第一犠牲者
森の中を進み続ける。メリアルが前方に立ち警戒をしている。
「すいません、少し周囲の警戒をお願いします。一度探知範囲を拡げます」
ヴィダールは頷く。メリアルがしゃがみ込み、両手を握り祈るようなポーズをとる。
「反応ありです。私のむいている方角から右手側です」
ヴィダールはメリアルの示した方角を見る。今まで通ってきた道よりも草木が生い茂り、日光を遮り足元が見えるか見えないか程だった。
「本当にこっちなのか?」
「間違いありません。信じてください」
メリアルの少し後ろで彼女の後を付いていく、暗がりの道を迷いなく進む彼女の頼れるような背中はヴィダールにとって英雄のそれだった。
『信じて』と言う言葉はヴィダールにとってはその言葉だけでも安心できる言葉だった。その言葉は本に描かれていた英雄が怯えていた者にいつもかけていた言葉『信じろ』と同じだからだ。
そんな彼女の背中を追いかけていると一筋の光がさしている洞窟を発見した。その洞窟は何かを隠すにはぴったりとしか言いようがなかった。
「この洞窟の中にいるのか。行くぞ!」
「ちょっと!は、反応が無いのさっきまであったのが!ちょっと!」
彼女の発言を聞かずして洞窟の中に進んでいくヴィダールの後を光源を確保して追いかけるメリアル。いくら進んでもメリアルの索敵には引っかからない。
「ちょっと待ってよ!」
ヴィダールの腕をひっぱり彼の動きを静止させる。ヴィダールは何事かと思い彼女を見る。
「何も反応が無いの洞窟を見つけてから」
「それって・・・出るぞ!」
その時だった、きた道の扉が大きな音をたてて閉まった。彼らは気づかなかったのだ、扉が閉まったことによりここが閉鎖空間になっている事を。
「ごめん!僕、僕のせいだ。頭に血が上ってそれで「いいから、ここから抜け出す方法を探そ」・・・うん」
ランタンに火を焚べたヴィダールとメリアルが壁や床に触れたりして脱出の術を血眼になり探す。
メリアルが壁に手を当てながら横にスーと動かすと人差しが窪みに引っ掛かる。光源を近づけ、汚れを服で落とす。
「汝らこの場より逃避したらば、それすなわち一人の生贄を受け入れる事なり」
メリアルは小さく呟きこの古代文字の指す意味を理解した。この場所から抜け出すためには一人の犠牲が必要な事を。
「ここから抜け出す方法を見つけたわ・・・」
ヴィダールを文字の書かれている壁に呼び寄せる。そして、壁に書かれている事を共有した。
「なら僕が犠牲になるよ。君を巻き込んだのは僕なんだし」
「いいえ、君こそ生き残るべきよ。あなたは大きな志を持ってる。それはみんなを幸せにすることができるかもしれない。私の分まで生きてみんなを幸せにして欲しい、あなたには。だから!」
そう言い放ったメリアルは閉鎖空間の中央にたった。一呼吸置くと右手を天井に向けた。しかし、その場から彼女をどかす。
「君には迷惑をかけた!これは僕の落ち度だ君が犠牲になる必要はない!」
「私じゃ誰も救えない!聞いてヴィダール。あなたには私以上に魔法の才能があるわ。あなたの体から溢れるオーラは必ず誰かを救えるの。私はあなたの自身溢れる志に憧れて付いてきたの。君になら私の願いを預けれる人だって。だから、自分を信じて、あなたを信じた私の言葉を信じて!」
ヴィダールは彼女が自分が自分の志を成し遂げれると信じて付いてきた事を知った。そして、またあの言葉を聞いた。信じて、その言葉で自然と体の力が抜ける。
「僕は、そんな大それた人間じゃ「なら!私が無駄死にでないように努めなさい!男でしょう!?」・・・はい」
「我、友を救う生贄になる者なり。この身を持って仲間を救いたまえ!」
彼女の体が崩壊を始めると彼女を中心に光が溢れ出ていた。神のともいえるべき現象が閉鎖空間を包み込む。その時、ヴィダールには「頑張りなさいよ」と言うメリアルの最後の言葉が聞こえた。
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