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人類にレベルシステムが導入されました  作者: 月汰元
第1章 未知の声編
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scene:28 知識スキル

 俺はクリティカルヒットが出た時の感覚を覚えておこうと決意した。

 その時、エレナが目を見開き驚きの声を上げる。

「戦棍が!」


 手に持っている戦棍に目を向けた。鉄製の先端部分に大きなヒビが入り、今にもバラバラに分解しそうになっている。俺は驚いて戦棍を持ち上げようとした。その瞬間、鉄製の部分が分解し地面に落ちた。


「それは鋼鉄にできないんですか?」

 エレナの素朴な疑問だった。

「『心臓石加工術』のスキルを持っているから、知っていると思うけど。スキルの力を使えば、心臓石からどんなものでも作れる。但し、対象のものについての『真層構造』を知っていることが条件になる」


 俺は『心臓石加工術』のスキルレベルが6となり、このスキルについての知識が深まっていた。真層構造とは、レベルシステムにおいての物質を定義する構造式みたいなものだ。


 俺が心臓石から繊維や布・鉄を作り出せるのは、『心臓石加工術』のスキルが、それらの真層構造を教えてくれたからだ。


 だが、鋼鉄や銅の真層構造は教えてもらえなかったので、作り出せない。ならば、このままずっと作り出せないかというとそうではない。『異獣知識初級』のように、真層構造の知識を集めたスキルが存在しているらしい。それを手に入れれば、鋼鉄でも銅でも作り出せるようになるのだ。


 但し、どうしたら該当する知識スキルを選べるようになるかが分からない。そのことをエレナに話した。

「私の『弓術』の場合、実際に弓の練習をしたら選択できるようになったでしょ。なら、鉄のことについて勉強すれば、いいんじゃない」


「いい考えだ。けど、ネットが使えないから、本で調べるしかないんだよな」

 本がたくさんある場所というと、学校・図書館・書店になる。大きな書店があったのは、現在飛竜区と呼ばれる危険な場所だ。


 飛竜区は火を吹く小型のドラゴンのような化け物がいるので、絶対に近付くなと武藤から言われている。俺もドラゴンと戦いたいとは思っていないので、書店は諦めた。


「そうだ。竹本の爺さんの家なら、鉄に関する本があるかもしれない」

 エレナが首を傾げた。

「竹本の爺さんというのは、誰です?」


「製鉄所で働いていた爺さんだよ」

 何となく避けていた実家の近くである。俺たちは竹本邸へ向かった。


 竹本邸はかなり立派な屋敷だった。だが、今はボロボロの状態になっている。ワイルディボアが突撃したのだろう。塀が押し倒され、壁に大きな穴が開いている。


 壁の穴から中に入り、一階は全滅だと分かった。ワイルディボアが一階で暴れまわったようだ。半分壊れた階段を上り、二階の部屋を調べる。


「見てください」

 寝室だと思われる部屋に遺体があった。すでに骨だけになっている。俺は手を合わせて冥福を祈った。

 その部屋には金庫があり、扉が開かれていた。たぶん中身を取り出して逃げる準備をしていたのだろう。


 大きなカバンが置かれていた。中を見るとぎっしりと札束が詰め込まれている。今では紙クズでしかない。

「このままにして、次の部屋に行こう」

「ええ」


 次の部屋が趣味の部屋だった。大きな本棚には鉄鋼関係の本が並んでいる。俺は片っ端から、シャドウバッグに詰め込んだ。中には竹本の趣味らしい刀鍛冶やナイフ作りの本もある。


「凄い、ソーラーパネルですよ」

 エレナが防災用の小型ソーラーパネルを発見した。俺はLEDランタンとキャンドルランタンも見つけた。防災用として備えていたものなのだろう。


 目的のものを手に入れた俺たちは、半壊したキッチンで食料を探した。ここでもち米と小豆を手に入れた。餅つきでもするつもりだったのだろうか。


「保育園で餅つきでもするか?」

きねうすが……まあ、探せばいいだけですね」

 俺は頷いた。


 保育園に戻った俺は、鉄鋼関係の勉強を始めた。元々勉強は好きではなかった俺だが、こういう世界になると勉強しなかったことを後悔した。


 昼間はビニールハウスの整備や探索をしなければならないので、勉強時間は夜である。

「一年前の俺が今の俺を見たら、どう思うかな」

 俺はぎりぎりになるまで嫌なことを残すタイプである。夏休みの宿題を最後の数日で必死に終わらせるのが、いつものことだった。


 だが、今そんなことをしたら悲惨なことになる。先を読んで将来に備えて早くから用意しなければならないことが多すぎる。


 子供たちが寝た後に、テーブルの上に本を広げて勉強を始めた。照明はLEDランタンを使っている。エレナは火の心臓石を使って、子供たちの防寒下着を作っていた。


 防寒下着を作るには、『心臓石加工術』のスキルレベルが5にならないとダメなのだが、すでにレベルアップしていたらしい。俺が考えていた以上に、頑張っていたようだ。


 俺は勉強と並行してクリティカルヒットを出した時のことを再現しようと修業した。昼間、山に行って薪用の木材を切り出すのに、戦棍を使っているのだ。


 戦棍の一振りごとに歩幅や気の流れのタイミング、腕の振り、角度など様々なことを確認しながらクリティカルヒットを出すためのコツを研究した。


 戦棍を振り上げ杉の幹に向かって薙ぎ払う。幹に命中した瞬間、木片が飛び散り拳より一回り大きな穴が開いた。

「失敗だな」


 俺は条件を少しずつ変えながら戦棍を何度も何度も幹に叩きつけた。そして、振り下ろした戦棍が幹に命中した時、今までとは違う手応えを感じた。


 次の瞬間、直径二〇センチほどもある杉の幹が粉砕された。爆発音のような音を響かせてから横倒しになる杉の木。ついに再現できたのだ。


 どうやら、豪肢勁で制御している気を手足に流し込むタイミングが関係しているらしいと分かった。俺は気の流れに注意しながら練習を繰り返す。

 最初は一〇回に一回の頻度でクリティカルヒットが出て、一撃で杉の幹が粉砕された。


 そして、クリティカルヒットの代償に戦棍の鉄製部分にヒビが入ることもあった。

 だが、予備を何本も用意してきたので交換しながら練習を繰り返す。そのおかげで一〇日ほどで三回に一回ほどまでに確率を上げた。


 その頃になって個体レベルが上がり、選択スキルに『真層構造(鉄合金)☆☆』が増えた。鉄鋼関係について勉強するという方法は正しかったようだ。


 『真層構造(鉄合金)』を得たことにより、俺は鋼鉄を作り出せるようになった。おかげで戦棍は鋼鉄製に生まれ変わった。

 ちなみに鉄合金ということなのでステンレス鋼や高張力鋼、工具鋼も作れるようになった。戦棍は工具鋼を使っている。


 この鋼鉄製戦棍を使うようになってからは、クリティカルヒットしてもヒビが入ることはなくなった。

 そのせいだろうか、俺の戦棍は、ほとんど一撃でワイルディボアを倒せるようになった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 東上町の探索者が外に出ていた時、東下町から煬帝と数人の探索者が町に侵入した。町の南側を流れるまそ川をボートで渡ってきたのだ。


「チッ、またパシリだよ」

 煬帝は愚痴を零しながら道を進んだ。市長の命令で、東上町に来たのである。目的は加藤医院だ。

 探索者の一人が保育園に気づき覗いてみる。おばさん二人が子供の世話をしていた。


「ふん、こんな世の中になっても保育士とか居るんだ」

「おい、早く行くぞ。加藤のところになかったら、小鬼区に行かなきゃならないんだからな」


 煬帝に注意された探索者は一言謝ってから、道を急ぎ始めた。すぐに加藤医院に到着。

「ここだな」

 煬帝たちは無言でドアを開けて中に入る。


 その時、加藤は風邪を引いた子供の診察をしていた。加藤は煬帝たちに気づいた。

「何だ、お前たちは?」

「御手洗煬帝だ。市長の命令で来た」


 市長の命令と聞いて、加藤は苦い顔になる。

「それで用件は何だ?」

「心臓病に有効な薬が欲しい」


「ここは小さな病院だ。大した薬は置いてない」

 加藤が返事した途端、探索者の一人が片手で加藤の首を掴み持ち上げた。

「いいから黙って出せばいいんだよ」

 診察を受けていた子供は怯えて逃げ出した。


「や、やめろ……」

 加藤が苦しげに藻掻くと、探索者は床に投げ出した。

「薬だ。どこにある?」

 加藤は苦しげに咳き込みながら、診療室の奥にある棚を指差した。


 探索者たちがガサゴソと探している間に、煬帝は診察室の内部を観察する。

「医者なら、東下町に来れば良かったのに」

 東下町では御手洗グループ以外の者を拒絶したが、医者などの特別な資格を持つ者は受け入れていた。


「私は東上町で、二〇年も患者を見ているんだ。今更他には移れない」

「どうせ、腕が悪くて都会じゃ通用しなかったんじゃないのか」


 探索者たちが奥の棚から薬剤や包帯、ガーゼなどを洗いざらい運んできた。

「心臓病の薬はあったか?」

「それらしい薬が、見つかりません」


「だから言ったじゃないか。ここには薬がほとんど残っていないんだ」

 加藤が言うと、煬帝が睨んだ。

「無駄足だったか。御手洗総合病院に行かないとダメか」

「でも、あそこは農協ビルの隣ですよ」


 煬帝たちも農協ビルが、ゴブリンの巣になっていることは知っているらしい。

「農協ビルに入るわけじゃないんだ。ゴブリンどもに気づかれずに病院へ入ったらいい」


 煬帝たちは加藤医院の薬などをバッグに詰め込んで外に出ようとした。

「待て、心臓病の薬が欲しかったのだろう。他の薬は返してくれ」

 探索者の一人が加藤の胸を蹴った。加藤は気を失い、煬帝たちは立ち去った。



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