鈍色
久しぶりにございます。
いつも読んでくださる方々、初めて読んでくださる方々に感謝を。
パシンッ
湿った街道に乾いた音が鈍く反響した。
ピシャッと水を跳ねながらカランと転がった銀を見て初めて、ああ、自分が主の手を叩いたのだ、と知った。自分の紅で染まった手は彼の白い腕に線を描いたみたいだ。
「なに…を…?僕は、僕は、家族を失いたくないだけ…」
「俺は契約に縛られた魔法使いだ。ホンモノの家族じゃない。ずっと、ずっと思ってた。貴方はいつまでママごとを引きずるつもりだ?」
「ちがう…ちがうよ?ぼくらは………」
紺碧の瞳に翳りと涙が滲んで揺れる。
「俺には家族なんかいない。だから、だからあんたは俺を無理矢理生かそうなんてしなくていい。そこらのニンゲンのようにこの呪われた身を嘲笑ってくれて構わないっ!それに、これは、大した怪我じゃない…から。こんなののせいで傷を増やさないで…。」
この首枷は、この首の締め痕は呪いなんだ。俺は貴方まで巻き込みたくない。もしできるなら、この不毛な闘いからだって遠ざけたい。彼が俺のためを思ってくれているのは、痛いほどよく分かる。それでも。いやそうであるからこそ。俺のせいで周りが傷つくのはもうごめんなんだ。
嗚呼、だからあの時断ろうとしたんだ。なぁ、『じいや』。俺にはできないよ。あんたみたいに勝って得るってことは。俺は逃げるだけで精一杯なんだ。最小限の守りたいものだけ守って逃げて、守りきったら散る。俺が、俺さえいなくなれば、って思ったことすらある。ただ、アイツらの声が、『生きろ』って微かな声で叫んでた、あの声が、耳から離れないから。逃げて、逃げ続けて、生き続けてる。定められた寿命はとっくに超えた。アイツらの声を頼りに、器を誤魔化してどうにか詰め込んだ、収まりきらない魔力を抱えて魂を引き留めて生きている。アイツらの真っ暗い絶望の底なし沼に嵌ったような、かの地獄の発端が俺であったと知った時の顔が、揺れる瞳が、溢れ出ていた暗い感情が、枷となって今尚、俺の心は浮かばぬよう縛り付けられている。
そんな、ガラクタの俺が"怪我"しただけで貴方はどうして傷ついたような表情をするの?
「ねえ、エイダン。どうして君は君自身を大切にしてあげないの?君ってさ、いつも『死にたくない』って言うのにさ、言ってることとやってることが真逆なんだよ。」
グサリと紋のある左胸に鋭い言葉が刺さった。
幼い俺………僕が悲鳴をあげている。
慟哭している。
聞こえない、聞こえない。
僕は…俺はそんなんじゃない。
「テオ様の仰る意味が分かりませんな。」
彼は一寸、鋭く射抜く突き抜けた視線を向けたがすぐに引っ込め、代わりにやれやれと肩を竦めた。
「本名言っちゃうなんて、危機管理能力がなってないね。だから………『しゃがめっ‼︎』」
ガクンっと目線が下がった。地面が目の前に迫る。
銃声が遠く、耳をつんざくように響いた。
鋭意執筆中。多忙を極めております。お盆過ぎには落ち着くかしらね、といったところです。続きはしばしお待ちを。バトルに入るかしら。