ホンモノ
お待たせしました〜
取り敢えず噛みつくのは口だけでもいいだろうと捉え、敬語を外して会話を続けていた。
「ねえ、今度、遊びに行かない?」
「ははっ。貴様が永遠に愚かな夢を見続けられるよう、手伝ってやるよ。」
というふうに。聞かれれば返す。2人揃って嘘偽りで。妙に気を使ってしまい、肩が凝る。
そんな折。ふとテオ様が耳打ちをした。
「気づいた?」
「ええ。」
視線の先には2人の男。先程、こちらを見るなり「backがいるぞ」と囁きあっていた。
「荷物は?」
「こちらに。」
指定場所に置くフリをしただけ。否、ちょっと係の人間に幻覚を見てもらっただけ。ホンモノはここにある。
「いや、しっかし驚いたよ。今まで見せてくれたこと、なかったじゃない?使い方忘れちゃったのかな〜とか、ホンモノなのかな〜とか色々考えてちゃってたんだよ。小さい頃からずっと、ね。」
ホンモノでなければあの日、貴方を助けることができなかったというのに。まあ、記憶がすっぽり抜けてしまっているようだから仕方ないか。
「はあ。そんな、見たって面白くもないモノでしょうに。まあ、些細なモノばかりかけていましたから、気づかなくても致し方ないかと。」
まさに船を待っている間や、クマと闘っている間、いや、彼と出会った次の日から魔法を使い続けている。それは稽古であったり、彼を守るためであったり、俺が生き永らえるためであったり。理由なんて様々だ。
約束したじゃないですか。
紋がありますでしょう?
俺は左胸に。貴方は左手の小指のネイルベッドに。
お互いがお互いを永遠に束縛する印が。
「ふふふ。さて、時に瞬間移動とかってできたりする?」
「ええ。勿論です。」
「じゃあさ、黒雲に満ちた国の旧市街、83番地と84番地の狭間辺りまで飛べる?」
「貴方が望むのなら。」
彼は腕に巻いた銀の時計を指して、小首を傾げた。
「この船よりも早く着くことってできる?」
「無論。もう出発しますか?」
「え、何か用意しなきゃいけないのとかある?」
「いえ、せいぜい荷物を抱えて私と手を離さないことくらいですね。」
「了解。よっと。いつでもいいよ〜」
「承りました。」
黒雲に満ちた国の旧市街、83番地と84番地の狭間…………よし。視えた………っとその前に。
消しておかなくては。我々がいた、という記憶を。見つかってしまったようだから。
そうだ。まずはこの船の背後に着こうか。
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