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炎は孰れ月を染める  作者: 鴇羽ほたる
敵地巡り
24/25

キミヲマモルタメナラ

お久しぶりです。読んでくださる方々がいるありがたさを噛み締めて生きています。諸事情により更新できず長らくお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。

 流石に眠らずに過ごし続けるのも無理がある。だが場所はそれぞれ誰かしらのドラマを持っているので、滞在しても安全というところを見つけるのは骨が折れる。テオ様は「今までこれほど面倒な依頼は受けたことないから、月から逃げることぐらいしか案が浮かばない」と俺の恐怖を煽りに煽る。オータムが野宿に慣れていて助かった。当たり前だが、あの日以来屋敷関係でしか外出していない俺と、貴族(俺の勝手な推測)である主人(テオ様)に「家がない場合のいろは」があるはずもなく。『かんいてんと』とやらの組み立て(講義付き)をオータムは始めご機嫌、終盤呆れ峠通り越して虚無になりながら頑張ってくれた。


「これでコイツは完成だ。この俺様が貴族のために野宿を教えることになるなんて…ゴホンッ。失言失礼致しました。後は火起こしなんだが…、1番大変だから、魔法でパパッとできねぇか?」


 無理だと断れば俺ではなく、主の評判に傷がつく。ここは息苦しい箱庭から離れている場所だと言えど、いつどこで誰が見ているとも分からない。


「兄弟…無理はしなくてもいいんだよ?」


「私がいつ、不可能だと言いましたか?」


 無理ではない。やらないだけだ。火をつけるのは、いつも、俺の役目だったから…得意なんだ。


「こう見えて私、魔法の扱いに長けた者ですので。」


 右手の人差し指と親指を擦る。木材の焦げた匂いが立つ。鮮やかな紅が茶を呑み込む。熱が巻き上がる。轟々と抗う音。耳の奥底から聞こえてくる悲鳴。目の奥底に映るあの顔。魂が肉体から離れていく瞬間に、何故か飢えを感じていた。泣いているのに歓喜する、そんな心が乖離しているように感じるあの瞬間、が…。


「今すぐ離れてっ!火力を下げてっ!ねぇ!」


 ふわっとベールを被されたように霞んでいく感覚と相反して響く主の声。遅れて映る景色。


「おっと。失礼致しました。少々強すぎたようですね。」


 左手を横へ凪げば、火柱は可愛らしく弾ける音を出す小さな火へと戻る。


「やっば…。かっけぇ…………。」


「そうでしょ?僕の兄弟はカッコいいんだ!」


 能天気な会話は俺が眠るまで続いていたようだった。


 ***


「ジェスター様、少々尋ねて…たいことがあ…ございまして。」


「ん?なぁに?あと、不自然すぎて聞きづらいから今まで通りの話し方で構わないよ。」


「え?あ、ありがとうございます。」


「敬語、僕嫌いなんだよね~」


 チラチラと紙切れを振る。個人情報の塊。主にオータムの。権威はこちらにある。僕は僕の血に頼らず生きていきたいから。例え手段が下劣だと言われても、もっと酷い方法を()()()()()からなんとも思わない。要求も大したことないはず。小さなことから積んでいけばいつかはきっと最良の駒になるはずだ。僕に目をつけられたなんて。可哀想にね。


「うっ…。え、えと、その、ちっと聞きたいことがあるんだが、その、聞いてもいいか?」


「全部に答えてあげるとは言えないけど…君の質問を聞くくらいならしてあげる。話してごらん?」


「あの、アンタは寝なくていいのか?」


「うん。」


 簡素な答えにオータムは拍子抜けしたような顔をした。そしてもじもじと包帯を巻かれた小指を触りながら目を逸らした。


「あ、あと…その、ジェスター様って本当にただの貴族なのか?」


 鋭い子は嫌いじゃない。特に彼は出会って大した時間も経ってないのに殻に逃げないから余計良い。勿論、エイダンへ発したあの言葉のことは許してない。仕方ないのは知ってるけれど、それでもダメ。だからその内じっくりねっとりと慰謝料を払ってもらうつもり。にこやかな作り物の笑みに全てを溶かし、問いに答えるべく口を開く。


「貴族だよ。多分ね。」


「多分…?」


「貴族には階級があって、家門もあって、役割もあって…。まあ、要するに大きな括りで言えば貴族になるのかなって意味なんだよね〜。」


 そう。大きな括りなら。ここで詳しく教える必要はない。教育はちゃんと僕の家までお持ち帰りしてからだ。


「な、なるほど…。フクザツなんだな、貴族って。」


「そうだね。あとは?」


 ビクンッと肩が跳ね上がった。そんなに驚くことだろうか?


「え、えっと…。あの首枷のことについてどこまで知ってるか、聞いてもいいか?」


 首枷………。エイダンが絶対に教えてくれないこと。調べても調べても、ただ『教団が攫った魔法使い達に着けさせていたもの。』としか情報が出てこない忌々しい存在。


「ほとんど知らないんだ。彼がまず、教えてくれない。」


 僕はただ彼の役に立ちたいだけなのに。


「…言いにくいんだが、あれ、拷問道具なんだ。」


「は?」


 今、なんていった?


「あれ、魔法使うと首締まって死ぬっていう設計になってるはずでさ。でも、稀に、それこそ彼みたいに死なない魔法使いもいて。何だか特別な力が込めてあるとかなんとか言ってたな。」


「ねぇ、それを施したのは誰だか分かる?」


 エイダンの言う、司祭…国際指名手配犯にはそんな能力はないはず。魔法に反応するということは例の鉱物が含まれているはず。革全体が動くのだから、満遍なく細かく削られて仕込まれていると思われる。ただ削るだけでは粉であるだけだ。水にも油にも溶けない特別なモノだから邪悪な力か何かで溶け込ませ、僅かな量でも反応し、弾性力を増幅させる方向になるようなカラクリが潜んでいるとみて良い。


「あー、確か………。」

次回をお楽しみに〜!

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