジツボや藻の類いがびっしりと生えていた。その身体は全体がどこかしら湿っており、腐った魚のような臭いを放っている。
しかし学士はそれが当然とばかりの顔のまま、その老人――〝深淵灯台〟の主であり、そしてラムザンの四貴族の一人であるレーゼンハイムの返事を待った。
やがて、まるでうがいするような音と共にレーゼンハイムが口を開けた。
「ゴボゴボ……空のことなぞ、捨て置け。真理は常に……深海にある。深き底にこそ神の庭はあり、そこに至ることこそ、我らの本懐。上を見上げる暇があるのなら、少しでも肺を――水で満たせ……」
「……観測士によると、翠玉柱の森が清浄化したとも」
「塩なぞという海のカスに拘泥した者に相応しい末路だ……ゴボゴボゴボッ!」
喉に満ちる液体を泡立たせるように笑うレーゼンハイムに、学士は頭を下げるのみだった。
「奴等が……こちらへと向かっているそうですが」
「ゴボゴボゴボッ! 偽りの神に縋り、真実を邪教と呼ぶ奴等に何が出来る……? 来たいのなら来ればいい。そして奴等はやがて知るだろう……神秘を――深淵の神を!!」
レーゼンハイムの言葉と共に、祭壇の向こうの水面が揺らぐ。
巨大な何かがそこで蠢き、さざ波を立てた。
「では……そのように」
そう言って、学士が去っていった。
再び、その空間に沈黙が戻る。
というわけで、二章:賢者レーゼンハイム編開始です。
ブラッドボーンとかクトゥルフとかまあ、そんな感じです。やったね! 次話で漁村が出てくるよ!
タコとイカとか美味しくいただける日本人にとってクトゥルフはあんまり怖く感じないとかいうアレ系な話になるかと




