成長
騎士団と冒険者のタンクが魔物の前衛であるオークの一撃を受け止める。そして、反撃に移る。攻撃を跳ね返し、刃を突き刺す。
そして、アタッカーが側面から強襲する。一番槍が突き進む後ろに続く冒険者が敵陣形の中に次々と浸透していく。ヴィダールはその一番槍を務めていた。
突然の形勢の変化についていけない前衛のオークは三割を残して戦場を理解し、中衛のゴブリンと交代を始め、森の中に走り去っていく。
森からゾロゾロとゴブリンが出てきているその時だった、上空から多数の火球がアタッカーに集中的に降りかかってきたのだ。
タンクと騎士団、魔法使いは盾や魔法で火の玉を防いだ。しかし、アタッカーの面々に魔法耐性に長けた防具をつけた者は少数しかおらず、アタッカーの大半は軽度あるいは、重度の火傷を負い、焼死する者も続出した。
ヴィダールは蜜な魔法攻撃を掠りながらも、タンクの元まで滑り込みで後退することに成功した。
「少年大丈夫か!」
「まだ、まだいけます!」
さっと火球が掠めた部分を触り一瞬で治癒させ、火球が止んだ最前線へとすぐさま駆けつけた。
「おいデニス、お前返事をしろよ!」
焼死体を抱える冒険者を襲おうとしているゴブリンの間に割って入り、その一撃を防ぐ。
「タンクの元まで引いてください!」
冒険者はヴィダールの言った事とは反対にゴブリンに突っ込む。怒りに任せて振るう剣は一瞬で地面に突き刺さっていた。
突っ込んだ冒険者を殺したのは森の中に撤退していったオークだった。そう、戻ってきたのだ。
(また魔法が飛んできたら壊滅するんじゃ・・・)
ヴィダールはオークを踏みつけ、森の奥へ奥へと進んでいった。
索敵魔法を発動し、一瞬で周辺の索敵を完了する。そして、前方に反応があることを確認した。
森の中を駆け抜けてその反応がある場所に移動すると、そこだけ木がなく開けていた。その中心には魔族が立っていた。
「よくも、まぁ私の目の前に現れた者だ。消え去れ」
魔族が手をヴィダールと重ね握り潰すと、火球が次々と飛来する。
ヴィダールもそれに対抗するべく、剣先を魔族に向け、魔法を呟いた。
「ブレット・ネロ」
次々とヴィダールの周囲から水球が弾丸のような速さで飛来し、火球を貫通して魔族の頬を掠めた。
「なるほど。魔法には自信があると。なら!」
魔剣を取り出し、肉薄する。重い一撃が振り下ろされるが刀身を滑らせて勢いをいなすことに成功する。
一撃をいなし、また一撃をいなす。次々放たれる斬撃を回避し、いなす。
「防戦一方じゃないか!これは避けれるか!」
魔族が鍔迫り合いをする。そして、離脱したヴィダールの目の前には火球が迫っていた。
魔族は勝利を確信していた。避けれない。完璧な作戦だった。そう、完璧になるはずだった。
ヴィダールは斬撃を飛ばし、火球を切り裂いた。これには魔族も驚きを隠せなかった。
「っく!こんな場所にこんなやつがいたとは・・・今回は見逃してやる。我名はハシュバル。貴様の名前は!」
「ヴィダールだ」
「我名を覚えておけヴィダール!」
そう言い残し、一瞬で消えてなくなってしまった。
ドッと疲れが込み上げヴィダールはその場に尻餅をついた。
急激に成長を遂げた自身の能力に驚きを隠せずに、ただずっと自分の手と剣を見ていた。