じいや
か、かけまし…バタンッ
「ねえ、じいや。」
「?はい、坊ちゃん。何か御用でしょうか。」
僕とエイダンを育ててくれた人。最近は年だからって庭の手入れが終わると帰っちゃうことが多い。僕は、(そしてきっとエイダンも。)それをちょっと寂しく思っている。でも、僕とエイダンの間で何かあった時、彼は必ずこのおじいちゃんの書斎にいる。何故か分ってしまうらしい。そんな、さり気ない優しさについ縋ってしまう。そろそろ一人で生きられるようにならないとダメなのに。おじいちゃんがいなくなって8年が経過した。つまり、僕がこの家の当主になって一年が経った。おじいちゃんがいない間も僕はこの家をまとめたり、仕事をしたりしていた。どんなに皇帝に可愛がられていても、法律には抗えない。お墓だって立てた。だからもう、前に進まないといけないのに。会いたいと願うのは夢の中だけにしないといけないのに。いつか帰ってくるって信じているから、そうじゃないと僕が壊れちゃうから、この書斎を片付けられないままでいる。
ああ、つい感傷に浸ってしまった。本題に入らないと。
「僕はあの子を助けたいんだ。エイダンがすごく嫌がってるみたいだけど、どうしても譲れないんだ。それに、あの子を誘拐した教団、彼の過去にも関係がある気がして。じいやはどう思う?」
僕の話を聞くなり、じいやは本棚の中から一冊のノートを引っ張り出した。
「こちらは彼の過去に纏わる考察と交わした契約について主様が記したモノです。どうぞ。」
じいやは肯とも否とも言わない。応援してるという意味で何か情報をくれる。彼なりのルールなんだとか。
受け取って、表紙をなぞって、あの紅い瞳を思い浮かべる。そういえばあのチョーカー…。褒めて触ろうとしたらとっても怒って止められた。「こんなモノのどこがいいんですか?これのせいで俺たちは苦しめられた。………ふう。とにかく、何が起こるか分からないので絶対に触らないでください。」って。ぞっとするほど冷たく燃え盛る炎のような表情が脳裏を横切った。あの時ですら詳しくは話してくれなかったな、と思い、温かな手にソレを渡し、首を振って断った。
「…いいや。直接エイダンに聞く。本人が話したくないって言ったら深追いはしないから。ここで勝手に知っちゃったらいけない気がしてきた。ありがとう。ぐちゃぐちゃしててごめんね。ちゃんと話すよ。それで衝突したって仕方ないって思うし、ある程度ならエイダンの希望も聞こうと思う。でも、助けようって気持ちは曲げないよ。うん。…じいや、ありがとう。」
じいやは嬉しそうに微笑んだ。
「ふふふ。坊ちゃん、では一つだけ。とある山の奥地では古くから魔法使い狩りを行う教団が住んでいて、そこから…」
「私は逃げて来たんですよ。」
ぬっと背後から噂の主が現れた。
「え、いつから居たの?」
黒髪の青年の口角は上がっているが、目が絶対零度になっている。これはちょっと、ピンチかも。僕はじいやに合図を送った。じいやは何やら呟いてから、部屋を出ていった。
「話すのは道中でも構いませんか?テオ様は行動力に満ち溢れていらっしゃるとお聞きしています。もうアジトは突き止めてあるのでしょう?」
振動が胴に伝わってくる。
「エイダン、この体制ツライよ。それに僕、自分で歩けるよ?」
言外に「降ろして」と伝えたはずなのに、彼はただ抱え直すだけだった。
「テオ様、支度を整えねば。大荷物になる予定でしょう?」
ほらほら、と急かすエイダンの声のトーンが少し上がっているように聞こえた。
続きは近々。いや一週間後かな?