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炎は孰れ月を染める  作者: 鴇羽ほたる
敵地巡り
15/25

見捨てられた街で

お久しぶりです。ほたるです。お待たせいたしました。

 噂には聞いていたものの、とんでも酷い有様な街だった。


 どんよりと覆う雲は排気ガスの塊。そこかしこで子どもの泣き声が響く。大抵の建造物は酸性雨で溶け、トタン屋根の残骸がぐしゃりとひしゃげて転がっている。文明開花の福音は微笑しながらじんわりと毒を染み込ませていったようだ。ああ、そろそろ"傘"を差さねばいけないだろう。いかんせん、狂ってしまったこの地の気候をとやかく言うやつは誰もいない。(かつては権力会得のためにさんざ騒がれたらしいが。)


 修復のしようもなくなってしまったこの街は見捨てられた。


 全世界に広まるはずだった災厄はこの地に封じられた。


 魔法の力によって。



 だから今日も絶え間なく子ども達が泣き叫ぶのだそうだ。なんと惨たらしい。


 責任は制度を推し進めた政府にあるだろうに。


 ニンゲンはつくづく非効率的だ。ニンゲンはニンゲンを道具扱いする。これより酷いのを俺は見たことがない。


 しかし、どうしてここに座標を合わさせられたのだろうか。


 一見何の関係も無さそうに見えるが…。



 ぱらぱらと音が鳴り始め、腕の中の少年がモゾモゾと蠢いた。


「んー、うっ………。鳥さ…………っえ⁈ま、待ってっ!ぎゃっ‼︎」


 …いや、そんなに驚かれても…



 あ。



 肩からさげた鞄の中からニョキニョキと4本のおててが生えた。


「「ふみゃぁ〜」」


 君たちはまだ寝てていいからっ!


 とりあえずポロポロを一粒浮遊させ、与え、浮かべて、与え、とクレームを防止する。


 それからそっとテオ様の足が地につくよう、降ろした。



 さてさて、これから尋問タイムとでも洒落込もうか。なんて暢気に構えて、俺は呆気に取られた。




 彼がギョッとした顔で指差し震え、こちらを見ているのだ。



 …一体何だというのだろう。完璧に"いつもの"エイダンであるはずなのに。こんな顔で見られたのは初めてだ。


 ふと、嫌な予感が過ぎる。自分の魔法を目立つ形で見せたことは一度もなかった。だから、もしかして…



 でも。いや、だって…。脳内は混沌とした。






 あなたは僕を裏切るなんてしないでしょう?


 今更バケモノのような魔法使いに怯えなさったか?



 こんな、海を挟んだ遠方の地まで瞬きの間に移動可能な魔法使いに。


 指先1つで眠らせられる魔法使いに。


 そんなバケモノを、大事なものを奪われたままの存在を、この凶兆の証と謂われる紅蓮の瞳を、





 あなたは全て余すことなく『家族』として認め、絶対に離れないと仰ったではありませんか。






「ね、ねえ…」



「はい。何か御用でしょうか。」


 普段通りに努めても、声の震えは誤魔化せない。昔の頃に戻ったかのように疑心暗鬼だ。いつ、裏切られ、いつ、密告され、いつ、目の前に業火(あかいはな)が咲き誇り、いつ、赤黒い鮮血(たおられたゆめ)が空を舞うのだろうか。


 今すぐだろうか。



 それとも、



 あの日々のように





 満月の夜だろうか。



 怖くて怖くて、寂しくて。


 ずっと信じてきた分、この沈黙が苦しい。



 されど、そんな暗い感情は、彼のとった行動で吹き飛んだ。



 彼は徐に小刀を出したのだ。



「待ってて。まだ死なないで。今すぐ、今すぐっ…」

次回をお楽しみに。


現在繁忙期につき、8月中旬に更新することになるかも知れません。

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