火傷痕
書けました。書きながら何度も泣きそうになりました。だって、締め切り間際のレポートがこっちを睨んできたんだもん。
ギギギ…ザァァンッ
パロサントの木が倒れた。テオ様の真上に。倒れてしまった。俺はまたあの日のように指一つすら動かせなかった。今は自由だったはずなのに。どんなにどんなに言い訳し続けていたって、結局、彼らの言った通りだ。最期まで信じてくれていた朔も、ボクは、ボクが…。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!
「なんで避けなかったんだ?気味が悪い。…だが。」
白いローブをはためかせながら神の裁きを遂行する者はこちらへと爪先を向ける。
「獲物を見つけたから運が良い。変わった瞳の色をしているが、先程魔法陣を解いていたな。貴様、さては前世、何らかの業を背負った者であろう?」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやダいヤダ…
ボクハモウニドト…
モう二度ト…なんだっけ?
「答えないってことは肯定だと見做すぞ。そこの裏切り者と共に、我が聖なる力を持って、神の思し召すままに、処す。安心しろ。特別優しくしてやるから。」
こいつを恐れる理由なんてどこにもない。
だって俺にはこいつを殺せる理由がある。
我が主の命を狙ったという理由が。
俺は約束した。我が魔力にかけて、テオ様と。
『ずっとそばで守る。』
と。
あの日の幼いテオ様にとっては軽い気持ちで結んだ小指だったのかもしれない。俺は彼の無知に気づいておきながら、この生を地に結びつけるために利用した。美しき瞳に消えぬ翳りを刻めたことにほの暗く歓喜した。
ボクは皆との約束を守るために新しく約束した。
俺は終わりに抗えず朽ち始めた肉体に鞭を打った。
全ては綺麗に
散るために。
あの刃で貫かれるよりもずっと、ずっと、綺麗に。
ゆっくりとみえる、奴が紡ぐ魔法陣。
とっさの判断で俺が小脇に抱えていたオータムが拳銃で的確に砕いていく。
ああ、騒がしい。
静かに眠ってしまえ、永遠に。
俺はゆらりと手を挙げた。
ずしりと愛用している斧が大地を割いた。
全てはゆっくりと動いていく。
ぱっくりと裂けたその隙間に、奴が何やら叫びながら飲み込まれていく。
最期まで五月蠅いニンゲンだ。
この地は聖地なんかじゃない。仲間の悲鳴が押し込められた場所だ。志半ばで消された仲間たちが希望ではなく絶望を映さざるを得なかった…眠ることすら許されず、ただ無闇に無惨に、燃え盛る業火に呑まれ、数多の刃に串刺しにされて、涙すら空気に撒かれた、地獄があったところ。
耳を塞いでも聞こえてくる、痛みを感じなくなった心が痛いと悲鳴を上げるような暴言の掃き溜め。
ボクの何かが壊れ、
………朔が最期に笑った場所。
嗚呼、ごめんなさい。朔、ごめんね。壊しちゃった。ほら、壊れちゃったよ。
簡単だネ。コんな二モ簡単二壊セルなラ、早ク壊シテおけバよカっタのカな?
今なら、今ならもっと、なんデも壊セるかナ?
ほラ、コんなフう二、あノ銅像モ、指先一つデ…
「エイダン!おーい!?手伝って~!一人じゃ降りれないんだ。おーい。助けてってばぁ~!?」
あレ?
嗚呼、主に呼ばれている。行かなくては。怪我の確認、しないと。無茶をするからホントにもう。それともあれか?夜から逃げるように時差を利用して移動していたことによる睡眠不足でおかしくなってしまったのか?
まあいいや。
「今行きます。もう少々お待ちください。」
いつも読んでくださり、誠にありがとうございます。続きはそう遠くない内に書けたら良いなぁ〜(遠い目)のほたるでございます。