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scene:101 二つ目の特別なリンク水晶

 食料エリアに建設する町ヤシロの人口が少しずつ増え始めた。耶蘇市での農業に限界を感じた者たちが増えているのだ。そこに吉野が行っている実験農場での結果が広まり、食料エリアに移住したいという人々が増えたのである。


 また空気中に毒がある地球より、食料エリアで子育てをしたいという者も現れ、耶蘇市ではヤシロに学校や保育園を建設することも検討され始めた。


 俺たちは不足している建設資材を確保するために、耶蘇市に残っている家を解体し材木や瓦などを回収することにした。それらを食料エリアへ運んできて組み立て、住めるようにしようと考えたのである。


 ヤシロに家が増え始めると、道路などを整備する必要が生まれた。それに九里川に橋を架ける必要もある。そんな忙しい日々を送っていた俺たちに、政府が試しの城までの案内を頼んだ。


「コジロー、よろしく頼む」

 最初に政府が試しの城に送り込もうと考えたのは、元自衛官の探索者たちだった。その中には美咲とチームを組んでいた熊田もいた。


「熊田さんも参加するんですか?」

「ああ、県知事から『試しの城』がどういう場所か確かめて来い、と言われている」


 他の元自衛官たちも屈強な探索者なので、戦力的には大丈夫だろう。

「私は急遽参加することになったので、よく知らないんだが、歩いて『試しの城』まで行くのか?」

「途中で歩きますけど、ほとんどは車です」


「ほう、食料エリアに車を持ち込むのか。大きなシャドウバッグを作ったんだな」

「違いますよ。『亜空間』のスキルを取得したんです」


「藤林が持っていたスキルか。なるほどな」

 俺は熊田たちを連れて、食料エリアへ転移した。そこからオフロード車で南西の方角に進み山岳地帯を迂回してから、南へと進み始めた。


 途中で遭遇した巨虎などの奇獣は、熊田たちが撃退した。その様子から見ると、明らかに美咲たちより強そうだ。個体レベルが『30』を超えているだろう。


 三日後に海に到達した。

「これが食料エリアの海か。食料エリアは別の惑星かもしれないな」

 この広大な海を見れば、誰でもそう思う。だが、惑星と断定するには違和感があるのだ。


 メンバーの一人が、

「この海を渡るために、船を用意していると聞いているが、海に攻撃的な奇獣は居ないのか?」

「居るかもしれないけど、頑丈な船を用意したので、大丈夫だと考えている」


「ほう、どんな船を?」

 俺は亜空間からタグボートを取り出した。それを見た熊田たちは目をく。

「おいおい、こんなものまで、亜空間に入れてきたのか」


「『亜空間』のスキルがないと、食料エリアの開発なんかできませんよ」

 それを聞いた熊田が、深く考えるような様子を見せた。


 俺たちはタグボートに乗って、試しの城がある島まで行った。俺は船で待つことにして、熊田たち四人を城に送り出した。


 俺は海を眺めながら熊田たちが戻るのを待った。

 そして、二時間ほどが経過した時、熊田たちが戻って来た。その顔を見ると暗い表情になっている。何かあったようだ。


「アインシュタインに似たレビウス調整官に、会えたんですよね。どうかしたんですか?」

「無事に合格して、制限解除水晶を手に入れた。だが、嫌なことを聞いたのだ」


 その嫌なことが何かというと、一つは地球の空気中に排出された毒についてだった。

「今度、濃度が上がるらしい。二パーセントほどだ」

 『毒耐性』を持つ探索者は問題ないが、新生児や身体の弱った老人の何割かは死ぬだろうという。


 生まれる子供が少なくなっているというのに、その何割かが死ぬ。許容できない問題だった。


「他にもあるんだ。異獣の存在だ。あの異獣は、レビウス調整官たちが運び込んだ存在ではないそうだ。異獣により、人類が滅亡しないように、調整官がレベルシステムを導入したらしい」


 レベルシステムを導入した調整官たちの種族が、異獣に関係していないとは思えない。レベルシステムは異獣の存在に基づいて作られているとしか考えられないからだ。


 但し、種族は同じだが、人類滅亡派と人類存続派に分かれており、調整官たちは人類存続派だということも考えられる。


 俺たちは数日かけて耶蘇市に戻った。熊田たちは仮首都に戻り、俺は熊田から聞いた話を美咲たちに告げた。


「ふーん、異獣の件は置いとくとして。毒については、早めに手を打たないとまずいことになる」

 河井が真剣な顔で言った。それに美咲が頷く。

「そうね。耶蘇市で子供が生まれそうな妊婦さんは、三人ほど居るけど、急いで食料エリアに移す用意をしなきゃ」


 エレナが顔を曇らせる。

「妊婦だけじゃなくて、産婦人科がある病院も必要です」

 耶蘇市には、産婦人科医が一人だけしかいない。周囲の生き残っている町とも相談して、ヤシロに移住する者を集める必要があるかもしれない。


 美咲は耶蘇市の市議会を立ち上げ、市議会の主導権を手に入れた。東上町と東下町の代表を集め、異獣が吐き出す毒について説明する。


 竜崎が顔をしかめた。

「それが本当だとしたら、日本で子供は産めないということになる」

「いえ、新生児の全員が死ぬというわけではないので、全くダメということではないのよ」


 代表の中には女性もいたので、彼女たちの意見を聞いた。

「日本で、子供を産もうと思う女性は減るでしょう。何とかしなければ」


 美咲は頷いて話を進めた。

「そこで空気中に毒のない食料エリアに、移住する計画を大きく進めたいと思っています」

 それを聞いて反論が上がる。


「でも、食料エリアにも、奇獣がいると聞いている。そいつは毒を吐かないのか?」

「ええ、毒は吐かないようです。一部の奇獣は危険ですが、それは耶蘇市でも同じです」


 東下町でも農地からの収穫が思わしくなく、食料エリアに移住する計画が立ち上がれば、大勢の人々が移住を決意するだろう。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 一方、試しの城から戻った熊田たちは、農林水産大臣の車田と生駒大臣に報告した。この二人が組んで、熊田たちを派遣することを総理に承諾させたのだ。


「由々しき事態だ。アメリカは知っていたのに黙っていたのだな」

 車田大臣が怒ったように言った。その車田大臣をなだめるように生駒大臣が言う。

「まだ一般市民にも公表していない段階ですから」


「アメリカが一般市民に公表するのは、対策が軌道に乗り、大丈夫だと確信が持てた時だ。それから、他国が対策を立てても、手遅れかもしれない」


 生駒大臣は溜息を漏らす。

「アメリカを真似て、我々も食料エリアに町を建設するべきでしょうか?」

「そうですな。そうすべきなのだ。総理と相談しましょう」


 二人の大臣が試しの城の件を報告した後に相談すると、総理も承諾した。

「ところで、アメリカは紅雷石について知っているのかね?」

 総理に質問された生駒大臣は首を傾げた。


「分かりません。アメリカが知っていても、我々に教えるとは思えないからです」

「そうか。日本独自の道を探さなければならないのだな」


 総理が耶蘇市で建設を始めた紅雷石の研究開発センターを、食料エリアに建設できないかと言い出した。

「どうしてです?」

「これから建設する重要な施設は、食料エリアに建設したい」


 生駒大臣が理由を尋ねると、

「政府の半分を食料エリアに移したい」

「半分? どうして半分なのです?」

「未来の日本政府と、過去の日本政府だ」


 総理は日本の未来は、食料エリアの中にあると考えたようだ。生駒大臣は理解できなかったが、車田大臣は頷いた。


「何か原因があるのですね?」

「車田大臣から報告があったのだが、農業生産に問題が起きている。食料エリアから運んでくる食料で飢えずに済んでいるが、このまま農業生産量が低下すれば、日本人が飢えることになる」


 現在はガーディアンキラーしか食料エリアの食料を持って来れない。運べる量に限界があるのだ。耶蘇市の探索者によって発見された『試しの城』で手に入れられるリンク水晶の数を増やすのも限界がある。

 ガーディアンキラーの人数が限られるからだ。


 その後、日本政府は食料エリアに新首都の建設を決定した。



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