命令
テオちゃんが!ちょっと二人の微妙な関係が覗えるように書けていたら本望です。
非常に親切な老夫婦だった。一番近くの場所は混んでいるだろうから、少し離れたあたりにしなされ…分かりやすく詳細に教えてくれた。きっと遅くなってしまいますので、と前に詰めていただき、俺らは無事最後尾に並ぶことができたわけだが。
「ねえ、僕船の中で楽しめるゲーム、持ってきたから一緒にやろう?」
そのバックパックは夢と希望で溢れてるんですね。パンパンに膨らんでいる理由が分かりました。ええ、ええ。おめでとうございます。
「あまり散らかるものはお辞め下さい。」
「んー、きっと面白いよ?」
はあ。仕方ない。あんまりだ!となった時には無理やり撤去すればいい。こうしてレクリエーションを提示してくるあたり、彼なりに俺のことを気遣ってくれているのだろう。だから、今はその優しさを満喫したいなんて柄にもなく思ってしまった。
「承りました。」
席に着くなり、彼は手書きのカードを取り出した。
「これからごっこ遊びをします。君はこのカードの中から一枚引いて、当たった役を、僕が満足するまで演じ続けるんだ。」
彼はぐるりとこちらを向き、パラリと両手で複数枚の紙を扇のように広げた。
なるほど。ごっこ遊びと銘打って本性を隠した生活を送るということか。港町は治安があまりよろしくない。だから名前を呼ばずとも自然な感じになるよう心がけていたが、そろそろ限界だろうと思っていた。さっきのちょっとした稚拙な希望は溝にポイだ。ん?別に寂しくなんか…ある。というか恥ずかしい。
「ほらぁ~。何を躊躇ってるの?早くとっちゃいなよ~。」
「誠に恐縮ですが、どのような役が含まれているのでしょうか?」
「企業秘密~。当たってからのお楽しみぃ~」
あれ、テオ様ってこんな話し方だったっけ?ということは彼のようなキャラは当たらない、つまり…。いや闇鍋すぎる。川に手を突っ込んで魚が獲れるか、長靴が獲れるか並みの博打だ。そして長靴よりもタイヤが釣れるっていう…。要するに最高の事態と最悪の事態をこちらが想定していても、結局想像もつかないほど厄介なことになるのだろう。
「あと一分以内に引いてよね~。じゃなきゃスペシャルな役にしちゃうよ?」
正直、彼が何を考えているか正確に分かったことはあまりない。彼の本心は人当たりの良さ気な笑みの中に大体、格納されてしまうからだ。まあ、分かったところで何になるか知らないけれども。それでも、彼が独り寂しそうな顔をしたとき、寄り添えないというのは…そして今回のように危険なことに首を突っ込まさせられたときには悩むし、困る。カゾクと呼ばれる関係なら尚更。いや、一応世話係として仕えているけれど。
「じゃあ、これで。」
真ん中から二枚分右にずれたカードを引く。ここならきっと無難n⁈
「こ、これは一体?」
テオ様はニタリと笑った。俺がそこを選ぶと予測されていたということか。
「ん~?なあに?何が当たったの?この優しい優しいアーロン様が助けてあげようか?」
「い、いや、仕えている身でありながらこのような立場を弁えない人間役など…。」
無理だ。テオ様に喧嘩を常に吹っ掛ける阿呆の役なぞ。バレたらまず、あの鬼畜魔法つか…ゴホンッ。紳士の鑑なじいやに怒られる…のは大した問題じゃない。もっと危機感を持つべきは俺たちが約束していること。これはそれに違反する可能性があること。だから『サム』役はできない。
「ねえ。」
彼は腕を胸の前で組み、俺の額を指差した。
「君は『主に逆らうつもり』かい?役を演じなさい。これは命令だよ?」
背筋がぞわりと粟立った。
「…はい。承りました。『主』よ、先程の無礼をお許しください。」
彼は満足そうに頷いた。
「うんうん。そうだね。じゃあ、ごっこ遊びの続きをしようか。」
次回はガラリ場面が変わる予定です。(予定は未定。)更新日は僕の仕事が猫を撫でるだけだったら次の土日どちらか。僕が忙殺されていたら来々週末。
更新が止まってしまっている小説も(僕は昨年度受験生でした。)ぼちぼち更新始めたいと思っています。(どうしよう。昨年の記憶がほとんどない。)ご了承ください。
(今話のまとめ)
エイダンはテオちゃんが気づかないところで魔法を使っていました。