序
新作です。他にも連載中のを抱えている身故、更新が遅いかもです。ブクマ、コメントいただけると嬉しいです。Twitterは@TkihaHです。フォロー、いいね、リツイート、コメント等々お待ちしております。
月は赤々と禍々しく輝きを増す。
1人の少年を取り囲む炎は更に激しく燃え盛る。
脅える者達を見やり、少年は不敵に嘲笑う。
「失った仲間を返せ、なんて無茶は言わない。ただテオ1人を返してくれればいい。お前の思い通りになんてさせない。このくらいのお願い、神様から愛されてるお前なら叶えてくれるだろう?」
居場所はあの薄汚い牢獄の中だけ。そこで仲間と震えながら片隅に集まって暖をとる。1人また1人と無情な裁きを受けていく。ボクのいのちもいつか信者たちの前で消えるのだ。生きた証ひとつ残さずに。ボクは生まれてきてしまった罪を償わなくてはいけない。そのために生き、公衆の面前で殺される。
それが当たり前の運命だって思って生きてきた。だって僕は世界を簡単に滅ぼせるほど危険な力を持った魔法使いだから。ねえ、そうでしょ?もうすぐ死んじゃう大きなボク?
違う。俺は仲間の想いを背負って生きていく。あの日助けてくれた、払いきれない恩を少しでも返すために力を使う。この力は世界を滅ぼすためでも救うためでもなく、無論、今目の前に立つ、憎き黒魔法士に吸い取られるためでもない。大切なヒトを守るため。ただそれだけ。
だから。
「『我が主はテオドール様のみなり。』何度でも言おう。俺の主を返せ。さもなくば…」
【炎は孰れ月を染める】
ハァ、ハァ、ハァ…。
駆けて駆けて駆けて。体のあちこちに付けられた刀傷が壮絶な悲鳴を上げても駆け続けた。森を越え、川を越え、山を越え。空気の壁を作り、霧を巡らせ、木々を倒して道を塞いで。とにかく必死だった。肺が軋む。首枷は僕が魔法を使ったと探知し、ぎりぎりと絞め上げる。苦しい。けれど逃げ切らなくちゃいけない。捕まりたくない。お願いだ。もう赦してくれ。ボクは、ボクはまだ、
「死にたくない」
…。
……。
ガンッ
「ぐェ…」
「ねーえーごはんー」
どうやらテオ様の肘が鳩尾にくいこんでいるらしい。先程まで見ていた『夢』は霧散し、脳内は冷蔵庫のストックから一日の献立を組み立てることにシフトチェンジした。うむうむと悩んでいる俺をうとうとしていると解釈したのだろう。相手の気持ちを汲むという概念を全てヤギに与えてしまったお子ちゃまは布団をバサリと剥いでしまった。
「二度寝するなよぉ~。魘されてたから起こしてあげたのにぃー。」
「テオ様は追い剝ぎの技術を身に着けたのですね。成長なさって。感動の余り、涙が流れてしまいそうです。」
「嫌味を言うならせめて棒読みしないでよ。」
「失礼致しました。」
「ねえねえ、今日のご飯はなぁに?」
「そうですね…。野菜のレンジ蒸しと、ベーコンチーズパンなど如何でしょうか。」
「ベーコン、フライパンで焼くの?」
「は?トースターに入れて終了ですが?」
「え、まさかの手抜きレシピ。」
「今の発言、帝国全土の主婦の皆さまから刺されますよ?」
「いや、ごめん。ベーコンってさ、普通、フライパンでジューッと焼くでしょ?つい最近コンロの火、平気になったぽかったからさ、なんかちょっとこう、どうしちゃったのかなって。あ、もしかしてまた怖い過去の”夢”、みちゃったの?」
「…ええ。まあ。忘れるなんて不可能ですし、忘れるつもりもありませんから心配せずとも。それにいつ司祭に居場所がバレてしまうか分かりませんから、奴の顔ぐらい覚えておいた方が良いでしょうし。」
吐き捨てるように答えてエイダンは立ち上がった。
「ねえ、エイダン。本当に君さ、僕に出会う前、どんな生活をしていたの?」
彼は答えるでもなく、ただニッコリと笑った。その裏面には詮索するなと書いてあるみたいだった。
「ご安心ください。私は魔法使いなので、約束はきちんと守りますよ。まだ死にたくないですし。さて、朝食の用意をして参りますね。」
流されてしまった。まあ、本人が教えてくれるまで気長に待つしかないか。ポケットに忍ばせていた飴の袋を破り、口に放り込む。
まあ、下手に聞いて拗ねちゃっても後々大変だから、いっか。いや、でも、最近魘される回数が増えてきているみたいだし、昔から青白くて病人みたいだった顔色が悪化してきている気がする。絶対なんか危ないよね?僕としてはすっごく心配しているのになあ…。だって、他人に話したら楽になれることってあるでしょう?ガリリと噛み砕けばねちっこい苺味が広がる。
…血の繋がった家族が皆、いなくなって、壊れそうだったあの夜。僕に君はこう言ったよね?『苦しみは一人で抱え込むものじゃない』って。
僕はぼんやりと自分の左手を眺めた。小指のネイルベッドにある黒い紋は今日も寂しそうにこっちを向いている。
閲覧、ありがとうございます。続きます。
追伸。一部修正し、且つ、ルビ付けました。このくらいで大丈夫かな?