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scene:157 ヨーロッパの代表

 イギリスの食料エリア側の首都は、ニューロンドンとなっている。俺たちはレイモンドに案内されて、ニューロンドンへ向かう事になった。


 相変わらず馬車でニューロンドンまで行こうとするので、俺が高機動車を亜空間から出す。

「馬車ではなく、これで行きましょう」

「これは電気自動車なのかね?」

「そうです」


 馬車で行くより四倍ほど早くニューロンドンに到着。ホテルで一日休んでから、イギリス首相と会うことになった。


 俺たちは新しい首相官邸に案内され、会議室のようなところでテレビでしか見たことがないイギリス首相と会った。ただテレビで見ていた頃は、確か外務大臣だったはずだ。


 プレスコット首相は六十歳ほどの疲れた感じの英国紳士だった。

「イギリス首相として、歓迎します」

 首相もあまり時間がないようなので、挨拶と自己紹介をして早速用件に入る。

「日本が新しい発電システムを開発した、というのは本当なのですか?」


 イギリスは日本が新しい発電システムを開発したと確信しているようだ。アガルタの市民が豊かで文化的な生活を送っているのを見て、レイモンドは確信したのだろう。


 あのような文化的な生活をするには、何らかのエネルギーが必要だったからだ。アメリカのようにアガルタ内部に原子力発電所を建設したとは、考えられなかったようだ。


 水力発電ダムを建設するには時間が掛かるので、日本と言えども必要な全電力を(まかな)えるほどのダムは建設できないと分かっているのだろう。


「仮に日本が新しい発電システムを開発したとしても、新発電システムをイギリスに与えて、それが原因でまた内戦が勃発……というのは避けたいと考えています」


「内戦が起きない事を証明するためには、発電システムを教えてもらい、それを周辺国に知らせて反応を見なければなりません」


 それは何も手を打たずに、新しい発電システムを寄越せということだ。承知することはできない。俺はそう伝えると、プレスコット首相は頷いた。


「ヨーロッパは、我が国とフランス・ドイツ・イタリア・スペインを抑えれば、コントロールできるでしょう。その五ヵ国へ同時に発電システムを教えることはできますか?」


 俺は頷いた。

「なるほど、同時に教えれば、争いも起きないだろうということですね?」

「その通りです」

 イギリスだけで独占するより、確実に手に入れようとイギリスは考えたようだ。


 俺は真剣に検討する価値のある案だと考え、五ヵ国から代表一人と技術者一人を大島に集め、アガルタの代表と話し合うことにした。


 プレスコット首相は精力的に動き出し、五ヵ国と話を纏めた。代表と技術者が決まり、またソーラーグレース号に乗って、日本に引き返すことになった。


 ヨーロッパにはソーラーグレース号以上に安全で経済的な乗り物はないらしい。

 ドイツの代表であるミュンターが船の甲板で話しかけてきた。

「日本は、どうやって新しい発電システムを開発できたのでしょう?」

 英語で話しかけてくれたので、理解できる。

「そうですね。幸運だったのでしょう。もちろん、我々日本人の努力も有ったのです」


「幸運ですか。その点、ヨーロッパは不運だったようです。内戦などという大いなる浪費をすることになったのですから」


「そう言えば、五ヵ国以外の国はどうするつもりなのですか?」

「日本が新しい発電システムを提供してくれれば、ヨーロッパエネルギー機構という枠組みを作り、そこに加盟した国に広める、ということを考えています」


 ヨーロッパの国々は(したた)かだなと思った。まだ日本が決断していないのに、ぐいぐいと話を進めている。その勢いで日本に承知させようという気なのだろう。


 言い換えれば、それだけ必死なのだ。エネルギー問題はヨーロッパが衰退するかどうかを左右する大きな問題なのである。


「ところで、ロシアの情報は何かありますか?」

 俺がそう尋ねると、ミュンターが顔をしかめた。

「ロシアは、食料エリアに独裁国家を築こうとしています。ニカライ・リトヴィノフという男が、皇帝に就任するという話です」


 ロシアは中国と同じように混乱しているようだ。関わり合いたくない国の一つになったらしい。しかし、世の中は進歩しているというのに、なぜ先祖返りするような独裁国家が増えるのだろう?


「こんな時代に、独裁国家ですか」

「いえ、こんな時代だからこそ、独裁国家が増えるのですよ。将来が見通せない不安な時代だと、カリスマ性を持ち、優秀だと思われる誰かに、自分たちを救って欲しいと思うものなのかもしれません」


 俺は各国の代表と話をして、自分の見識を広めた。この航海は勉強になることが多かった。そして、大島に到着すると、各国の代表と技術者をアガルタのカズサ市へ案内した。


 それからアガルタの代表である州知事たちとヨーロッパの代表が話し合い、紅雷石発電装置を提供することに決まる。但し、最初の頃のアメリカと同様に、紅雷石を生み出すファダラグについては、教えないことになったようだ。


 なので、紅雷石を日本から輸出することになるが、これはアメリカがファダラグの飼育を始めたことで不要となった紅雷石を輸出するらしい。


 話し合いの結果を代表たちに伝える時に、俺は立ち会うことになった。会議室に集まった代表たちに、美咲が決定を伝える。

「日本は、皆さんに新しい発電システムである『紅雷石発電装置』の技術を提供することにしました」


 代表たちが感謝の言葉を述べた後、イギリスの代表であるアンダーソンが、美咲に視線を向ける。

「それはどういう発電システムなのですか?」

「このアガルタに住んでいた先住民であるクゥエル支族が、使用していた技術で、この紅雷石を電気に変えることで発電します」


 美咲は手に持つ紅雷石を見せた。その説明を聞いたヨーロッパの代表たちは、酷く驚いたようだ。

「それは人間以外の知的生命体が持っていた技術ということですか?」

 ドイツの代表ミュンターが質問した。


「そうです。なので、日本でも詳しい原理などは分かっていません」

「その紅雷石は、どれほど存在するのですか?」

 アンダーソンが確認する。

「皆さんに提供しても十分なほどの埋蔵量がある鉱山が、アガルタには存在します」


 紅雷石の代金については、プラチナやチタンなどの金属などで支払うことになった。



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