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scene:169 アガルタの未来

 俺たちは海水を汲み上げて有効な成分を抽出する工場を建設する最適な土地を探していた。そして、ヤシロから海に向かって二百キロ行ったところにある半島に目をつけた。


 その半島は『モヤイ半島』と名付けられた。その半島の沖合には速い潮流があり、そこから海水を吸い上げて成分を取り出すことに決定する。


 この事業はアガルタ政府が中心となって取り組むことになり、実証プラントをモヤイ半島の先端部分に建設することが決まる。


 工事は今までにないほどの急ピッチで進められ、ある程度自然を残しながらも、土地を切り開き更地を造成する。基礎工事が終わり更地となった場所に万象発電プラントが設置された。


 万象発電プラントは工事に必要な動力源となり、工場が完成した後は工場の動力源となる予定である。


 海から海水を運ぶ太いパイプと多数のポンプが設置された頃から、マグネシウム合金の研究が始まった。工場跡の遺跡で発見したマグネシウム合金を分析して、製造方法と特徴を突き止めた。


 その報告書を読んだ俺は、感心したように頷いた。

「マグネシウム合金は、使えそうだな。火災が心配だったけど難燃性は高いようだ」

 地球でもマグネシウム合金は開発されている。だが、クゥエル支族が使っていた合金は、軽く鋼鉄に匹敵する強度を持っていた。


 その製造技術もサンプルを調べることで突き止めた。アガルタでは鉄よりマグネシウム合金をメインに使うことになりそうだ。ただ加工し難いのが欠点で、加工は鋳造するしかないらしい。


 アガルタでは、クゥエル樹脂とマグネシウム合金を使った建築物が現れ、アガルタ固有の建築様式が広まり始めた。


 道路整備が積極的に行われ、都市国家だった都市はアスファルトの代わりにクゥエル樹脂を使った舗装道路で繋がった。そこを走る車は新しく開発されたエンジンを搭載している。


 それは源斥エンジンである。以前は紅雷石発電装置で電気を発生させ、それにより電気モーターを回転させて車を動かしていた。だが、紅雷石から源斥力を発生させ、それを動力源として『源斥力回転』の立体紋章で回転エネルギーに変換する源斥エンジンがエネルギー効率が高いことが分かり、自動車のエンジンは源斥エンジンに変わっている。


 アガルタ政府は、国民の生活を安定させるために最大限の努力を行った。まず衣料の供給を増やすために、生産の木の中で綿のような果実を実らせる『木綿果の木』と絹糸の塊のようなものを実らせる『絹果の木』を栽培する土地を広げた。


 今では衣服の原材料として十分な量を供給できるまで生産量が増えた。ちなみに、綿花を栽培するのではなく、『木綿果の木』を栽培するのは、綿花に比べて圧倒的に『木綿果の木』の収穫量が多いからである。


 アガルタの衣料に関しては、供給が需要にやっと追い付いた、というところなのである。食料も水田と小麦畑を中心に農地を広げ、ようやく十分な量を供給できるようになっていた。


 それでも異変前の生活に戻れた訳ではない。以前の日本なら農業就業人口は三パーセント台だったのに、このアガルタでの農業就業人口は六十パーセントを超えている。


 ほとんどの人々が慣れない農業を行っているのだ。このことは食料の輸入が途絶えたことと、農業の機械化が進んでいないことが原因だった。


「コジロー、農業組合から『まだトラクターは完成しないのか?』と問い合わせが来たぞ」

「あれは……日本で作っていたトラクターを基に、エンジンを源斥エンジンに積み替えて、いろいろと調整した試作機は完成しているんだ」


 河井が首を傾げた。

「それなら、その試作機を農業組合の人に試してもらえば、いいんじゃないか?」

「トラクターの後ろに取り付ける作業機が、土を耕すものしかできていないんだよ」


「それを見せれば、いいんじゃないか?」

「しかし、それだと『操地術』の【耕作】と同じだ。インパクトに欠けるんじゃないか?」


 確かに『操地術』のスキルを取得した者は、同じことができる。但し、『操地術』のスキルを持っている者は少ないのだ。


「『操地術』なんて、気にする必要はない」

 俺は河井をジッと見た。

「まさか、農作業の手伝いをしたくないから、言っているだけじゃないだろうな?」

「『操地術』を使える者を増やすより、農業機械を作る方が簡単だろ。早く大量生産してくれよ」


 言っていることは理解できるが、河井は農作業の手伝いをしたくないだけだと思う。

「まあいい、農業組合の人に試してもらって、量産するかを決めよう。そうすれば、この件から研究所は手を引いて、農業機械を製造する会社を設立することになるだろう」


 この研究所は、源斥エンジンの基本特許を所有しているので、それを使った製品が大量生産されると大きな収入になる。源斥エンジンを使った自動車も同じで、いくつかの自動車メーカーが復活して自動車の生産を始めている。


 まだ生産台数は少ないが、元のように車社会になると年間で数十万台を生産する必要が出てくる。研究所は儲かるが、それで良いんだろうかと疑問が湧いてくる。


 道路整備は進んでいるが、鉄道と航空機、船も用意しなければならないのだろうか? その辺は美咲たちに考えてもらおう。


「なあ、コジロー。元の日本みたいにインターネットは復活するのか?」

「ネットか……難しいかもしれない」


 日本だけでCPUなどの電子部品を作れるかどうかが問題だった。大勢の技術者が死に、最先端の製造設備が失われたのが障害になっている。


 アメリカは早期に技術者や設備を食料エリアへ移したので再現できると思うが、日本が気付いた時には技術者が死に設備が異獣に破壊されていた。


「クゥエル支族の技術の中に、そういうものがあるんだろうか?」

「『源斥波発信』と『源斥波受信』で源斥波通信機が作れたのだから、研究すれば新しいネットを構築できるかもしれない」


 アガルタの未来を考えていたら、アメリカやヨーロッパのことも気になり始めた。アメリカは大丈夫そうな気がするが、ヨーロッパはどうだろう?



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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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