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炎は孰れ月を染める  作者: 鴇羽ほたる
船出
4/25

天秤

急に長くなってどうした?と思われる方もいらっしゃるかと。キリが良かったためだと作者は供述しています。


追伸

色々と直しました。訂正版もお楽しみいただければ幸いです。

 もぐもぐと小動物のようにパンを頬張(ほおば)る少年を視界に入れながら黒猫たちの水を()()える。続いてポロポロの(ふくろ)を手にし、正確に適量(てきりょう)銘々(めいめい)餌箱(えさばこ)(はか)り、入れていく。()ねて窓辺(まどべ)でふて()する(やつ)らは放って()いても問題ないのだが、服に張り付いてくるサビに限りなく近い(やつ)と、進行方向を(ふさ)いで歩く(ひたい)白点(はくてん)がある(やつ)厄介(やっかい)だ。用事が()むまで解放してくれない。かわせれば楽だが、相手は猫。一歩間違えれば()んでしまうので音速(おんそく)要求(ようきゅう)(かな)える(ほか)、なす(すべ)がない。一匹一匹与える量が違うから頭が痛い。さて、十、十一、十二…


「エイダン、今日はご飯食べなくていいの?」


 ………五十。入れすぎた。量り直そう。スプーンで地道に戻していく。四十三、四十二、四十一…


「それとさ、昨日トミーに『魔法使いが君のお世話係なの?』って聞かれたんだけど…。」


 …百三十九。いや待って。何故(なぜ)増えた?


「僕、一応『エイダンは趣味(しゅみ)で目にカラコンいれてるだけだよ。』って答えといたよ。」


 バラバラと(こぼ)れた(えさ)を猫たちが(うれ)しそうに(たい)らげる。呆然(ぼうぜん)とそれを(なが)めながら、思考を途絶(とだ)えさせる天才が何を言っていたか反芻(はんすう)する。確か、要約(ようやく)すると『エイダンが魔法使いじゃないかって勘繰られたから誤魔化(ごまか)しておいたよ。エイダン()めて!(きゅるん♡)』って話だったような…。まずいな。もしそれを公言されたら研究所でホルマリン()けの後、バラバラに分解されるか、あそこに連れ戻されてありとあらゆる拷問(ごうもん)を受けた後、笑顔で(はりつけ)にされるか…。どっちも(いや)だな。けれど普段、魔法は使っていないはずだからそう簡単に見破(みやぶ)られるなんて………、さては(ひとみ)の色を見られたか?


「私、外では常にサングラスを着けているはずなのですが…。トミーさんは透視(とうし)ができる方なのでしょうか。だとすると危険ですね…。対策を(こう)じねば…。」


 いっそカラコンとやらを使用してテオ様と同じ(あお)い目にしてしまおうか。いや、却下(きゃっか)だ。以前試した時、何とも言えない禍々(まがまが)しい色になってしまったではないか。逆に(あや)しまれてしまう。


「いや、トミーは透視(とうし)できないから。で、トミーが情報を得たと言ってた君のファンクラブもサングラスの奥は(あか)い目だって情報が(まこと)しやかに(ささや)かれているんだ。まあ、事実っちゃあ事実だよねー。(おそ)ろしいことに、ね?」


 ファン…fan(ふぁん)…?あ、あれか。梅雨(つゆ)の時期、大変お世話になる…。ん?待てよ?


「私、扇風機(せんぷうき)の販売はしておりませんが?」


 いつも冷静なはずのエイダンがバグっている。相当(そうとう)なショックなんだろうな。でも、ごめん。紅茶に()せちゃうのは不可抗力(ふかこうりょく)だったみたい。背中を(さす)ってくれている彼に心の中で謝った。


「エイダ…ゲホッゴホッ……そっちのfan(ふぁん)じゃなくて…ウゥッ…ハハッ。あーハハハ。えっとね、『エイダン様が好き!結婚して』っていつも(さわ)いでいる女の子たちがいるでしょ?その子たちが、エイダンの目は(あか)だって…ゲホッ、言って(ゆず)らないんだ。何でも、エイダンのお友達を名乗(なの)る人物からの情報…ゴホッンンンッ…だって。」



 友達…?生き残りか?いやないな。俺で最後だったはずだから。



「テオ様、失礼ながらトミー様になさった説明は悪手(あくて)ではないかと思うのです。魔法使いの象徴(しょうちょう)である(あか)い目の色にしているという弁明は、①魔法使いが実在すると知っている。②むしろ見たことがある。③図星(ずぼし)だったので誤魔化(ごまか)している。等の考察が可能になってしまうかと。」


 銀髪が上下に()れる。


「やっと思考回路が復活してきたみたいだね。この文明が発達した世の中には魔法使いなんていない。そう僕らは教育されている。だから目が紅いとしてもその子が魔法使いなんじゃないかって考える(やつ)は本来いない。今の皇帝が確証のない(うわさ)だとしたから。その証拠(しょうこ)は全て彼が(いくさ)(じょう)じて燃やしたんだ。皇帝は皇太子の頃から誰よりも国民を大事に想う人だったから、十数年前、魔法使いの子ども達が誘拐(ゆうかい)されて二度と戻って来なかったっていう事件が起きた時、原因を必死に調べさせたんだ。専門家は口々に瞳の色で見分けがつくと知られていたことが悲劇を呼んだんじゃないかと言った。彼が人種の差について書かれた本を抹消したのは差別をなくそうとしたのと、そういう悲劇を繰り返させないためでもあった。全く、大変な大騒ぎでさ。もう、あんな目に合うのは御免(ごめん)(こうむ)りたいね。あの人、おじいちゃん連れてっちゃって、三日ぐらい帰してくれなくてさ。僕はメイド長にティータイムという名の「世界銘茶(めいちゃ)飲み比べ!どれがどこ産でどんな特徴があるか一言一句(たが)わずに言えるようになろう!」っていう講座を開かれて、見分けられなくてお腹タプタプになって。本当、死ぬかと思った。今だって僕のこと「teri(テリ)!」とか呼んで構ってくるし、くだらない電話毎夜かけてくるし、鬱陶うっとうしいし…コホン。だから、魔力を持つ者の特徴が書かれた本なんてどこにもないよ。あの修羅(しゅら)見逃(みのが)すわけがない。」


 そうか。そんなことが…ってテオ様の口ぶりでは今の皇帝と知り合いかそれ以上の仲のようだが?まあ、いい。人間関係よりも自分の命の方が大事だ。


「ファンクラブの子たちだってそう。関連付けていないどころか(うらや)ましがっている。じゃあ、どうしてトミーがそう聞いてきたか。彼はね、僕の返答に満足せず、質問を重ねて来たんだ。『だって君はbackだろう?Circe(キルケ―)護衛(ごえい)がいなきゃ道理(どうり)に合わないよ』ってね。そんな隠語(いんご)、今時Fanatics(狂信者)しか使わない。同い年なら知らないはずだし、年上だとしてもまず使用すること自体が禁じられてる呼び名だ。背景に強い人がいないとまず、ムリだね。(ちな)みに彼はつい最近この街に()してきたばかりだ。自己紹介では『(めずら)しいものを集めるのが趣味(しゅみ)です。』って言ってたかな。ほかの子には目もくれず、僕に熱心に話しかけ、家を教えろとか家族構成とか略歴(りゃくれき)とか契約(けいやく)してる奴はいないのかとか、とにかくしつこくて。」


「まさかテオ様、正直に答えたんじゃ…。」


生憎(あいにく)、僕はそんなに無垢(むく)純粋(じゅんすい)なお子様っていう仕事はしていないよ。最初っから怪しいなって感じていたから全部嘘吐(うそつ)いてあげたよ。昨日はやっとボロを出したなって心の中でずっと笑ってた。捕食者がそんなんでよく生きてこられたな、って。もしかしたらなったばかりなのかもしれないけどね。」


Fanatics(狂信者)…司祭の忠実な下僕。特異体質の子どもを回収して(まわ)り、約束を交わした魔法使いを間接的に殺して歩く役割を担う者。最近は怪しい科学者のために奔走(ほんそう)して大金を(かせ)(やから)もいる…。それが比較的に治安の良いこの街に現れるとは。


「つまり私の居場所が司祭に…。」

「んーどうだろ。あとさ、エイダンの友達を名乗る人物も怪しいよね。」

「ええ。ファンクラブだかなんだか知りませんが彼女らが信じているニンゲンは詐欺師(さぎし)か何かでしょう。」


 友は皆、失った。否、(うば)われた。忘れたことなどない。あの悪魔(あくま)(ごと)業火(ごうか)を。()せ返る熱を。(くる)った信者たちの(よろこぶ)ぶ顔を。断末魔(だんまつま)の悲鳴を。首枷(チョーカー)(のろ)いだって司祭が(ほどこ)した。外すには『死んでもいい』と思わなくてはいけない。つまりあの(おぞ)ましい儀式(ぎしき)肯定(こうてい)しなくてはならない。仲間は血塗(ちぬ)られた首枷(のろい)を外せないまま、灰一つすら残さず消えた。十字架(じゅうじか)にかけられた先の末路(まつろ)はきっと、俺も同じになるのだろう。本当に(おそろ)ろしいのは力のある自分ら(まほうつかい)ではなく、キョウリョクしてチガウを寄ってたかって駆逐(くちく)する、か弱きニンゲンだろう。思わず身震(みぶる)いした。


 紅茶を新たに口に含み嚥下(えんげ)した彼は右手の人差し指を立てた。


「それとね、彼が来た日に丁度、少女が一人、行方不明になったんだ。同じクラスの子。多分エイダンも知ってると思う。ピンクに近い(あか)い目の子。僕はその子の行方(ゆくえ)()()めたいなって考えているんだ。情報屋によると、彼女は魔力(まりょく)の弱い魔法使(まほうつか)いで、(なぞ)の教団の使者を名乗る二人組が白昼堂々(はくちゅうどうどう)誘拐(ゆうかい)したんだって。『魔法使いはこの世を滅ぼす。だが、(にえ)として用いれば永遠の幸福が人類に与えられる。』と言ってさ。エイダン、あのね、この教団、国際指名手配犯を(かくま)ってるっていう情報があって、とある人から(くわ)しく調べてくれって。見つかり次第捕縛(ほばく)しろって頼まれてるんだ。それに僕らにとってもまあ、危険と言えば危険な事態だからさ。その…この街に現れたわけだし。ってことでその教団に乗り込んでフルボッコしに行こうよ!少女がいるところが本拠地なんでしょ?だからさ…」


「…げましょう。」

「へ?」


「逃げましょう。」



 真っ白な骨ばった手が固く(にぎ)られ、小刻(こきざ)みに(ふる)えていた。否定しようと思ったのに、炎を見た時よりも(こわ)がっているような彼の姿に僕は何も言えなかった。



閲覧、ありがとうごさいます。続きます。

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