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scene:57 東下町の探索者

 俺が投げた赤いパイプから火が噴き出したのを見て全員が驚いた。美咲は受け取るのをやめ、サッと避けたので投げられた赤いパイプは地面に落ちた。


「コジロー、何をしたの?」

「俺は何もしてないぞ」

「じゃあ、何で火が噴き出したのよ」


 俺は首を傾げ、今は火は出ていない赤いパイプを拾い上げた。調べてみても、スイッチみたいなものはない。もう一度投げてみた。


 すると、火が出なかった。

「あれっ、何でだ?」

 何度か投げてみて、火が出る時と出ない時があるのが分かった。


 エレナが最初に気づいた。

「投げる時の向きが関係しているんじゃないですか?」

 赤いパイプのスポンジが詰まっている方を先にして投げると、火が出るようだ。調べるとスポンジのようなものに空気を吹き付けると火が出ることが判明した。


「どういう仕掛けなんだろう?」

 火が出るということは、エネルギーか燃料を消費しているはずなのだが、それが赤いパイプに蓄えているエネルギーが使われているのなら、しばらくすると火が出なくなるはずだ。


 俺たちは何日か使い続けて、どれほどのエネルギーが蓄えられているか調査することにした。

「後、二、三本は欲しいから、ベカラノドンが出てきたら、俺に任せてくれ」


 ガソリンスタンドに到着するまでに、合計三本の赤いパイプ『炎管』を手に入れた。

「さあ、軽油を中心に回収して戻りましょう」

 ここではないガソリンスタンドでバイトをしたことがあるというので、美咲が先頭に立って軽油一〇〇リットル、ガソリン六〇リットルを回収した。


「これで米の収穫に稲刈り機が使える。かなり楽になるわよ。それに獣人区にある農地を水田に戻す作業も進められる」

 美咲が笑顔で言った。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その頃、東下町の探索者である竜崎は、小獣区へ来ていた。ここの守護者を攻略するためである。守護者は丘の上にある神社を棲家としている。


「小獣区の守護者は手強いんですか?」

 日比野が竜崎に質問した。竜崎は日比野をチラリと見てから答えた。

「大したことはない。素早いだけの異獣だ」


 小獣区の守護者は、兎人間だ。スキルを手に入れたばかりの頃、偶然に遭遇し逃げ帰った過去がある。それ以来、守護者をなんとなく避けるようにしていたが、状況が変わった。


 東上町のコジローが守護者を倒したと聞いた東下町の探索者たちが、竜崎がコジローより弱いのではないかと言い始めたのだ。


 竜崎は探索者の統率者として、その実力を示さなければならなくなった。それに守護者を倒し、分裂の制御石に触れた時に特別な報酬が手に入ると聞き、御手洗市長が竜崎に倒せと命じたのだ。


 神社の境内に入った竜崎たちは、守護者の気配に顔を強張らせた。いくら弱いホーンラビットやバッドラットがテリトリーとしている場所の守護者であっても、その実力を侮ってはいけないと竜崎は感じた。


 本殿の前にある拝殿から強い気配を感じた竜崎は、拝殿へ向かう。以前は参道で遭遇して戦うことになったのだが、本来の守護者の棲家は拝殿らしい。


 拝殿に上がった竜崎は、そこに兎頭の人型異獣を目にした。

「兎サムライ……」

 竜崎の後ろから拝殿に入った日比野が、守護者を見て呟いた。日比野がサムライという言葉を付けたのは、守護者の腰に脇差らしいものがあったからだ。


 竜崎は愛用のグレイブを構えた。グレイブは薙刀に近い武器で、長い柄の先に剣鉈のような刀身が取り付けられたものだ。


 守護者が静かに脇差を抜き、逆手に構えた。竜崎は敵に突撃し、グレイブの穂先を敵に向かって突き出した。敵は脇差で受け流しながら、竜崎の懐に飛び込もうとする。


 竜崎は守護者の腹に前蹴りを放って蹴り飛ばす。それから激しい戦いが繰り広げられた。最後に決めたのが、竜崎が繰り出した突きだった。


 グレイブの切っ先が守護者の首を貫き、息の根を止める。


【守護者ラビドールを倒しました。あなたの所有するスキルから任意の一つをレベルマックスまでアップさせます。どれを選びますか?】


 竜崎は取得したばかりの『操氷術☆☆☆』を選んだ。本当にスキルレベルがマックスまで上がったどうか確かめる前に、再びあの声が頭の中で響いた。


【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】


 竜崎は拝殿の床に倒れ、苦痛に耐える。

「大丈夫ですか?」

 日比野の間抜けな声が聞こえる。返事などできず、ひたすら耐えて苦痛が治まるのを待った。


「ふう、連続のレベルアップが、これほどきついとは知らなかった」

 そう言いながら立ち上がる竜崎。


「なんだ、レベルアップで倒れたのか。急に倒れたんで心配しましたよ」

 日比野がホッとしたように言った。


「次は制御石だ。どこにある?」

「たぶん本殿だと思います」

 竜崎たちは本殿へ進んだ。本殿の中に分裂の泉があった。竜崎は泉に飛び込んで制御石に触れる。


【ラビドールエリアの制御石に触れました。あなたに選択肢が与えられます】

 例の声が、同じような選択肢を示した。


 一、スキル一覧からスキルポイントなしで任意のスキルを一つ習得。

 二、小型異獣から襲われなくなる護符を作る知識を得る。

 三、制御石を破壊し、一〇年間小型異獣が増えなくなる期間を得る。


 竜崎は一番目を選びたかったが、御手洗市長に命じられた二番目を選んだ。三番目を指定しなかったのは、その恩恵を東上町の人間にも与えることになるからだという。


 分裂の泉から上がった竜崎は吐き捨てるように、

「チッ、市長の野郎、人間が小せえんだよ」

 それを聞いた日比野が眉をひそめた。


「竜崎さん、気を付けてくださいよ」

「本当のことだ。探索者は市長の奴隷じゃないんだぞ」


 日比野は溜息を吐いた。三日月市から戻ってから、市長と竜崎の仲が怪しくなっているのに気づいていた。耶蘇市に配給されたものが東上町に渡されていない、と県にバレたのが理由だろう。


「でも、市長から東上町の連中を監視しろ、と言われていたんでしょ」

「配置された場所が、バラバラになったんだ。監視なんてできるか。それに一度くらいの注意じゃ、適当に誤魔化そうと考える連中だぞ」


「まあ、そうですね。市長の部下たちが、一度だけ配給品を東上町に渡して、次からは配給があったことを内緒にしようと言っていました」


「日比野、別の町に移住した方がいいと、思ったことはないか?」

「偶に考えますよ。御手洗市長は、何でも自分の考えを押し付けようとしますからね。農業みたいな専門分野は、プロに任せた方がいいと思うんですが」


 竜崎が頷いた。

「自分のことを、王様だとでも考えてるんじゃないか?」

「そんな事を言っていいんですか? 竜崎さんは、市長の息子なんでしょ」


「父親代わりだったというだけだ。母親が、市長の妹だったんだ」

 竜崎は事故で両親を亡くし、母親の兄である御手洗市長に引き取られたという。


 目的を達成した竜崎たちは東下町へ帰った。竜崎だけが報告のために市長室へ向かう。中に入った竜崎は、見知らぬ青年と目が合った。


「挨拶しろ。こちらは田崎市の藤林さんだ。藤林建設社長の息子さんだぞ」

 藤林建設といえば、一流企業である。だが、藤林建設なんて会社は消滅しているはずだ。


「竜崎博之です。この町で探索者のリーダーをしています。よろしく」

「私は、ガーディアンキラーの藤林だ」


 竜崎はちょっとびっくりした。自分からガーディアンキラーだと名乗った人物に会ったのは、初めてだったからだ。


「奇遇ですね。今日、自分もガーディアンキラーになりましたよ」

 藤林が薄笑いを浮かべた。

「最初の守護者か。懐かしいね。私も最初の守護者を倒した時は、嬉しかったものだ」


 どうやら、藤林が倒した守護者は一匹だけではないと言いたいらしい。



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